私たちは肩こりを「こう治す」 / 治療の軸となる理論

当院のセミナー受講にあたって前提となる情報をお伝えします。

肩コリという言葉の定義・分類

定義

後頚部から肩および肩甲背部にかけての筋肉の緊張感や疲労感などの一種の不快感、違和感、鈍痛などの症状

出典:標準整形外科学 医学書院

分類

症候性:

疾病に伴って生じる肩コリ

本態性:

現代医学的に診断名がつかない肩コリ

コリが硬ければ硬いほど重症とは限らない

コリは、あくまでも自覚症状です。筋肉の硬さが問題なのではなく「神経」の問題です。筋肉の硬さを調整する機能の低下を意味します。触って硬い・硬くないは重症度とは必ずしも関係があるわけではなく「与えた刺激に対してどれだけ反応性があるかどうか」が重症度を判定する指標となります。

筋硬度の定量化ならびに筋硬結における筋疼痛と筋硬度との関連性
[古後晴基 理学療法科学Vol. 25 (2010) No. 1 P 41-44] 

肩コリと肩上部の硬さとの関係
[奥野浩史 全日本鍼灸学会雑誌Vol. 59 (2009) No. 1 P 30-38]

肩コリは自覚症状として現れる「結果」

座り仕事が多いAさん

  • 座り方が悪い
  • 腰が痛い
  • PC作業が多い
  • 巻き型

<予想される原因>

  • 股関節が硬い
  • 腹部の筋肉が弱い

スポーツ好きなBさん

  • 体の使い方が悪い
  • 足に古傷がある
  • 動作時に頭が前へ動く

<予想される原因>

  • 胸椎が硬い
  • 股関節の機能が低下
  • 肩甲骨が動いていない

立ち仕事が多いCさん

  • 立ち方が悪い
  • 立位時お腹が出ている
  • 頭が前に出ている
  • 長時間のスマホ利用

<予想される原因>

  • 大臀筋が弱い
  • 腹部の筋肉が弱い

肩がこるといってもコリを感じる状況・タイミングは人それぞれ

原因も様々だが、結果も原因となり別の結果を産む連鎖が起きる

その最後に現れるのが肩コリ

肩コリという「結果」を引き起こす4つの要素

スパズム

スパズムとは?

  • 理学療法の分野では「痛み刺激に対する防御作用の一環とした、反射的・持続的な筋緊張の亢進」を指す
  • 神経学の分野では「断続的に生じる一定の持続時間を持った異常が筋緊張」とされ、筋攣縮とも呼ばれる
  • 痙縮や固縮とは異なる

急性期は痛みの結果として生じ、慢性期では筋機能自体の変化から関節運動・姿勢・動作を乱して疼痛を生み出す側へ変化する

スパズムの原因

過度な疲労 、外傷、炎症(脱水・電解質異常・ホルモン・ビタミン欠乏・腎不全・薬剤副作用なども関わる)

スパズムの病態

①急性

炎症・発痛物質 → 自由神経終末・ポリモーダル受容器 → C線維 → 脊髄後角 →α運動ニューロン興奮・γ運動ニューロンの興奮によりα運動ニューロンの閾値低下 → 筋緊張亢進

②慢性

慢性疼痛・筋緊張の持続的亢進 → 虚血・循環障害・ポリモーダル受容器閾値低下・発痛物質の血中濃度上昇・相反神経支配による拮抗筋の筋委縮・交感神経活動亢進 → 疼痛・循環障害 → ATP不足により筋弛緩が恒常的に阻害される・筋や結合組織の伸張性や粘弾性が失われる

筋膜異常

筋膜 (Myofascia)の構造

  • 線維芽細胞+細胞外基質[線維(エラスチン・コラーゲン)、糖たんぱく質(プロテオグリカン)、水]
  • 膜間にはヒアルロン酸が存在して滑走性を高めている

筋膜 (Myofascia)の異常

・癒着・・・機能的異常

潤滑剤(ヒアルロン酸)の凝縮化による膜間の滑走性不良

・硬化・・・機能的異常

細胞外基質中における糖タンパク質の脱水(ゲル化)と線維(コラーゲンとエラスチン)の高密度化による膜の圧縮

・線維化・・・器質的異常

組織損傷や慢性炎症、「癒着」と「硬化」の慢性化によって筋膜が別の組織に変化

筋膜異常の原因

不動、オーバーユース、虚血、外傷、等

硬結

背景

1843年ドイツの内科医Robert Froriep氏がリウマチ患者の筋肉中に索状に触れる圧痛部位を発見、結合組織の沈着が原因であることを報告。その後、線維性結合組織炎、筋スパズム、酸素欠乏、炎症などの仮説が提唱された。

病態

・代謝異常

浮腫、エネルギー供給と酸素流入の低下、pH低下

・炎症反応

肥満細胞増加(ヒスタミン放出)、血小板増加(セロトニン放出)

・細胞の変性

核の増加、ミトコンドリアの異常(赤色ぼろ線維=Regged Red Fiber)、筋原線維の異常(虫食い線維=Moth-Eaten Fiber=収縮フィラメントの溶解とZバンドの破壊)、プロテオグリカン増殖

機序

筋損傷・過剰な筋疲労 → 細胞膜・筋小胞体の破壊 → カルシウムイオンの過剰流入 → 局所的な筋収縮亢進 → 筋弛緩のためにATPが必要となり代謝が亢進するが、過剰な筋収縮が局所循環障害を招き酸素欠乏とエネルギー不足を招く → 筋収縮状態が恒常的となる

モヤモヤ血管(新生血管)

背景

2012年江戸川病院の奥野祐次医師が発見した病態。

病態

  • 慢性炎症部位・慢性疼痛部位には創傷治癒過程で生じた毛細血管が残存増殖して存在している。
  • 血管造影で観察するモヤモヤした状態に見える。
  • 血管は神経とセットで存在するため、異常毛細血管に血流があるとポリモーダル受容器を刺激して疼痛が発生する。

4つの結果因子のまとめ

機能的異常

筋疲労、筋スパズム、 Myofasciaの機能異常であれば、血流改善や運動療法にて改善可能

治療は神経学的アプローチによる機能改善を期待

器質的異常

筋硬結、 Myofasciaの変性、モヤモヤ血管(新生血管)には、組織そのものをかえるための特別な対処が必要

治療は組織破壊による再形成を期待

姿勢・動作による反復継続的な機械的刺激により結果因子が形成される

セミナーでは、これらを踏まえて具体的な「評価方法」を解説します。