はじめに
「寒暖差アレルギーなら聞いたことがあるけど、寒暖差疲労という言葉は初めて聞いた」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
寒暖差疲労は、実は、コロナ禍になった現在の方が発症するリスクの高い症状なのです。
なお、「寒暖差疲労」は、正確には医学的に認められた病名ではなく、医学用語でもありません。
しかしながら、季節の変わり目や寒暖差が大きい時期に不調が生じ、お困りの方は少なくなくありません。
そのため、正式な病気ではありませんが、「寒暖差疲労」という状態はあるものと考えられます。
このような不調がどのような原因とメカニズムで生じているのか、さらに4つのタイプへ分類し、それぞれへの対処法を解説いたします。
寒暖差疲労と考えられる諸症状でお悩みの方のお役にたてましたら幸いです。
「寒暖差疲労」とは
原因
寒暖差疲労とは、簡単に言えば「大きな気温の変化に体がついていかない状態」です。
外気温変化に慣れていない状態で、外気温変化が大きくなると、体温調節を過剰に行わないといけなくなり自律神経系が過活動を起こします。
これが”繰り返されること”で、疲労し、自律神経のバランスが乱れ、自律神経失調症様症状が出てしまうのです。
体温を一定に保つ仕組み
私たち人間の平熱は、大体36℃前後〜37℃前半くらいに保たれています。
これは、人間には生命維持のために、外気温の影響を受けないよう、暑い時は体から熱を放出し、寒い時は熱を生み出して、体温を一定に保つ仕組み(ホメオスタシス)が備わっているからです。
(対照的に、爬虫類や両生類などの変温動物は外気温の低下に伴って体温も下がってしまうため温度変化の影響を受けにくい地中や水の底にもぐって、冬眠をする必要があります。)
多少の温度の変化であれば、このホメオスタシスが機能するため問題はありません。
しかし、温度差が5度から7度以上あると、体温を一定に保つため、自律神経の働きが必要以上に活発になります。その結果、自律神経への負担が高まり、疲れやだるさを感じる、というのが寒暖差疲労です。
昼と夜との寒暖差が大きくなりがちな季節の変わり目や、暖かい室内から気温の低い室外へ移動する場合などは寒暖差疲労がたまりやすいので注意が必要です。
メカニズム
自律神経は交感神経と副交感神経からなり、さまざまな臓器の機能調整を行っています。
例えるなら、アクセル(交感神経)とブレーキ(副交感神経)のような関係です。
環境の変化に伴い、この二つの働きを適宜切り替わらないといけませんが、スイッチのように瞬時に切り替わるものではなく、本来は緩やかに切り替わっていくものです。
皆さん、なにか興奮状態になった時を思い出してみてください。
その後、なかなか興奮状態が冷めやらなかったり、夜寝付けなかったりしたことはありませんでしょうか。
こちらも、自律神経系が関与しているのですが、時間が経過してもなかなか興奮状態が鎮まらないという現象からわかるように、自律神経系は自分の意識ではコントロールできないのです。
同じような現象がそれぞれの臓器でも起こります。
1日の中で急激に、そして何度も 寒暖差に晒されると、本来緩やかに切り替わる自律神経が過剰に働き、それに伴った臓器に大きな負担がかかってしまい 様々な不調が現れてしまいます。
現れる症状
以下、主に寒暖差疲労として現れる症状と考えられます。
・ 肩こり、腰痛、頭痛
・ めまい、不眠
・ 食欲不振、便秘、下痢
・ イライラ、気分の変化
・ 冷え、むくみ
特に今年は注意が必要な年
自粛生活の副作用
新型コロナウィルスの影響により、数年前よりも圧倒的に外出する機会が減りましたね。
自粛生活は感染対策として重要な役割を果たしているとともに、私たちの人間の身体にとっては必ずしもメリットだけではありません。
調整する機能が低下している
主に、寒暖差疲労は、朝(寒い)→昼(暖かい)、室内(暖かい)→屋外(寒い)といったように短時間内で寒暖差に曝露されることにより蓄積されます。
しかし、昨年から今年にかけて、ステイホームやリモートワークの時間が増え、通勤時の屋外に出る頻度が激減しました。
その為、室内に滞在することが多く、普段の生活で温度差に対応する自律神経の働きが鈍くなり、寒暖差への耐性が弱い人が増えた傾向にあると考えられています。
寒暖差疲労4タイプ
寒暖差疲労における原因を4つご紹介いたします。
以下のチェック項目で当てはまるものをチェックしてみてください。どのタイプの項目に一番多くチェックがはいるでしょうか。
ストレスによる寒暖差疲労
こちらは、ストレスを感じることにより交感神経が過剰に働き、身体が過緊張となることにより疲労が蓄積されるタイプです。副交感神経への切り替えがうまくいかず寒暖差による影響を受けてしまいます。
<チェック項目>
□首肩こり、腰痛が慢性的
□イライラする
□情緒不安定
□寝つきが悪い、寝ても途中で起きてしまう
□頭痛・めまい・立ちくらみがある
□お腹が張りやすい
生活習慣の乱れによる寒暖差疲労
こちらは、生活習慣が定まっておらず 自律神経の働きが乱れているタイプです。
ある程度、生活リズムが定まってくると 自律神経の切り替えもルーティン化され、大きな体調の崩れの防止を期待できます。
<チェック項目>
□睡眠時間が不規則
□食事の時間が不規則
□お通じのタイミングが不規則
□よく食べすぎたり飲みすぎたりする
□便秘または下痢気味
□昼に居眠りをしてしまうことがある
運動不足による寒暖差疲労
ここ数年で運動量が減少し、筋力量が減少し体温を作れないことにより寒暖差に影響を受けてしまうタイプです。
普段から筋トレやスポーツなどをしていなくても、通勤による歩行や階段昇降が格段に減った方は要注意です。
<チェック項目>
□階段を登ると息切れするようになった
□毎日お腹がすく感覚がない
□数ヶ月で体脂肪率が増加した
□以前より足や腕が細くなった
□コロナの影響でスポーツジムや趣味のスポーツ等を控えている
□元々、運動が苦手だ
加齢による寒暖差疲労
こちらは、加齢により 以前よりも栄養の吸収能力が衰えたり、運動習慣が減ったことにより筋肉が増えにくいタイプです。
初めは疲れやすいかもしれませんが、積極的に運動習慣を作り体力の向上、意識してタンパク質を多くに摂取することが重要です。
<チェック項目>
□疲れやすい
□体がだるく力がない
□身体が冷えやすい
□膝や腰が弱い
□ここ数年で食が細くなった
□周りの人と暖房や冷房の温度が合わない
対策
寒暖差を感じやすいシーズンに入る前に、対策をしておくことが非常に大切です。
上記のチェック項目で一番多く当てはまるものはどのタイプでしたでしょうか。
ぜひタイプ別に沿った対策をご参考にしてみてください。
ストレスによる寒暖差疲労タイプの対策法
筋肉を温める。
緊張の強い筋肉をカイロやホットタオルで温めましょう。
タイミングとしては、就寝前やリラックスしたいときがおすすめ。リラックス効果のあるラベンダーのアロマオイルなどを併用してみても良いかもしれません。
放置しない。
休息をとっても回復しない肩こり・腰痛には治療が必要な症状になっているかもしれません。
ストレッチやフォームローラーなどでセルフケアを行ってもあまり効果を感じられない場合は専門家へのご相談をおすすめします。
なお、闇雲にストレッチをすれば良いというわけではありません。よく誤解されている方が多いのは「痛ければ効く」という認識です。
正しい知識を持ってセルフケアを行っていただけたらと思います。
過去のブログ
汗をかく習慣を作る。
冷暖房の完備された現代では、体温調節するための「汗をかく」という生理現象をあえて再習得する必要があると考えられます。
身体を動かして汗をかくことをおすすめしますが、もしそれが難しいというかたは入浴・またはシャワーの時間で身体を温め汗をかくことでも代用できます。
入浴される方:38〜40°の湯船に15〜20分は浸かりましょう。
シャワーの方:42°くらいのやや熱めのお湯を首や背中(特に、肩甲骨の間)に浴びましょう。30〜60秒。
生活習慣の乱れによる寒暖差疲労タイプの対策
外側からリズムを作る。
毎日決まった時間に体を温め、リズムを作っていきましょう。
朝が流動的になってしまう方は夜に、夜の帰宅時間が定まらない方は朝にルーティンを作るなどして、一度不規則なリズムをリセットしましょう。
(例)寝る2時間前にシャワーを浴びる、朝カイロをお腹に貼る など。
日中、日光に浴びる。
睡眠や覚醒のリズム、血圧、体温などをコントロールする体内時計は視覚領域から生まれる刺激信号とされています。
朝に日光を浴びることで約16時間後にメラトニンという睡眠ホルモンを分泌するスイッチが入り眠りやすい状態を作ります。
その調整に日光を浴びることで体内生成されるビタミンDが一役買っているとする研究データも出ております。
近年では紫外線による肌トラブルを取り上げられることが多いですが、日光に浴びることは人間にとって とても重要な役割を担ってきたのです。
排便のタイミングを逃さない。
排便のタイミングも規則正しいリズムを作るひとつです。まずは毎日同じ時間ではなくても、便意を催したときに、自然なタイミングで排便できるように心がけましょう。
運動不足による寒暖差疲労タイプの対策
散歩や普段の歩行を「運動」にする。
つま先をまっすぐに振り出すことを意識して大股気味に歩くことを意識しましょう。普段より大股で速めに歩くことで、運動効果をより高めることができます。
また、普段、姿勢不良が気のなる方は 呼吸法も意識してみましょう。鼻から息を吸いこんで、お腹を凹ますように口から吐き出しながら腹式呼吸を行うとインナーマッスルである「腹横筋」が働きます。
腹横筋は良い姿勢をキープするための要になりますのでぜひ取り入れてみてください。
自宅でできるエクササイズ
大きな筋肉は、生み出す熱量も大きくなります。
特に臀筋(お尻の筋肉)・背筋群(背中の筋肉)・腹筋群(お腹の筋肉)は筋肉が大きく、ここを日々しっかり使えるようになることで体温を保ち、寒暖差へも耐性があげられることが期待できます。
3つ同時に鍛えられる『スクワット』
1. 足を肩幅より少し広めに開きます。足の爪先は少し外側に向けます。腕は耳の横にセットし肩甲骨を下へ引き下げましょう。
2. 股関節を曲げ、お尻を真下に落とすイメージで膝を曲げます。お尻を後ろに突き出し、膝が爪先より前に出ないように椅子に座るイメージです。顔を上げ、胸を張り、背筋を伸ばします。この際、お腹にも力を入れ、腰が反りすぎないように注意しましょう。
3. 徐々にお尻を落としていきます。最初は無理せず、浅い角度で行ってください。
4. 膝を軽く曲げたところまで立ち上がります。
簡単そうに見えて、実は正しいフォームが難しい「スクワット」。
間違ったフォームで続けると、膝や腰を痛める原因になります。正しく鍛えられているかわからないという方は、一度専門家にチェックしてもらうことをおすすめします。
加齢による寒暖差疲労タイプの対策
意識してタンパク質を摂取する。
厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2020年版)によると、
高齢者(65 歳以上)では 少なくとも 1.0 g/kg 体重/日以上のたんぱく質を摂取することが望ましいと考えられる。
出典 厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版)
とされています。
目安として、豆腐100gに5g、鶏肉100gに25g、鮭100gに22gのタンパク質が含まれています。年齢的に高齢者には当てはまらない方も、1日の総摂取カロリーの13~20%はタンパク質から補うように心がけましょう。
なるべく、暖房・冷房に頼らない。
極端に暑い日や、寒い日を除き、あまり空調に頼らないようにしてみましょう。
常に快適での生活に慣れてしまうと、自律神経の働きが鈍くなり、寒暖差疲労を起こしやすくなります。
また、やむを得ず冷暖房が必要になる時期は空調から送られる気流の調整にも注意しましょう。
上記のイラストの2つの気流による室内での休息に関する実験では、「人あて気流」に比べ、「つつみ込む気流」の方が疲労を軽減させるという研究結果が出ています。
冷刺激軽減による自律神経機能の調整作用に関与するものだと考えられる。
出典 包み込む気流制御エアコンの健常女性における健康維持及び疲労に対する有用性
特に、冷房において 気流の直撃を避けることが肌に感じる冷えを和らげ、自律神経の調整にもつながります。
「風向調整」機能を有効活用し、極力、冷風の直撃を避けましょう。
以上、寒暖差疲労に対するタイプ別対処法でした。
寒暖差疲労を起こしやすくなる気温差は、「前日と比較して5℃以上」と考えられています。
これからの季節、気温の変動が大きくなりますので天気予報をチェックする際は、「前日比」も意識して生活をしてみてください。
参考文献
都市における屋外温度の変化が疲労度に与える影響 日本建築学会技術報告集 第 23 巻 第 54 号,563-566,2017 年 6 月
国立研究開発法人 国立環境研究所 地球環境研究センターHP「ビタミンD生成・紅斑紫外線量情報」
包み込む気流制御エアコンの健常女性における健康維持及び疲労に対する有用性 日本建築学会技術報告集 第 23 巻 第 54 号,563-566,2017 年 6 月
執筆者:伊藤 美里
Misato Ito
盛岡医療福祉専門学校卒業
日本医学柔整鍼灸専門学校卒業
鍼師・灸師
柔道整復師
学生時代バレーボールに打ち込み、当時自分の心の支えとなったアスリートやアーティストに携わる仕事をしたいと思い、「身体の治療・ケア」する道を選びました。
日々患者さんの治療にあたる中で、さらに治療の引き出しを増やすべく鍼灸師の資格を取得。
解剖学的な構造、運動学、最新のエビデンスの理論を基におひとりおひとりの「何が原因か」を追究し、よい治療をご提案できるよう努めてまいります。