自覚症状のない“隠れ肩こり”って?

肩こりの症状は環境や体質により人それぞれですが、こりを感じる自覚の度合いも人それぞれということがわかってきています。

そして肩こりであるにも関わらず、症状の自覚がない「隠れ肩こり」などと呼ばれるケースも存在しますが、本人には肩こりの自覚がないため放置されてしまいがちです。

今回はそんな隠れ肩こりに注目してみましょう。

 

 

隠れ肩こりとは?

一般的には肩こりと判断できる状況であるにも関わらず、本人に自覚症状がない状態を、“隠れ肩こり”と呼ぶことがあります。中には「最近肩が少し重いかも?」といった自覚があるにも関わらず、ご自身が肩こりだと気づいていないケースもあります。

様々な場面で「ずいぶん肩がこっていますね」などと言われた経験をお持ちの方は多いと思います。ここで「いえいえ、肩こりなんて感じたことはないですよ」と否定されたことがある方は、もしかしたら隠れ肩こりかもしれません。

整形外科でも、明らかに筋肉が凝り固まったこりの症状があるのに、患者本人は何とも感じていないという症例は珍しくもないそうです。こうした患者さんには、鎖骨周辺の前頚部の筋肉に張りがある、首の緩やかなS字カーブが消失している、姿勢が悪いなどの共通した症例が見られることもあるそうです。

 

隠れ肩こりは放置しても大丈夫?

結論から申し上げますと、放置はおすすめできません。“隠れ肩こり”と言っても実際に肩こりの症状は出ているわけですから、通常の肩こりと同じく、症状に合わせた改善を目指すほうが良いのではないでしょうか。

原因を探ったりケアをしたりせずに放置すれば、緊張と血行不良の悪循環によって症状が悪化したり、別の症状への引き金になったりすることも考えられます。

 

肩こりの主な原因、心当たりはありませんか?

「肩こり」の状態を医学的に説明すると、首や肩周辺の筋肉が緊張することによって起こる筋肉痛の一種と言えます。筋肉が緊張することで血管を圧迫すると、血行不良が起こり酸素の供給量が減少します。その結果乳酸などの疲労物質が蓄積し、神経を圧迫することで張りや痛みが起こります。これが肩こりを発症するメカニズムですが、大元である筋肉の緊張を引き起こす原因はじつにさまざまです。

例えば分かりやすいところでは「寒さ」があります。寒い季節の外出では体はぎゅっと縮こまりますし、そもそも外出を避けて運動不足になりがちです。いずれの場合も筋肉が緊張し血行不良を起こしやすいと言えます。

また近年では肩こりや首こりの原因の代表的なものとして「姿勢の悪さ」が挙げられます。スマホやPCに向かう時間が増え、首が前に出る悪い姿勢が身についてしまうと、首から肩にかけて常時緊張を強いることになり、やはり血行不良につながります。長時間同じ姿勢を取り続けることも同様です。ほかには、激しい運動による「筋肉疲労」や、「眼精疲労」、精神的な疲れからくる「ストレス」なども肩こりの原因と考えられています。

最近このような環境に心当たりがあるという方、もしかしたら知らず知らずのうちに“隠れ肩こり”になっているかもしれません。

 

どうして肩こりを自覚できないのか?

悩む方が多いはずの肩こりなのに、どうして「自覚できない」という状況が発生するのでしょうか?

症状を自覚できない場合には、肩こりが長く続き常態化して気にならない、こりや痛みに対して耐性がある、または鈍感であるなどの要因が考えられます。

 

 

 

肩こりを放置するとどうなる?

前項で肩こりを引き起こす原因について述べましたが、それ以外にも意外な病気の症状として肩こりが起こることもあります。なかには、放置してしまうと重大な結果につながる場合もありますので注意が必要です。

しつこい肩こりが、じつは頸椎系疾患だったという症例は少なからずみられます。頸椎は首の部分に重なる7つの椎骨からなり、それぞれの椎骨の間には椎間板というクッションがあり、衝撃を吸収しています。さまざまな要因によってこれら椎骨や椎間板に引き起こされる疾患には、「変形性頚椎症」や「椎間板ヘルニア」、「肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)」などがあります。また、まれには「腫瘍」や「がん」、「関節リウマチ」が原因で肩こりなどの症状が表れる場合もあります。いずれにしても、肩こりのみならず腕や手指のしびれ、痛みなどを伴うような場合は迷わず医師の診察を受けましょう。

高血圧症の患者さんでは急激に血圧が上昇した際に、首から肩にかけて張りや痛みの症状が表れる場合があるそうですし、貧血の場合は血液の酸素供給量が減ることから筋肉が疲労し、肩こりが起こることがあるといいます。肩こり専門外来では診察の最初には必ず血液検査を行うというくらい、肩こりと血液・血管の関係は密接なようです。高血圧や貧血の傾向がある方は多いと思われますので、肩こりを単独の症状ととらえず、体調の良し悪しを判断する際のひとつのポイントとしてとらえてほしいものです。

また心療内科の分野では、自律神経の乱れやうつ病などの心因性の原因から肩こりが引き起こされる場合があることもわかっています。肩こりが長く続く、なかなか改善しないなどの場合は、一度は整形外科の診察を受けることをおすすめします。

めったに起こることではありませんが、命にかかわる重篤な病気の前兆として肩こりが起こることもあります。心筋梗塞では、肩こりのほかにあごや首、腕や背中、胃などのあたりまで、こりや痛みが生じる場合もあるようです。普段、肩こりの自覚がない方でも、このような違和感があるときは迷わず医療機関を訪ねましょう。心筋梗塞以外では、解離性大動脈瘤、脳出血や脳梗塞、膵炎などの重篤な疾患の前兆として肩こりが現われるこがあるようです。

 

 

自分の肩こり度を知って「隠れ肩こり」を予防する

肩こりの原因をいろいろ紹介しましたが、実際には明確な原因がわからないまま肩こりを訴える人が大半なのだそうです。肩こりに悩む人は、日常生活を見返して原因になっていそうな事柄を一つひとつ排除していく地道な努力が必要と言えるでしょう。肩こりの自覚がない人には、ご自分の肩こり度はどの程度なのか知っておくことをおすすめします。肩こりの認識がないまま、重篤な病気の前兆を見過ごすようなことがあっては大変です。

ごく簡単な方法ですが、肩こりがあるかないか、セルフチェックの方法を紹介しますので試してみてください。

隠れ肩こりセルフチェックの例

 

正面を向いて顎を少し引き、姿勢を正します。
立っていても座っていても構いません。

肩の力を抜いてリラックスし、手は下にだらりと下ろします。そのまま体が動かないように、首だけを右にゆっくりと倒します。
このとき、右肩が上に上がらないよう注意してください。

一度首を正面に戻し、今度は左側にゆっくりと倒します。

次に、前と後ろに向かって首を倒します。

このとき、右と左、前と後ろで倒した首の角度に違いがあったり、ある位置で痛みや張りを感じたりするようなことがあれば、肩こりのある可能性があります。

両手で左右対称に筋肉を押してみて、固い部分や張っている部分がないか確認してみるのもいいでしょう。

 

 

まとめ

「隠れ肩こり」の人はこりや痛みへの耐性が強いか、そもそも「こり」がどういうものなのか認識できていないと思われます。

前述のセルフチェックで不快な部分を見つけることができたなら、その部分をシャワーやドライヤー、温湿布などで温めてみましょう。楽になったと感じられれば、自らの肩こり度を知ることができるのではないでしょうか。あるいはもっと確実な方法としては、専門家の診断を受け、どこがどの程度こっているのかを教えてもらうのもよいでしょう。

日常生活では正しい姿勢を心がけ、長時間同じ姿勢をとらない、ストレッチをこまめに取り入れる、入浴でリラックスするなど気軽に行える対処療法をまずは試してみることで、不快な「隠れ肩こり」とさよならしたいものです。

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

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