首すじのコリで悩んでいらっしゃる方は大変多いのですが、「首こり」という言葉は、「肩こり」ほど一般的ではありません。
そんな「首こり」ですが、「肩こり」は同じようなものと思われがちです。
医学的にも「そもそも肩こりとは厳密には首こりである」と説明する医師も多くいらっしゃいます。
その根拠は、肩こりの原因が、首の筋肉にあるケースが多いためです。
ですから首こりと肩こりが混同されるのは、仕方ありません。
はっきりと結論から申し上げます。
「肩こり」と「首こり」には大きな違いがあります。
ほとんど肩こりと同じような首こりが多いのは事実です。
首こりにあって肩こりにはないもの、これが一般的に知られていないために、首こりで悩まされている人が救われない原因といえるでしょう。
肩こりと首こりを別物として捉える医師が少ないという現実
医療の専門家(整形外科医)の多くが、肩こりとは首こりであるという認識であり、違うものとして捉えている医師が少ないのです。病院にいっても肩こりが治らない、そして首こり肩こりを専門に扱っているような病院でも治らないケースが多いという残念な状況を作り出している理由のひとつだと思います。
そもそも、肩こり・首こりで悩まれている方で、病院を探す人自体少ないでしょう。近所の整体に行ってみる人、とりあえずピップエレキバン・マグネループ・湿布に頼ってみる、痛みがある場合でも、湿布や塗り薬に頼る人がほとんど。最初から、肩がこらないようにするには?という発想がないのです。
そして、四十肩・五十肩といった肩関節周囲炎にも言えることですが病院では「原因が分かりません」「痛みの原因はたぶん○○」と曖昧な回答をされた経験をお持ちの方は多いでしょう。様子をみましょうということで、症状の緩和のための痛み止めの薬・ブロック注射をされるというのが、典型的なパターンです。
風邪を引いたらクスリなどでつらい症状を緩和している間に自分自身の体が回復していきます。クスリはあくまでつらい症状の緩和、つまり対症療法です。
風邪とちがって、慢性的な首肩こり・四十肩・五十肩は、自己回復できないのです。自己回復できない状態にまでなってしまった=慢性化です。
対症療法の効果がない場合、それらを引き起こしている原因を解決しないといけません。正常であれば原因は自己解決できます。自己解決できなくなってしまった場合は、原因療法が必要になります。
首こりと肩こりは違います!!
首こりは、「首すじのこり」「首すじの痛み」といった表現をされることのほうが多いと思います。
首すじは漢字で書くと「首筋」または「頸筋」です。字の通り、首の筋肉を意味ですが、首すじというと、首の後ろの部分、いわゆる、くびねっこ・うなじを指します。
うなじって首ですか?それとも肩ですか?
首と答える方が多いと思いますが、肩と認識されている方も一定数いらっしゃるはずです。
ここで、本題に戻ります。
肩こりと首こりの違い、それは首と肩という筋肉の部位が違いでしょ?と誰もがお思いになるはずですが、違います。
ここで問題です。
首の筋肉が原因で肩が凝る、これは首こりですか?それとも肩こりですか?
正解は、肩こりです。
ツラい症状を感じる場所で、首こりと肩こりと言葉を分けるのが適切です。
症状を感じる場所が違う以外にも、肩こりと首こりとでは明確な違いがあります。肩こりと首こりの決定的な違い、それは神経症状として出るか出ないかです。
首こりは神経症状が出るのです。
「首こり」は神経に症状が出てしまう
首こりによる感覚神経の症状
首にはたくさんの神経が集中しています。
誰もが経験する頭痛。この頭痛は首と関係しているケースが多く「緊張性頭痛」という言葉はご存じの方も多いのではないでしょうか?
緊張性頭痛とは?
頭部の感覚は、大後頭神経、大耳介神経、小耳介神経等といった神経が感じます。これらの頭部の感覚を担う神経は、首の骨の内側にある脊髄から出ているのです。 首がこると首の神経を圧迫し、後頭部・側頭部・頭頂部の痛みを誘発します。これがいわゆる緊張性頭痛です。(もちろん後頭筋や側頭筋などといった頭部の筋肉のコリが直接神経を圧迫する場合もあります。)
頭だけでなく肩・腕の神経の問題も首がポイント
肩~腕~手の動きや感覚を担う神経、および血管も首に由来します。神経は頚椎から出るのでイメージがつきやすいのですが「心臓から出た血管が腕に行く前になぜ首へ?」と疑問をもたれる方は少なくありません。解剖学を紐解くことで、その疑問は解決します。
心臓をスタートとする血管は一度鎖骨の高さまで上に上ってからまた腕の方へ降ります。その首の前側の鎖骨近辺で、首の筋肉である斜角筋を貫くため、首こりによってシビレや血流障害による冷えなどが生じます。正確には斜角筋はその位置によって前・中・後の三つに分かれ、前と中の間を斜角筋隙という狭い隙間があります。この隙間に神経(腕神経叢=腕を支配する神経群)と血管(鎖骨下動脈・鎖骨下静脈)があるのです。首こりで斜角筋が硬くなるとこの隙間を圧迫するのです。
ですが、これらはレントゲンに写りません。ですから病院でレントゲン検査をしても異常なし、となります。
これが、肩こり・首こりの重症の方が、腕や肩甲骨周囲に放散する不快な症状を自覚して、病院で検査しても異常なしとされる理由です。首が原因による腕の症状のうち、病院で原因不明、異常なしとされてしまう例として「手の冷え」があります。手が冷えるのは血流が悪いためです。なぜ血流が悪くなるかといいますと、首のコリにより血管が元詮をされている状態だからです。つまり冷えてしまっている末端を温めても温めても改善はしません。元栓がしまっている以上、血行がよくならないのです。
この症状は、正式な病名として胸郭出口症候群の一つともいえます。ただ、胸郭出口症候群は、肩こり・首こりだけが原因ではありません。
胸郭出口症候群かも?と思われたら・・・
胸郭出口症候群が疑わしい場合は、まずは整形外科にて骨や内臓の問題(特に頚椎の状態ですね)をチェックしていただき、異常がないということの確認が必須です。というのも、シビレや冷えなどは神経系・循環器系の病気が隠れている可能性があるため、決して軽視はできないからです。
特に目立った異常が見当たらない、ということであれば胸郭出口症候群への理学療法が適応できます。胸郭出口症候群は単にマッサージや鍼灸、電気・温熱療法だけでは、その場しのぎ止まりで、改善は困難です。
その場しのぎとはいえ、まず、緊張が高まっている斜角筋を中心とした首の筋肉を弛める必要があります。筋肉を緩めた後、首に負担のかからないようにする筋力を強化しなくてはいけません。筋力強化が胸郭出口症候群に対して必要なのです。
胸郭出口症候群に対して行う筋力トレーニング
胸郭出口症候群になりやすいのは、痩せ形・なで肩の女性です。女性はどうしても筋力が弱いため、首周囲へ負担が強いられてしまうという背景があります。ですから、筋力強化はもちろん必要なのですが、その筋力強化とは単にダンベルや重りをもって筋肉を肥大させる運動ではございません。強化すべき筋肉は体幹とインナーマッスルなのです。体幹とよばれる胴体部分の筋肉とインナーマッスルを活性化させると、体を効率よく負担がするないように動かすことができるようになります。ここで強化ではなく「活性化」と表現したのは、強化というとどうしても単に筋肉をつけて「マッチョ」になることと思われるためです。そうではなく、あくまでも負担なく合理的に体を動かせるようになることが目的で、そのための筋力トレーニングは筋力の強化ではなく活性化なのです。イメージとしては、女性でいうと痩せすぎていない「健康美」、男性でいうと「細マッチョ」です。胸郭出口症候群に対して行う筋力トレーニングは、これを目指した体造りを行っていきます。
繰り返しとなりますが、ここでいう筋力強化は、重量物を歯を喰いしばって持ち上げるようなハードなトレーニングの必要はまったくございません。
まずは整形外科で診てもらうましょう!
胸郭出口症候群になりやすい方を上記であげましたが、あくまでそれは「教科書的になりやすい」例にすぎません。
たとえ体重が多くても、筋肉量が多いとは限りません。個人的には発症しやすい例として「痩せ形」と表現することに疑問をもっています。痩せている女性やなで肩の女性に多いとはいえ、デスクワーク中心の男性にも実際多く見られます。
話が少しそれましたが、そのため「首肩こり」「(常にではないけどたまに)手にがしびれる」「手が冷えやすい」ということに心当たりがある方は、本当に症状が重篤になる前に一度整形外科にて診ていただき、MRIやCTといった検査を受けてください。ヘルニアや頚椎症の可能性があります。ヘルニアというと腰のイメージが強いですが、腰も首も背骨という意味では同じです。首のヘルニアは、頚椎椎間板ヘルニアといいます。
整形外科での検査で異常が無いようでしたら、整形外科の範疇ではないということになります。問題は、骨ではなく筋肉です。是非、軽症のうちに治してしまいましょう。胸郭出口症候群は、解剖学に基づいた筋肉、そして、その動作に対する施術が必要となります。基本的には肩こり・首こりへの対処と同じなのです。
整形外科に行って異常なしとされ、次にどうすればよいか分からなくてお困りの方は以下の記事をご覧ください。
首肩腰でお悩みの方を迷わせない!病院・鍼灸院・整骨院・サロン選びのコツ
首こりによる自律神経の症状
首には上神経節・中神経節、星状神経節という自律神経(交感神経)のツボのような要所が存在します。
これらが首こりによって、圧迫刺激されることによりバランスを乱し、偏頭痛や吐き気、めまい、睡眠障害といった自律神経失調症状が引き起こされます。
この神経のツボ(交感神経節)は左右一対あり、数珠のように首から腰まで背骨の際を一つながりになり、交感神経幹という組織を形成します。そのため、それらが不調となると肩甲骨や背中の不快感にもつながります。
さらには自律神経への影響として血圧の変動といった循環器・各内臓機能も不安定となり、イライラや情緒不安定などの精神症状にもつながります。
また、迷走神経という副交感神経も脳から出て首の筋肉間を通って内臓へと下降していくため首こりにより不要な刺激を受けることでバランスを乱し、内臓諸機関の機能を乱します。
首肩こりと自律神経の関係を検索して調べていくと、自律神経が乱れるという所までは同じだが、つきつめると交感神経に着目してる説と副交感神経に着目している説があり、とてもわかりにくいと思います。
実はこれらは表裏一体でシーソーのように均衡を保っており、一概にどちらか一方のみといういいきれないというのが実情なのです。
首肩こりにお悩みの方は元々精神的ストレスを抱えていらっしゃる方もいますし、首肩がつらくてストレスとなってしまっている方もいます。天候など気圧の影響を受けやすい方も自律神経は乱れやすい体質といえます。
このような方々は自律神経のシーソーのバランスがとりにくく、片方へ傾いたら戻れなくなってしまったり、戻ろうとしたら戻りすぎてかえって反対に傾いてしまったりとしてしまうわけです。これがいわゆる「自律神経が乱れた状態」です。
つまり、自律神経を考える場合、対をなす交感神経と副交感神経がどちらか一方が働いてもう一方が働かなくなるいうように絶対的に変化するのではなく、あくまでも相対的なものなのであるとうことを頭にいれていただきまして、どちらか一方に着目するのではなく、ある事象が起きることによって双方に影響が出ることがあり、それは個人差があるということをご理解いただきたいと存じます。
そのため当記事でも首こりによって交感神経・副交感神経療法への影響をご紹介させていただきました。
このように首こりは悪化・長期化すると自律神経系の異常をきたし全身症状へと移行していきます。 (交感神経と副交感神経を合わせて自律神経といいます)
肩こりは主にその局所のつらさに留まる一方、首こりは高い頻度で全身症状へ移行してしまうため、首こりのほうがつらいと感じる方が多い傾向にあるようです。
病状は
- 肩こりから首こりに移行するパターン
- 首こりの症状として肩こりを感じるパターン
の2パターンあります。
肩こりを放置して首こりへ移行してしまわないようにするには、悪化しないためのケアを行うか、できるだけ早く治してしまえば問題ありません。
首こりの方はのんびりしているとどんどん悪化していってしまうので早急に集中的な対処を推奨します。
これは多くの肩こり・首こりの患者さんを診てきたセラピストとしての経験的なものですが、「施術をしてもすぐに元通り」という方は、肩こりではなく「首こりが原因」の方が多いです。
「首こり」と「肩こり」は似て非なるもの、この見極めはとても重要です。
肩こり・首こりと聞くと気軽に感じるかもしれませんが、それらは体からの悲鳴です。
肩こりや首こりを根本的に改善するということは、つらい症状を引き起こしている原因をひとつひとつ解決することです。つらい部分の症状を緩和しても再発するだけで、薬、お店、病院に通い続けることになるだけです。時間やお金がかかるだけでなく、厄介なことに徐々に悪化していきます。
ですから、どこで診てもらうか?どこに通うか?がとても重要になります。
まずはご自身の体が”どのような状態”で”何が起こっているのか”を知りましょう。医療機関などでの説明を受け身ではなく、理解する、疑問に思ったら質問して信頼できるかどうか見極めましょう。そのためには、正しい知識・情報が必要です。
重要なことですので、繰り返し申し上げますが、肩こり・首こり・腰痛に対してでもっとも大切なことは、症状の見極め、原因の究明です。これを間違えると、どんなによい腕を持った医師・セラピストでも改善することはできません。
マッサージ業界では、ゴッドハンドと呼ばれる(自称?)人がもてはやされますが、つらい症状を緩和するだけなら、ある意味誰でもできるといえます。
本当の意味で腕のいいセラピストとは、つらい症状の原因を正確に把握して、その人その人にあった適切な処置ができる人である、そう私は思います。そして、そう思っていただくために、セラピストの道を前へ前へと進んでまいります。
体操・ストレッチ・温熱療法など血行改善により肩こり・首こりが解消されない理由 (医学的根拠に基づき神経生理学の観点から解説)
以下の記事では医学的根拠に基づき肩こり・首こりについて解説しています。
鍼灸・マッサージの裏事情(1) 硬ければ重症か?コリのメカニズムを神経生理学の観点より解説
鍼灸・マッサージの裏事情(2) 首ポキ解消法の真相 脳血管障害・死亡率との関連性
鍼灸・マッサージの裏事情(3) 血行改善により肩こり・首こりが解消されない理由 (医学的根拠に基づき神経生理学の観点から解説)
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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama
日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修
鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許
病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。