投稿者「肩こりラボ」のアーカイブ

良い姿勢を保つより、状況によって姿勢を変えられることが大切?

前回の記事では、姿勢はいつも同じ形を保っているものではなく、周囲の環境やその時の状況に合わせて、3つの感覚(体性感覚・視覚・前庭覚)から得られる情報をもとに調整されていることをご紹介しました。

私たちは立っている時、歩いている時、座っている時など、それぞれの場面に応じて少しずつ異なる姿勢をとっています。

では、日常生活の中で、姿勢はどのように変化しているのでしょうか?

一例として、床に落ちているゴミ(ちり紙)を拾う時と床に置いてある米袋10kgを持ち上げる時の違いを考えていきたいと思います。

この2つの動作には、どちらも「床にあるものを持ち上げる(拾う)」という共通点があります。

しかし、実際の体の使い方には違いがあります。

今回は、こうした身近な動作を例にしながら、姿勢の形だけではなく、その場面に合わせて求められる最適な姿勢の選び方について考えていきます。

「良い姿勢」は、いつでも同じ形なのか?

「姿勢を良くしましょう」と言われた時、背筋を伸ばしたり、胸を張ったり、頭をまっすぐにしたりすることを思い浮かべる方は多いと思います。

もちろん、立っている時などにまっすぐに体を起こした姿勢がとれる状態にあることは大切です。

しかし、その姿勢をどんな場面でもそのまま当てはめることが良いわけではありません。

私たちは、日常生活の中でさまざまな動作を行います。

それぞれの動作には目的があり、その目的を達成するために体は姿勢を変えています。

例えば、立っている時には体を起こしておく必要がありますが、床にある物を拾う時には、手を床まで近づけるために体を前にかがめる必要があります。

この時、立っている時と同じように背筋を伸ばした姿勢を保ち続けることだけを考えてしまうと、股関節や膝を大きく曲げるなど、別の部分でより大きな動きが必要になることもあります。

つまり、姿勢には「どんな場面でも当てはまる一つの正解」があるわけではありません。

その時に何をするのかによって、体に求められる姿勢や動き方は変わってきます。

姿勢を考える時には、「この形が正しいか」だけではなく、「今、何をするための姿勢なのか」という視点も大切です。

床に落ちているゴミを拾う時は、背中が丸まってもいい?

冒頭でもお伝えした、床に落ちているゴミを拾う場面について一緒に考えてみましょう。

例えば、部屋を歩いている時に、床にちり紙が落ちていることに気がついたとします。

ゴミを拾おうとすると、自然に体を前に倒し、股関節や膝を曲げながら手を床に近づけていきます。

この時、多くの方は、背中も少し丸まりながら体を前に倒していくのではないでしょうか。

スカートを履いている女性であれば、膝を深く曲げて腰を落としながら、手を床に近づけるかもしれません。

一方、「背中は丸めないほうがいい」と考えて、背筋を伸ばしたままゴミを拾おうとすれば、股関節を大きく曲げたり、膝を深く曲げたりすることで、手を床まで近づけることもできます。

このように、ゴミを拾う動きは一つではありません。

背中を丸めても、腰を落としても、股関節を大きく曲げてもゴミを拾うことができます。

ここで大切なのは、「背中が丸まっている」という形だけを見て、その姿勢を良い・悪いと判断しないことです。

ちり紙のように軽いものを拾うのであれば、背中を少し丸めることで手を床まで近づけることができ、動作をスムーズに行える場合もあります。

つまり、普段は「良い姿勢」とされる背筋の伸びた形から変化しているからといって、その姿勢が必ずしも悪いわけではありません。

その動作を行うために必要な形であれば、背中が丸まることも体にとって自然な選択肢の一つです。

10キロの米袋を床から持ち上げる時は、背中が丸まらない?

一方で、床に置いてある10キロの米袋を持ち上げる場合はどうでしょうか。

先ほどのゴミ拾いと同じように、体を前に倒して背中を丸めながら持ち上げてもよいのでしょうか。

ここでは、少し考え方が変わってきます。

10キロという重さの物を持ち上げる場合、ゴミを拾う時よりも大きな力が必要になります。

そのため、ただ手を床に近づければ良いわけではありません。

米袋を持ち上げる時には、まずは米袋をできるだけ体に近づけ、足元を安定させながら、全身で力を出しやすい状態を作ります。

そして、股関節などの下肢の筋力と上半身で米袋を支える力を合わせながら持ち上げていきます。

この時、腰や背中を大きく丸めたり反らしたりするよりも、背骨を適切に安定させた状態で持ち上げていく方が、重い物を扱いやすくなる場合があります。

ここで注目したいのは、先ほどの「ゴミ拾い」と「米袋を持ち上げる」という2つの動作の違いです。

どちらも「床にある物を持ち上げる」という点では同じですが、物の重さや必要な力、動作の目的が違います。

そのため、見た目の動作は似ていても、体がとる姿勢や動き方は変わります。

つまり、「背中は丸めてはいけない」「背中は丸めてもいい」という一つのルールで決めることはできません。

軽い物を拾う時と、重い物を持ち上げる時では、その場面で体に求められることが違うからです。

姿勢の良し悪しを考える時には、「形だけではなく、何をするのか、どのくらいの負荷がかかるのか、どのように動く必要があるのか」まで含めて考える必要があります。

大切なのは「正しい姿勢」ではなく「姿勢を変えられること」

ここまで、ゴミを拾う動作と10キロの米袋を持ち上げる動作を例に、同じような動作でも、物の重さや目的によって体の使い方が変わることをご紹介しました。

私たちは日常生活の中で、立つ、座る、しゃがむ、歩くなど、さまざまな動作を行います。

そのため、どんな場面でも一つの「正しい姿勢」を保つことは、実際の生活には合わないことがあります。

大切なのは、背中を伸ばした姿勢だけをきれいに保つことではありません。

必要な時には背中を丸めたり、深くしゃがんだり、体を前に倒したりと、その場面に合わせて姿勢を変えられることです。

つまり、良い姿勢とは「一つの形を保ち続けること」ではなく、その時の状況や目的に合わせて、必要な姿勢へ変化できることとも考えられます。

姿勢の「選択肢」が一つしかなければ、状況が変わった時に体の使い方を変えることが難しくなります。

反対に、さまざまな姿勢をとることができれば、その時々の動作に合わせて体の使い方を変えることができます。

姿勢を整えることと同じように、さまざまな姿勢へ変化できる体をつくることも大切なのです。

まとめ

「姿勢が悪い」と言われると「背中が丸まっている」「頭が前に出ている」「反り腰になっている」など、姿勢の形を直そうとすることが多いかもしれません。

もちろん、姿勢を整えることが役立つ場面も多くあります。

ただ、その姿勢だけを見て「良い・悪い」と判断するのではなく、「どのような場面で、その姿勢になっているのか」にも目を向けることが大切です。

例えば、床のゴミを拾う時に背中が丸まることと、長時間同じ姿勢で過ごしている中で背中が丸まっていることは、同じ「背中が丸まっている」という形でも、捉え方は変わります。

「この姿勢を直さなければ」と考える前に、「今、どんな動作をしているのか」「この姿勢は何のために必要なのか」と考えてみる。

そうすることで、これまで「悪い姿勢」と思っていた体の形も、少し違った見方ができるかもしれません。

姿勢を考える時には、形だけを見るのではなく、その時の状況や目的と合わせて考えることが大切です。

姿勢を「正しい形」として固定するのではなく、その時の状況や目的に合わせて変えられること。それが、日常生活の中で体を無理なく使っていくために大切なことです。


執筆者:進藤 孝大
Takahiro Shindo

湘南医療福祉専門学校 アスレティックトレーナー科卒業
東京衛生学園専門学校 東洋医療総合学科卒業

鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)
A-Yoga Movement coach

目の前にいる人の体のお悩み解決に全力を尽くす。
その想いだけで活動してまいりました。
スポーツトレーナーとして培ってきたノウハウと経験を活かして、
運動療法と鍼灸マッサージを組み合わせた治療を提案。
ご自身に合った適切なケア方法等、皆様のお悩み解決に向けて徹底サポートを行います。


30年以上続く首・肩・背中のこりに対し、身体の使い方を見直しながら運動習慣につなげたケース|ケースレポート

概要

Y様/東京都在住/55歳/女性/会社員

症状

* 30年以上続く首肩、背中のこり

* NRS:7〜8

状態

* 頸部(頭半棘筋・板状筋)、肩上部(僧帽筋)、背部の筋緊張

* 胸椎の伸展可動性の低下

* 骨盤後傾

* 座位で円背になりやすい

* 立位・座位で足の位置や重心のかけ方に偏りがみられた

見立て

長期間続く首・肩・背中のこりには、筋緊張だけでなく、胸椎の動きにくさや座位姿勢も関係していると考えた。

骨盤が後傾し、座位で背中が丸まりやすい状態では、胸椎を伸ばして身体を支えることが難しくなり、首・肩・背中まわりへの負担につながっている可能性がある。

また、立位・座位では足の位置や荷重にも偏りがみられたため、背中だけでなく、股関節や下肢を含めて身体全体でどのように身体を支えているかにも着目した。

そのため、背中のこりを一時的にほぐすだけではなく、胸椎や股関節を動かしやすくし、足や下肢を使って身体を支える感覚を身につけることを治療の軸とした。

治療

1回目

頸部・肩上部・背部だけでなく、腰部・ハムストリングス・ふくらはぎなども含め、全身の状態を確認しながらほぐしを行った。

そのうえで、胸椎を動かしやすくする背中のストレッチや、座位で股関節を使って身体を起こす動きを行い、身体を支えるための基本的な動きを確認した。

2回目

初回から約1週間後に来院。

座位・立位での姿勢を確認すると、初回よりも無理な力みが少なく、身体の位置を意識して保てるようになっていた。

セルフトレーニングでは、座位での背中のストレッチや脚への荷重、脚を閉じる運動などを取り入れ、日常生活の中でも身体の位置を意識できるようにした。

3回目

姿勢を意識することで、座位・立位ともに身体を起こしやすくなり、NRS4~5まで改善した。

後ろに身体を預けるのではなく、足で床を踏みながら身体を支える位置を確認した。

4回目

NRS2~3まで改善。

仕事中の座位や立位での身体の使い方を確認し、股関節を動かしながら身体を起こす感覚をさらに深めた。

また、スクワットでは踵側に重心をかけすぎず、足で床を捉えながら身体を支える動きを確認した。

この頃には、症状の軽減だけでなく、日常生活や運動の中で身体の支え方を意識できるようになってきた。

5〜7回目

症状が落ち着いてきたため、治療間隔を徐々に延ばした。

5回目には治療間隔を2週間に延ばしたが、大きく状態を崩すことなく、スポーツクラブにも通い始めた。

運動では、内もも・お尻・もも裏などを使いながら身体を支えることを意識し、上半身に力が入りすぎないよう動作を確認した。

その後も運動を継続し、週3回程度身体を動かす習慣ができていった。

6回目では、スポーツクラブでの運動を続ける中で肩まわりに張りがみられたため、肩・背中・首を中心に状態を確認した。

背中や肩甲骨まわりのエクササイズでは、余計な力みなく動かせているかを確認した。

7回目には片足でのスクワット動作まで進み、これまで確認してきた足の位置や重心のかけ方を意識しながら、片足でも安定して身体を支えられることを確認した。

8〜10回目

その後は治療間隔をさらに延ばし、日常生活や運動を続けながら状態を維持できるかを確認した。

8回目は約1ヶ月ぶりの来院。

普段の運動は週3回継続できており、股関節の動きも安定していた。

運動では、スクワットで上半身を起こしながらお腹も使って身体を支える感覚や、ヒンジ動作でお尻・もも裏を使って身体を動かす感覚を確認した。

10回目には約3ヶ月間隔が空いていたが、大きく状態を崩すことなく、運動習慣も継続できていた。

また、来院当初と比べて胸椎の可動性も改善し、背中を動かせる範囲が広がっていた。

ここで治療は一旦ゴールとし、その後は3ヶ月に1回程度の治療・メンテナンスを行いながら、身体の状態や運動習慣を確認している。

必要に応じて日常生活や運動での身体の使い方を見直すという形で継続している。

コメント

今回のケースでは、30年以上続いていた首・肩・背中のこりに対して、症状のある部分をほぐすだけではなく、日常生活で身体をどのように支えているかに着目して治療を行いました。

また、症状が改善してからもすぐに治療を終了するのではなく、治療間隔を延ばしながら、仕事や長時間の座位、運動などの負荷がかかる状況でも状態を維持できるかを確認しました。

その結果、週3回程度の運動習慣も定着し、最終的には3ヶ月間治療間隔が空いても大きく状態を崩すことなく、身体を動かせる状態を維持できるようになりました。

さらに、現在では身体の違和感にご自身で気づき、姿勢や荷重、日常生活での身体の使い方を見直せるようになっています。

今回の症例を通して、長期間続いている症状であっても、「症状のある場所をほぐす」だけでなく、「なぜそこに負担がかかりやすいのか」を身体全体の動きから考え、日常生活や運動の中で実際に使える身体の使い方につなげていくことが重要だと考えました。


執筆者:中込 優平
Yuhei Nakagome

帝京大学 医療技術学部スポーツ医療学科 健康スポーツコース卒業
神奈川衛生学園専門学校 東洋医療総合学科卒業

鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師
健康運動実践指導者

私は大学時代、 市営の体育館のトレーニングルームで運動指導をしていましたが、当時の自分にはお客様が肩や腰が痛いと仰っても解決する手立てがありませんでした。
そこから鍼灸あん摩マッサージ指圧師に興味を持ち始め、資格を取得しました。
日常生活の中で肩こりや腰痛などで悩み、 やりたいことができない方やもっと健康で良い生活をしていきたい方、 そんな方々のお力になりたいと考えています。


姿勢は「正しい形」ではない?〜3つの感覚から考える姿勢のコントロール〜

「良い姿勢」と聞くと、背筋が伸びていて、頭から足までまっすぐに整った姿勢を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

もちろん、体を良い位置に保つことはとても大切です。

しかし、私たちの姿勢は、いつも静止画として切り取られた「良い姿勢」を固定して保っているわけではありません。

立っている時も、座っている時も、一見すると止まっているように見える状況でも、わずかに動き続けています。

周囲の環境が変われば、その環境に合わせて姿勢が変わるのが自然です。ずっと同じように良い姿勢を保とうとすると、かえって疲れを感じたり、こりにつながったりすることもあります。

つまり、私たちの体は、その時の状況や動きに合わせて姿勢を調整しながら、バランスを保っています。

その背景には、これまでご紹介してきた「体性感覚」「視覚」「前庭覚」の3つの感覚が関わっています。

では、これらの感覚は、実際にどのように姿勢を支えているのでしょうか。

今回は、これまでご紹介してきた3つの感覚をまとめながら、私たちがどのように姿勢を調整しているのかについてご紹介します。

3つの感覚は、それぞれ違う情報を伝えている

私たちが姿勢を保ったり、体を動かしたりする時には、さまざまな感覚から情報が入ってきています。

これまでご紹介してきた「体性感覚」「視覚」「前庭覚」も、その一つです。

これら3つの感覚は、すべて同じ情報を伝えているわけではありません。

視覚が伝えているのは、主に「自分の周囲がどうなっているのか」という情報です。

目から入ってくる景色や人・物などの情報によって、

・自分がどこにいるのか?

・周囲との位置関係はどうなっているのか?

といったことを知ることができます。

一方、体性感覚が伝えているのは、「自分の体が今どうなっているのか」という情報です。

・足裏が床にどのように接しているのか?

・関節がどのくらい動いているのか?

・筋肉がどのように働いているのか?

など、体の内側からさまざまな情報が送られています。

そして前庭覚は、「頭がどのように動いているのか」という情報を伝えます。

・頭がどの方向に動いているのか?

・どのように傾いているのか?

・どのくらいの速さで動いているのか?

といった情報を感じ取っています。

整理すると、

◆ 視覚 → 周囲の状況に関する情報

◆ 体性感覚 → 自分の体の状態に関する情報

◆ 前庭覚 → 頭の動きや傾きに関する情報

というように、それぞれが異なる役割を持っています。

私たちの脳は、こうした異なる情報を受け取りながら、自分の体が今どのような状態にあるのか、周囲との位置関係はどうなっているのかを把握しています。

つまり、姿勢を支えるために必要なのは、単に「体をまっすぐにすること」ではありません。

自分の体の状態、頭の動き、そして周囲の環境についての情報を受け取り、その時の状況に合わせて体を調整することが大切なのです。

3つの感覚が組み合わさることで、体を調整できる

では、これらの感覚は、実際の動きの中ではどのような働きをしているのでしょうか?

歩いている途中で、後ろから声をかけられて振り向く場面を考えてみてください。

振り向くために頭や体を動かすと、前庭覚は頭がどの方向に、どのくらいの速さで動いたのかを捉えます。

同時に、視覚は体を動かしたことで変化する景色や周囲の人を捉え、声をかけてきた人や周囲の状況を把握する手がかりになります。

そして、体性感覚からは、首や背中がどのように動いているのか、足へどのように体重が移動しているのかといった、自分の体の状態に関する情報が入ってきます。

このように、「振り向く」という一つの動作の中でも、3つの感覚から異なる情報が同時に入ってきます。

脳はそれらを組み合わせながら、自分の体がどのように動いているのか、周囲との位置関係がどう変化したのかを把握し、必要に応じて筋肉の働きや体の動きを調整しています。

私たちは、振り向くたびに「バランスを崩さないようにきれいに振り向こう」と意識しているわけではありません。

意識をしなくてもバランスを崩すことなく振り向けるのは、「視覚」「体性感覚」「前庭覚」から得られる情報をもとに、脳が無意識のうちに体を調整しているためです。

このように、姿勢や動きを支えているのは、一つの感覚だけではありません。

3つの感覚がそれぞれ異なる情報を伝え、それらを脳が組み合わせることで、私たちはその時の状況に合わせて姿勢や動きを調整しています。

姿勢は、その場の状況に合わせて調整されている

3つの感覚から得られる情報は、いつも同じではありません。

自分がいる場所や周囲の状況、体の動きが変われば、目に入るものや体に伝わってくる感覚、頭の動きも変化します。

例えば、人の少ない広い公園を歩いている時と、朝の通勤ラッシュ時間に人が多くいる駅構内を歩いている時では、同じ「歩く」という動作でも、周囲から入ってくる情報は大きく異なります。

広い公園では、周囲に人や物が少ないため、自分のペースで歩くことができます。

一方、人の多い駅構内では、前から来る人や横から動いてくる人との距離を見ながら、ぶつからないように進む方向や歩く速さを調整する必要があります。

その間も、足裏や関節などからは、自分の体がどのように動いているのかという情報が入ってきます。

また、歩く方向を変えたり、周囲を見渡す際に頭を動かしたりすることで、前庭覚からも頭の動きに関する情報が入ってきます。

つまり、同じ「歩く」という動作でも、周囲の環境が変われば、目から入ってくる情報や体の動かし方など、それに伴う感覚も変わります。

脳は、その時々で得られるこれらの情報をもとに、歩く方向や速さ、体の向きなどを調整しています。

私たちは、「目の前から来る人とぶつかりそうだから左に体を倒そう」「人を避けるために少し歩く速さを変えよう」などと一つひとつの動作を意識しているわけではありません。

周囲の状況に合わせて体を動かしているうちに、姿勢や動きも自然に変化しています。

同じように歩いていても、広い場所を歩く時と人の多い場所を歩く時。前方に何もない場所を歩く時と、障害物を避けながら歩く時。

まっすぐ進む時と、方向を変えながら進む時。

どれも「歩く」という動作には変わりありませんが、その時に入ってくる情報や、体に求められる調整はそれぞれ異なります。

だからこそ、姿勢は一つの決まった形を保つものではなく、その時々の状況に合わせて変化していくものなのです。

姿勢を見る時に大切なのは「形」だけではない

ここまで、姿勢と3つの感覚についてご紹介してきました。

姿勢を見る時、「猫背だから悪い」「反り腰だから悪い」というように、形だけに目を向けることがあります。

もちろん、姿勢の形を見ることは大切です。

しかし、その形だけを見ていると、「なぜ、この姿勢になっているのか」という部分を見落としてしまうことがあります。

例えば、長時間のデスクワークを考えてみます。

パソコンの画面を見るためには、目を画面に向け、ある程度同じ方向を見続ける必要があります。

パソコン作業では、作業効率の面からも視線をある程度一定に保つ必要があるため、画面との距離や位置によっては、頭が少し前に出る姿勢になることもあります。

その時に起こる頭や体の変化も、体性感覚や前庭覚を通して捉えられています。

脳は、こうした異なる感覚から得られる情報を組み合わせながら、「画面を見る」という目的に合わせて体の位置を調整しています。

つまり、デスクワーク中に頭が少し前に出ているからといって、それだけで「悪い姿勢」と判断できるわけではありません。

その姿勢は、画面を見るという目的や、机や椅子、画面との距離など、その時の環境に体を合わせた結果として生じている可能性があります。

一方で、同じ姿勢が長時間続けば、特定の部位に負担が集中したり、体を動かす機会が少なくなったりすることで、首や肩などに疲れやこりを感じることがあります。

また、長時間同じ環境で過ごすことで、視線や頭の動きなどは普段よりも入力が少なくなることもあります。

だからこそ、姿勢を見る時には、単に「正しい姿勢に直す」というだけではなく、

「なぜ、この姿勢になっているのか」

「どのような情報を受け取りながら、この姿勢をとっているのか」

という視点を持つことが大切です。

姿勢は、筋肉や関節だけで決まるものではありません。

視覚、体性感覚、前庭覚などから得られる情報をもとに、脳がその時の環境や目的に合わせて体を調整した結果として、姿勢が作られています。

つまり、姿勢の形は、体がその時の環境に適応した「結果」として現れているものでもあるのです。

まとめ

今回は、これまでご紹介してきた「体性感覚」「視覚」「前庭覚」をまとめながら、3つの感覚がどのように姿勢を支えているのかについてご紹介しました。

私たちは、いつも一つの「正しい姿勢」を固定して保っているわけではありません。

立つ、歩く、振り向く、手を伸ばすなど、その時の動きや周囲の環境に合わせて、姿勢は常に変化しています。

その中で、

* 視覚から周囲の情報を受け取り、

* 体性感覚から自分の体の状態を感じ取り、

* 前庭覚から頭の動きや傾きに関する情報を受け取り

脳はそれらの情報を組み合わせながら、体の状態を把握し、必要に応じて姿勢や動きを調整しています。

姿勢というと、「背筋を伸ばす」「まっすぐにする」といった形に目が向きやすいかもしれません。

しかし、私たちの姿勢は、さまざまな感覚から得られる情報をもとに、その時の環境や目的に合わせて体を調整した結果として現れています。

そのため、姿勢を考える時には、「どんな形をしているか」だけではなく、「どのようにその姿勢を作っているのか」という視点も大切です。

これまでご紹介してきた体性感覚・視覚・前庭覚について知ることで、普段何気なく行っている「立つ」「歩く」「動く」という動作も、少し違った視点から見えてくるかもしれません。


執筆者:進藤 孝大
Takahiro Shindo

湘南医療福祉専門学校 アスレティックトレーナー科卒業
東京衛生学園専門学校 東洋医療総合学科卒業

鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)
A-Yoga Movement coach

目の前にいる人の体のお悩み解決に全力を尽くす。
その想いだけで活動してまいりました。
スポーツトレーナーとして培ってきたノウハウと経験を活かして、
運動療法と鍼灸マッサージを組み合わせた治療を提案。
ご自身に合った適切なケア方法等、皆様のお悩み解決に向けて徹底サポートを行います。


慢性的な首こりが、運動を続けながら改善したケース|ケースレポート

概要

D様/東京都在住/51歳/男性/会社員

症状

  • ・約1年前から、起床時に首の上部に痛み
  • ・朝に頭が重く感じ、頭痛が出ることがある
  • ・ストレッチや入浴で一時的に症状が軽減するものの、時間が経つと戻りやすい
  • ・姿勢が悪い自覚がある
  • ・NRS:7〜8

状態

  • ・後頭部(後頭下筋群)・頸部(頭半棘筋、板状筋)・肩上部(僧帽筋)の筋緊張
  • ・胸椎の伸展・回旋可動性の低下
  • ・肩甲骨の可動性低下
  • ・大胸筋・広背筋など、胸や背中まわりの筋の緊張
  • ・座位で円背になりやすい
  • ・下肢では、ふくらはぎやハムストリングスにも張りがみられた

見立て

今回の症状には、首や肩の筋肉の緊張だけでなく、背中や肩甲骨の動きにくさと、それによって首・肩に負担が偏りやすくなっていることが関係していると考えた。

特に、座っていると背中が丸まりやすく、胸椎や肩甲骨が動きにくい状態であったため、腕を動かす際に首や肩まわりの筋肉が補助的に働き、負担が集中している可能性がある。

週2回のジムトレーニングと週1回のテニスを継続されていることから、日常生活だけでなく、繰り返し行う腕の動作の中でも首や肩に負担がかかりやすい状態であるとみられた。

そのため、首や肩の筋肉をほぐして症状を軽減するだけではなく、背中や肩甲骨の動き、腕を動かす際の身体の使い方まで含めてみていくことを治療の軸とした。

また、朝にみられる頭痛についても、後頭部や首まわりの筋緊張が関係している可能性があるため、首・肩の状態とあわせて経過をみていくこととした。

治療

1回目

鍼の経験がなかったため、まずはマッサージを中心に行った。

後頭部・肩上部だけでなく、背部・腰部・ハムストリングスなども含めて全身をほぐした。

そのうえで、首や肩だけに負担が集中しないよう、背中や肩甲骨を動かしやすくすることを目的に、大胸筋・広背筋のストレッチと肩甲骨のモビライゼーションを行った。

運動では、胸椎を伸ばすタオルストレッチと、普段行っているトレーニングの中からラットプルダウンを実施した。

ラットプルダウンでは、肩をすくめて腕だけで引くのではなく、肩甲骨を動かしながら背中を使って引く感覚を確認した。

治療直後には、肩を上げやすくなり、肩甲骨も動かしやすくなったとのこと。

2回目

初回から約1週間後に来院。

治療後は楽な状態が約4日間続き、テニス・トレーニングも痛みなく行えていた。

この段階では、治療後の変化を普段の生活でも維持できるよう、身体の使い方を確認した。

座位では浅めに座り、背中が丸まりすぎない位置を確認するなど、日常の姿勢についても取り組んだ。

3回目

その後もジムとテニスを継続しながら、首・肩の症状はNRS 0〜1まで改善した。

朝の頭痛も出なくなり、テニスではフォアハンドをより力を抜いて振れる感覚が得られていた。

姿勢についても日常生活の中で意識できるようになり、背中を動かしながら肩甲骨を使う感覚が徐々に身についてきた。

ここでは胸を張って姿勢を良くするのではなく、背中を自然に動かせる状態を保ちながら、肩甲骨をスムーズに動かすことを意識した。

4〜5回目

治療間隔を徐々に延ばしていったが、首・肩のつらさや頭痛は大きく出ることなく、状態を維持できるようになった。

日常生活でも姿勢を意識する機会が増え、徐々に姿勢を意識してつくる段階から、自然に身体の位置を修正できる段階へ変化していった。

また、会議や長時間の移動があった際にも大きく状態を崩すことなく、テニスやジムを継続できていた。

テニスではフォアハンドの振りやすさも維持できており、症状だけでなく、運動時の身体の使いやすさにも変化がみられた。

症状を抑えるだけでなく、実際に負荷がかかる生活や運動の中でも、身体の使い方を維持できるようになってきた。

6回目

6回目の時点で、首・肩の違和感や朝の頭痛はほとんどみられず、NRS 0〜1の状態を維持できていた。

テニス・ジムともに問題なく継続できている。

姿勢についてもご自身で身体の位置を調整できるようになり、肩をすくめずに背中を使って腕を動かす感覚も定着してきた。

症状を改善するという当初の目標を達成し、6回の治療を一区切りとしてゴールに到達した。

今後は治療頻度を月1回程度とし、症状改善を目的とした治療から、テニス・筋力トレーニング・ハイキングなど、趣味を楽しく継続できるためのコンディショニング・メンテナンスを続けていく。

コメント

今回の改善では、首や肩の筋肉をほぐすだけではなく、背中や肩甲骨を動かしやすくすることと、その動きを実際に使えるようにすることを並行して行ったことが重要だったと考えています。

腕を動かすときは、腕だけで動かしているわけではありません。

背中が伸びたり、ひねったりしながら肩甲骨が一緒に動くことで、腕をスムーズに動かすことができます。

反対に、背中や肩甲骨が動きにくい状態では、腕を動かす際に首や肩の筋肉が頑張りすぎてしまうことがあります。

今回のケースでは、まずマッサージやストレッチ、モビライゼーションによって身体を動かしやすい状態をつくることから始めました。

そのうえで、ラットプルダウンなどのトレーニングを通して、動きやすくなった背中や肩甲骨を実際の動作の中で使う練習を行いました。

さらに、日常生活での姿勢やテニスのフォアハンドでも同じ身体の使い方を意識していただくことで、

「身体を動かしやすくする」

→「その状態で身体の使い方を練習する」

→「日常生活やスポーツの中でも使えるようにする」

という段階を踏んでいきました。

その結果、首や肩の症状が改善しただけでなく、テニスやジムを継続しながらも症状が戻りにくくなり、ご自身でも身体の位置や動かし方を調整できるようになりました。

今回の症例からも、症状のある部分だけにアプローチするのではなく、「なぜそこに負担がかかっているのか」を動き全体から考え、改善した動きを実際の生活やスポーツにつなげていくことが大切だと感じています。


執筆者:中込 優平
Yuhei Nakagome

帝京大学 医療技術学部スポーツ医療学科 健康スポーツコース卒業
神奈川衛生学園専門学校 東洋医療総合学科卒業

鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師
健康運動実践指導者

私は大学時代、 市営の体育館のトレーニングルームで運動指導をしていましたが、当時の自分にはお客様が肩や腰が痛いと仰っても解決する手立てがありませんでした。
そこから鍼灸あん摩マッサージ指圧師に興味を持ち始め、資格を取得しました。
日常生活の中で肩こりや腰痛などで悩み、 やりたいことができない方やもっと健康で良い生活をしていきたい方、 そんな方々のお力になりたいと考えています。


【伊藤 復帰のお知らせ】

日頃より肩こりラボをご利用いただきありがとうございます。

スタッフの伊藤が、9月5日より職場に復帰いたします。

休業期間中は皆さまにご理解とご協力をいただき、ありがとうございました。

今後もスタッフ一同、皆さまにとってより良い治療ができるよう努めてまいります。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

姿勢は耳で支えている?〜前庭覚と姿勢の関係〜

「姿勢を良くしましょう」「背筋を伸ばしましょう」

このような言葉を、一度は耳にしたことがあると思います。

私たちは普段、「姿勢」を意識することはあっても、「どうやって姿勢を保っているのか?」を考える機会はあまりありません。

では、私たちはどうやって「まっすぐ立っている」ことを知っているのでしょう。

鏡を見ているわけでもなく、誰かが真っ直ぐであることを教えてくれるわけでもありません。

それでも、体が少し傾けば自然と姿勢を立て直し、歩いていてもバランスが崩れないように体を調整しています。

実は、このような姿勢のコントロールには、筋肉だけでなく「感覚」が大きく関わっています。

前回までのブログでは、姿勢を支える感覚として「体性感覚」と「視覚」についてご紹介しました。

そして、今回ご紹介するのは、耳の奥にある「前庭(ぜんてい)」という器官から得られる「前庭覚」です。

普段あまり耳にすることのない言葉ですが、私たちがまっすぐ立ち、スムーズに体を動かすためには欠かせない感覚の一つです。

今回は、前庭覚が姿勢とどのように関わっているのかについてご紹介します。

姿勢を保つために欠かせない「耳のセンサー」

私たちは立っている時、「じっと動かずに立っている」と感じています。

しかし実際には、体はほんのわずかに前後左右へ動いています。

その小さな動きに合わせて、無意識のうちにバランスを取り続けています。

例えば、少し前へ傾けば後ろへ戻し、右へ傾けば左へ戻すというように、無意識のうちに細かな調整を繰り返しています。

では、体はどのようにして「少し傾いた」ことに気がついているのでしょうか。

その答えの一つが、「前庭覚」です。

前庭覚は、頭の位置や動き、傾きなどを感じ取る感覚です。

前庭覚から得られる情報は、私たちが頭の位置や動きを知り、姿勢を調整するための大切な手がかりの一つになっています。

前庭覚が教えてくれる体の情報

前庭覚は、頭の動きや傾き、加速や減速などを感じ取り、脳へ伝えています。

例えば、歩き始めや振り向く時、上を向く時など、頭が動くたびに前庭覚はその変化を感じ取っています。

しかし、前庭覚が伝えているのは「頭が動いた」という情報だけではありません。

「どちらの方向へ動いたのか」

「どのくらい動いたのか」

「どれくらいの速さで動いたのか」

といった、頭の位置や動きに関する細かな情報も脳へ送り続けています。

脳はその情報をもとに体の状態を把握し、必要に応じて全身の筋肉を細かく調整しています。

ただし、姿勢は前庭覚からの情報だけで決まるものではありません。

脳は前庭覚や視覚、体性感覚などのさまざまな感覚から得られる情報を組み合わせながら、無意識のうちに姿勢を調整しています。

その中で前庭覚は、頭の位置や動きを知るための大切な情報を与えています。

私たちがまっすぐ立ったり、体をスムーズに動かしたりするために、前庭覚は重要な役割を担っています。

前庭覚はいつ働いている?

前庭覚は、特別な動きをした時だけ働く感覚ではありません。

私たちが日常生活の中で頭を動かしたり、体の向きを変えたりするたびに働いています。

例えば、朝ベッドから起き上がる時、歩きながら周囲を見る時、振り向いて誰かと話をする時など、普段何気なく行っている動作の中でも前庭覚は使われています。

私たちは普段、「バランスを取ろう」と意識して生活しているわけではありません。

しかし、実際には前庭覚をはじめとしたさまざまな感覚から得られる情報をもとに、体は無意識のうちに姿勢や動きを調整しています。

普段は意識することの少ない感覚ですが、前庭覚は私たちがスムーズに体を動かし、日常生活を送るために大切な役割を担っています。

まとめ

私たちは普段、姿勢を意識しなくても立ったり歩いたりすることができます。

それは、筋肉の働きだけではなく、視覚や体性感覚、そして前庭覚など、さまざまな感覚から得られる情報をもとに、脳が体の状態を調整しているためです。

その中でも前庭覚は、頭の位置や動き、傾きなどを感じ取り、姿勢や動作を調整するための大切な情報を与えています。

前庭覚は普段あまり意識することのない感覚ですが、私たちがまっすぐ立つ、歩く、体の向きを変えるといった日常の動きを支える役割を担っています。

姿勢というと、筋肉の強さや柔軟性に目が向きやすいですが、体がどのような状態にあるのかを知る「感覚」も大切な要素の一つです。

今回ご紹介した前庭覚について知ることで、普段何気なく行っている姿勢や動きが、さまざまな感覚によって支えられていることを感じていただければと思います。


執筆者:進藤 孝大
Takahiro Shindo

湘南医療福祉専門学校 アスレティックトレーナー科卒業
東京衛生学園専門学校 東洋医療総合学科卒業

鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)
A-Yoga Movement coach

目の前にいる人の体のお悩み解決に全力を尽くす。
その想いだけで活動してまいりました。
スポーツトレーナーとして培ってきたノウハウと経験を活かして、
運動療法と鍼灸マッサージを組み合わせた治療を提案。
ご自身に合った適切なケア方法等、皆様のお悩み解決に向けて徹底サポートを行います。


あなたの目は大丈夫?|首肩こりにつながる“見え方”のセルフチェックとセルフケア

前回のブログでは、長時間のパソコン作業によって「固定視(一点を見続ける状態)」が増え、「周辺視(周囲を見る力)」が低下しやすくなることが、首や肩こりにつながる可能性についてお伝えしました。

ただ、自分の目がどのように使われているのかを普段意識することはあまりありません。

そのため、自分の目の使い方に偏りがあったとしても、気がついていないことが多いです。

そこで今回は、ご自宅で簡単にできる視覚のセルフチェックとセルフケアをご紹介します。

なぜ視覚のセルフチェックが必要なのか

私たちは普段、「ものが見えているかどうか」は気にしていても、「どのように見ているか」を意識することはあまりありません。

いわゆる、視力の良し悪しの部分で、ものがぼやけて見えていないかの部分はわかりやすいです。

そのため、目の使い方に偏りがあっても、自分では気がつきにくいことがあります。

例えば、

・長時間同じ場所を見続けている

・周囲を見る機会が少ない

・目の動きが少なくなっている

といった状態です。

こうした状態が続くと、目だけでなく首や肩にも負担がかかることがあります。

まずは現在の状態を知るために、簡単なセルフチェックを行ってみましょう。

なお、今回ご紹介するチェックは診断を目的としたものではありません。

あくまでも現在の状態を知るための目安として行ってみてください。

周辺視のセルフチェック

まずは、周囲を見る力(周辺視)を確認してみましょう。

周辺視とは、正面を見ている時に、その周囲の情報を捉える力のことです。

私たちは普段、この周辺視を使いながら周囲との距離感や空間の広がりを把握しています。

<やり方>

1. 顔の正面に両手を伸ばし、親指を立ててそろえます

2. 目線は正面に向けたまま、両方の親指をゆっくりと外側に開いていきます。

3. 視野の外側へ移動した親指が、どのくらいまで見えているかを確認します

<チェックポイント>

・左右で見えやすさに差がある

・見えている範囲が狭い

・指を見ようとして首や肩に力が入る、頭が動いてしまう

<チェックの目安>

個人差はありますが、両腕を肩の高さまで開いた状態(180°腕を開いた状態)でも、正面を見たまま親指の存在や動きが分かることが一般的です。

左右差が大きい場合や、腕を少し開いただけで親指が見えなくなる場合は、周辺視が十分に使えていない可能性があります。

※このチェックは診断を目的としたものではなく、その日の疲労や集中状態によっても結果は変化します。

<なぜ大切なのか?>

長時間のパソコン作業では、画面を見る時間が増えることで、周囲の状況を見る機会が少なくなります。

その結果、周辺視野から入る情報を十分に捉えにくくなっていることがあります。

人混みで人とぶつかりやすい方や、最近つまずくことが増えた方は、一度チェックしてみるのも良いかもしれません。

もちろん原因は一つではありませんが、周囲の情報をうまく捉えられていないことが影響している場合もあります。

目で指を追うセルフチェック

次に、目がスムーズに動いているかを確認してみましょう。

私たちは普段、近くのものを見たり遠くのものを見たりしながら生活しています。

その際には、目線を合わせるだけでなく、対象との距離に応じて両目を協調させながら焦点を調整しています。

長時間のパソコン作業では近くを見る時間が増えるため、この働きに偏りが生じることがあります。

<やり方>

1. 顔の前に腕を伸ばして親指を立てます

2. 親指の爪の白い部分に目線を合わせます

3. 顔は動かさずに、親指をゆっくり手前に近づけます

4. その後、元の位置までゆっくり戻します

連続で10回くらい繰り返します。

<チェックポイント>

・親指を1つのものとして見続けられているか

・手前に指を近づけた時に、親指が二重に見える

・親指の動きに合わせて、頭が動いてしまう

・まばたきが増える、涙が出る

・目が疲れる

<チェックの目安>

個人差はありますが、親指をゆっくり手前へ近づけても、鼻先の近くまでは親指を1つのものとして見続けられることが一般的です。

また、親指を遠ざけた際にもスムーズに焦点を合わせ続けることができます。

途中で親指が二重に見えたり、片目だけで見ているような感覚になったりする場合は、目を協調して使う働きが疲れている可能性があります。

※このチェックは視力の良し悪しを確認するものではなく、目の動きや使い方を確認するためのものです。

<なぜ大切なのか>

私たちは日常生活の中で、近くのものと遠くのものを絶えず見分けながら過ごしています。

しかし、長時間のパソコン作業では近くを見る時間が増えるため、目の使い方が偏りやすくなります。

その結果、近くと遠くの距離に応じて目を調整する働きがスムーズに行えなくなっていることがあります。

また、目の働きを補うために首や肩周りの筋肉へ負担がかかり、首こりや肩こりにつながる可能性もあります。

視線を切り替えるセルフチェック

続いて、視線を素早く切り替える力を確認してみましょう。

私たちは日常生活の中で、複数の対象へ視線を移しながら周囲の状況を把握しています。

例えば、

・会話中に相手の顔を見て、視線を少し逸らす

・車の運転中にミラーや周囲を確認した後、前を見る

・歩きながら周囲の人や障害物を確認しながら歩く

といった場面では、視線を素早く切り替える働きが使われています。

長時間のパソコン作業では、同じ場所を見続ける時間が増えるため、この働きに偏りが生じることがあります。

<やり方>

1. 両手を肩幅より少し広めに開き、親指を立てます

2. 顔は正面を向いたままにします

3. 左右の親指の爪を交互に見ます

4. 親指から親指へ、視線を素早く切り替えます

1秒に1回のペースで30〜50回程度繰り返してみましょう。

<チェックポイント>

・左右で見やすさに差がある

・親指にうまく焦点が合わない

・親指を見る時に頭も一緒に動いてしまう

・涙が出る、目が疲れる

・首や肩に力が入る

<チェックの目安>

左右どちらの親指にもスムーズに視線を移すことができ、首や肩に余計な力が入らない状態が理想的です。

左右差が大きかったり、視線を切り替えるだけで目や首が疲れたりする場合は、視線を切り替える働きが十分に使えていない可能性があります。

※このチェックは視力の良し悪しを確認するものではなく、目の動きや使い方を確認するためのものです。

<なぜ大切なのか>

私たちは日常生活の中で、必要な情報へ素早く視線を移しながら周囲の状況を把握しています。

しかし、長時間のパソコン作業では同じ場所を見続ける時間が増えるため、視線を切り替える機会が少なくなります。

その結果、目の動きがぎこちなくなったり、目が疲れやすくなったりすることがあります。

また、目の働きを補うために首や肩周りの筋肉へ負担がかかり、首こりや肩こりにつながる可能性もあります。

デスクワーク中にできる簡単セルフケア

ここまでセルフチェックをご紹介してきました。

気になる項目があった場合でも、過度に心配する必要はありません。

その日の疲労や睡眠不足、長時間の作業などによっても結果は変化します。

ここからは、デスクワーク中でも簡単に行えるセルフケアをご紹介します。

周囲の景色を眺める

長時間のパソコン作業では、画面の一点を見続けることで視野が狭くなりやすくなります。

そんな時は、一度顔を上げて部屋全体や窓の外の景色を眺めてみましょう。

机や壁などを個別に見るのではなく、部屋全体を一枚の写真のように捉えるイメージです。

目の前だけに向いていた意識を周囲へ広げることで、固定視が続いた状態から切り替えるきっかけになります。

動いているものを眺める

長時間のデスクワークでは、目の前の文字や画面を見る時間が長くなり、目を大きく動かす機会が少なくなります。

そこで、窓の外を歩く人や車、電車、風で揺れる木々などをゆっくり目で追いかけてみましょう。

何かをじっと見るのではなく、自然に動いているものを眺めることがポイントです。

デスクワーク中に少なくなりがちな目の動きを取り戻すきっかけになります。

周囲を見渡す時間を作る

パソコン作業に集中している時は、視線が一か所に留まりやすくなります。

そんな時は、部屋の中にある時計、本棚、ドア、窓などを順番に見てみましょう。

一点を見続けるのではなく、視線を様々な場所へ移していくことがポイントです。

周囲の状況を確認するように見渡すことで、デスクワーク中に少なくなりがちな視線の切り替えを促すことができます。

まとめ

長時間のデスクワークでは、

・画面の一点を見続ける

・近くを見る時間が増える

・同じ姿勢が続く

といった状態が起こりやすくなります。

その結果、

・周辺視からの情報が得られにくくなる

・近くと遠くを見るための目の調整が偏る

・視線を切り替える機会が減る

など、目の使い方にも変化が生じることがあります。

今回ご紹介したセルフチェックは、視力の良し悪しを調べるものではなく、「目をどのように使っているか」を確認するためのものです。

チェックの結果に気になる点があったとしても、その日の疲労や睡眠不足、長時間の作業などによって変化することも少なくありません。

まずは現在の状態を知ることが大切です。

また、セルフケアとしてご紹介した

・周囲の景色を眺める

・動いているものを眺める

・周囲を見渡す時間を作る

といった方法は、特別な道具を使わずに取り組むことができます。

デスクワークの合間に数十秒行うだけでも、固定視が続いた状態から切り替えるきっかけになるかもしれません。

首こりや肩こりというと筋肉や姿勢に目を向けていくことは多いのですが、「目の使い方」や「見え方」が関係している可能性もあります。

パソコン作業後に首や肩がつらくなる方は、ぜひ一度ご自身の視覚の使い方にも目を向けてみてください。


執筆者:進藤 孝大
Takahiro Shindo

湘南医療福祉専門学校 アスレティックトレーナー科卒業
東京衛生学園専門学校 東洋医療総合学科卒業

鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)
A-Yoga Movement coach

目の前にいる人の体のお悩み解決に全力を尽くす。
その想いだけで活動してまいりました。
スポーツトレーナーとして培ってきたノウハウと経験を活かして、
運動療法と鍼灸マッサージを組み合わせた治療を提案。
ご自身に合った適切なケア方法等、皆様のお悩み解決に向けて徹底サポートを行います。


パソコン作業で首や肩がこるのは、“目の使い方”が関係しているかもしれません ―画面を見続けることが首肩こりにつながる理由とは? ―

前回のブログでは、「視覚(見え方)」が姿勢や体のバランスに関係していることについてお伝えしました。

・周囲との距離感

・空間の広がり

・景色と動きの一致

などを、私たちは無意識に利用しながら姿勢や動きを調整しています。

今回はその続きとして、長時間のデスクワークの方で起こりやすい

⚫︎長時間画面を見続けることでの「固定視」の増加

⚫︎それに伴い、周囲を見る力である「周辺視」の低下

が、首や肩こりにつながる理由について解説していきます。

デスクワーク中の目はどうなっている?

長時間のデスクワークでは、目の使い方が偏りやすくなります。

パソコン作業中は、画面に表示される近くの小さな情報を集中して見続けています。

すると自然と、

「一点をじっと見る時間」が長くなり、反対に「周囲を見る時間」が少なくなっていきます。

例えばデスクワークに集中している時、

・画面以外の周囲の様子があまり入ってこない

・同僚が近づいてくることに気がつかなかった

・呼びかけられてハッとする

といった経験はないでしょうか。

これは、目の前に集中するあまり、周囲を見る働きが少なくなっている状態です。

本来、私たちは目の前だけでなく、

・周りの景色の様子

・空間の広がり

・周囲の人や物の動き

なども無意識に捉えながら過ごしています。

しかしデスクワークでは、視線が同じ場所に留まりやすく、見える範囲も狭くなりやすくなります。

つまり、「一点を見続ける状態」が増え、「周囲を自然に見る状態」が減っていくのです。

このような目の使い方が長時間続くことで、体も徐々に緊張しやすくなっていきます。

固定視が続くと体は緊張しやすくなる

私たちの体は、見えている情報をもとに無意識に体を調整されています。

特に、一点を集中して見続けている時は、脳も「集中モード」に入りやすくなります。

例えば、

・細かい文字を見続ける

・ミスをしないように注意しながら作業する

・長時間パソコンの画面に集中する

といった状況では、自然と周囲を見る力が減り、視野が狭くなりやすくなります。

集中するために視野が狭くなること自体は、自然な反応です。

しかし、その状態が長時間続くことで、体は徐々に緊張しやすくなっていきます。

本来、私たちは周囲の景色や空間の広がりを無意識に捉えながら、姿勢や動きを調整しています。

ところが固定視が続くと、「周囲を広く把握する」という働きが低下していきます。

すると体は、その不安定さを補うように、

[肩や首に力が入る]、[呼吸が浅くなる]、[体が固まりやすくなる]

といった反応を起こしやすくなります。

周辺視が狭くなると「警戒モード」になりやすい

前回のブログでもお伝えしたように、周辺視には、

・周囲との距離感

・空間の広がり

・動いているものの位置の把握

といった役割があります。

しかしデスクワークでは、近距離にある画面ばかりを見る時間が長くなります。

すると、「周囲を見る」という働きが減り、周辺視が狭くなりやすくなります。

周辺視が十分に確保されていない状態では、脳は周囲の状況を把握しにくくなります。

すると体は、「安心・安全が十分に作られていない状態」として、無意識に警戒を強めやすくなります。

その結果、

・肩や首が固まる

・背中が緊張する

・呼吸が浅くなる

・疲れやすくなる

といった状態につながることがあります。

これは、「どのように周囲を見ているか」という“見え方”と脳の反応も関係している可能性があります。

当院の患者さんの中には「気が付いたら、3時間もパソコン作業を続けていた」という方もいらっしゃいました。

このような状態では、

・パソコンの画面を見続けたことによる固定視の増加

・周辺視の低下

・同じ姿勢の保持(頭や肩が前に出る、背中が丸まる)

・呼吸が浅くなる

・交感神経優位

などが同時に起こりやすくなります。

3時間も集中を維持できること自体は素晴らしいことですが、その間、筋肉や視覚への負担は少しずつ積み重なっていきます。

また、この方は「人混みの中では人とぶつかることが多い」ともおっしゃっていました。

もちろん原因は一つではありませんが、周囲を見る力(周辺視)がうまく使えていない状態では、周囲の人や動きへの反応が遅れやすくなることがあります。

長時間の固定視によって周辺視が狭くなっていることも、その一因になっている可能性があります。

なぜ首や肩に負担が集中するのか

私たちが目を使っている時、実は首の筋肉も同時に働いています。

視線がぶれずに安定させるために、

・頭の位置

・首の角度

・目の向き

を無意識に細かく調整しています。

そのため、

・画面を見続ける

・視線が固定される

・前かがみ姿勢が続く

といった状態では、首まわりの筋肉は長時間働き続けることになります。

特に、画面に顔を近づけるような姿勢では、頭の重さを支える負担が大きくなり、首や肩がこりやすくなります。

さらに、集中状態が続いて周辺視が狭くなると、体は無意識に力が入りやすくなります。

すると、

・肩や首の力が抜けにくい

・呼吸が浅くなる

・体が固まりやすくなる

といった状態につながっていきます。

つまり、デスクワークによる首や肩のこりは、単に姿勢だけではなく、「目を使い続けること」も関係している可能性があります。

まとめ

長時間のデスクワークでは、

・近くを見続ける

・画面に集中し続ける

・同じ姿勢が続く

といった状態が起こりやすくなります。

すると、

・固定視が増える

・周辺視が狭くなる

・呼吸が浅くなる

・首や肩に力が入りやすくなる

など、目だけでなく体全体にも影響が広がっていきます。

私たちは普段、「首こり」「肩こり」というと、筋肉や姿勢だけに原因があるように感じやすいですが、

・どのように目を使っているか

・どれくらい周囲を見られているか

・長時間集中し続けていないか

といった“視覚の使い方”も関係している可能性があります。

特にデスクワークでは、集中力が高い方ほど、気づかないうちに固定視や姿勢の固定が続いていることも少なくありません。

もし、

・パソコン作業後に首肩が固まりやすい

・集中すると呼吸が浅くなる

・人混みでぶつかりやすい

・長時間作業すると疲労感が強い

といった状態がある場合には、「筋肉」だけでなく、「目の使い方」や「見え方」という視点から体を見直してみることも、一つのヒントになるかもしれません。


執筆者:進藤 孝大
Takahiro Shindo

湘南医療福祉専門学校 アスレティックトレーナー科卒業
東京衛生学園専門学校 東洋医療総合学科卒業

鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)
A-Yoga Movement coach

目の前にいる人の体のお悩み解決に全力を尽くす。
その想いだけで活動してまいりました。
スポーツトレーナーとして培ってきたノウハウと経験を活かして、
運動療法と鍼灸マッサージを組み合わせた治療を提案。
ご自身に合った適切なケア方法等、皆様のお悩み解決に向けて徹底サポートを行います。


目(視覚)が姿勢に関係しているって本当? 見え方が体のバランスを左右する理由について解説します

前回のブログでは、「姿勢を支える3つの感覚」のうち、体の内側の情報である「体性感覚(足裏の感覚など)」についてお伝えしてきました。

「足裏や関節、筋肉からの情報をもとに、体は無意識のうちにバランスを調整している」という内容でした。

では、「目(視覚)と姿勢」は関係しているのでしょうか。

今回のテーマは、もう一つの重要な要素である「視覚(目の情報)」です。

ここでいう「視覚」とは、単に“目が見える”という意味ではありません。

⚫︎周囲との距離感

⚫︎空間の広がり

⚫︎動きと景色の変化

などを捉えながら、体のバランスを調整する働きまで含まれています。

つまり今回は、「目そのもの」や「ランドルト環(視力検査でよく見るCの形をした輪っか)で計測するいわゆる視力」ではなく、“見え方”と体の関係についてのお話です。

一見するとあまり関係がないように感じるかもしれません。

しかし、実際には私たちは見えている景色をもとに、無意識のうちに姿勢や動きを調整しています。

今回は、視覚と姿勢の関係について、見え方が体のバランスや姿勢にどのような影響を与えているのかという視点から解説していきます。

視覚は体の位置を決める「基準」

私たちは、ただ目で物を見ているだけではありません。

無意識のうちに、

▪️周囲との距離

▪️空間の広がりや奥行き

▪️自分の位置

といった情報を処理しています。

そしてその情報をもとに、

▪️体の傾き

▪️重心の位置

▪️筋肉の使い方

を調整しています。

視覚は、体の位置を決めるための「基準」として働いています。

例えば、

・障害物が近いと動きが慎重になる

・狭い場所で体を小さくする

・天井が低いと少しかがむ

こうした反応は、見えている空間に体が自然と合わせている状態です。

私たちは「見えている世界」を基準に、姿勢や体の位置を調整しています。

つまり、姿勢は体の内側の感覚だけでなく、視覚からの情報によっても作られているということです。

距離感が姿勢を変える

私たちは、見えているものとの「距離」をもとに、無意識に体の使い方を変えています。

この距離感は、単に目で見ているだけではなく、視覚の働きによって作られています。

目は、

[どのくらい近いのか] [どのくらい遠いのか] [どこまで自分は動けるのか]

といった情報をもとに、空間の中での位置関係を判断しています。

例えば、

・机の下に入る時は、頭をぶつけないように背中を丸めて体を小さくする

・人が混み合っている電車内では、肩や体をすぼめる

・エスカレーターに乗る直前に、エスカレーターの動きに足の動きを合わせる

こうした反応は、視覚によって距離が認識されているからこそ起こる変化です。

ここで重要になるのが、距離を正確に捉える視覚機能です。

もしこの働きがうまくいかないと、

1.距離がはっきりしない

2.空間の広さがつかみにくい

3.どこまで動いてよいかわからない

といった状態になります。

すると体は、安心安全を保つ手段として、

「必要以上に力を入れて体を固める」といった過緊張を起こりやすくなります。

一方で、距離感がはっきりと捉えられていると、体は安心して動くことができ、力みがなく、動きに滑らかさが出るという状態になります。

このように距離感は、単なる「近い・遠い」ではなく、視覚によってどれだけ正確に捉えられているかによって、姿勢や動き、体の緊張に影響を与えています。

景色と動きの関係

体を動かすと、景色は必ず変化します。

前に進めば景色は後ろに流れ、右に動けば左へ、左に動けば右へ流れていきます。

私たちはこの「景色の変化」をもとに、

[自分はどのくらい動いているのか][スピードは適切なのか]

といったことを無意識に判断しています。

このときに大切なのが、「動き」と「見え方」が一致しているかどうかです。

例えば、

[想像していたよりも景色が大きく動く][動いているのに景色があまり変わらない]

こうしたズレがあると、余計な力みが入ったり、動きにくさを感じるといったことが起こります。

逆に、動きと景色の変化が一致していると体はスムーズに動きやすくなります。

一つわかりやすい例が、スポーツジムにあるランニングマシン(トレッドミル)です。

通常、前に走ると景色は後ろへ流れていきます。

しかしランニングマシンの上では、体は動いているのに景色はほとんど変わりません。

つまり、

「自分は前に進んでいる」という体の感覚と、

「景色が変化していない」という視覚情報にズレが生じている状態です。

そのため、トレッドミルから降りた後に、少しフラッとしたり違和感を覚えたりすることがあります。

このように視覚は、景色の変化を通して「自分の動き」を把握し、姿勢やバランスの調整に関わっています。

周辺視と体の緊張

私たちは、見たいものを中心で見るだけでなく、周囲の景色も同時に捉えています。

例えば、目の前の人と話をしている時でも、

[後ろの壁の色や模様][周囲を歩いている人の動き]

などを無意識に認識しています。

このように周囲の状況を見る力を、「周辺視」と呼びます。

周辺視は、

⚫︎周囲との距離感

⚫︎空間の広がり

⚫︎動いているものの位置

などを把握するために使われています。

つまり、体にとっての「安心・安全」を確認するための大切な機能です。

そのため、周囲の情報がうまく入ってこなくなると、体は無意識に警戒しやすくなります。

例えば、

⚠️ 一点を集中して見続ける 

⚠️ 長時間のデスクワークを行う

といった状況では、周辺視が狭くなりやすくなります。

その状態では、人や物との距離感がつかみにくくなり、ぶつかりやすくなることがあります。

体は、「周囲の状況が把握しにくい=安全が確認しにくい」状態になります。

そのため、体の緊張を高めて、

・肩や首に力が入る

・呼吸が浅くなる

・体が固まりやすくなる

といった状態につながることがあります。

一方で、周囲まで自然に見えている状態では体は安心しやすくなり、

・力が抜ける

・呼吸が深くなる

・動きに滑らかさが出る

といった変化が起こりやすくなります。

まとめ

視覚は、空間の中での自分の位置、周囲との距離感、動きと景色の関係などをもとに、姿勢や動きを調整しています。

もし視覚からの情報にズレや偏りがあると、【必要以上に力が入る、体が固まりやすくなる、動きにくさが出る】といった反応につながることがあります。

私たちは普段、姿勢というと筋肉や骨格をイメージしやすいですが、どのように周囲を見ているか、距離をどう捉えているか、動きと景色が一致しているかといった「見え方」も、体の使い方に影響している可能性があります。

もし、姿勢が安定しない、力みやすい、左右差が気になるといった状態がある場合には、筋肉だけでなく“視覚”という視点から体を見直してみることも、一つのヒントになるかもしれません。


執筆者:進藤 孝大
Takahiro Shindo

湘南医療福祉専門学校 アスレティックトレーナー科卒業
東京衛生学園専門学校 東洋医療総合学科卒業

鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)
A-Yoga Movement coach

目の前にいる人の体のお悩み解決に全力を尽くす。
その想いだけで活動してまいりました。
スポーツトレーナーとして培ってきたノウハウと経験を活かして、
運動療法と鍼灸マッサージを組み合わせた治療を提案。
ご自身に合った適切なケア方法等、皆様のお悩み解決に向けて徹底サポートを行います。


立つと不安定に感じる原因は、足裏の感覚にあるかもしれません。 体の安定と足裏の感覚の関係を解説します

・立っている時になんとなく不安定さを感じる

・どこに体重を乗せていいかわからない

・片足立ちになるとグラグラするような気がする

こうした感覚を持ったことはないでしょうか。

特に大きな痛みがあるわけではないけれど、「うまく体が使えていない感じ」がする。

そんな「なんとなくの違和感」を抱えている方は少なくありません。

このような状態になると、多くの場合は「筋力が足りないのではないか?」「体が硬いからではないか?」と考えることと思います。

もちろん筋力、柔軟性は大切な要素の一つです。

お体の状態を把握する際にはどちらも確認していきますし、筋力や柔軟性が問題となっている方はとても多いです。

しかし今回は別の視点として、「足裏の感覚(体性感覚)」に焦点を当てていきます。

足裏は普段あまり意識されることのない場所ですが、実は体の安定や動きに大きく関わっています。

ここが少し変わるだけで、「立つ」「動く」といった基本的な感覚が変わることもあります。

足裏はただの土台ではありません

足裏は、単に体を支えている場所ではありません。

私たちの体にとって、とても重要な「感覚の入り口」です。

立っているとき、歩いているとき、私たちは無意識のうちに足裏から多くの情報を受け取っています。

地面の硬さや傾き、どこにどれくらい体重が乗っているか。

こうした情報は足裏から脳へと送られ、姿勢やバランスの調整に使われています。

つまり足裏は、「体を安定させるためのセンサーとして働いている場所」です。

今回はこの足裏を一例として、「体性感覚」がどのように体のコントロールに関わっているのかを見ていきます。

※体性感覚とは、体の内側から自分の状態を感じ取る感覚のことです。

足裏や関節、筋肉などの情報をもとに、体は無意識に姿勢や動きを調整しています。

足裏は想像以上に多くの情報を感じています

足裏の皮膚の中には、「メカノレセプター(機械受容器)」と呼ばれる感覚のセンサーが複数存在しています。

これらは、

・圧を感じるもの

・振動や衝撃を感じるもの

・皮膚の伸びやズレを感じるもの

など、それぞれが異なる役割を持っています。

これらのセンサーが働くことで、

・「どこに体重が乗っているか」

・「どの方向に揺れているか」

・「どのくらいしっかり接地しているか」

といった情報を細かく感じ取ることができます。

つまり足裏は、体の状態を常に検知している高性能なセンサーの集まりであり、その情報を脳へと伝えています。

足裏のメカノレセプターの分布
踵、足裏の外側、母趾球にかけて多く存在しています。
この部分で床を感じられるように立てていると、足裏からしっかりと情報が感じやすくなります。
参考文献)観察による歩行分析 医学書院

※足裏には、異なる役割を持つ複数のセンサーが分布しています

足裏の感覚、普段使えていますか?

ここで一つ、少し不思議に感じる点があるかもしれません。

足裏には多くのセンサーが存在していますが、「感覚のホムンクルス」では足の領域はそれほど大きくありません。

これは矛盾しているわけではなく、足裏は「無意識に体をコントロールするためのセンサー」としては非常に優れている一方で、「意識して繊細に感じ取ること」は得意ではないという特徴があるためです。

つまり、足は「感じていない」のではなく、「意識に上がりにくい」場所なのです。

足はもともと感覚が繊細ではない

ホムンクルス 体性感覚
全身に占める下肢の割合がとても少ないです。
ということは感覚は感じ取りにくくなりやすいということです。
一方で顔、上半身を占める割合が多いということは顔や上半身は感度が高いということです。
(Wikipedia参照

「感覚のホムンクルス」と呼ばれる図を見ると、

手や口は大きく描かれ、背中や脚、足は比較的小さく描かれています。

これは、脳の中でそれぞれの部位がどれくらい大きく扱われているかを表したものです。

つまり、足はもともと、感覚としては繊細な領域ではないという特徴があります。

靴によって感覚はさらに低下する

さらに現代の生活では、靴を履く時間が長くなっています。

履いている靴もご自身の足に適したものというより、ファッション性に優れたもの、脱ぎ履きがしやすいものが優先されることもあって、足本来の機能を損なう方向に向かっていることが多いように感じます。

靴を履き続けることによって

・地面との直接的な接触が減る

・足裏のセンサーが検知する情報が少なくなる

・刺激が少ないことで足の機能は低下しやすい

といった状態が起こります。

その結果、「足裏からの感覚がより入りにくくなっている」と考えられます。

体を変えるカギは「感じること」

ここまで見てきたように、

・足裏は体をコントロールするための重要なセンサーが豊富である

・しかし、その感覚はもともと強いわけではないため低下しやすい

という特徴があります。

そのため、意識して「感じること」がとても大切になります。これは足裏に限らず、体性感覚全体に共通するポイントでもあります。

感じる情報が少ないと、体はどのように動けば良いのか判断しにくくなります。

その結果、

・不安定さを感じる

・無意識に力んでしまう

・どこに体重を乗せていいのか分からなくなる

といった状態につながることがあります。

まずは難しいことをする必要はありません。

・足のどこに体重が乗っているか

・左右で違いはあるか

・足の指は床に触れているか

こうしたことに、少しだけ意識を向けてみてください。

それだけでも足裏からの情報は変わりはじめます。

まとめ

足裏は体重を支える「土台」であると同時に、どこにどれくらい体重がかかっているかを感じ取り、姿勢やバランスを調整する役割も担っています。

そしてその感覚は、日常の中で十分に使われていない可能性があります。

今回ご紹介した足裏の感覚は、姿勢を支える3つの感覚の一つである「体性感覚」の具体的な一例です。

体性感覚は足裏だけでなく、関節や筋肉など全身に存在し、私たちの動きを支えています。

だからこそ、まずは「感じること」から。

足裏に意識を向けることが、体の安定や動きやすさを変える第一歩になります。


執筆者:進藤 孝大
Takahiro Shindo

湘南医療福祉専門学校 アスレティックトレーナー科卒業
東京衛生学園専門学校 東洋医療総合学科卒業

鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)
A-Yoga Movement coach

目の前にいる人の体のお悩み解決に全力を尽くす。
その想いだけで活動してまいりました。
スポーツトレーナーとして培ってきたノウハウと経験を活かして、
運動療法と鍼灸マッサージを組み合わせた治療を提案。
ご自身に合った適切なケア方法等、皆様のお悩み解決に向けて徹底サポートを行います。