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肩こりがQOLへ与える影響と、QOLの維持・向上を目指す筋肉作り

「Quality Of Life」の略である「QOL」は、日本語でいうところの「生活の質」「人生の質」などを表します。近年では様々な場面でこの言葉が聞かれるようになったのではないでしょうか。

健康関連もまたQOLと切っても切り離せない分野です。医療の現場ではただ症状を改善するだけでなく、「その後の日常生活の質」という観点も求められています。

 

今回は肩こりとQOLの関係を解説するほか、厚生労働省が提供する情報を元にQOLの維持・向上も視野に入れた筋肉づくりについて考えていきましょう。

参考:QOLの維持・向上に大切な筋肉は? | e-ヘルスネット(厚生労働省)

 

 

肩こりが原因でQOLが低下する?

肩こりというのは、ただ肩が硬くなるだけではありません。痛みや不快感・頭痛・めまい・目の疲れ・吐き気・集中力の低下など多様な症状を招くケースも少なくないでしょう。さらに肩だけにとどまらず首や背中が凝ったり、同時に腰痛が発症したりすることもあります。

こういった体調不良が重なると日常生活での機能低下・活力低下などに繋がる傾向にあることから、結果としてQOLも低下しやすくなるでしょう。

関連ページ:肩こりの現状

 

加齢と肩こり

肩こりの原因としてはストレス・運動不足・偏った姿勢を続けているなどが挙げられます。合わせて加齢も関係していると考えられています。

人間の背骨は緩やかなS字カーブになっています。これは、頭や腕を支えるために必要な構造です。背骨の骨と骨の間には衝撃を受けても緩和できるように、椎間板というクッションの役割を果たす部分があります。

ですが椎間板は加齢とともに潰れる傾向にあります。この変化が首や肩のこりを引き起こす可能性があるのです。

 

肩こり予防とQOL向上を意識する

肩こり対策としては、日頃の姿勢や生活習慣の見直し・ストレス解消などと合わせ、継続的にセルフケアを心掛けることも大切です。

あわせて肩こりの予防法として、適度な運動が推奨されています。原因が運動不足や血行不良である可能性も考えられるため、体を動かすことで解消できることがあるのです。

急に体を動かすとなると、抵抗を感じる方もいるでしょう。ですが体を動かすとは大々的に運動することだけを指すわけではありません。日常生活の行動を少し大きな動作にするだけでも違ってきますます。たとえば、少し大きな動作でいつもの家事をしてみるのもいいでしょう。

 

なお加齢による肩こりや腰痛などは完全に防ぐことが難しいのが現状ですが、状態によっては適切に筋肉を鍛えることである程度は予防可能な場合もあります。

肩こりを予防できれば、QOLの維持や向上に繋がります。また肩こり予防の過程であわせて他のQOL低下要因を解消できる可能性もあるでしょう

関連ページ:肩こりの予防にも!筋トレ(筋肉トレーニング)で健康づくり

 

 

筋肉を鍛えてQOL維持・向上を目指す

QOLの維持・向上を視野に入れた場合、意識すべき筋肉や、筋肉の仕組みを知った状態で運動することで、より効果を期待しやすくなるでしょう。

 

特に重要な筋肉

筋肉と言っても、さまざまな筋肉がありその数は大小合わせておよそ400個。その中でも、QOLに関係しやすい筋肉は以下の4つです。

・太腿前の大腿四頭筋

 

太ももの前面の大きな筋肉で、主な役割は膝を伸ばすことです。

・腹筋群/背筋群

それぞれお腹の筋肉と背中の筋肉で、上半身を支えるのが主な役割です。

・お尻の大臀筋

お尻にある大きな筋肉で、主な役割は太ももを歩くときに後ろ側に振ることです。

この筋肉は、立つ・座る・歩くといった当たり前に行っている動作をするためにも欠かせない筋肉です。どの動作も意識せずに行っていますが、これはさまざまな筋肉がそれぞれの役割をしっかりと果たすことでトラブルなく行うことができているからだと言えます。これらの筋肉は姿勢を維持したり、重力に逆らって動かしたりすることに役立つことから、『姿勢維持筋』または『抗重力筋』とも呼ばれています。

参考ページ:肩こりに関わる筋肉「抗重力筋」とは?

 

肩こり予防を考える場合、あわせて意識したいのが、肩回りの筋肉である僧帽筋と肩甲拳筋でしょう。肩もまた様々な筋肉で支えられている部位です。

僧帽筋の主な役割は、胴体を固定したり頭を一定の角度に保ったりします。肩甲拳筋は腕を持ち上げることが主な役割です。これらの筋肉が硬くなったり血行が悪くなったりすることが肩こりを招く可能性もあります。

 

これらの日常生活にとって重要な筋肉が衰えていくことは、様々な不調に繋がりやすくなることから、QOLが低下する原因の1つになります。

そのためこういった部位に特に注目して鍛えることでQOLを維持・向上させやすくなるでしょう。あわせてその他の筋肉を鍛えることでさらに効果を期待できる場合もあります。様子を見ながら鍛える範囲を調整していきましょう。

 

筋肉を鍛えないとどうなる?

同じ「筋肉を鍛えていない」という状態でも、影響には個人差があります。

例えば年齢に着目すると、若い時の「鍛えていない状態」と、年齢を重ねてからの「鍛えていない状態」とでは意味合いが異なる傾向にあります。若い時には鍛えていなくても、体力がないな・スタミナがないな・疲れやすいななど少し実感する程度な方が多いでしょう。しかし年齢を重ねてから筋肉を鍛えずにいると、足腰の衰えをはじめとする体の不調を感じやすい人が増える傾向にあるのではないでしょうか。

 

特に先に紹介した “QOLに関連する筋肉4つ” は、衰えやすい筋肉です。厚生労働省が提供する情報によれば、80歳代の大腿前の大腿四頭筋の平均値は30歳代の半分程度に減ってしまいます。これは、30歳代のときは『困難』と思わなかった動作が、80歳代になると『困難』と感じるようになることに繋がりやすくなるということです。

自由に活動できなくなることは気分低下にも繋がります。動きが制限されることにより気分転換ができなくなったり、周囲の人とコミュニケーションを取りづらくなったりするからです。年齢を重ねると活動することが億劫になります。

ここで大切なことは「歳を取るから仕方がない」と諦めるのではなく、少しでもQOLを低下させず自分の筋肉で動き続けるために、自分の身体の状態でもできる範囲のトレーニングをすることではないでしょうか。運動に関して不安がある場合は、かかりつけ医などに相談するのもよいでしょう

 

運動するために必要な全身持久力

トレーニングを行う上でベースになるものの1つが全身持久力です。全身持久力が高いとは粘り強さやスタミナがある状態、つまり長い時間体を動かすことができる状態です。

ある程度、体を動かしたり続けたりしなければなかなか目に見える効果が出にくいでしょう。コツコツと運動を続けられるだけの全身持久力をつけていくと、肩こりだけではなく生活習慣病などの予防も視野に入れやすくなります。また精神的にも安定しやすくなり、精神面でのQOLの向上も期待できるでしょう。

ただし、特に運動をしていない状態からハードな運動をすると怪我をすることも。そのため、ハードな無酸素運動からではなく、ウォーキングなどほんのり汗をかく程度の有酸素運動から始めましょう。可能であれば専門家の監修のもとで行うのが理想です。

 

まとめ

肩こりはさまざまなことが原因で発生します。慢性的な肩こりになると肩の痛みだけではなく、背中がこったり首がこったり、さらに、頭痛や吐き気など別の症状も発生します。これらの症状があるとQOLが低下してしまうため、運動などの方法で改善していきましょう。

長期的にしっかりと改善するためには無理のない運動がおすすめです。運動が苦手・年齢的に運動は辛い・時間が確保できないなどの方であっても、工夫次第では無理なく運動を継続できる場合があります。体の状態によっても運動量やメニューを調整しましょう。

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


肩こりに悩む女性が多い理由は?

男女問わず肩こりに悩む方は少なくありません。そして2019年国民生活基礎調査(厚生労働省)では女性が訴える体の不調の第1位が「肩こり」だという結果が発表されるなど、特に女性に多いことでも知られています。

今回は、肩こりに悩む女性が多い理由を考えつつ、女性の肩こりについて見ていきましょう。

関連ページ:2019年国民生活基礎調査でみる「肩こり」

参考: 2019年 国民生活基礎調査の概況|厚生労働省

 

人類と「肩こり」「腰痛」は切っても切れない関係

肩こりとは、首や肩周辺の筋肉痛の一種です。筋肉の緊張が血管を圧迫して血行不良が起こると酸素の供給が少なくなり、その結果疲労物質が蓄積し、張りや痛みが起こります。

これが繰り返され、さらなる緊張や痛みの悪循環をもたらすと考えられています。それではなぜ筋肉は緊張するのかというと、人間の身体を覆う“抗重力筋”という重力に抗う筋肉と大きく関わりがあります。

 

抗重力筋は、地球の重力に対し姿勢を保つために働く筋肉であり、下腿・大腿・腹部・胸部・首の各部前後に張り巡らされています。体を動かさずに座る・立つだけでも抗重力筋のどれかが常に緊張している、「疲労しやすく収縮したままになりやすい筋肉」なのです。

そして日常生活で身体に癖がついた場合や偏った動きをしている場合、抗重力筋は癖のある姿勢を記憶し身体の歪みを招き、慢性の腰痛や肩こりを引き起こします。

関連ページ:肩こりに関わる筋肉「抗重力筋」とは?

参考:抗重力筋 | e-ヘルスネット(厚生労働省)

 

そもそも、体を起こしているだけで重力に抵抗しているわけですから、筋肉に負担がかかるのも当然のことですね。「二足歩行をするようになった太古の昔から、肩こりや腰痛は必然的な人類の宿命だった」との見方もできるかもしれません。

肩こりも軽いうちならば我慢できるレベルの症状だという方もいらっしゃるでしょう。ですがそういった方でも悪化すると頭痛やめまい、吐き気、眼精疲労などの、日常生活や仕事に影響を及ぼすほどの症状を引き起こすことがあります。

 

 

なぜ、肩こりは女性に多いのか

そんな肩こりが「特に女性に肩こりが多い」という点については、いくつかの原因が考えられます。

男女の比較で考えますと、女性は筋肉量が圧倒的に少ないことがあげられます。重い人間の頭部を支えるのに、筋肉量が少なければ首や肩にかかる負荷がより大きくなりますし、女性は男性に比べて首が細く、なで肩の傾向があります。なで肩は肩にかかる腕の重みによって、肩にかかる負荷が大きくなります。さらにバストの重みも考えると、女性の首や肩にかかる負荷は男性以上であるということがわかります。

 

女性ホルモンと肩こりの切り離せない関係

女性の肩こりは、女性ホルモンとの関連も切り離して考えることはできません。月経前困難症に代表される、生理前後の女性ホルモンの分泌バランスの変化でさまざまな不調を感じる方は多いでしょう。なかでも冷えは、肩こりの発症とダイレクトに関わっています。冷えからくる血行不良が乳酸などの疲労物質を蓄積させ、神経を圧迫して筋肉の痛みやこわばりを引き起こすのです。

また、更年期障害や卵巣機能の低下による女性ホルモンのバランスの乱れから、肩こりだけではなく頭痛や全身の疲労感などをもたらす場合もあります。

 

現代の肩こり

PCやスマホを使うことで引き起こされる「テクノストレス」も肩こりに関係しています。こちらは男女問わず、現代の肩こりを考える上で外せない問題だと言えるでしょう。

例えば長時間同じ姿勢でディスプレイを見続けるPC作業は、筋肉が固まる、目の疲れから首肩の緊張が高まり血行不良を誘発するなど、肩こりを常態化させるさまざまな要因が隠されています。

他にも「ストレートネック」「スマホ首」が問題になっています。人の頸椎は正常であれば緩やかなカーブがあるものですが、長時間悪い姿勢を取り続けた結果、首がまっすぐになってしまう症状で、首や肩のこりの原因のひとつになっている場合があります。

関連ページ:首の骨と椎骨動脈解離の正しい知識。自分の体は自分で守りましょう。

 

 

肩こり解消のヒント

日々の生活の中で肩こりを引き起こさない・悪化させないためのヒントをご紹介します。

 

生活習慣の見直し

生活の中心がデスクワークであるならば、長時間同じ姿勢を取らないことを心がけましょう。一定時間置きに姿勢をチェックし、体を動かしましょう。リモートワーク中であればノートPCごと移動して、いろいろな姿勢で仕事をするのも気分転換になっていいかもしれません。

ところでノートPCはデスクトップPCと比べディスプレイの位置が低くなるため要注意です。視線が下を向くため首が前傾する姿勢になりやすいからというのが理由となります。スマホを見る時も同様です。首を正しい位置で、しっかり支えるための姿勢をつねに保つために、作業環境を改めて見直すことも大切でしょう。

 

首や肩がこる直接的な原因は周辺の血行不良であることも少なくありません。首や肩の張りを感じたら、レンジで温めたタオルなどを当てて血流をよくします。就寝前にはぬるめの湯にゆっくりつかる入浴を習慣にすると、血流改善とリラックス効果も期待できます。

また、ストレスは自律神経やホルモンの分泌バランスに影響を与え、血行不良につながります。ストレスをためない生活を心がけましょう。

 

そのほかに日常のちょっとした習慣の見直しが有効となる可能性があります。

・いつも重い荷物を持っている。またショルダーバッグをいつも同じ側の肩にかけている

 

・ネックレスやイヤリング、衣服など重いものを身に着けている

・枕の高さが適当でない

関連ページ:肩こりを解消したいなら、まずは毎日の暮らしを見直そう

 

首や肩にのこりに試したいストレッチ

ストレッチは筋肉や関節の柔軟性を高めることを目的にした運動で、筋肉の緊張緩和と同時にリラクゼーション効果もあることが最近わかってきています。

ポイントは、伸ばしたい部分をしっかり意識して、無理なく行うことです。さまざまな動画やテキストも出ていますので、自分に合ったものを見つけてセルフメンテナンスしてみませんか。

日常の肩こりの軽減に効く、簡単なストレッチの例

 

【肩の上下運動】

背筋をまっすぐにし、頭が前に出ないようにする。腕は力を抜いて下におろし、手は軽く握る。腕の力は抜いたまま、息を吸いながら、肩先を耳に着けるようなイメージで肩を持ち上げる。息を吐きながら両肩を一気に下ろす。この動きを繰り返す。

【肩を回す運動】

親指を肩先に着け、できるだけ大きく肘を回す。前後10回ずつ行う。このとき、鎖骨や肩甲骨周辺の筋肉がしっかり伸びていることを意識する。

【背中の運動】

腕を肩の高さに上げ、手のひらを外側に向けて指を組む。息を吐きながら腕を前に押し出し、20秒止める。肩甲骨がしっかりと開いているのを意識する。

【胸のストレッチ】

腕を背中側に無理のない程度に肩の高さまで上げ、手のひらを内側に指を組む。後ろに腕が引っ張られるイメージで息を吐きながら胸部の筋肉を伸ばし、20秒止める。

関連ページ:【肩こり解消を目指す方向け】ストレッチの原則5つ

関連ページ:首肩の痛みに効く!!肩こり解消ストレッチ〜正しいストレッチ方法を解説

 

 

まとめ

今回は女性の肩こりに着目しました。日々の生活を工夫することで改善するケースもありますが、必ずしもそういったケースだけではありません。

尋常ではない肩こりに悩まされる場合、別の病気が隠れていることもあります。たとえば「頚椎症」という首の病気では、肩こりに加え手指のしびれを伴います。ほかに高血圧や心臓・内臓疾患、眼病などから起こる肩こりもあるため、注意が必要です。特に症状がひどい、長期間に及ぶなど異常を感じたら、早めに医師の診断を受けることをおすすめします。

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


湿布との付き合い方〜肩こりにお悩みの方へ、湿布の種類と選び方を解説

はじめに

テレビの健康番組のテーマでも取り上げられることが多い肩こり。現代には肩こりで悩んでいる人が少なくないことの表れだと言えるでしょう。

肩こりや首こりがつらくて、薬局で購入するという方はいらっしゃるのではないでしょうか。

薬局の湿布コーナーに足を運ぶと、商品の種類がたくさんありすぎて何が良いのかわからない!とお感じの方もいらっしゃることでしょう。

今回は、湿布が必要になった際に、どのようにして選べば良いか、湿布の種類や選び方を解説します。

あわせて、湿布にまつわる税制上の優遇なと雑学的なこともお伝えしますね。

 

 

さて、早速本題にはいりましょう。

今日の日本は、超高齢社会であるといういうことは皆さんご存知だと思います。

それに伴い、健康寿命の延伸が課題となっています。

このような現代社会において、今、セルフメディテーションが推奨されています。

 

セルフメディテーションとは

WHO(世界保健機関)の定義によると、セルフメディケーションとは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」です。

つまり、「皆さんセルフケアをしましょう」ということですね。

 

国も推奨しているセルフメディテーション

国が推奨している証左の一つとして、医療費控除の特例で、セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)があります。

セルフメディケーション税制とは、平成29年1月1日以降に、健康増進や病気の予防として、自分と生計を共にする家族のために、1年間に12,000円以上のスイッチOTC医薬品(要指導医薬品及び一般用医薬品のうち、医療用から転用された医薬品)を購入した際に、その購入費用について所得控除を受けることができるものです。

※スイッチOTC医薬品とは、簡単にいうと、従来、医師の処方箋がないと使用できなかった医療用医薬品だったものが、一定の要件を満たすことで、市販薬にかわった(スイッチした)ものをいいます。

詳しくはこちらの厚労省のページ国税庁のページをご覧ください。

 

私たちの生活に身近なスイッチOTC薬品

鎮痛剤・解熱剤と利用される「ロキソニン」はご存知の方も少なくないでしょう。

新型コロナウイルスワクチンの副反応による発熱や関節の痛みへの対策として、薬局でお求めになった方もいらっしゃると思います。

 

このロキソニンが、まさにスイッチOTCの代表例です。

ロキソニンは飲み薬だけでなく、湿布(ロキソニンテープ)もあります。ロキソニン®S外用薬シリーズは、従来は、医師の処方箋がないと使用できませんでしたが、2016年にスイッチOTCとして、ドラッグストアにて購入できるようになりました。

 

ちなみにOTCとは、「Over The Counter(オーバー・ザ・カウンター)」の略語で、対面販売でくすりを買うことを意味しています。これまで「大衆薬」や「市販薬」とも呼ばれてきましたが、最近では、国際的表現の「OTC医薬品」という呼称が使われるようになってきています。

 

さて、肩こりや首こりがつらいという方が行うセルフメディテーションとはいったいなんでしょうか。

WHOの提唱する定義に基づくと、ストレッチや運動もセルフメディテーションに該当しますが、多くの方が利用するのは湿布ではないでしょうか。

 

今回は、セルフメディテーションの一貫として、家庭でも比較的利用している方も多であろう「湿布」について詳しく見ていきたいと思います。

 

 

湿布はあくまで対症療法

まず大前提として、肩こりの根本的な原因を湿布だけで改善するのは難しいです。

あくまで応急処置として、症状の緩和が期待できるのが湿布であり、根本的な解決にはならないと思ったほうがよいでしょう。

理由をご説明します。

 

肩こりのメカニズム

例えば、人間の背中、肩の部分には僧帽筋という筋肉があります。

僧帽筋は、肩甲骨を動かす作用があります。

つまり、僧帽筋は、上肢を動かす筋肉です。

背骨を適切な位置にキープしたり、背骨を可動させるための筋肉は、背面は脊柱起立筋(腸肋筋・最長筋・棘筋)や多裂筋で、前面は腹筋群です。

 

ところが、運動不足や不適切なトレーニングによって、脊柱起立筋や多裂筋、腹筋群などに筋力低下が生じたり、うまく使えなくなってしまうと、僧帽筋が、姿勢を維持するために過活動を起こすようになります。
※臨床所見上、肩こりや首こりにお悩みの方は、胸椎周囲の背筋(脊柱起立筋・多裂筋)が衰えてしまうことが多いです。

 

本来姿勢をキープするために働くべき筋肉(脊柱起立筋や多裂筋)が使われないかわりに、本来の働きとはことなる僧帽筋が過剰に働いてしまうことで、僧帽筋が疲労し、血行が悪くなることで、凝りの症状が生じてきます。

このような物理的負荷による、疲労や血行障害が、反復継続することで、僧帽筋の筋膜に異常が生じたり、硬結やモヤモヤ血管が生じることで慢性的な肩こりとなってしまいます。

 

また、僧帽筋と並んで肩こりの原因(症状の元)となることが多いが、肩甲拳筋です。

肩甲挙筋は、肩甲骨と頚椎をつなぐ筋肉で、肩の動きに作用します。丸まった姿勢(猫背姿勢)は、体よりも頭が前方にある状態です。

このような状態ですと、肩甲挙筋が引き伸ばされた状態になり、かつ頭を支えるために頑張らなければなりません。

この状態が続くと、血行肩甲挙筋の血行が悪くなり、こりの症状が出ることになります。

僧帽筋と同様に、このような状態が反復継続することで、肩甲挙筋の筋膜に異常が生じたり、硬結やモヤモヤ血管が生じるて、慢性的な肩こり(首こり)となってしまいます。

 

肩こりの病態は様々ありますが、その第一段階は物理的な負荷が加わったことによって生じる筋疲労とそれに伴う血行不良です。

筋肉を使ったあるとパンパンになるということは多くの方がご経験があると思います。

筋肉を酷使すると、その筋肉は疲労し、縮み、硬くなります。すると中を通る血管を圧迫して、血行が妨げられてしまいます。

血液は約1分間で体をめぐり酸素や必要な栄養素を供給し、筋肉に溜まった老廃物を体外に排出しているのですが、血行が滞るとこの役割が鈍り充分に機能せず、筋肉の疲労が回復できなくなってしまいます。

 

体幹筋がうまく使えない・不良姿勢

僧帽筋への過負荷

僧帽筋が疲労

僧帽筋が短縮して硬くなる

血行が阻害される

症状が発生する

血行不良と物理的負担が反復継続

筋膜などの組織に異常が生じる

 

これが肩こりのメカニズムです。

 

根本改善のための手順

ですので、凝りを一時的に緩和して、すぐに再びつらくなるということを繰り返さないためには、

  1. 僧帽筋への負担を改善すること(体幹へのアプローチ)
  2. 僧帽筋自体の過緊張を緩和して血行改善(僧帽筋へのアプローチ)

これらが必要となります。(僧帽筋の肩こりの場合です)

 

湿布はあくまでも症状の緩和のため、つまり対症療法のためのものです。

 

ただ、「対症療法はダメ」というわけではありません。

ペインクリニックというカテゴリーもあるように、痛みが痛みを呼ぶこと、痛みがあるからこそ身動きがとれないということが珍しくはありませんので、対症療法は非常に重要です。

湿布は対症療法であるということを認識した上で、適切に使用していただきたいのです。

 

 

知っておいてトクする湿布の豆知識

以下では、肩こりにお悩みの方に向けて、湿布について少し掘り下げていきます。

湿布の種類や選び方を解説します。

薬局で湿布を購入する際の参考にしていただけたらと思います。

 

温湿布 or 冷湿布 どっちがいいの??

以下、患者さんから、しばしば受けるご質問とその回答です。

(患)「今の私の状態は、温湿布と冷湿布どちらを貼れば良いでしょうか?」

 

(私)「どちらでもかまいません。温湿布と冷湿布はそれぞれ、温かく感じる、あるいは冷たく感じるだけであって、実際に本当に温めたり冷やしているわけでありません。ですので、直感的に冷えているから温めたいな、熱をもってそうだから冷やしたいな、という思う方。心地よいと感じる方で大丈夫です。」

 

(私)「少し補足しますね。 温感湿布に主に含まれているのがカプサイシンという成分。トウガラシに多いものです。トウガラシが効いた辛い料理を食べると汗をかく程に暑くなることがあるでしょう。それと同じ効果がカプサイシン配合の温湿布にはあるということです。冷感湿布にはカンフル・メントール・ハッカ油といった成分が配合されています。これがヒンヤリ感をもたらしてくれるのです。」

 

さらに・・・

 

(私)「温湿布や冷湿布という表記のあるものは、ほとんどの場合、第3類医薬品です。市販の湿布で、リラクセーション以上の一定の効果を期待するならば、第1類医薬品または第2類医薬品のものを購入してください。」

 

さて、ここで「第◯類医薬品」という何やら難しそうな分類がでてきました。

 

私たちが、薬局で買える市販薬は、薬機法によって、要指導医薬品と一般用医薬品の二つに分けられます。※2014年(平成26年)11月に、薬事法が改正されて、薬機法となりました。

薬機法は、正式には「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」といいます。

要指導薬品は、処方箋が必要な医療用医薬品に準じたもので、一般用になって間もないためリスクが不確定なものや、劇薬などがあります。

自由に手に取ることができない場所に置いてあり、薬剤師から対面での指導、文書での情報提供を受けた上で購入可能となるものです。

一方、一般用医薬品は、薬剤の種類や効果、考えられる副作用の程度(リスク)によって第1類〜第3類まで三つに分類されます。第3類が最もリスクが低く、第1類が最もリスクが高くなっております。

第1類医薬品は、要指導医薬品と同様に、自由に手に取ることができない場所に置いてあり、薬剤師からの情報提供を受けないと購入できません。

一方、第2類医薬品と第3類医薬品は、ほとんどお場合棚に陳列されており、薬局で自分の意思で購入することができます。

 

ちょっとわかりにくいなという方は、アイセイ薬局様のページにて、イラストつきでわかりやすく説明されていますので、併せてご覧いただけたらと思います。

 

※ https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000050568.pdf から引用させていただきました

 

さて、ここまでの市販薬の分類を理解した上で、話を元に戻しますね。

上述しましたように、一般的に販売されている、温感または冷感作用をメインとする湿布は、ほとんどの場合第3類医薬品です。

第3類医薬品は、第1類や第2類のものと比べて、副作用のリスクは、最も低いですが、一方で、期待される効果も一番マイルドになります。(第3類に効果が全くないというわけではありません。あくまでも比較した場合です)

もちろん、学術的に効果の高いとされる薬や薬効の強い薬が自分にとって最適な薬かというとそうではないでしょう。自分に合っているクスリが最適な薬であると当方は考えます。

ですが、一般論として、第3類医薬品である温感湿布や冷感湿布よりも、第1類や第2類に該当する湿布のほうが、消炎鎮痛としての湿布の効果は期待できることになるのです。

中には、第1類や第2類の湿布にも、温感または冷感作用を付加したものもあるようです。そのため、「温感」「冷感」という表記だけで選ぶのではく、この湿布は第何類医薬品なのか?という点で選ぶようにしてください。

法令に則った製品の場合は、第何類医薬品なのかは必ず表記されていますので、ご確認いただけたらと思います。

その上で「温感」か「冷感」は、効果においてさほど差はありませんので、気分的にどうかという点でお選びください。

 

第二世代の湿布!?

従来からある温湿布や冷湿布を第一世代として、NASIDs(非ステロイド性抗炎症薬 )という薬効成分が入った湿布を、「第二世代の湿布」と呼ばれることがありますが、これは正しい分類ではありません。

市販されている湿布の正しい分類は、薬機法に基づいた一般用医薬品の第1類〜第3類の三つの分類です。

ただ、NSAIDsが含まれているか否かで見分けられるという意味では、期待できる効果とリスクがわかりやすいというメリットもあります。

「第二世代だからなんとなく効きそう」というイメージ購入するのではなく、「第二世代の湿布」というのは、あくまでも俗称であるということを知ったうえで、第一世代の湿布との違い(NSAIDs含有の有無)を理解したうえで、市販の湿布をお選びいただく際の目安にしていただけたらと思います。

 

いわゆる「第二世代の湿布」に含有されているNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬 )は、その名の通り、ステロイドではない消炎鎮痛剤の総称です。

具体的には、インドメタシン、フェルビナク、ジクロフェナク、ロキソプロフェン、ケトプロフェン、といった薬剤が湿布に使用されることが多いです。

それぞれ代表的な製品が出ていますので、ご紹介したいと思います。

  • インドメタシンを主成分とするのは、興和株式会社のバンテリン®︎
  • フェルビナクを主成分とするのは、久光製薬株式会社のフェイタス®︎
  • ジクロフェナクナトリウムを主成分とするのは、グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン株式会社のボルタレン®︎
  • ロキソプロフェンを主成分とするのは、第一三共ヘルスケア株式会社のロキソニン®︎
  • ケトプロフェンを主成分とするのは、久光製薬のモーラス®︎。(モーラス®︎は、要指導医薬品のため医師の処方箋が必要となります)

 

各社から様々な製品が出されていますが、どれも一度は見聞きしたことがあるのではないでしょうか。

NSAIDsは、正しく使用すれば強い消炎鎮痛効果が得られますが、あくまでも対症療法です。

肩こりや首こりのセルフメディテーションとして利用する際は、この点をきちんと理解した上で、使用するようにしてください。

 

市販の湿布、主な成分3つを解説

第1類医薬品や第2類医薬品の湿布、そして医師の処方による要指導医薬品の湿布は、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬が含まれていることから、NSAIDsが含まれていない湿布と比較して「第二世代の湿布」と呼ばれることがあります。

いわゆる「第二世代の湿布」と呼ばれる湿布に含まれるNSAIDsは1つではありません。上述しましたように、いくつもの種類があります。

第2類医薬品として市販されており、誰もが比較的簡単に入手しやすい湿布に含有されている成分として、「フェルビナク」「ジクロフェナクナトリウム」「インドメタシン」の3つがあります。

Medicalook(メディカルック)様のこちらの記事にて、成分ごとに商品を踏まえて解説解説していますので、興味がある方はご覧いただけたらと思います。

 

湿布の形状による種類の違い

湿布にはその形状によっても分類をすることができます。

・テープ剤
プラスター材とも呼ばれますが、比較的薄くて粘着力が強いのが特徴です。粘着力が強いので皮膚がかぶれやすい点がデメリットといえるでしょう。しかしデメリットは裏返すとメリットも言えます。剝がれにくく伸縮性があるので 肘・膝・関節などの伸縮性が必要な部位、首などには適した湿布です。肩こりが首の付け根まで及ぶような人にはテープ剤がお勧めです。

・ハップ剤
比較的厚めで張るとヒヤッと感じます。テープ剤に比べてかぶれにくいといわれていてこれがメリット。剝がれやすいことから伸縮する膝や肘には使いにくいのがデメリットといえるでしょう。しかし膝や肘がこるということはまずないので、皮膚がかぶれやすい体質の人、ヒッヤとした清涼感を求める人はハップ剤を湿布として使用するのがいいでしょう。

 

感じ方は個人差がありますが、当方としては、伸縮性や粘着力という観点から、テープ剤の方が、利便性が高いと感じます。テープ剤のほうが匂いが少ないということもありますね。

 

異常を感じたらすぐ医療機関へ

患部に貼るだけなので湿布は飲み薬に比べると副作用が少ないといわれています。とはいえ医薬品などに分類されることに変わりはありませんので、副作用はあります。

使い方によっては症状が悪化したり、何らかの副作用が出たりすることもあります。特に注意しなければならないのがアレルギー反応の一種であるアナフィラキシーショックで、重篤な場合には命に関わることもあります。

他にも湿布を貼ったらそれまでになかった全身におよぶ湿疹、酷い皮膚炎、息切れや呼吸がしづらいなどの呼吸器症状、血圧の低下やふらつきなどの症状が起きることもあります。

また、紫外線にあててはいけないものもありません。

そのため、市販されているとはいえ、湿布お薬であるという認識をもち、正しい使用方法を心掛けましょう。

そして少しでも異常を感じたらすぐに医療機関へ行き医師の診断を受けるようにしてください。

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


【肩こり解消を目指す方向け】トレーニングの原理3つと原則6つ

様々な肩こり対策の中でも今回は運動に注目。「肩こり解消を目指す方運動を始める時」に知っておきたいトレーニングの原理と原則などについてご紹介していきたいと思います。

トレーニングの原理と原則

運動におけるトレーニングとは、体が運動刺激に適応するという性質を利用して、運動を行うことで意志力を含めた体力を高めることや、その過程自体をさしています。

行うには専用の器具を使ったり、ジムに通ったり、有酸素運動を行ったりと様々な方法があります。

 

トレーニングの種類(目的別)

1、筋力を鍛える(レジスタンストレーニング)
2、敏捷性を鍛える(スピードトレーニング)
3、瞬発力を鍛える(パワートレーニング)
4、持久力を鍛える(持久力トレーニング)
5、バランスを鍛える(バランストレーニング)
6、柔軟性を鍛える(柔軟性トレーニング)

 

健康維持の観点では、「持久力トレーニング(スタミナ・全身の持久性向上を目的にしており、心肺機能強化に繋がりやすい)」、「バランストレーニング(日常生活において重要な体のバランス強化を目指している)」、「柔軟性トレーニング(ストレッチなど、身体の関節や筋肉などを柔らかくすることを目指している)」が推奨されることが多いでしょう。

どんな目的であれトレーニングを行う場合、安全にかつ効果的に行うことが大切です。

厚生労働省の情報サイト「e-ヘルスネット」では、「トレーニングの原理と原則」に従うことを推奨しています。

参考:運動プログラム作成のための原理原則 -安全で効果的な運動を行うために | e-ヘルスネット(厚生労働省)

ここでは「e-ヘルスネット」の内容をもとに「トレーニングの原理と原則」を紹介しつつ、肩こり予防へ活かすヒントについてもお話していきたいと思います。

 

トレーニング原理は3つ

まずは、トレーニングの原理から見ていきましょう。

トレーニングの原理
1、過負荷の原理
2、特異性の原理
3、可逆性の原理

 

1、過負荷の原理

効果を得るためには、体にある程度の負荷をかけなければいけない、ということです。効果を期待できる負荷の強度は「日常生活で使う力」が最低ラインであり、それ以上の強度を目指す必要があります。ただし負荷が強ければよいというものではないため、専門家の監修のもとでトレーニングするのが無難でしょう。
肩こりは筋力が低下して、正しい姿勢を保持できないことが原因の1つです。そのため、適度な負荷を体に与え筋力アップを狙うことが解消に繋げられる可能性があります。負荷とあわせて正しい姿勢で行うこともポイントです。無理したり間違った姿勢で行ったりすると、体を痛めることにもなるため注意しましょう。

 

2、特異性の原理

運動中に使われるエネルギー・筋肉活動と関係する能力が増す現象のことです。たとえば、一か所だけトレーニングで筋肉をつけても、他の部分には筋肉は付きません。特異性の原理をふまえ、鍛えたい箇所を意識しながら行う必要があります。
なお肩こりを予防したい場合は特定の筋肉も大切ですが、全身の筋肉バランスも重要です。筋肉バランスを整えることで、正しい姿勢もキープしやすくなります。

 

3、可逆性の原理

獲得済みの筋肉であっても、トレーニングを止めると失われてしまうということをいいます。筋肉は運動を継続しなければキープすることができません。
運動を中止した方が肩こりになったと感じた場合、この可逆性の原理により筋肉が落ちた可能性もあるでしょう。少しずつでも定期的に続けることが大切です。

 

 

トレーニングの原則は6つ

トレーニングを行うときに意識するといいことや、実施する際のポイントをトレーニングの原則として6つご紹介します。トレーニングの原理と合わせて実践することで効果も期待しやすくなるはずです。

トレーニングの原則
1、意識性の原則
2、全面性の原則
3、専門性の原則
4、個別性の原則
5、漸進性の原則
6、反復性・周期性の原則

 

1、意識性の原則

トレーニングの内容や意義や目的を理解してポジティブに取り組むことをさします。意義や目的を理解することで自分に必要な運動を選びやすくなり、期待する効果を生み出しやすくなるでしょう。
またトレーニングを行うことに疑問があったり目的がわからなかったりすると、辛い時間として感じます。そのため意義などを理解することでモチベーションにつなげやすくなります。

 

2、全面性の原則

トレーニングは行う種類によって、運動量やアプローチできる部分が異なります。筋力・柔軟性・有酸素能力などを意識してさまざまな方向からバランスが良くなるよう体を鍛えることが全面性の原則です。
全面性の原則は肩こり予防という観点においても効果的だといえます。

 

3、専門性の原則

トレーニングを行うときはそれぞれの目的にあった筋力・有酸素能力・筋パワーといった機能を高めることです。スポーツにおいて特定の競技で強くなるためにはその競技で必要となる筋肉を中心に行うことがポイントとなります。そして健康維持という観点ではストレッチ・有酸素運動といった内容を中心に行うことが多いです。
たとえば肩こりになる原因の1つに、正しい姿勢を保持できないことがあります。改善するためには、ストレッチで緊張した体をほぐしたり、体の姿勢を保つのに有効な抗重力筋のトレーニングを行ったりすることなどが考えられます。

 

4、個別性の原則

行う運動の内容は、それぞれ個人のスキルにあわせて決定する必要があるということです。運動能力は年齢だけではなく、元々の能力などでも異なります。そのため、すべての人が同じトレーニングのメニューを実施できたり、求めた結果を残したりできるわけではありません。
そこでメニューを個人のレベルに合わせ決定することが大切です。個人に合わせるのは効果を期待するだけではなく、安全性を高めるというのも目的でしょう。

 

5、漸進性の原則

状況に応じて運動の量や強さなどを徐々に高めることを言います。最初は苦手意識を持っていたり体力がなかったりしても、トレーニングをしていくことで徐々に運動能力が向上します。そのため、適切なタイミングでトレーニングのメニューを更新しましょう。
肩こりにアプローチをするトレーニングを続けている間に、体の状態が変わった場合、強度を高めるメニュー・異なる部位にアプローチするメニューに変更または追加することも必要かもしれません。

 

6、反復性・周期性の原則

個人差はありますが、トレーニングのメニューはある程度の期間をかけて繰り返すほうがよいということです。
肩こりは主に筋力が低下したり、血行が悪くなったりすることで引き起こされます。一度、肩こりが改善されても、ぶり返す可能性はゼロではありません。辛い肩こりにならないためには、トレーニングを続けていくことがポイントです。

 

 

トレーニングの順番

筋トレは全身の筋肉をバランスよく鍛えることでより効果が高まると言われています。そこで気になるのが、一度のトレーニングで全身の筋肉を鍛えるためにいくつもの種目を行うときは、どのような順番で進めていけばいいのかということです。

その答えは、まず下半身の種目、次に上半身の種目、そして最後に体幹という順番です。なぜこの順番になるのか、それは筋肉の大きさが関係しています。

最初に行うべき下半身のトレーニングですが、下半身の筋肉はその筋肉量が最も多く、運動時にたくさんのエネルギーを必要とします。そのため体にエネルギーが十分に残っている最初に行うのが効果的なのです。この理由に従い、次に上半身、そして最後に体幹という順番になります。

また、下半身や上半身のトレーニング時には姿勢を維持するために体幹の筋肉が同時に使われています。よってこの姿勢の維持の働きを持つ体幹を最初に鍛えてしまうと、下半身・上半身を鍛える際に体幹が疲れていて姿勢がうまく保てず、正しい姿勢で行うことができなくなってしまう可能性があります。そのような理由でも、体幹は最後に行うことで全身の筋肉をより効果的に鍛えることができると言えるでしょう。

 

 

まとめ

肩こりは年齢を問わない症状です。さまざまな対策がありますが、『適度な運動や体操で体を動かす』という対策を考えている場合、まずは肩こりになっている原因とトレーニングの原理と原則を知って正しく肩こり対策を行うことが大切です。

すぐに改善するのは難しい場合が多いため、継続しやすい方法で少しずつ運動やストレッチを続けていきましょう。

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


肩こりに関わる筋肉「抗重力筋」とは?

みなさんは肩こりに悩まされたことはありませんか?

多くの方が悩む肩こりを考える上で知っておきたいのが「抗重力筋」という筋肉です。ここでは抗重力筋について解説するほか、抗重力筋の仕組みをふまえた肩こり対策も見ていきたいと思います。

抗重力筋とは?

日常生活を送るためには、重力に逆らう必要があります。そのとき、知らず知らずのうちにさまざまな筋肉を使っていますが、その中でも特に必要な筋肉群を「抗重力筋」といいます。この抗重力筋のおかげで、さまざまな姿勢を保持して生活ができているのです。

多くの人にとって聞きなれない言葉かもしれませんが、実は人間が生活をしていく上でとても大切な筋肉群だと言えるでしょう。

抗重力筋に含まれる筋肉

抗重力筋は膝から足首までの部分(下腿)・太もも(大腿)・お腹(腹部)・胸部・首といった体のそれぞれの部位の前後に張り巡らされており、前後に交代しながら伸び縮みをすることでバランスをとっています。

それぞれの筋肉で支えている部分は異なり、主に3つのグループに分類することができます。

・腕を支えている筋肉:上腕二頭筋、僧帽筋上部、大胸筋、小胸筋など

・肩甲骨を支えている筋肉:上腕三頭筋、上腕二頭筋、三角筋、僧帽筋上部 など

・体幹を支えている筋肉:腸腰筋、腹筋群、脊柱起立筋群など

姿勢の保持には抗重力筋が必要である

抗重力筋に含まれるのは、それぞれ生活していくうえで姿勢を保持するためには欠かすことができない筋肉ばかりです。

たとえば、立ったり座ったりするだけでもどれかの抗重力筋が働いており、大腿四頭筋は膝を伸ばす働き、大臀筋は太ももを後ろに振る働き、背筋群と腹筋群の2つの大きな筋肉群で上体を支えています。

もちろん、頭を支えるだけでも首の筋肉は支えるために働き続けています。

抗重力筋は休むことなく使い続けられているため、ほかの筋肉と比べると疲れやすかったり、こりやすかったりするとも言えるでしょう。

肩こりと抗重力筋

身体の「こり(凝り)」の中でも、特に悩む人が多い症状が「肩こり」です。

抗重力筋が本来の“正しい状態”にある場合、筋肉群である抗重力筋がバランスを取り合うことで自然と歪みが直り、正しい姿勢をキープできます。しかし日常生活の中の動きで体の姿勢に癖がついた場合、抗重力筋が“歪んだ姿勢の状態”を記憶してしまうことから体の特定部位に負荷をかけやすくなり、慢性の腰痛や肩こりを引き起こすことになります。

参考:抗重力筋 | e-ヘルスネット(厚生労働省)


特に現代はパソコン・スマホ・タブレットを使うのが当たり前です。多くの場合、画面を見るために首が下に向いたままになっていたり、同じ姿勢でずっと過ごしていたりします。それと同時に画面を長時間観ています。これらのパソコンやスマホなどを使用しているときの姿勢や行動の歪みも抗重力筋に影響し、肩こりの原因の1つとなりうるのです。

また首は5kg~6kgもある重い頭をずっと支えており、そのままでも肩こりの原因に繋がるケースもあります。さらにパソコンやスマホなどを使うために下を向いたり、キーボードを打つために腕を酷使したりしているのです。また、日本人は欧米の方と比べると体格が小さいにもかかわらず重い頭を支え続けているため、欧米の方より肩こりを訴える方が多いことが特徴とも言えるでしょう。

そして人間は無意識のうちに重力に逆らって生活しています。重力に逆らって生活すること自体、体に負担をかけているのです。

他にも、冷え・運動不足・ストレスなども肩こりにつながります。昔と比べると首に負担をかけたり体を動かさなかったりすることが、現代は肩こりを訴える方が多い理由だと考えられています。

抗重力筋は衰える

加齢に伴って筋肉が萎縮することを「廃用性筋委縮症」(サルコペニア)といいます。筋肉は運動不足や加齢が原因で衰えます。抗重力筋が衰えると、肩こりだけではなく歩く・立つ・座るなどの生活をしていく上で当たり前に行っている動作ができなくなります。

加齢と共に動きがゆっくりになる方も多いですが、これは抗重力筋が衰えていることが原因の1つにあります。例えば大腿四頭筋の場合、80歳代の筋肉量と30歳代の筋肉量を比べると80歳代になると半分まで低下することが分かっています。さらに抗重力筋が衰えると日常生活の動作ができなくなり「廃用症候群」になります。

動作が不自由になる前に、肩こりや腰痛などの症状が出てしまい生活に影響が出ることもあるでしょう。「たかが肩こり、されど肩こり」で、肩こりから頭痛や吐き気につながり仕事や勉強に集中できなくなります。さまざまなパフォーマンスが低下することもあり、肩こりを放置してはいけません。肩こりは若い方でもなるため、必要な対策を講じることが大切です。

抗重筋の仕組みをふまえた肩こり予防

ここまでは抗重力筋の役割や、抗重力筋と肩こりの関係について解説しました。それをふまえた肩こり予防法をいくつかご紹介しましょう。

正しい姿勢を維持する

パソコン・スマホ・タブレットは便利なツールですが、いつの間にか体に負担をかけ肩こりになってしまいます。肩こりにならないためには、正しい姿勢を維持することが大切です。さらに、筋肉の疲労だけではなく目の疲れ(眼精疲労)も関係しています。

パソコンやスマホなどを使っているときの姿勢は、肩が体の内側に入り体をすぼめている状態です。この姿勢を続けていると首から肩、場合によっては胸筋まで疲れてしまい肩こりや血流の悪化などが起こります。

さらに、細かい文字を見続けていると目の周囲にある筋肉が緊張し、首の筋肉まで緊張が伝わります。集中して画面を見続けていると、瞬きの回数も減少します。さまざまなことが積み重なって、肩こりになります。仕事や勉強のためにパソコンやスマホなどは必須アイテムです。そのため肩こりにならないためには、1時間ごとに休憩したり意識して正しい姿勢を維持したりしましょう。

参考:肩こり・首こりが気になる方が意識すべき、パソコン作業時の適切な姿勢(座り方)とデスク環境とは? 厚生労働省のガイドラインをふまえて解説します。

抗重力筋のバランスを整える

抗重力筋のはたらきをサポートするためにも、適切な運動により筋肉を鍛えたり、バランスを整えたりしていくことが重要です。

なお運動には様々な種類がありますが、どの運動を取り入れても一度に鍛えることはできず継続する必要があります。「継続しやすいかどうか」という観点もふまえて選ぶと良いでしょう。

まずは定期的にストレッチを行い筋肉の緊張をほぐしましょう。一定の姿勢を続けると抗重力筋の収縮や疲労に繋がるため、バランスをくずしやすくなります。

そして適度にウォーキングやジョギングを行ってみましょう。運動によるケガの心配がある場合、もしくは運動する時間がとれない場合は、日常生活の活動量を増やすだけでも効果を期待できます。

さらに負荷の高い運動が好みの方は、スクワット・腕立て伏せ・腹筋などのレジスタンス運動も合わせて取り入れましょう。レジスタンス運動とは鍛えたい筋肉に的を絞り、負荷をかける運動のことです。

ただし抗重力筋はバランスが大切です。一部だけを極端に鍛えるとバランスがくずれ、かえって逆効果になる可能性もあるでしょう。

関連ページ:肩こり・首こりの根本解消に有効なエクササイズとは(運動学・バイオメカニクスの観点から)

関連ページ:肩こりラボのパーソナルトレーニング・運動療法について

まとめ

今回は抗重力筋についてお伝えしました。抗重力筋は大切な筋肉群であり、正しくバランスを整えると肩こり対策だけではなく様々なメリットがあるかもしれません。

また運動には抗重力筋の調整だけではなく、気分転換・ストレス発散などの効果も期待できます。筋肉を鍛えることで血行が改善されれば、冷えの対策もできるでしょう。

人間の筋肉は互いに影響し合っているため、1つの行動が様々な結果に繋がる可能性も考えられます。


執筆者:伊藤 美里
Misato Ito

盛岡医療福祉専門学校卒業
日本医学柔整鍼灸専門学校卒業

鍼師・灸師
柔道整復師

学生時代バレーボールに打ち込み、当時自分の心の支えとなったアスリートやアーティストに携わる仕事をしたいと思い、「身体の治療・ケア」する道を選びました。
日々患者さんの治療にあたる中で、さらに治療の引き出しを増やすべく鍼灸師の資格を取得。
解剖学的な構造、運動学、最新のエビデンスの理論を基におひとりおひとりの「何が原因か」を追究し、よい治療をご提案できるよう努めてまいります。


今年、特に要注意な「寒暖差疲労」とは? 季節の変わり目に体調を崩す方必見!

はじめに

「寒暖差アレルギーなら聞いたことがあるけど、寒暖差疲労という言葉は初めて聞いた」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

寒暖差疲労は、実は、コロナ禍になった現在の方が発症するリスクの高い症状なのです。

 

なお、「寒暖差疲労」は、正確には医学的に認められた病名ではなく、医学用語でもありません。

 

しかしながら、季節の変わり目や寒暖差が大きい時期に不調が生じ、お困りの方は少なくなくありません。

 

そのため、正式な病気ではありませんが、「寒暖差疲労」という状態はあるものと考えられます。

 

このような不調がどのような原因とメカニズムで生じているのか、さらに4つのタイプへ分類し、それぞれへの対処法を解説いたします。

 

寒暖差疲労と考えられる諸症状でお悩みの方のお役にたてましたら幸いです。

 

 

「寒暖差疲労」とは

原因

寒暖差疲労とは、簡単に言えば「大きな気温の変化に体がついていかない状態」です。

 

外気温変化に慣れていない状態で、外気温変化が大きくなると、体温調節を過剰に行わないといけなくなり自律神経系が過活動を起こします。

 

これが”繰り返されること”で、疲労し、自律神経のバランスが乱れ、自律神経失調症様症状が出てしまうのです。

 

 

体温を一定に保つ仕組み

 

私たち人間の平熱は、大体36℃前後〜37℃前半くらいに保たれています。

これは、人間には生命維持のために、外気温の影響を受けないよう、暑い時は体から熱を放出し、寒い時は熱を生み出して、体温を一定に保つ仕組み(ホメオスタシス)が備わっているからです。

 

(対照的に、爬虫類や両生類などの変温動物は外気温の低下に伴って体温も下がってしまうため温度変化の影響を受けにくい地中や水の底にもぐって、冬眠をする必要があります。)

 

多少の温度の変化であれば、このホメオスタシスが機能するため問題はありません。

 

しかし、温度差が5度から7度以上あると、体温を一定に保つため、自律神経の働きが必要以上に活発になります。その結果、自律神経への負担が高まり、疲れやだるさを感じる、というのが寒暖差疲労です。

 

昼と夜との寒暖差が大きくなりがちな季節の変わり目や、暖かい室内から気温の低い室外へ移動する場合などは寒暖差疲労がたまりやすいので注意が必要です。

 

 

メカニズム

 

自律神経は交感神経と副交感神経からなり、さまざまな臓器の機能調整を行っています。

 

例えるなら、アクセル(交感神経)とブレーキ(副交感神経)のような関係です。

 

環境の変化に伴い、この二つの働きを適宜切り替わらないといけませんが、スイッチのように瞬時に切り替わるものではなく、本来は緩やかに切り替わっていくものです。

 

 

皆さん、なにか興奮状態になった時を思い出してみてください。

 

その後、なかなか興奮状態が冷めやらなかったり、夜寝付けなかったりしたことはありませんでしょうか。

 

こちらも、自律神経系が関与しているのですが、時間が経過してもなかなか興奮状態が鎮まらないという現象からわかるように、自律神経系は自分の意識ではコントロールできないのです。

 

同じような現象がそれぞれの臓器でも起こります。

 

1日の中で急激に、そして何度も 寒暖差に晒されると、本来緩やかに切り替わる自律神経が過剰に働き、それに伴った臓器に大きな負担がかかってしまい 様々な不調が現れてしまいます。

 

 

現れる症状

以下、主に寒暖差疲労として現れる症状と考えられます。

 

・ 肩こり、腰痛、頭痛

・ めまい、不眠

・ 食欲不振、便秘、下痢

・ イライラ、気分の変化

・ 冷え、むくみ

 

 

 

特に今年は注意が必要な年

自粛生活の副作用

 

新型コロナウィルスの影響により、数年前よりも圧倒的に外出する機会が減りましたね。

 

自粛生活は感染対策として重要な役割を果たしているとともに、私たちの人間の身体にとっては必ずしもメリットだけではありません。

 

 

調整する機能が低下している

主に、寒暖差疲労は、朝(寒い)→昼(暖かい)、室内(暖かい)→屋外(寒い)といったように短時間内で寒暖差に曝露されることにより蓄積されます。

 

しかし、昨年から今年にかけて、ステイホームやリモートワークの時間が増え、通勤時の屋外に出る頻度が激減しました。

 

その為、室内に滞在することが多く、普段の生活で温度差に対応する自律神経の働きが鈍くなり、寒暖差への耐性が弱い人が増えた傾向にあると考えられています。

 

 

 寒暖差疲労4タイプ

 

寒暖差疲労における原因を4つご紹介いたします。

 

以下のチェック項目で当てはまるものをチェックしてみてください。どのタイプの項目に一番多くチェックがはいるでしょうか。

 

ストレスによる寒暖差疲労

こちらは、ストレスを感じることにより交感神経が過剰に働き、身体が過緊張となることにより疲労が蓄積されるタイプです。副交感神経への切り替えがうまくいかず寒暖差による影響を受けてしまいます。

 

<チェック項目>

□首肩こり、腰痛が慢性的

□イライラする

□情緒不安定

□寝つきが悪い、寝ても途中で起きてしまう

□頭痛・めまい・立ちくらみがある

□お腹が張りやすい

 

 

生活習慣の乱れによる寒暖差疲労

こちらは、生活習慣が定まっておらず 自律神経の働きが乱れているタイプです。

ある程度、生活リズムが定まってくると 自律神経の切り替えもルーティン化され、大きな体調の崩れの防止を期待できます。

 

<チェック項目>

□睡眠時間が不規則

□食事の時間が不規則

□お通じのタイミングが不規則

□よく食べすぎたり飲みすぎたりする

□便秘または下痢気味

□昼に居眠りをしてしまうことがある

 

 

運動不足による寒暖差疲労

ここ数年で運動量が減少し、筋力量が減少し体温を作れないことにより寒暖差に影響を受けてしまうタイプです。

普段から筋トレやスポーツなどをしていなくても、通勤による歩行や階段昇降が格段に減った方は要注意です。

 

<チェック項目>

□階段を登ると息切れするようになった

□毎日お腹がすく感覚がない

□数ヶ月で体脂肪率が増加した

□以前より足や腕が細くなった

□コロナの影響でスポーツジムや趣味のスポーツ等を控えている

□元々、運動が苦手だ

 

 

加齢による寒暖差疲労

こちらは、加齢により 以前よりも栄養の吸収能力が衰えたり、運動習慣が減ったことにより筋肉が増えにくいタイプです。

初めは疲れやすいかもしれませんが、積極的に運動習慣を作り体力の向上、意識してタンパク質を多くに摂取することが重要です。

 

<チェック項目>

□疲れやすい

□体がだるく力がない

□身体が冷えやすい

□膝や腰が弱い

□ここ数年で食が細くなった

□周りの人と暖房や冷房の温度が合わない

 

 

 対策

寒暖差を感じやすいシーズンに入る前に、対策をしておくことが非常に大切です。

上記のチェック項目で一番多く当てはまるものはどのタイプでしたでしょうか。

 

ぜひタイプ別に沿った対策をご参考にしてみてください。

 

 ストレスによる寒暖差疲労タイプの対策法

筋肉を温める。

緊張の強い筋肉をカイロやホットタオルで温めましょう。

タイミングとしては、就寝前やリラックスしたいときがおすすめ。リラックス効果のあるラベンダーのアロマオイルなどを併用してみても良いかもしれません。

 

放置しない。

休息をとっても回復しない肩こり・腰痛には治療が必要な症状になっているかもしれません。

ストレッチやフォームローラーなどでセルフケアを行ってもあまり効果を感じられない場合は専門家へのご相談をおすすめします。

 

なお、闇雲にストレッチをすれば良いというわけではありません。よく誤解されている方が多いのは「痛ければ効く」という認識です。

 

正しい知識を持ってセルフケアを行っていただけたらと思います。

 

 

過去のブログ

【肩こり解消を目指す方向け】ストレッチの原則5つ

筋膜リリースを解説します

 

汗をかく習慣を作る。

冷暖房の完備された現代では、体温調節するための「汗をかく」という生理現象をあえて再習得する必要があると考えられます。

 

身体を動かして汗をかくことをおすすめしますが、もしそれが難しいというかたは入浴・またはシャワーの時間で身体を温め汗をかくことでも代用できます。

入浴される方:38〜40°の湯船に15〜20分は浸かりましょう。

シャワーの方:42°くらいのやや熱めのお湯を首や背中(特に、肩甲骨の間)に浴びましょう。30〜60秒。

 

 

生活習慣の乱れによる寒暖差疲労タイプの対策

 

外側からリズムを作る。

毎日決まった時間に体を温め、リズムを作っていきましょう。

朝が流動的になってしまう方は夜に、夜の帰宅時間が定まらない方は朝にルーティンを作るなどして、一度不規則なリズムをリセットしましょう。

(例)寝る2時間前にシャワーを浴びる、朝カイロをお腹に貼る など。

 

 

日中、日光に浴びる。

睡眠や覚醒のリズム、血圧、体温などをコントロールする体内時計は視覚領域から生まれる刺激信号とされています。

朝に日光を浴びることで約16時間後にメラトニンという睡眠ホルモンを分泌するスイッチが入り眠りやすい状態を作ります。

その調整に日光を浴びることで体内生成されるビタミンDが一役買っているとする研究データも出ております。

近年では紫外線による肌トラブルを取り上げられることが多いですが、日光に浴びることは人間にとって とても重要な役割を担ってきたのです。

 

 

排便のタイミングを逃さない。

排便のタイミングも規則正しいリズムを作るひとつです。まずは毎日同じ時間ではなくても、便意を催したときに、自然なタイミングで排便できるように心がけましょう。

 

 

 運動不足による寒暖差疲労タイプの対策

 

散歩や普段の歩行を「運動」にする。

つま先をまっすぐに振り出すことを意識して大股気味に歩くことを意識しましょう。普段より大股で速めに歩くことで、運動効果をより高めることができます。

 

また、普段、姿勢不良が気のなる方は 呼吸法も意識してみましょう。鼻から息を吸いこんで、お腹を凹ますように口から吐き出しながら腹式呼吸を行うとインナーマッスルである「腹横筋」が働きます。

腹横筋は良い姿勢をキープするための要になりますのでぜひ取り入れてみてください。

 

 

自宅でできるエクササイズ

大きな筋肉は、生み出す熱量も大きくなります。

特に臀筋(お尻の筋肉)・背筋群(背中の筋肉)・腹筋群(お腹の筋肉)は筋肉が大きく、ここを日々しっかり使えるようになることで体温を保ち、寒暖差へも耐性があげられることが期待できます。

 

3つ同時に鍛えられる『スクワット』

 

1.  足を肩幅より少し広めに開きます。足の爪先は少し外側に向けます。腕は耳の横にセットし肩甲骨を下へ引き下げましょう。

 

 

2.  股関節を曲げ、お尻を真下に落とすイメージで膝を曲げます。お尻を後ろに突き出し、膝が爪先より前に出ないように椅子に座るイメージです。顔を上げ、胸を張り、背筋を伸ばします。この際、お腹にも力を入れ、腰が反りすぎないように注意しましょう。

 

 

3.  徐々にお尻を落としていきます。最初は無理せず、浅い角度で行ってください。

 

 

 

4. 膝を軽く曲げたところまで立ち上がります。

 

簡単そうに見えて、実は正しいフォームが難しい「スクワット」。

間違ったフォームで続けると、膝や腰を痛める原因になります。正しく鍛えられているかわからないという方は、一度専門家にチェックしてもらうことをおすすめします。

 

 

 

加齢による寒暖差疲労タイプの対策

 

意識してタンパク質を摂取する。

厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2020年版)によると、

 

高齢者(65 歳以上)では 少なくとも 1.0 g/kg 体重/日以上のたんぱく質を摂取することが望ましいと考えられる。

出典 厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版)

 

とされています。

 

目安として、豆腐100gに5g、鶏肉100gに25g、鮭100gに22gのタンパク質が含まれています。年齢的に高齢者には当てはまらない方も、1日の総摂取カロリーの13~20%はタンパク質から補うように心がけましょう。

 

なるべく、暖房・冷房に頼らない。

極端に暑い日や、寒い日を除き、あまり空調に頼らないようにしてみましょう。

 

常に快適での生活に慣れてしまうと、自律神経の働きが鈍くなり、寒暖差疲労を起こしやすくなります。

 

また、やむを得ず冷暖房が必要になる時期は空調から送られる気流の調整にも注意しましょう。

 

 

 

 

上記のイラストの2つの気流による室内での休息に関する実験では、「人あて気流」に比べ、「つつみ込む気流」の方が疲労を軽減させるという研究結果が出ています。

 

冷刺激軽減による自律神経機能の調整作用に関与するものだと考えられる。

出典 包み込む気流制御エアコンの健常女性における健康維持及び疲労に対する有用性

 

特に、冷房において 気流の直撃を避けることが肌に感じる冷えを和らげ、自律神経の調整にもつながります。

「風向調整」機能を有効活用し、極力、冷風の直撃を避けましょう。

 

 

 

以上、寒暖差疲労に対するタイプ別対処法でした。

 

寒暖差疲労を起こしやすくなる気温差は、「前日と比較して5℃以上」と考えられています。

 

これからの季節、気温の変動が大きくなりますので天気予報をチェックする際は、「前日比」も意識して生活をしてみてください。

 

 

参考文献

都市における屋外温度の変化が疲労度に与える影響 日本建築学会技術報告集 第 23 巻 第 54 号,563-566,2017 年 6 月

国立研究開発法人 国立環境研究所 地球環境研究センターHP「ビタミンD生成・紅斑紫外線量情報」

厚生労働省HP 「日本人の食事摂取基準」(2020年版)

包み込む気流制御エアコンの健常女性における健康維持及び疲労に対する有用性 日本建築学会技術報告集 第 23 巻 第 54 号,563-566,2017 年 6 月

 


執筆者:伊藤 美里
Misato Ito

盛岡医療福祉専門学校卒業
日本医学柔整鍼灸専門学校卒業

鍼師・灸師
柔道整復師

学生時代バレーボールに打ち込み、当時自分の心の支えとなったアスリートやアーティストに携わる仕事をしたいと思い、「身体の治療・ケア」する道を選びました。
日々患者さんの治療にあたる中で、さらに治療の引き出しを増やすべく鍼灸師の資格を取得。
解剖学的な構造、運動学、最新のエビデンスの理論を基におひとりおひとりの「何が原因か」を追究し、よい治療をご提案できるよう努めてまいります。


2019年国民生活基礎調査でみる「肩こり」

皆さんの多くは「現代人には肩こりに悩む方が多い」という話を耳にしたことがあるのではないでしょうか。この話を裏付けるデータは、様々な統計で確認することができます。

そのひとつが、国民の健康や生活状況などを把握するために国が実施している国民生活基礎調査です。国民生活基礎調査は国民の健康状態が数値で分かることから、健康に関する仕事をしている職業であれば、データを目にする機会が少なからずある調査ではないでしょうか。

そこで今回は2019年に行われた国民生活基礎調査のデータを、肩こりに注目しながら見ていきましょう。

参考: 2019年 国民生活基礎調査の概況|厚生労働省

 

国民生活基礎調査とは

調査のために記入をしたことがあっても、データがどのように使用されているか把握していない方もいるでしょう。まずは、国民生活基礎調査についてご紹介します。

目的

実施する目的は「保健・医療・福祉・年金・所得など国民生活の基礎となる事項を調査し、厚生労働行政の企画および立案に必要な基礎資料を得ること」です。

昭和61年(1986)年から3年ごとに「大規模調査』、中間の年は「簡単な調査」を実施しています。直近では2019年が大規模調査です。国民生活基礎調査は世帯ごとに実施するため、家族の誰かがアンケートに答えていることもあります。

 

調査対象

日本に国籍がある世帯とその世帯員が対象です。さらに、票によって調査対象が決まっています。

■世帯票/健康票
2015年実施の国勢調査区の中で、後置番号「1」と「8」より層化無作為抽出を行った5530地区内すべての世帯と世帯員(約30万世帯と約72万人の世帯員)
※「後置番号」は国勢調査区の種類を表します。一般調査区が「1」、単身者およそ50人以上が居住する寄宿舎・寮などがある区域は「8」です。

 

■介護票
世帯票と健康票と同じく5530地区内から層化無作為抽出をした2500地区内の、介護保険法における要介護者と約7千人の要支援者

■所得票/貯蓄票
世帯票と健康票と同じ5530地区に設定した単位区の中で、後置番号の「1」より層化無作為抽出をした2000単位地区内のすべての世帯である約3万世帯と約8万人の世帯員ただし、以下の条件に当てはまる方は対象外です。

1.世帯票/健康票/介護票の対象外
<以下の状況で世帯に不在の方>
単身赴任の方、出稼ぎの方、おおむね3か月以上の長期出張中の方、遊学中の方、社会福祉施設に入所中の方、病院に住民登録をしている長期入院中の方、預けられている里子、収監されている、その他の別居中の方

2.所得票/貯蓄票の対象外
1.の世帯票に当てはまる方、世帯票調査日以降に転出入した世帯と世帯員、住み込みやまかない付きの寮・寄宿舎に住む単独世帯

調査日

調査日は調査対象の分類ごとに決まっています。

2019年国民生活基礎調査でいうと、世帯票・健康票・介護票は2019(令和元)年6月6日、所得票・貯蓄票は2019(令和元)年7月11日が調査日でした。

 

調査する内容

対象ごとに調査する内容が決まっています。

■世帯票
単独世帯の状況や5月中の家計支出総額、世帯主との続柄、性、出生年月、配偶者の有無、療保険の加入状況、公的年金・恩給の受給状況、公的年金の加入状況、就業状況など

 

■健康票
自覚症状、通院、日常生活への影響、健康意識、悩みやストレスの状況、こころの状態、健康診断などの受診状況など

■介護票
介護が必要な方の性別と出生年月、要介護度の状況、介護が必要となった原因、介護サービスの利用状況、主に介護する方の介護時間、家族などと事業者による主な介護内容など

■所得票
前年の年間所得の種類別金額・課税などの状況、生活意識の状況など

■貯蓄票
貯蓄現在高、借入金残高など

 

2019年国民生活基礎調査の結果

国民生活基礎調査をすることで、国民のさまざまな状況を数値で把握することができます。各項目について見ていきましょう。

 

世帯数と世帯人員の状況

結果は「単独世帯」が全世帯の 28.8%と一番多く、世帯類型でみると「高齢者世帯」が全世帯の 28.7%と一番多いという結果が出ました。このように世帯を構成している人数や年齢層などが把握できます。

 

各種世帯の所得等の状況

前年の1月1日から12月31日までの所得、貯蓄・借入金は2019年6月末日の現在高及び残高です。年次別の所得では「全世帯」で552万3千円、所得の分布状況では「200~300万円未満」が13.6%などの結果が出ました。また、この項目では世帯主の年齢別の所得や主な所得の種類なども調査しています。

 

介護状況

自宅で介護をしている家族構成は「核家族世帯」が 40.3%と高いことが分かりました。昔は三世代世帯が一般的でしたが、現在は核家族世帯が上昇しています。

また、同居している配偶者が主な介護者という結果などが出ました。介護される年齢は男性では「80~84歳」、女性では「90歳以上」が最も多いということが分かりました。

 

世帯員の健康状態の特徴

自覚症状の状況では、病気やけがなどの自覚症状がある方(有訴者率)の人数を調査しています。まず、性別でみると有訴者率は女性のほうが高く、年齢が高くなるにつれて人数が増加するという結果を得ました。

具体的にどのような症状を訴えているかですが、男性は腰痛・肩こり・鼻がつまるまたは鼻汁が出るという順。女性では肩こりが最も高く、腰痛・手足の関節が痛むという結果でした。また悩みやストレスの状況をみると男性より女性のほうが、割合が高くなっています。

 

有訴者率の上位症状(2019年国民生活基礎調査)

男性 1位、腰痛 2位、肩こり 3位、鼻が詰まる・鼻汁が出る 4位、せきやたんが出る 5位、手足の関節が痛む

女性 1位、肩こり 2位、腰痛 3位、手足の関節が痛む 4位、体がだるい 5位、頭痛

 

2019年国民生活基礎調査に見る肩こり

2019年の国民生活基礎調査では、男女問わず肩こりに悩む方が多いとの調査結果が出ました。またあわせて特に「肩こりを訴えるのは女性が多い」という結果も見られます。

ここで注目したいのは、ストレスを感じている割合も女性のほうが多く出ているという点です。肩こりの原因の一つにストレスがあります。

また筋肉量は男性より女性のほうが少なく、5~6kgもある重い頭を支えたり筋肉が弱いことで姿勢が悪くなりやすかったりするためではないかとの見方もできます。さらに、男性より女性のほうが冷えやすいため血行不良になりやすい、運動不足なども関係しているでしょう。

肩こりがあると頭痛になったり、痛みでやる気が出なかったりと日常生活に影響することもあります。慢性的になると痛みが続くため、一つひとつの作業が億劫になることもあるでしょう。症状を放置せず、何らかの対策をとることが必要です。

 

まとめ

2019年の国民生活基礎調査から、肩こりが自覚症状として持つ人が多く、中でも男性よりも女性のほうが多いということがわかりました。

肩こりの対策において大切なことは、まず原因を考えることです。肩こりに悩む場合、何かしらの原因があります。ストレスや筋肉量だけではなく、緊張・運動不足・姿勢が悪いなど原因の種類はさまざまです。

根本となっている原因を把握したら、それに応じて対策をしていきます。たとえば運動不足が原因であれば、日常生活に少しずつでも運動を取り入れてみましょう。正しく適切な運動を習慣にできれば、お悩みを解決できるかもしれません。

まとまった時間を確保できない場合は、就寝前や仕事の休憩中などにストレッチをしたり、意識して正しい姿勢を保持したりすることが対策になる場合もあります。

参考:肩こりの原因(1)
参考:肩こりを解消したいなら、まずは毎日の暮らしを見直そう

そしてできることなら、早めに医療機関をはじめとする専門家に相談しましょう。肩こりの原因は人それぞれです。場合によっては「良かれ」と思って行った対策が逆効果になることもあるでしょう。特に慢性化した肩こり、悪化したと感じる肩こりは専門家への相談を強くおすすめします。

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


快適さだけで選んでは危険!?整形外科医が推奨する枕の選び方とは

はじめに

今日 たくさんの快眠グッヅや寝具が販売され、ネットでは枕選びのコツや睡眠コラムなど様々な情報が溢れています。「人生の3分の1は睡眠」という言葉が浸透しているように、それほどまでに現代人は「睡眠の質」に対する関心が高まってると言えるでしょう。

寝具を新調する際、多くの方は長い目でより自分に合ったものを選びたいと考えるのではないでしょうか。

枕ひとつをとってみても、安価なものから数万円するもの、素材も形状も多種多様です。

個人個人の体格差や骨格の違いなどを考慮した最適な枕を使用しないと睡眠の質は落ちるどころか、首肩こりの原因にもなりうる枕選び。

今回はさまざまな睡眠の研究をもとに整形外科学的に推奨される「枕選び」をご紹介いたします。

良質な睡眠の定義

そもそも、良い睡眠とはどういう睡眠を指すの?

2020年11月より厚労省の掲げる健康寿命の延伸を目指すプロジェクト「睡眠の質を上げてカラダもココロも健やかに」特設Webコンテンツが公開されています。

その中にも掲載されている、睡眠の質の向上について具体的な実践を進めていく手だてとして策定された「健康づくりのための睡眠指針2014」によると、

個人差はあるものの、必要な睡眠時間は 6 時間以上 8 時間未満のあたりにあると考える のが妥当でしょう。睡眠時間と生活習慣病やうつ病との関係などからもいえることですが、 必要な睡眠時間以上に長く睡眠をとったからといって、健康になるわけではありません。 年をとると、睡眠時間が少し短くなることは自然であることと、日中の眠気で困らない程度の自然な睡眠が一番であるということを知っておくとよいしょう。

 出典 厚生労働省健康局 健康づくりのための睡眠指針 2014

と記載されています。

つまり、必要な睡眠時間は約7時間前後ではありますが、時間にこだわらず、日中の眠気で困らない睡眠を確保することが大切なのです。

短い睡眠時間しか確保できないという方こそ、良い睡眠(=日中に眠気で困らない睡眠)を得るために、個人に合った寝具選びは非常に重要になってきます。

さまざまな寝具の研究の問題点

寝姿勢は何度も変化するもの

さまざまな、商品のPR広告やHPをみると どれも良さそうに見えますよね。

そこで注意してみていただきたいポイントがひとつあります。

それは、「枕が首のカーブにフィットする」や「頭の重みを分散する」など、寝姿勢を静止した状態として捉えている商品です。

人は夜中に 何度も何度も寝返りを打ちます。

朝、寝た時と同じ体勢で起きるという方も、全く寝返りを打っていないという人はいないのです。そういう方は、目覚めた時が たまたま、入眠姿勢だったということになります。

一晩にする寝返りの回数ってご存知ですか?

男女17人(平均年齢42.5歳、男性9人 女性8人)の6時間の睡眠をビデオ解析した研究によると平均寝返り回数は、頭のみ:平均24回、体のみ:平均16回、頭と体同時:平均15回という研究結果が出ております。

また寝返りをうつ時間間隔は、頭:平均15分ごと、体:平均23分ごととの結果が出ており、いかに高頻度で頭や顔の向き、体勢を変えているかがわかります。

つまり、頭に関しては15分おきに枕との接する面や 首の角度も変化しているのです。

寝姿勢を静止状態のみで捉えることはナンセンスと言えることがお分かりいただけましたでしょうか。

寝返りのしやすさが鍵となる理由

頚椎(首の骨)は、頭部と体幹部を連結するという役割を担うゆえに、わずかな変化にも異常を自覚し防御する機構が備わってます。

ですので、市販されている枕にみる 柔らかさや気持ちよさといった感触を重視しすぎることは、頚椎に悪影響を与えうるという報告もあります。

次にご紹介する正しい枕選びは、個人差のある骨格を考慮しつつ寝返りも加味した枕の高さを調整できる方法です。

ただし、こちらの計測方法は医師による外来で計測する方法となりますのでご自身の正確な数値をお知りになりたいという方は是非URLから飛んでみて下さい。

整形外科学からみた正しい枕えらび

SSS(Set-up for Spinal Sleep)法

こちらの枕の計測方法は枕と睡眠分野を専門とする整形外科医、山田朱織医師により提唱されたものです。

山田医師は2002年より整形外科の診察として特殊外来「枕外来」を開設され、2003年より睡眠姿勢の研究およびオーダーメイド枕の整形外科枕開発のため「山田朱織枕研究所」を設立されております。

SSS(Set-up for Spinal Sleep)法は山田朱織枕研究所の特許に基づく計測方法です。(特許第4024152号)

枕の3大条件

山田朱織枕研究所が推奨する「枕の3大条件」は、以下となります。

第1は体格に適合した枕の高さである。仰臥位と側臥位の両方に適合する1つの高さを決定する。第2は決定した高さが終夜使用中に5mm以上変化しない適度な硬さである。第3は体格変化や加齢に伴い適宜再調整を行う

出典 2015年06月号(58巻07号)整形・災害外科〜肩こりを考える〜金原出版

寝返りに伴い、仰向けでの寝姿勢・横向きでの寝姿勢に対応する高さであること。その高さを保持出来る適度な硬さの素材であること。そして、体格の変化や加齢に応じて枕を調整する必要性があることを提言しております。

改めて、安易に柔らかさや快適さのみで枕を選んではいけないことを、頭に入れておきましょう。

実際の計測方法

では、ここからが実際の計測方法です。

SSS(Set-up for Spinal Sleep)法は3つ行程から適切な高さを算出します。

第1に仰臥位で両上下肢を伸展位で脱力させる。枕の高さを5mmピッチで変更しながら、頸椎の前傾が15度前後で、患者が呼気、吸気とも楽に感じること、後頭部の感触が不快でないこと、後頸部の筋緊張が弛緩することを聴取しながら高さを調節する。

出典 2015年06月号(58巻07号)整形・災害外科〜肩こりを考える〜金原出版

まず、仰向けでの枕の高さを調整します。

両手足を脱力し、伸ばした状態で仰向けで寝ます。首の角度が15°前後となる付近で、呼吸が楽で、後頭部の不快感がなく、首の後ろの筋肉が緩む高さを見つけましょう。

第2に左右側臥位の確認であるが、まず仰臥位で両前腕を前胸部上にクロスして右手を左鎖骨、左手を右鎖骨に触れ、両股関節60度前後、両膝100度前後に屈曲した寝返りの回転ポジションをとり、左右に回転し側臥位になる。額・鼻・顎・胸骨を通る頭頸部の中心線と臥床面が平行になるよう高さ調節する。

出典 2015年06月号(58巻07号)整形・災害外科〜肩こりを考える〜金原出版

次に、横向きでの高さを調整します。

まず仰向けになり、胸の前で両腕をクロスします。股関節と両膝をまげ、左右に寝返りを行います。横向きになったとき、顔と首の中心線と床面が並行になる高さに調整します。

第3に寝返りのスムーズさを確認する。仰臥位で寝返りの回転ポジションをとり、左右に2~3回回転し、寝返りのスムーズさを比較する。目視におけるスムーズとは、中心軸に対し頭部、胸部、骨盤が同期的に回転する状態である。

出典 2015年06月号(58巻07号)整形・災害外科〜肩こりを考える〜金原出版

最後に寝返りのしやすさを確認します。

頭部と骨盤部いずれかに遅れが生じたり、遅れを筋力で補正しようと力む、反動で回転しようとするなどのぎこちない動きがおこらないかをみましょう。

最もスムーズに寝返りができる枕の高さが個人に合った枕の高さと言えます。

なお、前述したように、こちらの計測方法は医師による外来で計測する方法となります。

ご自身で簡易的に行う際はこちらをご参考に鏡や、携帯電話のカメラ機能で確認したり、どなたかに目視で確認してもらってみたりしてお役立てください。

正確な数値をお知りになりたいという方は下記URLから飛んでみていただけますと幸いです。

山田朱織枕研究所 HP

SSS方法を用いた枕の効果

また、SSS法を用いて調整した枕では最少エネルギーでの寝返りが可能となることから、症候性肩こり(交通事故の頚椎捻挫、リウマチ、姿勢異常・円背)への治療としても用いられています。

SSS法を用いると、夜間の寝返りが90%以上容易になり、肩こりの改善は60~80%と高値であった。睡眠中に,最少のエネルギーで寝返りがうてると、肩こりをきたす頚椎、肩、胸椎など骨関節のレストポジションによる安静と同時に、その周囲の筋肉、靱帯、神経等が、ダイナミックな血流の促進により組織が回復し、肩こりが改善されると示唆された。

  出典 2008年11月発行全日本病院出版会「実践 肩のこり・痛みの診かた治しかた」掲載

まとめ

肩こりの治療における枕選びの意義

今回は寝返りのしやすい枕選びという観点からSSS法をご紹介いたしました。

研究や臨床データ、論文を通して ここまで厳密に枕を選定できる基準は多くないと思います。

「朝から肩が凝っている」、「慢性的に肩こりが楽になる事がない」という方は、1日の3分の1の時間を占める寝姿勢になにか問題があるかもしれません。

そのような方は、本投稿が枕を見直していただけるきっかけになれば幸いです。

ただし、逆に合わない枕を使ってしまうことはかえって症状を悪化させてしまう、いわば諸刃の剣とも言えるでしょう。

大きく枕を変えることに不安や抵抗があるという方は、まずは今日からでも実践できる「肩こりラボがすすめる睡眠アドバイス」から徐々に変化の幅をあげていってもよいかもしれません。

肩こりラボがすすめる睡眠アドバイス

タオル枕

バスタオルを三つ折りにしたものを数枚重ね、高さを調整します。

メリットは手軽に枕の高さを調整できることです。自分に合う枕の高さを模索する際や、先程のSSS法を自宅で試してみたいという方におすすめです。

ただし、タオルの生地の柔らかさよって高さを保ちにくかったり、寝返りをうてる十分な幅が作れなかったりすることがあります。特に、枕をすぐに買い換えられない時や、旅先のホテルで枕の高さが合わなかった時などにおすすめです。

就寝前のセルフケア

睡眠前は体を十分なリラックス状態を作ることが重要です。

ゆっくりとした深い呼吸や、脱力をした状態でのストレッチなどを睡眠前に行うことで身体をリラックス状態に導くことができます。

ドローイン(腹式呼吸)や普段丸まりがちな背中のストレッチ、太ももの裏のストレッチなどはベッドの上で行いやすいですので是非無理のない範囲で行ってみてはいかがでしょうか。

胸椎ストレッチ

バスタオルを二重にして丸めたものを肩甲骨の下端あたりに入れます。

猫背となっている丸みの頂点を反らせるように脱力します。

ももの裏のストレッチ

バスタオルなどを細く畳んだものを足底にかけ、両端を体幹方向へ引きます。

もも裏の硬さは、骨盤を後傾(腰が丸まる方向)へ働きます。姿勢不良の要因にもなりますのでしっかり柔軟性を作りましょう。

・もも前のストレッチ

逆に、ももの前が硬い方は、骨盤を前傾させる方向へ働きます。こちらは反り腰の要因にもなります。

足の甲を把持して膝を曲げ、ゆっくりと踵をお尻方向へ引っ張ります。

体幹ひねり・胸のストレッチ

体幹を捻り、臀部〜腰背部〜脇腹など広範囲のストレッチになります。

両腕を大きく真横から斜め上へ開くことで大胸筋のストレッチにもなります。

大胸筋が硬いと肩が内旋(内巻き)方向へ働きますのでこちらも合わせて行いましょう。

以上が、おすすめのストレッチです。

もし余裕のある方は、Youtubeにもストレッチの動画を載せておりますのでこちらもご参考にしてください。

【根本解決ストレッチ】肩こり専門治療院[肩こりラボ]による、コリ解消ストレッチ。肩こりだけでなく首こり、肩甲骨こり、姿勢改善、巻き肩、スマホ首、頚性神経筋症候群

抱き枕

抱き枕は上肢の重みを軽減してくれるとともに、横向きの際に 肩が過度に内旋(内巻き)するのを防いでくれます。

肩が内旋することで僧帽筋(肩こりの症状が出やすい主な筋肉)に伸ばされるストレスがかかることで肩こりが生じてしまうパターンが多く見受けられます。こちらは使っていない掛け布団などを丸め、紐などで縛り代用することができるかと思います。

以上、今日からでも実践できる「肩こりラボがすすめる睡眠アドバイス」でした。

良質な睡眠づくりにお役立ていただけますと幸いです。

参考文献

2015年06月号(58巻 07号) 整形・災害外科~肩こりを考える~金原出版

2008年11月発行全日本病院出版会「実践 肩のこり・痛みの診かた治しかた」掲載

就寝中の寝返りのビデオ解析による特徴点の基礎評価―運動器疼痛管理に役立つ至適睡眠姿勢での検討―


執筆者:伊藤 美里
Misato Ito

盛岡医療福祉専門学校卒業
日本医学柔整鍼灸専門学校卒業

鍼師・灸師
柔道整復師

学生時代バレーボールに打ち込み、当時自分の心の支えとなったアスリートやアーティストに携わる仕事をしたいと思い、「身体の治療・ケア」する道を選びました。
日々患者さんの治療にあたる中で、さらに治療の引き出しを増やすべく鍼灸師の資格を取得。
解剖学的な構造、運動学、最新のエビデンスの理論を基におひとりおひとりの「何が原因か」を追究し、よい治療をご提案できるよう努めてまいります。


肩こりと骨の関係

座りっぱなしの方も増えた現代、老若男女問わず肩こりに悩まされている日々をお過ごしの方も少なくないでしょう。

「常に肩が痛いけど病院に行くほどじゃない」「これぐらいなら我慢できるから……」と放置してしまう人もいらっしゃるかもしれません。けれども肩こりは何らかの不調の合図である可能性も否定できません。

肩こりは原因が何であるかを知り、正しく対処することで改善が見込める可能性があります。原因として考えられる要素は血流の悪さ・ストレスなど様々であり、その1つが「骨」です。

肩こりと骨に密接な関係があります。
今回は「肩甲骨」をはじめ、肩こりに関わる骨に着目してみましょう。

 

 

肩こりに関わる主な骨

肩甲骨は、肩こりに深く関わってくる骨です。理由としては、肩こりを引き起こす筋肉が肩甲骨と多く繋がっているからというところにあるでしょう。

腕を動かすと共に可動する肩甲骨ですが、前傾姿勢のままじっとしていることが多い現代人は肩甲骨が大きく動くことが少ないです。もし肩甲骨があまり動かない状態の場合、周りの筋肉の血流が悪くなるなど、身体に悪影響を及ぼす可能性があり、肩こりへと繋がりやすくなります。意識して適度に身体を動かしていくのが理想です。

 

次に注目するのは首の骨

首の骨、すなわち頸椎の本来の形をみなさんはご存じですか?

正しい形状は、”前弯”といい、地面からの垂直に対して顔側にカーブしているものです。

しかし、スマートフォンの使用やパソコン作業によって前傾の姿勢をとることで頸椎のカーブがなくなったストレートネックになってしまう、もしくは背中側にカーブしてしまう場合があります。人の頭はとても重いため、骨が正しい傾きでない場合、首の筋肉に大きく負担をかけてしまうことになるのです。

 

そして鎖骨は本来首と胸をつなげる役割を果たしており、これも肩こりに関係する骨の1つです。

鎖骨の正しい形状はV字の配置です。しかし、なで肩などが理由で水平の配置になってしまうこともあります。そうなると、肩甲骨も下がって筋肉が緊張状態になってしまうため、肩こりに繋がってしまうのです。

 

 

初期症状として肩こりが起こりうる症例

筋力の衰えや重点的な負荷のかけすぎによる肩こりは、主に筋肉の収縮により血管が圧迫されることで起こります。

しかし、中には骨が異常をきたしたことによって発症する肩こりがあります。特に以下の二点がよくある症例です。

 

・頚椎椎間板(けいついついかんばん)ヘルニア
椎間板ヘルニアとは、背骨のひとつひとつの骨の間にある動きを付けるために必要な椎間板がずれてしまうことです。ヘルニアとは、体内の臓器の位置がずれてしまうことを言います。腰のイメージが強いですが、実は首周りにも発症する可能性があります。首周りを中心に痛みやしびれが伴うほか、肩こりや手足の動きへの影響も考えられるでしょう。若年層の方への発症も確認されています。酷い場合は手術治療が必要になることもあり、自分だけで判断せず、異変を感じたら診察に行きましょう。
・頚椎症(けいついしょう)
年月を経て背骨や椎間板が変形し、神経を圧迫するのが頚椎症(頸椎症)。こちらも首や肩の痛みやこり、手のしびれを引き起こします。加齢が理由で発症することが多いです。薬での改善も見込まれますが、安静のために装具の着用を必要とする場合もあります。

 

たかが肩こり、そう思う方もいらっしゃるでしょう。しかし実は「ただの肩こり」とは言い切れない場合があるのです。

身に覚えがある方、そして下記に当てはまるようでしたら、早めに専門医への検診をおすすめいたします。

・運動した時に肩が痛む。
・手の麻痺、しびれになる。
・動かしていないのに肩や首が痛む。
・だんだん症状が悪化していく。

 

 

見直しの鍵は姿勢から

体のメカニズムを考える上で、姿勢というのは重要な要素です。姿勢の良い人というのは、見た目にも美しい印象を与えやすい傾向にあります。ですがそれだけではありません。姿勢をどのように保つかが、体の状態へ影響を与えていると考えてよいでしょう。

どんな姿勢をキープするかによって、体にかかる負担が大きく異なります。正しい姿勢をとることは全身のバランスに良い影響を与えます。同じ姿勢を長時間続けるよりも、適度に体を動かすようにできればなお良いです。

良い姿勢は、ビジネスやスポーツにおいても良いパフォーマンスも招きやすくなります。逆に姿勢が悪いと血流が滞ってしまう、筋肉が緊張しっぱなしになる他、骨への影響も考えられます。

 

人間の体の軸の1つが背骨です。

体は筋肉や骨格によって支えられています。ですがもし反り腰や猫背をはじめ良くない姿勢が習慣化してしまうと、骨が本来の位置ではなく傾いた状態でキープされ、ゆがみやずれに繋がることになります。この状態が続くと、慢性的な肩こり・腰痛などが起きやすくなる可能性があるでしょう。

 

 

骨を意識した姿勢の改善

では、姿勢を改善するにはどうしたらよいのでしょうか。

姿勢を良くするためには、やはりまずは皆さんが日頃からどのような姿勢で日常生活を送っているのかという点を理解する必要があります。オフィスワークなどでも、1日1回、もしくは気が付いた時だけでもよいので、姿勢をチェックし正す時間を設けてみましょう。

良い座り姿勢というのは、背筋を伸ばし軽くあごを引いた状態のことを指します。この時、背骨がどのような形になっているかを意識し、正しい位置への修正を心掛けるようにすればなお良いです。

 

ここでは、あなたの肩甲骨がどのような状態なのかをチェックする方法の1つをご紹介しましょう。

肩甲骨の状態チェック

①腕を真横に、地面に平行に伸ばしてみてください。
②その状態のまま、痛いと感じるところまで徐々に腕を上げていきましょう。
③耳につく、または耳の近くまで行く人は肩甲骨周りがほぐれている状態です。ですがもし全く動かない、もしくは半分ほどまでしか上がらなかった人は肩甲骨が固まっている可能性があります。

※無理に腕を上げようとすると、筋肉などを傷めてしまう可能性があります。チェックの際は反動をつけないよう、ゆっくり無理のない形で行ってください。

 

定期的に正しい方法で適度なストレッチや運動を行うのは、骨だけではなく筋肉をはじめとする体の各所にとっても良い影響を与える対策法となります。隙間時間に続けることで、肩こりを招きづらい良い状態の体を目指しましょう。

他にも、体への負荷を左右均等にするというのも改善策の1つです。例えばショルダーバックを愛用している方なら、左右どちらかの肩にかけ続けるのではなく、左右両方の肩に同じように負担をかけるようにすることで、骨のゆがみを招きにくくなるでしょう。

 

 

 

骨と肩こりと枕

姿勢と合わせて見直したいのが就寝環境です。

日常生活を送っている中で、姿勢が悪くなっているなと自覚を持った経験をお持ちの方でも、寝ている時の姿勢を意識しているという方はそう多くないかもしれません。

 

もし横になっている状態で頭、首と布団の間に不自然な隙間があると、筋肉が緊張状態になってしまいます。これでは十分に体を休めることができません。また長時間不自然な体勢を取り続けることになるので、肩こりなどを招く可能性もあるでしょう。

そのため「自分に合った枕を使う」というのも肩こり予防の方法として効果が期待できるかもしれません。

自分に合った枕の主な条件は、
・立った状態の時と同じ姿勢で横になることができるもの。
・寝返りを無理なく打てるもの。
などが知られています。

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


肩こり率No.1は〇〇職!職種による肩こり・首こりの原因と対策を解説します。

画像をhttps://www.ac-illust.comより引用させていただきました

はじめに

現代の日本において生活形態の変化に伴い頸肩腕痛(首・肩・腕の痛み)を訴える人の割合が多く、日頃、何かしらのメンテナンスをされていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。

 

厚生労働省によって平成28年に行われた国民生活基礎調査では,肩こり症状の有訴率は女性は1 位、男性は2 位を占めたことが報告されています。

 

肩こりを訴える方は職種から見るとどのような特徴があるのか、また、どのような形態で仕事をされている方が多いのかを参考に肩こり対策の生活スタイルを考察したいと思います。

 

肩こりになりやすい方には特徴があります。

 

女性は筋力不足、男性はやや肥満傾向の方

 

まず職種を分析する前に男女差について解説いたします。

 

参考文献には、以下のように記載があります。

“肩こり症状有訴者は,肩こり症状非有訴者に比して,女性においては握力と下腿後面の筋力などが有意に低値であったこと,男性においては体脂肪率などが高値であったことを報告している.“

出典 勤労者の肩こり症状に関連する因子の検討 日職災医誌,67:87─94,2019

つまり、女性で肩こりでお悩みの方は、肩こりではない方と比べて筋力不足が認められること、男性においては肩こりでお悩みの方は、そうではない方よりも体脂肪率が高い傾向にあるとの研究結果になります。

 

また、男女共通して肩こり症状を有する方は、体幹筋の筋肉率が低値であることも認められています。

 

肩こりの原因は肩にはない

画像をhttpss://1post.jp/1646 から引用させていただきました

 

前述したように「体幹筋の筋力不足」について、首肩こりと体幹筋の筋力不足はどう関連するのかみていきましょう。

 

まずは具体的に、体幹筋とはどういう筋肉を指すのかご説明いたします。

 

体幹筋とは、腹部を支える「腹直筋」「腹横筋」「内腹斜筋」「外腹斜筋」と、腰背部を支える「脊柱起立筋」「多裂筋」「広背筋」、など字の通り、体の幹となる部分を前後で支えている筋肉になります。

 

これだけを見ると直接首や肩には関連の少ないように思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 

 体幹筋の弱さが肩こりの原因となる理由

 

では、なぜ、体幹筋の低下が首や肩へ影響を与えるのか。

 

大きな要因の一つとして、

「体幹筋が使えないことにより首肩こりが誘発される不良姿勢を作ってしまう」ということが考えられます。

 

体幹筋の役割は姿勢を維持することです。

 

体幹筋がうまく機能していないと胴体をよい位置で支える事ができないので、その上にある首や肩を支えている筋肉が代償的に働くこととなり、結果として肩こりという症状が出現します。

 

運動習慣の有無=肩こりの有無?

 

また、男性の肩こりを訴える方は肥満傾向にあるとのことですが、

筋肉の硬さとBMI(Body Mass Index:体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数)の関係性を調べた研究資料によると

 

“運動無し群のBMIが大きくなると筋硬度は運動有り群より数値が高くなる点に注目すれば(中略)運動不足とストレスが加味されて筋硬度が高くなっている。”

出典 肩こりのアンケート調査と筋硬度との相関 計測自動制御学会東北支部 第256回研究集会(2011/11/26)資料番号268-6

こちらの研究では、

普段運動習慣がありBMIが高い方・低い方、また 運動習慣がなくBMIが高い方・低い方の
4分類にわけて対象部位(肩こりの自覚症状のある部位)の筋肉の硬さを筋硬度計を用いて評価しています。

 

結果によると、

運動習慣がなく、BMIが高い方が他の3分類の方よりも筋硬度が高くなっております。
要因としては運動不足や筋緊張のストレスによって筋肉の硬さが大きくなると考えられるという研究結果でした。

 

運動習慣の有無とひとことに言っても、どのような種類の運動かにもよって使われる筋肉の比率は変わってきます。

全身運動と仮定した場合、アウターマッスルのみならず、体幹筋が体幹を安定したポジションで支えることによって、パフォーマンスアップにつながります。

ですので、運動習慣がある方は自ずと日頃から体幹筋を使う習慣があるということになり、肩こりの有無にも関与すると仮定できますね。

 

肩こりを訴える方の過半数は〇〇職!

 

現在、日本にはこんなにも様々な職種があります

 

では、本題となる職種別に肩こりとの因果関係をみていきましょう。

 

日本標準職業分類によると、

事務職, 管理職,専門・技術職,サービス職,保安職,農林漁業職,生産工程職,輸送・機械運転職,建設・採掘職,運搬・清掃・包装等・その他

 

と、現在の日本の職種は多岐に渡ります。

 

やっぱり1位はあの職種

 

しかし、これほどさまざまな業種が存在するにも関わらず、結果をみると

肩こりを訴える方の58.2%が「事務職」となっており、2番目に多い「専門・技術職」が24.1%、「管理職」が12.7%と続きます。

 

いかにデスクワークが首肩への負担が大きいかが伺えますね。

 

就業時間から見る肩こり率

 

みなさんの勤務時間はどのくらいでしょうか。

肩こりを訴える方と肩こりではない方との勤務状況で、もっとも顕著な違いが見られた項目は、勤務時間です。こちらは言わずもがなかもしれません。

 

肩こりの方で勤務時間が1日に9時間以内にとどまっている割合は26.6% 、肩こりではない方の勤務時間が1日に9時間以内にとどまっている割合は41.1%となり、勤務時間の長さに比例した肩こり率とも言えるでしょう。

 

お勤めをされていらっしゃる方の場合、個人で勤務時間を調整するのはなかなか難しいというかたもいらっしゃると思います。

 

こちらは個人では大きく改善することは難しいかもしれませんが次に述べる考察を参考に負担を軽減することは可能だと考えております。

 

職種から肩こりの原因を考察します

 

立たない・歩かないが要因の一つ

事務職の方が他業種と異なる大きな特徴は「座っている時間が長い」ということではないでしょうか。

 

肩こりを訴える方の就業時の姿勢について、さらに詳しく分析すると、事務職の方の中でも、「座位中心だが歩く人」に対して「座位中心で歩かない人」に肩こりを訴える方が多いという結果となっています。

 

人間は座位に比べて立位の方が体幹筋の活動量が大きくなりますので、

前述にある、体幹筋の筋力不足の方に肩こり有訴者が多いことに関連して、座位の時間が長いがゆえに筋力不足を招くとも考えられます。

 

普段から座位中心の就業姿勢の方はまず「立つ」動作の頻度を増やし体幹筋を活動させる回数を増やす必要がありそうですね。

 

長時間のPC作業の負担を減らすコツ

 

勤務時間が長くなってしまう方こそ、PC環境を整えることが重要となってきます。

 

是非、過去の記事、

肩こり・首こりが気になる方が意識すべき、パソコン作業時の適切な姿勢(座り方)とデスク環境とは? 厚生労働省のガイドラインをふまえて解説します。

 

をご参考に少しでも身体の負担が減る環境づくりをしていただきたいと思います。

 

在宅勤務が増えた方へ

画像をhttps://simplish.online/ceointerview/standingwork/より引用させていただきました

 

新型コロナウィルスの感染拡大の影響で在宅勤務が増えた方も多いと思います。

この変化により身体への負担が減った方・増した方、両方いらっしゃると思いますが皆さんはいかがでしょうか。

 

適宜、休憩を取れる点に関してはとても大きな利点に感じます。

人目を気にせずストレッチをしたり、疲れが蓄積される前に体勢を自由にかえたりすることで以前より首肩への負担を分散できているのではないでしょうか。

 

一方、自宅ではオフィスとは異なり、デスクとチェアではなく床に座りテーブルで作業されることを余儀なくされている方もいらっしゃるでしょう。

 

低いテーブルで頭は前方に倒れ、背中は丸まり、骨盤は後傾し、背部への負担が増大してしまいます。

 

後者でお困りの方は、まずは目線の高さを下げない工夫をしましょう。

ディスプレイの高さを上げるか、もし高めの棚などがあれば立ち上がった姿勢で作業することも首肩への負担は軽減されます。

 

床に座って作業される際は骨盤が後ろに倒れないようにお尻の後方にクッションなどを噛ませて骨盤を立たせ、背中が丸まり過ぎないよう意識してみてください。

 

まとめ

 

以上、肩こりを職種と照らし合わせてみたとき、

有訴者は男性よりも女性に多く、体幹筋の筋肉量が低く、さらに就業時の姿勢が座位中心でほとんど歩くことが少ない方に多いということになります。

 

以上のことから、肩こり対策における打開策として

 

・意識的に体幹筋を働かせて座位時の姿勢を正す。

・無意識でもその姿勢がキープできるように体幹筋をトレーニングにする。

・長時間の座位継続時間を避け、立つ・歩く動作を増やす。

・PC作業環境を整える。

 

が、挙げられます。

 

業種柄、肩こりでお悩みの方の参考になれば幸いです。

 

 

【参考文献】

勤労者の肩こり症状に関連する因子の検討 日職災医誌,67:87─94,2019

肩こりのアンケート調査と筋硬度との相関 計測自動制御学会東北支部 第256回研究集会(2011/11/26)資料番号268-6

 


執筆者:伊藤 美里
Misato Ito

盛岡医療福祉専門学校卒業
日本医学柔整鍼灸専門学校卒業

鍼師・灸師
柔道整復師

学生時代バレーボールに打ち込み、当時自分の心の支えとなったアスリートやアーティストに携わる仕事をしたいと思い、「身体の治療・ケア」する道を選びました。
日々患者さんの治療にあたる中で、さらに治療の引き出しを増やすべく鍼灸師の資格を取得。
解剖学的な構造、運動学、最新のエビデンスの理論を基におひとりおひとりの「何が原因か」を追究し、よい治療をご提案できるよう努めてまいります。