関節が痛くて整形外科を受診し、レントゲンを撮って「軟骨がすり減っていますね」「骨と骨の隙間が狭くなっていますね」と言われることは少なくないでしょう。
この説明を受けて、確かに「軟骨がすり減っている」「骨と骨の隙間が狭くなっている(=レントゲンでは軟骨は描出されないので隙間が減っていることで軟骨が減少していることを推定する)」というように、本来あるべきものが減っているから痛いのだという説明は、なんとなく雰囲気的にはそれっぽく聞こえ、わからなくはないのですが、知識がある方からすると「軟骨には神経がないのに何で痛むのか?」という疑問が生じるかもしれません。
その疑問の答えの一つとなるのが、BML(Bone Marrow Lesion=骨髄病変)という病態の存在です。BMLは、変形性関節症の痛みの原因として深く関わっているとされています。
軟骨がすり減っているということ自体が痛みを生んでいる訳ではなく、軟骨がすり減ることで本来あるべきクッション材が少なくなり、骨にダメージが与えられ、骨の内部に炎症が生じてしまっているのです。
軟骨はクッション材なので、それがすり減ることで骨へのダメージが増すことは容易に想像できますし、継続的に負荷がかかっている生活習慣があるから軟骨がすり減っていくということもなります。
当記事では、専門家には身近だけれども、一般の方には馴染みが薄いけれども、皆さんがかかえる関節に痛みに深く関わるBMLという病態について解説します。
BML(Bone Marrow Lesion=骨髄病変) とは?
BMLは、簡単にいうと「骨のSOSサイン」です。
骨の中で炎症やダメージが起きている状態を指します。特に膝や股関節などの関節部分でよく見られ、MRI検査をすると骨の内部が白く映ることで、BMLが生じていると診断されます。
骨は普段、血流によって栄養や酸素を受け取って修復を繰り返しています。しかし、過度な負担やケガ、病気によって骨の中がダメージを受けると、BMLが発生します。
例えば、、
◼︎変形性関節症(膝、股関節、足首、肩などの関節軟骨のすりへりや構造の変形)
◼︎スポーツや仕事での反復継続的な負担(疲労骨折の前兆)
◼︎関節リウマチ(自己免疫疾患)
◼︎骨粗しょう症(骨が弱くなる病気)
これらの原因によって、骨に直接的に負担がかかり、骨の内部が炎症を起こし、痛みの原因や骨折につながることがあるのです。
皆さんにとって大切なのは「BMLはどんな影響があるのか知ること」「どのように予防・対処すればいいのか」という点だと思います。
誰でもできる、BMLの予防と対策
日常生活で気をつけるべきポイントは以下の通りです。
体重管理をする
BMLは、膝、股関節、足首、肩などで生じやすいです。
つまり、BMLは、荷重の影響を受ける関節部で生じやすいのです。
そのため、体重が重いと、物理的に膝や股関節の負担が増え、BMLのリスクが高まります。
まず、適正体重をキープすることが関節を守る重要なポイントです。
過体重から減量するためには、摂取エネルギーよりも消費エネルギーを増やす必要があります。
現状よりも、摂取エネルギーを増やすか、消費エネルギーを減らすか、あるいはその両方を行う必要になります。
筋トレで代謝を増やしてダイエットと謳われることがありますが、これには注意が必要です。
例えば、1時間パーソナルトレーニングを受けた時の消費エネルギーは、以下が目安になります。
体重(kg) | 軽めの筋トレ(kcal) | 普通の筋トレ(kcal) | 高強度トレーニング(kcal) |
---|---|---|---|
50kg | 約150 kcal | 約200 kcal | 約400 kcal |
60kg | 約180 kcal | 約240 kcal | 約480 kcal |
70kg | 約210 kcal | 約280 kcal | 約560 kcal |
80kg | 約240 kcal | 約320 kcal | 約640 kcal |
体重1kgを減らすためには、約7,200kcalを消費する必要がありますので、筋トレだけで減量を行うのは非常にたいへんなことであることがわかります。
決意して運動を開始したものの、体が耐えられず、怪我をしてしまいせっかくはじめた運動を断念せざるを得ないというのはしばしば聞く話しです。
大前提としとして運動習慣を取り入れることはとても大切なことではありますが、ダイエットは、運動だけで行おうとせず、食事管理と組み合わせることが重要です。
一方で、体重自体は適正範囲内あるいは痩せ型だからといっても油断はできません。隠れ肥満はご存知でしょうか。
隠れ肥満とは、見た目はスリムでも、体脂肪率が高い状態を指します。
一般的に、BMI(体格指数)が正常範囲内でも、体脂肪率が基準値を超えている場合に「隠れ肥満」とされます。
体重自体は重くなくても、それを支えるだけの筋力が不足していたり、普段がかかるような使い方をしていると、BMLのリスクは高い状態といえます。
いわゆる「痩せ型」の方は、体重オーバーではないからと安心するのではなく、体組成(体脂肪率や筋肉量)に着目してみましょう。
筋力トレーニングを行う
前述しましたように、BMLは荷重の影響を受ける下肢にて生じやすく、特に、膝が多いです。
たとえば膝ですと、太もも(大腿四頭筋やハムストリングス)の筋力を鍛えると膝の負担が減ります。
ならばスクワットが良いだろうと闇雲に行うと、かえって悪化してしまうことは少なくありません。
筋力トレーニングは、誰でも自宅でできるのですが、自分の身体に適したメニューや負荷設定、動かし方の要点をおさえて実施しないと、かえって悪化させてしまうことも少なくありません。
ちなみに膝に不調がある場合には、太ももの筋肉をを鍛えることは重要なのですが、いきなり体重をかけたスクワット等を行うと悪化のリスクがあるので、荷重をかけず、かつ関節の可動範囲を限定させてのエクササイズが推奨されます。
一口に筋トレといっても、非常に奥深いものです。
闇雲に無理な運動は控えるようにしましょう。
昨今では、YouTube等インターネットで、解説動画が多数発信されており、実際素晴らしいコンテンツが多いです。
誰でも情報を得られること自体良いとは思います。
ただ、見様見真似で実施することにより、悪化させてしまうリスクもあることは認識しておきましょう。
また、筋トレを指導者は「トレーナー」と称されますが、その中身は様々で、専門範疇もそれぞれです。
ボディビルなどのコンテストを目指すためのトレーニング、スポーツ競技を行うためのトレーニング、身体機能の改善させるためのトレーニング、ダイエット専門のトレーニング、、等様々あります。
これらは、本質的には共通している部分は多いのですが、実態としては”似て非なるもの”と認識した方が良いでしょう。
一口に医者といっても、医療には整形外科、皮膚科、耳鼻咽喉科、、、等たくさんの専門分野がありますが、それと同じとお考えください。
皮膚のトラブルがあった場合、整形外科医に診てもらうよりも、皮膚科医に診てもらうのがベターなのは言うまでもありませんね。
筋トレも、それぞれの目的にマッチした専門家のアドバイスを受けて実施するようにしましょう。
栄養バランスの良い食事をとる
骨のコンディションを良好にするためには、カルシウム、ビタミンD、ビタミンK、マグネシウム、たんぱく質 などの栄養素をバランスよく摂取することが大切です。
以下のような食品を意識して食べると良いでしょう。
①カルシウム(骨の主成分)
乳製品:牛乳、チーズ、ヨーグルト
小魚:しらす、いわし、ししゃも
大豆製品:豆腐、納豆、高野豆腐
野菜:小松菜、チンゲンサイ、モロヘイヤ
ナッツ:アーモンド、ゴマ
②ビタミンD(カルシウムの吸収を助ける)
魚:サケ、サンマ、マグロ、いわし
キノコ類:しいたけ、まいたけ、きくらげ
卵(特に黄身)
※ビタミンDは、日光を浴びることでも体内で合成されます
③ビタミンK(骨の形成を促進)
納豆(特に豊富)
葉物野菜:ほうれん草、ブロッコリー、キャベツ
海藻類:わかめ、ひじき
④マグネシウム(カルシウムの代謝を助ける)
ナッツ類:アーモンド、カシューナッツ
海藻:ひじき、ワカメ
豆類:大豆、枝豆
⑤たんぱく質(骨のコラーゲンの材料)
肉・魚・卵
大豆製品(納豆、豆腐、味噌)
乳製品
おすすめの食事例

朝食:ヨーグルト+ナッツ、納豆ご飯+味噌汁(わかめ入り)
昼食:焼き魚(サバ・サケなど)+小松菜のおひたし+ひじき煮
夕食:豆腐と野菜の炒め物+チーズ入りオムレツ+ブロッコリーのサラダ
塩分の摂りすぎや過剰なカフェイン・アルコールはカルシウムの排出を促してしまうため、控えめにするのが理想です。
早めに痛みをケアする
関節が痛いと感じたら、鍼灸院、整骨院、整体院などではなく、まずは整形外科専門医に診てもらいましょう。
自分の信頼しているセラピストやトレーナーがいたとしても、専門医による診断を受けることがまず重要になります。
BMLはMRIを撮らないとわからないことが多いですが、熟練した専門医はエコーによりその場で状態を評価をすることもできます。
その上で、改善のための具体的な手立てにおいては、自分の信頼しているセラピストやトレーナーに相談しましょう。対処するにも何をするにも、まずはきちんとした診断ありきだからです。
場合によっては、活動時にはサポーターの着用も有効です。
まとめ
◼︎BMLは「骨の異常のサイン」であり、放置すると関節症や骨折につながる可能性がある。
◼︎膝の痛みや関節の不調がある人は、早めに運動を調整し、整形外科専門医に相談することが大切。
◼︎体重管理、適切な運動による筋力強化、バランスの良い食事がBMLの予防や改善に重要
「骨に異常は無いと言われたけれど強い痛みが続いている」「変形性関節症と診断された」「関節の痛みに困っている」などの症状がある人は、BMLが生じているかもしれません。
BMLを知り、日常のちょっとした意識と対策をすることで、骨と関節を守りましょう。

執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama
日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修
鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許
病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。