整形外科での治療やリハビリで治らなかった肩関節の痛みと可動域制限が、3回の治療で挙上180°まで可動域が改善してゴールに至ったケース|ケースレポート

概要

Y様 / 東京都在住 / 56歳 / 女性 / 大学職員

症状

右肘外側の痛み

左肩関節の痛み、90°以上挙げられない

状態

右肘

2025年1月ごろから痛み出現。きっかけはなく気がついたら痛みが出ており、日常生活で手を使うたびに痛みが出ている。(お箸を使う動作でも出現)

痛みの数値(NRS)⑧⑨

※NRS(Numeric Rating Scale):患者さんの痛みの強さを0-10で表した数値。0は痛み無し、10は過去最大の痛み

左肩関節

2025年3月ごろから痛み出現。こちらもきっかけはなく気がついたら肩が挙がらなく、無理に挙げようとすると激痛が出る状態。

痛みの数値(NRS)⑨⑩

※NRS(Numeric Rating Scale):患者さんの痛みの強さを0-10で表した数値。0は痛み無し、10は過去最大の痛み

※屈曲90°(前の動き)で痛み

※肩甲骨面100°(斜め前の動き)で痛み

※外転90°(横の動き)で痛み

どちらも整形外科にて治療、リハビリも行っていたが症状が変わらず、当院を受診。

レントゲンでは異常なし。

見立て

右肘

肩のインナーマッスルのテストで力が入りずらいことや、肩甲骨の安定性も低下。

くわえて上腕の力も筋力テストで低下気味。

また触診にて前腕の筋肉の筋緊張もとても強いことがわかった。

これらの情報から肩よりも「肘に関与する筋肉」を優位に使ってしまい肘の痛みを出現させてしまっていると考えた。

必要なこと

→肩甲骨の機能改善、背中の柔軟性改善、前腕や上腕の筋スパズム解消

左肩

肩のインナーマッスルのテストで力が入りずらいことや、肩の動作時に肩甲骨や背骨の動きが悪いこと、これらを踏まえて肩関節インナーマッスルの低下、肩甲骨の機能低下により腕を上げた際の痛み、可動域制限が出現していると考えた。

※肩甲骨の動きや腕の骨の動きが本来の動きになっておらず、無理やり肩を動かしている状況。

また肩関節の他動運動で腕は180°まで挙がるため、関節拘縮は生じていない可能性が高いと判断。

必要なこと

→肩のインナーマッスル強化、肩甲骨の機能改善、背中の柔軟性改善

治療

1回目

治療内容

トレーニング45分

・肩インナーマッスルトレーニング(棘下筋、棘上筋、肩甲下筋)

・肩甲帯トレーニング(僧帽筋下部)

・ストレッチポールを使用した肩甲骨を動かす体操(※ベーシックセブン)

マッサージ45分

・筋緊張緩和、筋疲労解消目的

(背中、肩甲骨周囲、脇、胸筋、上腕、前腕、手)

初回の治療ということもあり、患部を積極的に動かすことは避けた。(肩や肘の痛みはとてもデリケートで、動かしすぎることで痛みが悪化する可能性があるため)

肩の関節や肘への負担に大きく関与する肩甲骨のコンディションを良くするため、ストレッチポールを使用した肩甲骨のストレッチを入念に行った。

また、マッサージでは痛みの防御反応で硬くなった筋肉を優先的にほぐし、疲労解消も行った。

※左肩は治療後、3方向全て90°→120°まで挙がるようになったが、120°まで挙げると痛み出現

2回目

右肘:NRS⑥→改善傾向。

たまに痛むが日常生活がしやすくなった。

左肩:NRS⑨⑩→変化なし。

まだ日常生活に支障が出ている。

※屈曲90°(前の動き)で痛み

※肩甲骨面100°(斜め前の動き)で痛み

※外転90°(横の動き)で痛み

治療内容

トレーニング45分

・体幹トレーニング(腹筋、臀筋、背筋)

・肩インナーマッスルトレーニング(棘下筋、棘上筋、肩甲下筋)

・肩甲骨パッキング(僧帽筋下部、前鋸筋、大菱形筋、小菱形筋)

マッサージ45分

・筋緊張緩和、筋疲労解消目的

(背中、肩甲骨周囲、脇、胸筋、上腕、前腕、手、腰、臀筋群)

前回の治療にて、右肘は改善がみられたが左肩は改善がみられなかったため、左肩のみの機能ではなく、肩甲骨の動きや体幹機能強化に着目し、トレーニング介入部位を増やした。

右肘は改善がみられたので、前回同様の処置を行った。

今回は肩甲骨の動きが良くなっており、「肩甲骨をいい位置に固定する」肩甲骨パッキングの体操も行えた。

トレーニング後、左腕は175°まで上がった。

まだ痛みは出るものの、どうしようもない痛みではなく、運動療法のみで改善。

運動後は変化があるものの、持続できていないことが大きな問題と捉えた。

痛みの期間が長かった分、肩を動かすことを忘れてしまっている状況だったので、少しでも肩を動かして「動作を思い出す」ことが課題であった。

3回目

右肘:NRS③→改善傾向。

ほぼ気にならなくなった。

左肩:NRS⑤→改善した。

痛む回数は少なくなったが、まだ痛むことはある。

※屈曲90°(前の動き)で痛み

※肩甲骨面100°(斜め前の動き)で痛み

※外転90°(横の動き)で痛み

治療内容

トレーニング45分

・体幹トレーニング(腹筋、臀筋、背筋)

・肩インナーマッスルトレーニング(棘下筋、棘上筋、肩甲下筋)

・肩甲骨パッキング(僧帽筋下部、前鋸筋、大菱形筋、小菱形筋)

・立位で腕を挙げる動作確認

マッサージ45分

・筋緊張緩和、筋疲労解消目的

(背中、肩甲骨周囲、脇、胸筋、上腕、前腕、手、腰、臀筋群)

肘は前回同様改善傾向。このまま治療を進めれば問題なしと判断。

左肩においては、治療後は改善するが1週間経つと動かし方を忘れてしまう傾向がある。

そのため、今回から「立位で腕を挙げる動作確認」を入念に行い、普段の状況に近い環境で運動療法を行った。

運動療法後には痛みなく3方向全部180°挙がった。

コメント

今回のケースは「ほぐし」だけでは改善せず、「運動」が必須の状況でした。

肩や肘の痛みは、多くの場合が「ほぐし」だけでは改善することが難しく、「運動」を行うことで改善傾向となります。

しかし、「運動」をしていても自己流になっていたり、必要な筋肉のトレーニング、正しい動きのための運動ができておらず、なかなか結果が出ないという方は少なくありません。

「体の痛み=運動が必要」という認識はされてきておりますが、本当に必要な運動ができているか、自分自身で確認することは難しいのが現実です。

そのため、Yさまが正しいホームケアを実施してくださったことも、症状改善の大きなポイントだったかと存じます。

また、もう一つのポイントは、2回目の治療段階で変化がない症状(左肩関節)に対して、より広い眼でみて「体幹」を強化したことを大きかったのではないかと考えます。

1度動かせるようになれば、それを繰り返して体に染み込ませることができます。

そのきっかけになったのが「体幹」です。※特に背中と臀筋です。

一見、肩や肘だけの問題に見えますが、それは結果に過ぎません。

原因は離れた部位にもあります。その部分をきちんと改善させたことで「肩関節」や「肘」の痛みが改善することができました。


執筆者:鴻崎 国臣
Kuniomi Kouzaki

早稲田速記医療福祉専門学校 鍼灸医療科卒業
東京女子医科大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修
ハワイ大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師
ストレッチナビ公認ストレッチ専門家コラムニスト

私は小学生のころから肩こり、首こり、頭痛に悩まされてました。
患者さんの症状と似ているので、辛さがとてもよくわかります。
自分自身が辛かったからこそ、「早く治したい」と思いますし、治療で何が必要かも身をもって体感しております。
「予防のための運動、姿勢改善」をして、カラダを変えていきましょう。