概要
運動習慣があって一般の人よりも体を動かすことが多く、筋力も十分にあるにも関わらず慢性的な首や肩のこりにお悩みだった症例
N様 / 東京都在住 / 47歳 / 男性 / 会社員(デスクワーク)
症状
- 右の首〜肩〜肩甲間部にかけてのこり
- 頭痛
状態
7年ほど前から徐々に右の首・肩・肩甲間のあたりにかけてつらくなってきた。ひどい時は頭全体が何かに覆われているような感覚になり、頭頂部の頭痛が出る。
長時間のデスクワーク、その際の姿勢の悪さが原因ではないかと自覚している。
首肩のストレッチをしたり、お風呂などでしっかり温まると少し楽になる。鍼やマッサージの経験はあるが、あまり効果は感じなかった。病院で首肩のこりに対して筋膜リリース注射をした時は少し楽になったが、効果は一時的で、一週間ほどで再びこりを感じるようになってしまった。
趣味はマラソン。毎週ランニングを欠かさず、年に数回フルマラソンやハーフマラソンなどの大会に出場している。
見立て
姿勢は、少し肩が前に出て「巻き肩」の様な状態だが、猫背がひどいわけではない。各関節の可動域は特別低下していることもない。
筋力は全体的にしっかりあるが、相対的にみて大殿筋、腹横筋、脊柱起立筋などの筋肉があまり働いていない状態。
このことから、デスクワークなど長時間同じ姿勢をとらなければならない状況で、僧帽筋などのこりやすい筋肉を使って姿勢を支えようとしてしまっていることが、原因として大きいのではないかと考えた。
また、肩を前に巻いてしまっている筋肉である、大胸筋や広背筋などの筋肉をしっかりとほぐし、胸が開きやすいようにしていくことも重要だろう。
治療
鍼とマッサージを併用し、こりの強い部分である頭半棘筋、板状筋、僧帽筋と、不良姿勢の原因筋である大胸筋、広背筋、胸鎖乳突筋をメインに入念にほぐしていった。
週に1回ペースで治療を続けたところ、順調につらさが減っていき、9回目の治療でNRS 10→1まで楽になった。
※NRS:Numerical Rating Scale。痛みを「0:痛みなし」から「10:これ以上ない痛み」までの11段階に分け、痛みの程度を数字で表す評価方法。
また、上記の対症療法と並行して、大殿筋、腹横筋、脊柱起立筋など姿勢を支えるのに適している筋のトレーニングを行なった。トレーニングは1週や2週に一度の間隔では不十分ため、セルフケアとしてご自宅でも行なっていただいた。
体幹筋力も十分になり、姿勢を維持するために非常に効率の良い身体の使い方ができるようになった。徐々に治療間隔があいてもこりを感じない状態になっていき、1ヶ月半慢性的な肩こりを感じることなくキープできるようになったため、ゴールとなった。
ゴールまでの総治療回数は27回。期間は約1年間。
コメント
運動は定期的に行なっていて、人並み以上に筋力がある方でも、慢性的な首肩こりになることは少なくありません。
N様の場合、全体として筋力は十分にあったのですが、筋力テストで調べてみたところ、相対的にみて大殿筋、腹横筋、脊柱起立筋など体幹の筋力が不足していました。
これらの筋肉は長時間持続的に身体を支えることに適しています。そのため、不足していると僧帽筋などのこりを生じやすい筋肉が過剰に働いてしまい、こりを生じやすい状態となってしまいます。
N様は優先的に使うべき筋肉をトレーニングし、過剰に働きすぎている筋をしっかりとほぐすことによって順調に改善に向かい、ゴールに至ることができました。
また、肩こりの治療は、スポーツの競技力向上においてもつながることがあります。N様の場合、肩こり治療で体幹の筋力向上を行なったことにより、ランニング中の体幹の動きが安定し、フォーム改善にもつながりました。これらによって推進力が強化され、タイムを伸ばすことができました。
肩こりに悩まされなくなったため、今後は趣味のマラソンのパフォーマンスアップを目標にして、さらなるコンデション改善に努めてまいります。
執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama
日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修
鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許
病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。