慢性的な肩こりが4回でゴールに至ったケース|ケースレポート

概要

就職して仕事をするようになってから肩こりに悩むようになった。はじめはマッサージで緩和されていたがだんだんと効果を感じられなくなってしまった。毎日肩こりがつらく、慢性化してしまっている。

S様 / 東京都在住 / 23歳 / 女性 / 事務職

 症状

首から背中にかけての広範囲のこり、痛み

状態

学生時代からバレエ、テニス、アーチェリーなど、様々な運動を行なっており、今までは肩こりとは無縁だった。

大学を卒業・就職し、身体を動かす習慣が少なくなり、デスクワーク中心の生活になった。仕事をはじめて1〜2ヶ月ほど経ってから、首の後ろから肩甲骨の間にかけて、こりや痛みを感じるようになった。

仕事では長時間パソコンと向き合っている。始業してすぐはまだましだが、時間の経過と共にだんだんと首から背中にかけてつらくなり、終業時には痛みに近い状態になってしまう。毎日このようなサイクルが続いている。ストレッチなどで体を動かすと少しは緩和するが、続けても改善はしていない。

だんだんとひどくなってきたので整形外科で診てもらったが特に異常はないと言われた。つらくなったらリラクセーション施設などで、ほぐしてもらうということを続けてきた。

リラクセーションに通い始めたころは施術を受けるとほぐれる感覚があり、ラクになっていたが、通っているうちにだんだんと効果を感じにくくなり、直後もあまり変わらなくなることが増えてきた。最近ではマッサージを受けている時は気持ちが良いが、症状が解消されなくなってきてしまった。

猫背になってパソコンをしているのがいけないと思い、姿勢を正すが、肩こりがラクになる感じがせず、かえって腰が痛くなってしまう。

このまま仕事や日常生活に支障をきたすと感じて治療を検討し、ご来院。鍼の経験はなく、少し恐怖感はあるが、治るならば挑戦してみたい。

見立て

まず、医療機関で異常がないことが確認されており、初診時にも神経症状や他の疾患が想定される症状が見受けられなかったため、病気が元の肩こり・首こりではないということを前提とした。

触診をしたところ、自覚症状のある後頚部 (首の後ろ)から 肩甲骨の内側の筋肉に、著しい過緊張が見受けられた。

全体の筋肉や関節可動域を調べたところ、臀部からハムストリングス(太ももの裏側の筋肉)の緊張が強く、他の関節と比べて、股関節の可動域だけが著しく低いことが判明した。

股関節の可動域が低いと、座っている時に骨盤が後ろに倒れやすく(後傾しやすく)なり、正常な位置に保つことが困難となる。骨盤が後傾位になると、猫背となり、長時間のパソコン作業中に首が前に出た姿勢を続けることになってしまう。姿勢を正すと腰が痛くなってしまうのは、後傾位になっている骨盤を無理に前傾位(骨盤を立たせた状態)にさせようとして、腰に負担がかかってしまっているからと考えられる。

また、上背部の脊柱起立筋、腹横筋、大殿筋の筋力が低く、正しい姿勢を保とうとしても、体幹で支えることができず、首や肩の筋肉を力ませてしまっていることも見受けられた。

このようなことから股関節の関節可動域の低下と体幹筋力の低下により正しい座位姿勢保持が困難になり、首や肩の筋肉に負担をかけてしまっていることが、T様の肩こり・首こりの主な原因ではないかと考えた。

デスクワークによる首肩の負担と症状の程度に関連性があるため、日中の仕事時にいかに首肩への疲労を減らせるかがポイントとなる。

首肩の筋肉個々にアプローチをしてきちんと凝りをほぐして症状の緩和を図ること。そして根本的な改善のためには、ほぐすだけではなく、正しい姿勢を長時間保つための運動療法が重要と見立てた。また仕事環境への工夫により負担軽減も必要であると考えた。

治療

慢性的な症状の解消のために、対症療法として、筋緊張が特に強い首肩の筋肉(頭半棘筋、僧帽筋)に対して3D鍼治療を行い、首肩以外の全身の緊張を緩めるために頭から足までIDマッサージを行った。

原因療法としては、姿勢改善のための運動療法を行った。

運動療法で改善したことは主には以下3点

  1. 座っている際に骨盤を正しい位置で保持できるようにすること。
  2. 首肩ではなく、背中の筋肉で姿勢を維持できるようにすること。
  3. 姿勢維持のために股関節と胸椎(背骨)の可動域改善と背部筋(脊柱起立筋)の強化

この3点を改善するために、ストレッチと自重での筋力トレーニングを行った。

 

1回目の治療で、一番つらい状態から半分以下まで症状の程度が軽減した。NRS 10→4。
※NRS:Numerical Rating Scale。痛みを「0:痛みなし」から「10:これ以上ない痛み」までの11段階に分け、痛みの程度を数字で表す評価方法。

その後、一週間毎に治療を行い、順調に症状の程度が軽減し、4回の治療で常にあった自覚症状が無くなった。NRS 4→0。

4回治療を行い、日常生活に問題を感じなくなったため、T様の意向により肩こり治療はゴールとなり、卒業となった。

 

一ヶ月後、改めてT様から連絡があった。

その後具合は良好だが、今よりも仕事が忙しくなったとしても正しい姿勢をキープできる身体にしたい、そしてバレエ も再開したい、という気持ちになったため、さらなる改善を目指して治療を行いたいとのことだった。

症状がつらいということはないので、今回はトレーニング中心の治療にて再スタートをすることになった。トレーニングは7~10日に一度の頻度で一回30分間、自重負荷を中心とした内容のメニュー行なっている。

日々の生活のなかで肩こり・首こりに悩むことは無くなったが、疲労をためないよう、8週に一度全身のメンテナンス治療を行なっている。

初診から一年が経過した今も、良好な状態をキープしている。バレエ もはじめることができ充実した生活を送ることができている。

コメント

T様はつらい首肩こりに悩まされていましたが、わずか4回の治療でゴールとなりました。通常、慢性の肩こり・首こりでは半年〜1年ほどかけてゴールとなるケースが多いのですが、なぜこんなにも早くゴールに至ったのでしょうか。

T様は、首肩こりが慢性化し始めてから半年以内と早期に来院されました。そのため、ご自覚的にはとてもおつらい状態でしたが、他の慢性例と比較した場合、比較的具合が軽度であり、対症療法として鍼マッサージにて該当する筋肉にきちんと対処することで早期に症状が軽減したと考えられます。

言い換えれば、深層部の「こり」までくまなくほぐせていなかったために、常にこりが残ってしまっている状態になり、症状の慢性化につながってしまっていました。

マッサージで緩和しないほど慢性化してしまっていましたが、発症から早期に治療が開始できたこと、3D鍼治療が著効したこと、この2点が少ない回数でのゴール到達に至った要因であると考えられます。

原因療法として改善すべき関節可動域や筋力といった点では、4回終了時点ではまだ要改善な状態ではありましたが、数回のトレーニングで首肩に負担のかかりにくい身体の使い方のコツを掴めたため、正しい姿勢が身につき、日常生活での負担軽減に結びついたと考えられます。

4回終了時点では、特に原因療法がまだ不完全だったため、当院の定める「ゴール」には至っておりませんでした。ですが、T様にとっての問題だった「慢性的な状態」が解決されたため、ゴールになりました。私たちはこれで良いと考えております。治療は患者さんの抱える「問題」を解決するために行うものですから、ゴールは私たちの定めるものを強要するのではなく、個々によって異なるのが自然です。私たちは一日でも早く、一回でも少ない回数で患者さんにとってのゴールに到達できますよう力を尽くすのみです。

T様におかれましては、さらなる改善のために、一度卒業した後に、再スタートをすることになりました。慢性的な症状が改善し、気持ちも前向きになり、体を動かす意欲も湧いたようで何よりです。

 

 


執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。