頭痛を伴う慢性的な肩こり・首こりに20年以上お悩みのケース|ケースレポート

概要

幼少期から首こり・肩こり、凝りに伴う頭痛に悩んでいて、最近では吐き気を伴うほど頭痛がひどくなってきてしまっている。

H様/ 東京都在住 / 35歳 /女性 / 会社員

症状

肩こり・首こり
首が前に出ている(ストレートネック)
慢性的に上半身の疲労感がある

状態

小学校高学年の頃から20年以上慢性的な肩こりと首こりに悩まされている。

高校生になってからは上半身の疲労感が抜けず、毎朝起きるのがつらい。
学生の頃に鍼治療を受けたことがあるが、楽になるのは一時的だった。

以前から月に1~2回ほど、こめかみの頭痛や、吐き気がすることがある。

ここ数年では、吐き気を催すほどひどい頭痛になってしまうことがある。脳神経外科を受診したところ緊張性頭痛だろうといわれ、痛み止めの処方と凝りをほぐすことを推奨された。

整形外科で、こりがつらい部分に筋膜リリース注射(ハイドロリリース)を受けて少しほぐれた感覚はあったが、翌日には凝りでつらい状態に戻ってしまった。その後何度か受けたが、良くても2〜3日ほどしか効果が持続しなかった。

社会人になってからはたまにヨガやピラティスを受けに行っている。背中の筋肉を使うことで首肩こりが楽になる感覚がある。

見立て

吐き気を催すほどの頭痛が生じる状態だが、脳神経外科を受診して命に関わる状態ではないことが確認されており、首こり・肩こりにおいても整形外科を受診して病気が元ではないことが確認されている。また症状が急激に発症したものではなく、長期的にみて安定しているため、我々の行う治療の適応範疇であると判断した。

触診により、首の筋肉(頭半棘筋、頭板状筋、肩甲挙筋、胸鎖乳突筋)や、肩の筋肉(僧帽筋)に強い緊張がみられた。首肩こりの症状を強く感じる部分と一致しているため、筋緊張が現在の症状を引き起こしている可能性が高い。

頭痛は、緊張性頭痛であると医療機関にて言われており、首肩こりの症状の程度に比例して起こっている。また、本人の自覚として、鍼、マッサージ、運動など血流改善により緩和されることから、首肩、頭の緊張をほぐすことが必要だと考えられる。

全身的に柔軟性に優れているが、脊柱起立筋、腹横筋、大殿筋など、姿勢を保持するための筋力や筋持久力が低く、姿勢が保持できずに背中が丸まりやすくなっていた。

筋力が低いために体幹で姿勢を保つことが困難で、頭の重みを首の筋肉で支えてしまっていることが見受けられた。

このことから、鍼や筋膜リリースなどの対症療法を行うと一時的につらさから解放されるが、首肩に負担がかかりやすい状況は変わらないので、すぐに再発してしまっていると考えられる。

対症療法と並行して筋力トレーニングを行い、姿勢保持に適した筋肉を長時間使えるようにすることで、今までの慢性的な状態から脱却できると考えた。

治療

初期治療

症状の解消に重きを置く治療フェイズ。頻度は5日~7日に一度。

自覚症状の強い部分である首や肩を中心に、全身的に鍼やマッサージを行い入念にほぐした。治療開始してから間もないうちは直後には少しは楽になるが、完全に解消されることはなく、今まで同様一週間ほど経つとこりが元に戻ってしまう状況だった。

当初は細い鍼(0.14mm)を使用していたが、症状の解消進度が緩やかだったため、段階的にやや太めに鍼(0.2mm)を使用するようにした。

また、角度や深さなどを調整して、こりのある部分にピンポイントで刺激を入れることに注力した。特に、仰向けで行なった首の鍼により、最もつらかった首のこりが解消し、首こりの解消に伴い頭の緊張感や頭重感も緩和した。これがきっかけとなり慢性化していた症状の改善につながった。

0.2mmの鍼で首や肩に鍼治療を行うのは、一般例と比べると強めの刺激ではあるが、H様にとっては適切な刺激となり、徐々に症状は下がっていき、105分の治療を6回行い、自覚症状が約8割改善された。NRSが10→2。

※NRS:Numerical Rating Scale。痛みを「0:痛みなし」から「10:これ以上ない痛み」までの11段階に分け、痛みの程度を数字で表す評価方法。

中期治療

原因療法に重きを置く治療フェイズ。頻度は10日〜14日に一度。

正しい姿勢を長時間キープできるように、脊柱起立筋、腹横筋、大殿筋の筋力強化を目的としてトレーニングに重きを置いた治療に移行した。(治療内容の主な配分は、30分の筋力トレーニングと75分の鍼マッサージ治療)

中期治療に移行してはじめのうちは、治療後一週間が経過すると症状が出やすい状態であったが、筋力が向上するにつれて症状を低い水準に維持できるようになり、二週間間隔にしてもNRS 5 以上になることはなくなった。夕方には多少こりが出るが、翌朝にはリセットされるようになった。

筋力トレーニングの内容を適宜アップデートしながら、セルフケアとして自宅でも行なっていただいた。

6回の治療で、H様の自覚として日々の生活で問題を感じなくなり、客観的にも筋力向上と姿勢改善が見受けられたため、治療からの離脱のために後期治療に移行することとした。

後期治療

セルフケアによる自己管理を体得する治療フェイズ。頻度は3週〜8週に一度。

症状を低い水準にコントロールしつつ、筋力強化を継続、3週、4週と徐々に治療の間隔をあけていくようにした。

その間、仕事の忙しさやストレスによって一過性に症状が出ることがあったが、セルフケアでの対処ができるようになってきた。

後期治療4回で、8週あけても悩ましくない状態をキープできるようになり、日常生活に支障をきたさなくなったため、ゴールとなった。

ゴール後も、症状や疲労解消のためのセルフケアだけでなく、筋力維持のための筋力トレーニングも生活習慣にしていただいた。

ゴールしてから6ヶ月後にチェックとメンテナンスを行なったところ、セルフケアが習慣になり、良好な状態を維持できていたため、卒業となった。

治療開始から約1年、計16回の治療でゴールになり、17回の治療で卒業に至った。

コメント

H様と同じように、様々な施術を受けても慢性的な症状が改善しないという方は少なくありません。本件において、転機となったのは、仰向けで行なった首の鍼治療でした。

仰向けで鍼をうつことで、ピンポイントで患部にアプローチをすることができ、慢性化してしまったいた症状が解消され、改善のための良いサイクルをつくることができました。

適切な治療内容は個々によって異なります。一般的にはあまり行わない手法、一般的には強めの刺激、だとしてもH様にとっては「適切な治療」になりました。

肩こりや首こりの治療は、あくまでも自覚症状を改善させることなので、患者さんからの訴えを治療に反映することがとても重要となります。本件は、H様が的確に感想をおっしゃってくださったおかげで、治療者との相互理解が深まり、治療に活かすことがきました。

患者さんにとって適している治療内容(方法や刺激量)や治療計画は個々によって異なるため、治療はそれにフィットさせていくことがとても重要です。

中期治療では、筋力トレーニングを正しくかつ積極的に行えるかどうかが進捗を左右しますが、H様はセルフケアをとても頑張ってくださいました。その甲斐あって、停滞しやすい中期治療をスムーズに進めることができました。計画通りにゴールに至れたのはH 様の頑張りの賜物です。ありがとうございました。

 

 

 


執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。