前回はお尻のトレーニング方法について書かせていただきました。
お尻のトレーニングで一番有名なトレーニング方法はヒップスラストではないでしょうか?
股関節の前にバーベルを乗せて、お尻を高く持ち上げて最大限にお尻を縮ませる。
ヒップアップを目指す方は、一度は行ったことがあるのではないでしょうか?
また、「キング・オブ・エクササイズ」と呼ばれるスクワットは、どんな目的の運動であっても、メニューに入ってくることが多いです。
今回は、日常生活の動きとトレーニング方法を合わせながら両者の違いを見ていきたいと思います。
特に日常生活を楽に送るために必要となる骨盤前傾位の点から見ていきます。
日常生活で必要な骨盤前傾動作について
立位、座位、歩行など、どの場面においても骨盤が前傾位であることでお尻(大殿筋)の筋肉が引き伸ばされて使われる(遠心性収縮)状況になります。
より楽に、体の痛みなく生活を送るためには写真1〜3のような姿勢を自然と作れるようにしていくことが必要です。
写真1

写真2

写真3

骨盤後傾位になると太ももの前(大腿四頭筋)に疲労が溜まりやすくなります。


普段からももの前が疲れてしまう方は骨盤後傾位での動きになっている可能性が高いです。
「長時間歩くとももの前が疲れる」「階段を歩くとももの前がパンパンになる」…そんなお声を聞くことは多々あります。
もちろん、ももの前(大腿四頭筋)を悪者扱いするわけでなく、過剰に使われることが良くない状況を作り出します。
ヒップスラストとスクワットの特徴
ヒップスラストの特徴
ヒップスラストは背中をベンチ台に当てて股関節を曲げた状態から、お尻を持ち上げる運動です。
バーベルを股関節の真上に置くため、常にお尻に負荷がかかり続ける状況を作り出せます。
股関節の角度に影響されることなく、一定の重さの負荷をかけ続けられるという点がヒップスラストの特徴です。
負荷をかけ続けられることは、筋肉を休ませることなくトレーニングし続けられることになります。
身体機能向上という点で考えると、物理的な負荷を与え続けられるエクササイズはとても重要になります。

スクワットの特徴
立位の状態からお尻の上げ下げを繰り返す運動です。
ヒップスラストと違い、股関節の角度によって、お尻への負荷のかかり方が異なります。
下まで降ろした状態の方が、大殿筋には強く引き伸ばされる負荷がかかります。
前回の記事でもご説明したハンモックのような形です。
この局面では重さをしっかりと受け止める必要があるため、強い遠心性収縮がかかります。
この場面の強化が、日常生活で必要な骨盤前傾位には必要だと考えます。

ヒップスラストとスクワットの違い
トレーニング姿位の違い
ヒップスラストは仰向け、スクワットは立位での運動です。
基本的な考え方は、固定点が多い方が安定した状況でのエクササイズが可能です。
両者の固定点を比較した場合はヒップスラストは「足裏と背中」、スクワットは「足裏のみ」のため、ヒップスラストの方が行いやすいと考えられます。
また、スクワットは体幹部をまっすぐ保持する必要があるため難易度は高くなります。
しかし、ヒップスラストの姿勢は日常生活ではあまり見られませんよね。。。
経験したことのない動作は最初はやりにくいものです。
スクワットは日常生活で言えば、しゃがんで立ち上がる動作のため誰しもが経験したことのある動き。
理論では語れない過去の経験が関与する部分なので、試しに行ってみることがおすすめです。
負荷のかかり方の違い
ヒップスラストは体を仰向けにすることで股関節の前から後ろへ負荷をかけ、スクワットは股関節の上から下に負荷をかけることになります。
両者の違いを写真を使いながら以下に説明していきます。
ヒップスラスト


ヒップスラストは股関節の角度に影響されることなく、大殿筋に負荷をかけ続けることができます。
特に、重さをしっかりと上げきる局面(股関節を伸展させる)で、大殿筋を最大限に収縮できることが可能です。
最大限に収縮できる負荷を与えることができることもヒップスラストの特徴です。
注意点は重量が重くなるほど、股関節の動きだけでなく、腰の動きも出やすくなります。
その際に、腰には剪断力(せんだんりょく)という前後に引き裂かれる力が加わるため、腰に違和感や痛みが出ないように行うことが大切です。
スクワット


大殿筋に最も負荷がかかるのは、お尻を一番深く下げた位置になります。
スクワットは股関節の角度によって、大殿筋への負荷が異なってきます。
考え方はテコの原理と同じです。
股関節を支点、バーベルの位置が作用点、大殿筋を力点とします。
スクワットはまっすぐ立った姿勢では股関節とバーベルの位置が近いため、その姿勢を維持するための大殿筋の出力は多くは求められません。
しかし、深く下げた局面では、股関節とバーベルの距離が離れるため、体が前に倒れすぎないようにするために大殿筋の出力(ハンモックのような形の遠心性収縮)が大切になってきます。
そのため、股関節の角度によって負荷が異なってきます。
注意点は重さが増えると背骨を上から下に圧迫する力が生まれます。
不適切なフォームで背骨が圧迫され続けると、腰の筋肉に過度な緊張を生じさせたり、関節由来の腰痛の原因になることがあります。
特に成長期の子どもたちは腰椎分離症の原因にもなるため、トレーニングフォームには注意が必要です。
ヒップスラストとスクワットをどう使い分ける?
日常生活動作の視点で両者を考えてみる
日常生活動作の多くは体をまっすぐに起こした状態での動きなので、スクワットの方がより近い動きとなります。
座る、立ち上がる、歩くなど、どの動作をみても骨盤前傾位での動きが効率の良い動作を作ります。
ヒップスラストもバーベルを下ろす時には骨盤が前傾するのですが、背中が固定されているという点で日常生活動作とは少し異なると捉えました。
スクワット動作で大殿筋を鍛えていくことは、日常生活動作の質の向上に直結しやすいと考えています。
筋肉への負荷の視点で両者を考えてみる
どちらも大殿筋を鍛えるためにはとても良い種目であることは間違いないのですが、ここではヒップスラストの最大収縮を取り上げてみます。
この最大収縮はスクワットでは得られにくいものです。
最大収縮を求められる場面は日常生活動作では少ないですが、スポーツ動作などでの爆発的な力発揮の際には重要になってきます。
具体的にはダッシュ、ジャンプ、切り返し動作などが挙げられます。
常に負荷を与え続けられる、最大収縮の部分で利点のあるヒップスラストは、アスリートや筋肉を鍛えたいトレーニーの方にはおすすめのメニューです。
まとめ
ヒップスラストとスクワットの違いについて説明していきました。
どちらが良い悪いの問題ではなく、種目の特徴と注意点を理解して、目の前の方に適した種目をご提案できることが重要だと考えます。
ヒップスラストが日常生活動作に似ていないからやらなくて良いというわけではなく、ヒップスラストの恩恵を受けることで、ご自身の体のキャパシティが向上し、日常生活を快適に過ごせることにもつながります。
また、「運動の多様性」という観点を含めて考えると、多種多様な運動を行うことで筋力アップにつながり、体のコントロールがしやすくなります。
その結果として、生活が快適になることが考えられます。
ヒップスラスト、スクワットどちらも試してみてください。

執筆者:進藤 孝大
Takahiro Shindo
湘南医療福祉専門学校 アスレティックトレーナー科卒業
東京衛生学園専門学校 東洋医療総合学科卒業
鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)
A-Yoga Movement coach
目の前にいる人の体のお悩み解決に全力を尽くす。
その想いだけで活動してまいりました。
スポーツトレーナーとして培ってきたノウハウと経験を活かして、
運動療法と鍼灸マッサージを組み合わせた治療を提案。
ご自身に合った適切なケア方法等、皆様のお悩み解決に向けて徹底サポートを行います。