東洋医学を全否定しているわけではございません
メンタル面にも耳を傾け、西洋医学的な検査値に出ない領域を取り扱うことができるということは患者さんにとって有益なことです。 しかし反面、東洋医学の施術者はそれを美化しすぎて“東洋の神秘”に自らが酔いしれ、思考にバイアスがかかってしまっている傾向があるという現実問題があります。
西洋医学には限界がある
西洋医学の医療従事者は事象を全て解決できるとは考えていません。なぜなら、限界が存在するということを理解しているためです。その限界を超えるために日々世界中で研究が続けられています。
西洋医学では無理なものは無理という考えですから、病院にいくら通ってもダメ、病院を転々としてもダメといった方にとっては、東洋医学がフィットする可能性はあるわけです。実際に治るかどうかは別として希望はもてます。
治るかもしれない、治したい、という気持ちは本当に大切です。希望が持てるということは素晴らしいことです。
西洋医学では治らない病が「治った」を「治せる」と言い換える
ですが、その気持ちを利用するだけ利用しいているようにしか見えないのが 「諸悪の根源は〇〇・・・」「〇〇で万病の元を改善・・・」などといった考え方です。東洋医学の施術者は、ベテランになるにつれて全てを東洋医学で解決させる思考形態となる人が多く、これが問題なのです。
東洋医学とは医学という名前ですが、あくまで「思想」であり「考え方」なのです。 物事の真理をつくような表現が多いので、あまり深掘りしなければもっともらしくて聞こえが良いですが、実は、うまく辻褄が合うように後付けで理論建てられているという裏事情があります。
こういったことから、救われる(救われた気になる)人はいらっしゃいます。残念ながら、本当につらく、症状にお困りで治したいと強く願う患者さんが、根拠のないふれこみに右往左往してしまう方の方が、救われる人よりも多いはずです。
西洋医学は“生命をできるだけ高確率で確保する”ということを第一優先として発達してきました。そのため客観性・再現性が求められ、西洋医学的な根拠がAという事象にあれば、それに対しては一定の効果が期待できるわけです。
東洋医学は“やってみなければわからない”、“やってみてダメでもごめんなさいで済まされる”、“たまたま効果があっても東洋医学の美談とされる”ことが本当に多いのです。肩こり・首こりなどの悩みがある方は国内で約1200万人にものぼると言われてます。そして肩や首のこりというのは、整形外科的な診断で異常無しとされます。そのうちどれだけの人が病院以外で治療を考えるかはわかりませんが、少なくとも数十万人という大勢の方が東洋医学のもとで治そうとしているでしょう。
100年に一人くらいは触っただけ、見ただけでその人の状態がわかってしまうような能力を持っている方が現れるかもしれませんが、毎年3000人以上輩出される鍼灸師・あんま指圧マッサージ師がそうであるとは到底考えられません。
このように東洋医学は上記に示したような現状であるが故に、非常に多くの方が迷走してしまっています。私は、東洋医学(鍼灸・マッサージ)にも客観性や再現性が絶対に必要であると強く主張します。
医学は日々進歩しています。今まで正しいとされてきた治療が実は間違っていたということもあります。東洋医学もそうあるべきではないでしょうか。
もちろん、治すという信念をもって、本当にまじめに取り組んでおられる東洋医学のセラピストもたくさんいらっしゃるとは思います。常に現状に満足せず本気で治す信念をもち続ける人が増えれば、きっと東洋医学は時代にあった新しい形へと昇華するはずです。
医学的根拠のある鍼(ハリ)とは
鍼は神々しいものではありません。鍼は機械的刺激を用いた物理療法の1つの手段でしかありません。
鍼の刺すことで起こる生体の反応は限られています。
- 鍼を刺した部分の筋肉が弛緩する
現時点では動物実験による文献のみ [文献1、2]
- 鍼を刺した部分に軸索反射が起こり、血流が増加する
[文献3]
- 中枢神経系からモルヒネ様物質(エンドルフィン等)が分泌され、鎮痛作用が生じる
ただし手術ができるほどではない [文献4、5、8]
- 体性-自律神経反射により自律神経系に影響を与える
[文献6]
現時点で鍼を刺すことでえられる人体の反応は以上4点です。
(現時点としたのは、鍼灸の科学的研究は始まったばかりなので、未だわかっていないことが多いからです)
繰り返しますが、鍼灸・マッサージはあくまで物理療法の一部分です。適応範囲は極々限られています。
患者さんが抱えていらっしゃる症状の原因を探り、その原因と上記の効能が合致した場合のみ施術を行います。これが西洋医学・現代医学的な考え方です。
西洋医学では、たとえ治療を受けにいらしたとしても適用範囲外であれば“治療しない”という選択肢があります。これは当然のはずなのですが、世の多くの東洋医学ではこの当然のことがなされておりません。
そのため「改善する(かもしれない)」というレベルでとりあえず試してみましょうが平気で行われ、藁にもすがる思いの患者さんが裏切られ失望する、という図式ができあがっております。
このように、医学的根拠(EBM)に基づいた施術に限定して行うことで、施術を受けていただいた患者さんには再現性のある一定の効果をご自覚いただくことが可能となります。
そもそも「痛み」「コリ感」は自覚症状であるため、客観化することが非常に困難です。しかしだからといって施術者の経験や勘など主観に頼るばかりが医学ではないはずです。主観と客観を常に交互に繰り返すことが絶対に必要です。
ここまでお読みいただいた方でしたら、肩こりラボは西洋医学的な根拠(EBM)に基づく鍼灸・マッサージを行っており、世間一般的な鍼灸・マッサージ院とは違うということがきっとご理解いただけたと思います。
[参考文献URL]
- The local mechanism of acupuncture.(PMID:12365644)
- Western medical acupuncture: a definition
- Acupuncture Analgesia: I. The Scientific Basis
- Acupuncture mechanisms for clinically relevant long-term effects – reconsideration and a hypothesis
- Effect of sensory stimulation (acupuncture) on sympathetic and parasympathetic activities in healthy subjects
[参考]
- 用語はWikipediaを参照させていただきました
- 財団法人東洋療法研修試験財団
執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama
日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修
鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許
病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。