病院での四十肩・五十肩の治療法「サイレント・マニピュレーション」「運動器カテーテル治療」 ~五十肩の痛みに耐えられない方に知っておいてもらいたいこと

四十肩・五十肩といった呼び方がございますが、この記事では医療機関で肩関節周囲炎と診断される症状を「五十肩」という表記で統一しています。ご自身の年齢と症状から自己判断で五十肩と思い込むのは危険です。特に中高年に多いのが肩の「腱板断裂」。まず、整形外科できちんと検査を受けましょう。

 

この記事は、整形外科で【肩関節周囲炎】と診断されて治療方法についてお悩みの方、そしてこれから病院を受診される予定で【肩関節周囲炎】と診断された場合を想定されている方のための情報です。

五十肩治療法のひとつ「サイレント・マニピュレーション」とは?

サイレント・マニピュレーションは、城東整形外科(秋田県秋田市)診療部長の皆川洋至先生が考案された治療法です。以前から行われていた全身麻酔による手技を改良したものとのことです。

具体的にどのような治療法かといいますと、エコーを見ながら、肩関節支配の第5、第6頚神経根周囲に麻酔薬を注入(神経ブロック)した上で、上肢を動かし、硬くなった関節包を徒手的に破断させ、拘縮を解除する方法です。

・・・難しいですね。

要点は「全身麻酔による従来の方法よりも簡便でかつ安全に行える治療方法」だということです。

その具体的な施術内容は、痛くて動かせない肩へ局所麻酔を行い、動かせるようにし、徒手的に悪さをしている関節包を破壊する、という技です。

麻酔を行っているので痛みは無く、かつ日帰り手術で行えることから患者さんにかかる負担が大幅に軽減されるそうです。

以下のようなデータがあり、難治例には良い結果が出ています。

施術1週間後に、夜間痛、安静時痛、運動時痛がいずれも減少することを確認しています

肩関節の挙上角度、外旋角度も授動術直後から改善し、1週間後、1カ月後も維持されたようです。

この結果だけ見れば素晴らしい技術です。

凍結肩で苦しんでいる患者さんにとって、希望の光が見える治療方法です。

もし筆者自身が凍結肩(五十肩)になったとして、関節包を破断する治療を受けるかと問われれば・・・私は受けません。

というのは、内視鏡手術においてもですが、関節包を破断してしまうというマイナス点は無視できないためです。

「あなたは五十肩の痛みを経験したことが無いからそんなことが言えるんだ!」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

クスリはみな副作用があります。良い効果もあれば悪い効果もあります。手術も同様です。

日々、五十肩治療に携わっている筆者の「ひとつの考え方」として、以下を読み進めていただければ幸いです。

関節包を破断するということはどういうことなのか?

関節包とはどういうものなのでしょう。

関節包の詳しい説明は、関節包の構造と不動の変化 理学療法の評価と治療 より以下に引用させていただきます。

関節包とは

骨と骨の継ぎ目を関節と呼ぶがこの関節を補強しているものの一つに関節包がある。 関節可動域の制限は骨格筋の影響の他にこの関節包の影響も大きい。

では関節包とは一体どういったものなのだろうか。

関節包は内層と外層に分類され内層は疎性結合組織で滑膜という滑液を分泌する部分がある。滑液は摩擦の軽減と軟骨の影響を与えている。 また外層は密性結合組織で線維膜になる。自由神経終末のほかに、機械受容器であるルフィ二小体、パチニ小体、ゴルジ腱器官が存在する。これら内外層の主成分になるのはコラーゲンとなる。 関節が不動であると関節包はGAG、ヒアルロン酸、水分量の低下を生じる。それにより関節包は滑膜の癒着や線維化が生じ、可動域制限の原因となりうる。 関節包は関節にとっての機能を発揮する重要な部分である。不動による機能低下を生じないことと、不動を生じさせた場合は早期に可動性を改善するようアプローチをする必要性がある。

関節包の構造と不動の変化 理学療法の評価と治療

要点をまとめると、

1)関節包は、本来構造上不安定ではずれやすい肩関節が容易に脱臼しないように、関節を安定させるための重要な組織である

2)関節包には肩の角度やおかれている状況をキャッチして自動的に修正するためのセンサーがたくさん存在する

ということです。

つまり、脱臼しないであらゆる角度に自由自在に動く、痛みのない正常な肩関節において関節包は必要不可欠なものです。

関節包が無い、あるいは機能していない状況となれば肩関節は脱臼してしまう可能性が高まります。

また、センサーが機能していなければ動きのエラーを修正できず、その結果関節が正しく滑らかな動きができなくなり、周辺の組織へ刺激が生じ、それが長期化することにより骨の変形やインピンジメント症候群、広義の五十肩として二次的な痛みを抱えることとなりかねません。

極論、破断した関節包を縫合する手術は可能ですが、センサーを一度破壊してしまうとIPS細胞が実用化されないかぎり二度と復活させることはできません。

一説によると「一般的に40歳前であれば関節包が破れると肩脱臼が生じやすくなるが、40歳を超えると筋肉が硬くなり、筋肉の固さに守られるようになるので、関節包を破断しても肩脱臼は生じにくくなる」とのことですが、筋肉(腱板=インナーマッスル)が硬くなることによっても正常な関節運動は不可能となってしまいます。

また、正常な関節動作にはセンサーが誤作動をキャッチして修正する機能が不可欠です。これが機能していなければ、たとえ五十肩の症状がなくなったとしても間違った動作を修正できていない状態です。知らず知らずのうちにダメージが蓄積されていきます。やがて再発を引き起こすトリガーになる可能性があります。

以上のことから、関節包を破断することには中~長期的なリスクも伴う というということを覚悟する必要があります。(関節包の機能については下記文献1を参考とさせていただきました)

そして、以下のような指摘もあります。

獨協医大整形外科教授の玉井和哉氏はサイレント・マニピュレーションについて、「早く治すことができ、かつ安全な治療法であれば、素晴らしいと思う」と前置きした上で、「ただし、現時点ではエビデンスは不足しており、評価できない」と語る。

また、炎症が強い時期に関節包を破断することの安全性は不明という。玉井氏によると、授動術はあくまで、疼痛が弱まり拘縮が進行した慢性期の治療との認識だ。

“五十肩”治療に新風 凍結肩を20分程度の外来治療で治す 神経ブロック下授動術で患者のQOLを改善 日経メディカル

一般的に五十肩(=凍結肩=癒着性関節包炎)は放置していても、とりあえずは治るとされています。これは単純に痛みが引く=治る、という誤った認識が一般的になっているためです。治療する側・薬をつくる側もそれにあわせてしまっています。

それでは「今の痛み・動きにくさを何とかしてほしい」という患者さんのニーズには応えることはできません。特に「“今ある痛み”を何とかしたい!」というのが患者さんの一番の願いでしょう。

痛みは患者さんの生活を左右します。慢性的な痛みにより、うつなど精神症状へつながることもしばしばあります。

サイレント・マニピュレーションはどうにもならない痛みに苦しむ患者さんを少しでも救いたい、一刻も早く痛みから解放したい、という信念から生まれた技術だと思います。

考え方は様々ではありますが、当院の考えとしては

  • 五十肩に対しての治療は「今ある痛みをどうにかする」ということももちろん大切でだが、関節包を破壊する治療にはそれなりのリスクも存在するということを受ける側が納得するよう説明する必要がある。
  • 「どうにもならない痛み」となる前にケアをきちんと行っていれば、100%ではないが予防・悪化防止にはなる。常日頃から首・肩・肩甲骨のコンデションを整えておくことが大切である。
  • マニュアル的な治療を続けて改善しなくても、病期に合わせた適切な治療を行うことにより病状が急速に良い方向へ転じることがしばしばある。関節包を破壊する治療は本当に最終手段である。

このように考えております。

五十肩の痛みが消えた!!「運動器カテーテル治療」

難治性の肘、肩、膝などの関節痛に対して有効とされる画期的な方法で「運動器カテーテル治療」があります。OKUNOクリニックの奥野先生が考案した「血管」に着目した新しい方法です。近い将来、痛みの治療のスタンダードになると期待しています。

痛みと血管の関係については、当院でも注目しており治療にも取り入れています。

詳しくは別記事にしてますので是非そちらも読んでいただけたら幸いです。

モヤモヤ血管(新生血管)について

五十肩の治療は、痛みをとることと正常に肩関節が動くようにすることの2つが必要です。当院でも、運動器カテーテル治療を受けた方の治療を行うことがありますが、治療がスピードアップし想定よりも早く完治までたどり着けました。

五十肩の痛みに対して万能ではない

ただ、すべての方に対して有効だったわけではございません。運動器カテーテル治療の効果が全くなかったので来院されたというケースもございました。当たり前のことですがモヤモヤ血管の存在が全てではありません。

冒頭でも申し上げましたとおり、そもそも本当に五十肩なのか?という問題があります。五十肩だと思い込み痛みを取る治療を受けても五十肩は当然治りません。

当院では、モヤモヤ血管が主な原因と予想され、早期解決を望まれる方に対してのみ運動器カテーテル治療を提案させていただいております。ただ、五十肩治療は運動療法が基本です。痛くて何もできない、それを解決するひとつの手段が運動器カテーテル治療であり、痛みをとった後が五十肩治療の本番です。

五十肩の治療にはどうしても時間・回数が必要です。五十肩のつらい症状をまずなんとかするという治療のファーストステップがクリアできれば運動療法は捗ります。当院では、より効率のよい運動療法としてパワープレートを使った治療を取り入れています。

五十肩の治療として考えた時、鍼灸・マッサージは何に有効なのか?

当ブログの趣旨としまして、鍼灸・マッサージを啓蒙、広告することを目的としておりません。

肩こり・首こり含め、五十肩は整形外科に行っても良くならないから鍼灸・マッサージを行うという方は多いです。だからといって全て鍼灸・マッサージが適応となり、効果が期待できるというわけではありません。

こと、五十肩に対する鍼灸・マッサージは、急性期の終盤以降の「何もしなくても痛い・痛くて夜起きてしまうという状態はやわらいできたが、まだ痛くて動かすことができない」「リハビリをしても一向に良くならない」「骨に異常がないのに肩が痛い」という状態の方に対して有効な手段であるといえます。

東洋医学は西洋医学で不可能なことを可能にするというのは大きな間違い

鍼灸・マッサージというと東洋医学と認識されると思います。

一般的には「東洋医学は西洋医学で不可能とされたことを解決できる」と解釈されることが多いですが、これは大きな間違いです。

西洋医学的な検査値として出ないもの・出にくいもの(筋肉・神経など)に対してアプローチが可能ということを拡大解釈しているにすぎません。

100%完璧な治療は存在しません。患者さんはメリット、デメリットふまえて十分に考慮して治療を選択する必要があるのではないでしょうか。偏りのない情報を得て自ら判断する必要がありそうです。

二週間以上続く原因がよくわからない肩の痛みにお悩みの場合には、広義の五十肩か狭義の五十肩か、はたまた別なのか、しっかりと鑑別できる専門家へ相談するのがベストです。

 

肩こりラボでの四十肩・五十肩の治療につきまして

 

 

参考文献

[文献1] 肩 関節 の安 定 化 機構 https://www.jstage.jst.go.jp/article/katakansetsu1977/15/1/15_13/_pdf

[文献2]五十肩の管理:系統的レビューと意思決定分析モデルhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedhealth/PMH0047042/

参考URL

日経BP

http://www.nikkeibp.co.jp/article/news/20130813/361396/?rt=nocnt

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。