肩こりの定義

※画像を日本整形外科学会ホームページから引用させていただきました

 

本稿では、肩こりを論じる上で、前提となる肩こりの定義についてご説明していきます。

 

日本整形外科学会ホームページによると「肩こりの症状」として以下のように記されています。

首すじ、首のつけ根から、肩または背中にかけて張った、凝った、痛いなどの感じがし、頭痛や吐き気を伴うことがあります。

肩こりに関係する筋肉はいろいろありますが、首の後ろから肩、背中にかけて張っている僧帽筋という幅広い筋肉がその中心になります。

 

 

次に、医学生の教科書として用いられている標準医学シリーズの標準整形外科学 医学書院 を開いてみます。標準整形外科学には以下のように記されています。

肩こりについての明確な定義はなされていないが、後頚部から肩および肩甲背部にかけての筋肉の緊張感や疲労感などの一種の不快感、違和感、鈍痛などの症状と考えられる。     出典 標準整形外科学 医学書院

一般的ではない表現があるので説明しますね。

「後頚部(こうけいぶ)」は、首の後ろ側のことです。

「肩甲背部(けんこうはいぶ)」は、肩甲骨を含めた背中のことで比較的広い領域のことです。

簡単にいいますと「首・肩・肩甲骨まわりの筋肉の不快感、違和感、鈍痛などの症状」となります。

 

 

一方、医学大辞典 医学書院にも、このように記されています。

原因を問わず、僧帽筋を中心とした肩甲帯筋群のうっ血・浮腫により生じた同部のこり、はり、こわばり、重圧感、痛みなどの総称           出典 医学大辞典 医学書院

 

 

以上をふまえまして肩こりの定義を現代医学的な観点からまとめますと、

肩こりとは、検査所見や原因によって規定される明確な定義はなく、原因は問わず、首肩から肩甲骨周囲にかけての不快な自覚症状

となります。

 

原因は問わない=複数ある という点からすると、肩こりは「症候群」であるともいえますね。

尚、上述しましたように首の筋肉の過緊張や不快感も含めて肩こりと考えられるため、ここから先は、首こりや肩甲骨こりも含めて「肩こり」と表記させていただきます。

 

 

さて、以上の現代医学的な肩こりの定義をふまえまして、肩こりを考えるにあたって重要なポイントが二つあります。

 

一つ目は、原因は一つではないということです。

世の中には「肩こりの原因は◯◯」というようなキャッチーな言い回しが溢れていますが、肩こりにおいては「インフルエンザの原因はインフルエンザウイルスに感染すること」というような因果関係がはっきりしたものはありません。

「肩こりの原因は●●である」と、一つに限定できないのです。

肩こりを引き起こしている原因が一つの方もいますが、複数ある方もいます。大切なのは個々によって異なるということです。肩こりの原因は様々あるというのが大前提となります。

ですから、首肩の筋肉が血行不良を起こして不快感が生じるのも肩こりですし、首肩周辺の筋肉の筋膜の状態が低下し、周囲の筋膜との動きが制限されてしまっている(癒着)状態で不快感が生じるのも肩こりなのです。

 

 

二つ目は、自覚症状であるということです。

たとえば、自覚症状は無くとも、美容院や理容室で肩を揉まれ「肩凝っていますね」と言われた記憶はありませんか。

実際当院にも「自覚はないけど触られて肩が硬くて、肩こりだと言われたから治療してほしい」という方がご相談にいらっしゃいます。

肩こりはあくまでも、自覚症状です。

ですから、自覚的な症状が無ければ、それは肩こりではありません。肩こりは人から認定されるものではなく、あくまでも自覚するものです。

 

ただし、肩こりではなかった(症状を自覚していなかった)としても、異常がないかというとそれは必ずしもそうではありません。

筋肉は一定の緊張感を保ちながら伸び縮みすることが正常な機能ですから、縮こまって硬直している状態が続くというのは、正しい機能が失われてしまっているかもしれません。

すると今現在は症状としての自覚的な問題が生じていなかったとしても、機能が低下した状態が続くことで、それを補うためにどこかに皺寄せがいき、それが反復継続的に行われることでどこかに障害が生まれ、痛みが出てしまう可能性があります。

 

一例をあげますね。

僧帽筋の上部は、肩こりで凝り固まってつらくなる代表的な筋肉です。肩こりといえば僧帽筋というイメージをお持ちの方もいらっしゃると思いますが、解剖学に精通していなかったとしても僧帽筋をご存知という方は少なくないでしょう。

肩関節の動きは、インナーマッスルとアウターマッスルのバランス、肩甲骨周囲の筋力バランスや使い方、肩こりでつらくなりやすい僧帽筋の上部が硬直すると、肩関節の動きを妨げてしまいます。

僧帽筋上部が過緊張状態になり、優先的に働いてしまうことで、ぎこちない動きになります。(ほとんどの方は自覚できないレベルのぎこちなさです)

このようなアンバランスな状態が継続することで、負担が蓄積し、肩関節に炎症が生じてしまうということはめずらしいことではありません。

原因不明の慢性的な肩関節痛を引き起こしている原因のひとつが肩こりだったということは珍しいことではないのです。

 

まとめ

虫歯でなければ虫歯の治療はしません。でも歯の汚れなど口腔内環境の低下が継続することで虫歯になり得るため、日々セルフケアとして歯みがきをしますし、定期的に歯科を受診してクリーニングを行うでしょう。

ですので、自覚症状がなければそれは肩こりではないので肩こりの治療は必要ありません。

ただし、虫歯じゃないから歯磨きをしなくていいというわけでないように、異常な状態にならないための対処・セルフケアはすべきです。

具体的には、筋肉の硬直の改善、関節可動域の改善、筋力向上、運動習慣の確立等、筋肉の状態を改善させるために何らかの対処をすることをお勧めいたします。

 

— 続く—

 

 

肩こりラボは、真面目に、世の中から肩こりでお悩みの方を無くしたいと考え、日々活動しています。

 

 

この記事を書いた人

丸山太地

肩こりラボ鍼灸マッサージ院代表。日本大学文理学部体育学科にてスポーツ医学を学び、在学中よりトレーナーとして活動。東京医療専門学校にて国家資格を取得。上海中医薬大学へ留学、解剖学実習修了。人体の構造を理解するために、日本大学医学部、千葉大学医学部の解剖学教室にて人体解剖について学ぶ。 <資格>鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師/厚労省認定臨床実習指導者/NSCA-CSCS/日本体育協会認定 スポーツリーダー/中学・高校保健体育教員免許/パワープレート認定トレーナー