「肩こりは血行不良が原因」と聞いたことがあるという方は少なくないでしょう。
たしかに一部の肩こりは血行不良が原因となっている場合があります。この場合は、原因である血行不良を改善したら、結果である「肩こり」という症状も改善されます。
ところが血行を改善してもラクにならない肩こりや、温めている時はいいけれど、すぐに戻ってしまう肩こりもあります。この場合は、血行不良が原因とはいえないでしょう。
ですので、肩こりの原因は血行不良であるという説は間違いではありませんが、血行を改善しても改善しない肩こりがあるように、すべての肩こりが血行不良が原因となっているわけではないのです。
医学的には、肩こりは、その原因ごとに大きく二つに分類されます。症候性肩こりと本態性肩こりです。
症候性肩こり
医学的に診断がつく病気が元で、その症状として首や肩の凝りが生じるものを症候性肩こりといいます。よくテレビなどで紹介される「肩こりだと思ったら怖い病気だった」というパターンの肩こりです。
症候性肩こりの原因は、現代医学的に病名がつく疾患で、様々あります。
原因となる疾患は、たとえば、椎間板ヘルニア変形性頚椎症といった頚椎疾患、胸郭出口症候群、四十肩・五十肩やインピンジメント症候群といった肩関節疾患などの整形外科領域だけでなく、肺疾患や心疾患などの内科・外科領域もあます。
また、頚部の緊張を促しやすい耳鼻咽喉科領域(メニエール病、慢性鼻炎 等)、眼科領域(視力障害、眼精疲労 等)、歯科領域(虫歯、歯槽膿漏、顎関節症 等) の疾患に由来する肩こりもあります。
さらに、自立神経や免疫系の過敏状態を招きやすい精神神経科領域の疾患に由来する場合もあります。
たとえば、うつ病の症状として肩こりがある場合と、ひどい肩こりによってうつ病様の症状が出る場合がありますが、両者は異なるものです。前者は、うつ病の治療が必要ですが、後者は肩こりの治療が必要となります。これらは厳密に区切ることは難しいですが、それぞれにマッチした対処が必要となります。
症候性肩こりは、病気が元になっているわけなので、凝りの症状を引き起こしている病気の治療をすることが肩こり解消につながります。そのため基本的には病院で治療することになります。
(実際には、症候性肩こりの方の場合も、本態性の要素も含まれている場合が多く、病院で病気の治療や管理をしながら、当院での治療を併用している方が多いです)
本態性肩こり
一方、病気が元になっていない肩こりを総称して本態性肩こりといいます。「本態性」という聞き慣れない言葉がついていますが、多くの方がご想像する、一般的にいう「肩こり」とは、この本態性肩こりのことを指します。
辞書で「本態性」の意味を調べてみると『医学で、ある症状・疾患は存在するが、その原因が明らかでないものであること』と記されています。
また、定義の説明の際に引用元とした医学生の教科書である標準整形外科には、本態性肩こりは「原因不詳」と記載されています。
原因不詳、つまり、現代医学的な検査所見で目立った異常が見受けられないが、
” 後頚部から肩および肩甲背部にかけての筋肉の緊張感や疲労感などの一種の不快感、違和感、鈍痛などの症状 出典 標準整形外科学 医学書院 ”
がある場合に、本態性肩こりとなります。
現代医学的な検査所見で目立った異常が見受けられないため「原因不詳」とされているのです。
とはいえ、何らかの原因がなければ症状は生じないはずです。
次回は、多くの方が該当する本態性肩こりの原因について掘り下げて解説します。
執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama
日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修
鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許
病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。