快適さだけで選んでは危険!?整形外科医が推奨する枕の選び方とは

快適さだけで選んでは危険!?整形外科医が推奨する枕の選び方とは


はじめに

今日 たくさんの快眠グッヅや寝具が販売され、ネットでは枕選びのコツや睡眠コラムなど様々な情報が溢れています。「人生の3分の1は睡眠」という言葉が浸透しているように、それほどまでに現代人は「睡眠の質」に対する関心が高まってると言えるでしょう。

 

寝具を新調する際、多くの方は長い目でより自分に合ったものを選びたいと考えるのではないでしょうか。

枕ひとつをとってみても、安価なものから数万円するもの、素材も形状も多種多様です。

 

個人個人の体格差や骨格の違いなどを考慮した最適な枕を使用しないと睡眠の質は落ちるどころか、首肩こりの原因にもなりうる枕選び。

 

今回はさまざまな睡眠の研究をもとに整形外科学的に推奨される「枕選び」をご紹介いたします。

 

良質な睡眠の定義

そもそも、良い睡眠とはどういう睡眠を指すの?

 

2020年11月より厚労省の掲げる健康寿命の延伸を目指すプロジェクト「睡眠の質を上げてカラダもココロも健やかに」特設Webコンテンツが公開されています。

その中にも掲載されている、睡眠の質の向上について具体的な実践を進めていく手だてとして策定された「健康づくりのための睡眠指針2014」によると、

個人差はあるものの、必要な睡眠時間は 6 時間以上 8 時間未満のあたりにあると考える のが妥当でしょう。睡眠時間と生活習慣病やうつ病との関係などからもいえることですが、 必要な睡眠時間以上に長く睡眠をとったからといって、健康になるわけではありません。 年をとると、睡眠時間が少し短くなることは自然であることと、日中の眠気で困らない程度の自然な睡眠が一番であるということを知っておくとよいしょう。

 出典 厚生労働省健康局 健康づくりのための睡眠指針 2014

 

と記載されています。

 

つまり、必要な睡眠時間は約7時間前後ではありますが、時間にこだわらず、日中の眠気で困らない睡眠を確保することが大切なのです。

 

短い睡眠時間しか確保できないという方こそ、良い睡眠(=日中に眠気で困らない睡眠)を得るために、個人に合った寝具選びは非常に重要になってきます。

 

さまざまな寝具の研究の問題点

寝姿勢は何度も変化するもの

さまざまな、商品のPR広告やHPをみると どれも良さそうに見えますよね。

 

そこで注意してみていただきたいポイントがひとつあります。

それは、「枕が首のカーブにフィットする」や「頭の重みを分散する」など、寝姿勢を静止した状態として捉えている商品です。

 

人は夜中に 何度も何度も寝返りを打ちます。

朝、寝た時と同じ体勢で起きるという方も、全く寝返りを打っていないという人はいないのです。そういう方は、目覚めた時が たまたま、入眠姿勢だったということになります。

 

一晩にする寝返りの回数ってご存知ですか?

男女17人(平均年齢42.5歳、男性9人 女性8人)の6時間の睡眠をビデオ解析した研究によると平均寝返り回数は、頭のみ:平均24回、体のみ:平均16回、頭と体同時:平均15回という研究結果が出ております。

 

また寝返りをうつ時間間隔は、頭:平均15分ごと、体:平均23分ごととの結果が出ており、いかに高頻度で頭や顔の向き、体勢を変えているかがわかります。

 

つまり、頭に関しては15分おきに枕との接する面や 首の角度も変化しているのです。

 

寝姿勢を静止状態のみで捉えることはナンセンスと言えることがお分かりいただけましたでしょうか。

 

寝返りのしやすさが鍵となる理由

頚椎(首の骨)は、頭部と体幹部を連結するという役割を担うゆえに、わずかな変化にも異常を自覚し防御する機構が備わってます。

 

ですので、市販されている枕にみる 柔らかさや気持ちよさといった感触を重視しすぎることは、頚椎に悪影響を与えうるという報告もあります。

 

 

次にご紹介する正しい枕選びは、個人差のある骨格を考慮しつつ寝返りも加味した枕の高さを調整できる方法です。

 

ただし、こちらの計測方法は医師による外来で計測する方法となりますのでご自身の正確な数値をお知りになりたいという方は是非URLから飛んでみて下さい。

 

整形外科学からみた正しい枕えらび

SSS(Set-up for Spinal Sleep)

こちらの枕の計測方法は枕と睡眠分野を専門とする整形外科医、山田朱織医師により提唱されたものです。

 

山田医師は2002年より整形外科の診察として特殊外来「枕外来」を開設され、2003年より睡眠姿勢の研究およびオーダーメイド枕の整形外科枕開発のため「山田朱織枕研究所」を設立されております。

 

SSS(Set-up for Spinal Sleep)法は山田朱織枕研究所の特許に基づく計測方法です。(特許第4024152号)

 

枕の3大条件

山田朱織枕研究所が推奨する「枕の3大条件」は、以下となります。

 

第1は体格に適合した枕の高さである。仰臥位と側臥位の両方に適合する1つの高さを決定する。第2は決定した高さが終夜使用中に5mm以上変化しない適度な硬さである。第3は体格変化や加齢に伴い適宜再調整を行う

出典 2015年06月号(58巻07号)整形・災害外科〜肩こりを考える〜金原出版

 

寝返りに伴い、仰向けでの寝姿勢・横向きでの寝姿勢に対応する高さであること。その高さを保持出来る適度な硬さの素材であること。そして、体格の変化や加齢に応じて枕を調整する必要性があることを提言しております。

 

改めて、安易に柔らかさや快適さのみで枕を選んではいけないことを、頭に入れておきましょう。

 

実際の計測方法

では、ここからが実際の計測方法です。

 

SSS(Set-up for Spinal Sleep)法は3つ行程から適切な高さを算出します。

 

第1に仰臥位で両上下肢を伸展位で脱力させる。枕の高さを5mmピッチで変更しながら、頸椎の前傾が15度前後で、患者が呼気、吸気とも楽に感じること、後頭部の感触が不快でないこと、後頸部の筋緊張が弛緩することを聴取しながら高さを調節する。

出典 2015年06月号(58巻07号)整形・災害外科〜肩こりを考える〜金原出版

 

まず、仰向けでの枕の高さを調整します。

両手足を脱力し、伸ばした状態で仰向けで寝ます。首の角度が15°前後となる付近で、呼吸が楽で、後頭部の不快感がなく、首の後ろの筋肉が緩む高さを見つけましょう。

 

 

 

第2に左右側臥位の確認であるが、まず仰臥位で両前腕を前胸部上にクロスして右手を左鎖骨、左手を右鎖骨に触れ、両股関節60度前後、両膝100度前後に屈曲した寝返りの回転ポジションをとり、左右に回転し側臥位になる。額・鼻・顎・胸骨を通る頭頸部の中心線と臥床面が平行になるよう高さ調節する。

出典 2015年06月号(58巻07号)整形・災害外科〜肩こりを考える〜金原出版

 

次に、横向きでの高さを調整します。

まず仰向けになり、胸の前で両腕をクロスします。股関節と両膝をまげ、左右に寝返りを行います。横向きになったとき、顔と首の中心線と床面が並行になる高さに調整します。

 

 

第3に寝返りのスムーズさを確認する。仰臥位で寝返りの回転ポジションをとり、左右に2~3回回転し、寝返りのスムーズさを比較する。目視におけるスムーズとは、中心軸に対し頭部、胸部、骨盤が同期的に回転する状態である。

出典 2015年06月号(58巻07号)整形・災害外科〜肩こりを考える〜金原出版

 

 

最後に寝返りのしやすさを確認します。

仰向けから寝返りを2〜3回繰り返し、頭・胸・骨盤が同時性をもって寝返りを打てるかを確認します。

 

頭部と骨盤部いずれかに遅れが生じたり、遅れを筋力で補正しようと力む、反動で回転しようとするなどのぎこちない動きがおこらないかをみましょう。

 

最もスムーズに寝返りができる枕の高さが個人に合った枕の高さと言えます。

 

 

なお、前述したように、こちらの計測方法は医師による外来で計測する方法となります。

ご自身で簡易的に行う際はこちらをご参考に鏡や、携帯電話のカメラ機能で確認したり、どなたかに目視で確認してもらってみたりしてお役立てください。

 

正確な数値をお知りになりたいという方は下記URLから飛んでみていただけますと幸いです。

 

山田朱織枕研究所 HP

 

SSS方法を用いた枕の効果

 

また、SSS法を用いて調整した枕では最少エネルギーでの寝返りが可能となることから、症候性肩こり(交通事故の頚椎捻挫、リウマチ、姿勢異常・円背)への治療としても用いられています。

 

SSS法を用いると、夜間の寝返りが90%以上容易になり、肩こりの改善は60~80%と高値であった。睡眠中に,最少のエネルギーで寝返りがうてると、肩こりをきたす頚椎、肩、胸椎など骨関節のレストポジションによる安静と同時に、その周囲の筋肉、靱帯、神経等が、ダイナミックな血流の促進により組織が回復し、肩こりが改善されると示唆された。

  出典 2008年11月発行全日本病院出版会「実践 肩のこり・痛みの診かた治しかた」掲載

 

 

まとめ

肩こりの治療における枕選びの意義

今回は寝返りのしやすい枕選びという観点からSSS法をご紹介いたしました。

 

研究や臨床データ、論文を通して ここまで厳密に枕を選定できる基準は多くないと思います。

 

「朝から肩が凝っている」、「慢性的に肩こりが楽になる事がない」という方は、1日の3分の1の時間を占める寝姿勢になにか問題があるかもしれません。

 

そのような方は、本投稿が枕を見直していただけるきっかけになれば幸いです。

 

ただし、逆に合わない枕を使ってしまうことはかえって症状を悪化させてしまう、いわば諸刃の剣とも言えるでしょう。

 

大きく枕を変えることに不安や抵抗があるという方は、まずは今日からでも実践できる「肩こりラボがすすめる睡眠アドバイス」から徐々に変化の幅をあげていってもよいかもしれません。

 

 

肩こりラボがすすめる睡眠アドバイス

 

タオル枕

バスタオルを三つ折りにしたものを数枚重ね、高さを調整します。

メリットは手軽に枕の高さを調整できることです。自分に合う枕の高さを模索する際や、先程のSSS法を自宅で試してみたいという方におすすめです。

ただし、タオルの生地の柔らかさよって高さを保ちにくかったり、寝返りをうてる十分な幅が作れなかったりすることがあります。特に、枕をすぐに買い換えられない時や、旅先のホテルで枕の高さが合わなかった時などにおすすめです。

 

就寝前のセルフケア

睡眠前は体を十分なリラックス状態を作ることが重要です。

 

ゆっくりとした深い呼吸や、脱力をした状態でのストレッチなどを睡眠前に行うことで身体をリラックス状態に導くことができます。

 

ドローイン(腹式呼吸)や普段丸まりがちな背中のストレッチ、太ももの裏のストレッチなどはベッドの上で行いやすいですので是非無理のない範囲で行ってみてはいかがでしょうか。

 

胸椎ストレッチ

バスタオルを二重にして丸めたものを肩甲骨の下端あたりに入れます。

猫背となっている丸みの頂点を反らせるように脱力します。

 

ももの裏のストレッチ

バスタオルなどを細く畳んだものを足底にかけ、両端を体幹方向へ引きます。

もも裏の硬さは、骨盤を後傾(腰が丸まる方向)へ働きます。姿勢不良の要因にもなりますのでしっかり柔軟性を作りましょう。

 

 

・もも前のストレッチ

逆に、ももの前が硬い方は、骨盤を前傾させる方向へ働きます。こちらは反り腰の要因にもなります。

足の甲を把持して膝を曲げ、ゆっくりと踵をお尻方向へ引っ張ります。

体幹ひねり・胸のストレッチ

体幹を捻り、臀部〜腰背部〜脇腹など広範囲のストレッチになります。

両腕を大きく真横から斜め上へ開くことで大胸筋のストレッチにもなります。

大胸筋が硬いと肩が内旋(内巻き)方向へ働きますのでこちらも合わせて行いましょう。

 

 

 

以上が、おすすめのストレッチです。

もし余裕のある方は、Youtubeにもストレッチの動画を載せておりますのでこちらもご参考にしてください。

 

【根本解決ストレッチ】肩こり専門治療院[肩こりラボ]による、コリ解消ストレッチ。肩こりだけでなく首こり、肩甲骨こり、姿勢改善、巻き肩、スマホ首、頚性神経筋症候群

 

抱き枕

抱き枕は上肢の重みを軽減してくれるとともに、横向きの際に 肩が過度に内旋(内巻き)するのを防いでくれます。

 

肩が内旋することで僧帽筋(肩こりの症状が出やすい主な筋肉)に伸ばされるストレスがかかることで肩こりが生じてしまうパターンが多く見受けられます。こちらは使っていない掛け布団などを丸め、紐などで縛り代用することができるかと思います。

 

 

 

以上、今日からでも実践できる「肩こりラボがすすめる睡眠アドバイス」でした。

 

良質な睡眠づくりにお役立ていただけますと幸いです。

 

 

参考文献

2015年06月号(58巻 07号) 整形・災害外科~肩こりを考える~金原出版

2008年11月発行全日本病院出版会「実践 肩のこり・痛みの診かた治しかた」掲載

就寝中の寝返りのビデオ解析による特徴点の基礎評価―運動器疼痛管理に役立つ至適睡眠姿勢での検討―