筋膜リリースのアプローチ方法は2種類
筋膜に対してアプローチする意味においては、ストレッチをはじめとする筋肉を使う動作はすべて筋膜に何かしらのアプローチがされています。筋膜リリースストレッチといった言葉も使われていますが、実際は昔からあるストレッチ方法と同じだったりします。
筋膜リリースの真髄は血流を改善して筋膜に潤いを取り戻すことです。
ストレッチやマッサージ・運動以外の筋膜リリース方法は大きく分けて2つ。皮膚の上から刺激をする方法と針を刺して直接刺激をする方法です。
皮膚の上から刺激をする方法
メカニズム:筋膜に存在するセンサー(固有受容器)にはたらきかけて体性-自律神経反射によって副交感神経優位の状態に導き抹消の血流改善を期待します。昔から乾布摩擦が健康によいとされているのは、このためです。
手で押す方法
記録に残る限りでは今から40年以上前、1970年代から海外のセラピストの技として行われており、オステオパシーの手技のひとつとして行われはじめたとされています。一般的に筋膜リリースではゆるやかな力で圧迫しながら患部を引き伸ばしていく方法が推奨されていますが、セラピストによってもやり方は様々で、流派もたくさんあります。技自体は改良等を重ねて変化をしているものといえます。
器具でこする方法
20年程前にアメリカのアスリートが開発した方法です。その後にカイロプラクター、理学療法士、作業療法士、セラピスト、トレーナーらが改良し体系化されました。器具でこする手法は、IASTM(Instrument Assisted Soft Tissue Mobilization:器具補助軟部組織可動法)と呼ばれ、特徴的な形状をしたステンレス製の器具で皮膚をこすことで筋膜にアプローチをします。代表的なものにグラストン・テクニック(Graston ®)があります。
器具を使用する一番の理由は、行う側の手のケガを防ぐためです。驚かれるかもしれませんが、実は受ける側のためではないのです。ですから器具自体に特殊な効果効能が隠されているわけではありません。
器具をつかうメリットは患者さんよりも使用する側にあるのです。
あくまで器具は道具です。器具を使用することが筋膜リリースではありませんし、器具を使わなければ筋膜リリースができないわけではございません。
フォームローラーでコロコロする方法
筋膜リリースと聞くとまずはこの方法を想像する方は少なくないでしょう。主にはセルフケアやアスリートのウォーミングアップとして行われています。昨今では突起のついたものや振動するものなど様々な製品が出されています。IASTM同様グッズ自体が特別なわけではなく、どう扱うかが肝心です。
筋膜リリース専用といった商品がありますが、見た目他と何が違うの?と疑問に思われたのではないでしょうか?まさにその通りで何も違いはございません。
針を刺して直接刺激をする方法
針を使う方法には、注射で使う注射針と鍼灸で使う鍼の2種類の方法があります。
注射による生理食塩水を注入する方法
肩こりは筋膜のシワが原因とテレビで放送され、そのシワを取る・伸ばす方法として注目をあびたのが注射による生理食塩水の注入です。筋膜リリース注射・ハイドロリリース注射と呼ばれています。異常な状態にある筋膜は水分が不足しているため水分補給は理にかなっています。超音波診断装置(いわゆるエコー)にて筋膜の滑走性が低下しているところをみつけ、そこにダイレクトに生理食塩水を注入して水分補給します。さらに水圧で物理的に癒着状態にある部分をはがすため水分不足と癒着の問題を解決できます。患部に対して確実にアプローチができる方法です。注意点として、あくまで対症療法でしかないということ。症状が出るたびに行う必要があります。そしてエコー診断と注射の熟練した技術を要しますので、医師の技術力に大きく左右されます。注射をすることから、医療機関でのみ受診可能です(医療機関にもよりますが1本あたり数千円〜1万円ほどかかるようです)。
鍼をつかう方法
触診またはエコーガイド下にて異常部位をみつけ、そこに鍼を施します。鍼を刺した部分は軸索反射によって血流が改善します。
トリガーポイント(痛みの元となるポイント)と筋膜が異常となる部位はしばしば重なるため、トリガーポイント療法と筋膜リリースは混同されがちですが、厳密には異なるものです。トリガーポイント療法のひとつの手段として筋膜リリースという技があるといえるでしょう。
どの筋膜リリース方法でも一定の効果はあります
結論からいうと、どのようなやり方でも一定の効果をあげることは可能です。筋膜リリースは決まった手順、決まったやり方があるわけではないのです。例えば、マッサージにおいても「筋肉をほぐす」目的のために指圧もあればオイルを用いた方法があるようにアプローチの仕方はたくさんあります。それと同じです。
肩こりラボでは4つの方法を組み合わせて筋膜リリースを行います
筋膜リリースはあくまで対症療法です。肩こり ラボでは対症療法だけでなく原因療法を組み合わています。
筋膜リリース自体は、対症療法の一部として必要に応じて行っている処置にすぎないのですが、肩こり ラボでの4つの施術方法が、具体的に筋膜に対してどのような効果があるのかについて焦点をしぼって解説します。
超音波療法器(US)
必要に応じて医療機器である超音波療法器を使用しています。超音波療法は、温熱効果と非温熱効果(超音波ultrasoundによる振動による微細なマッサージ効果)があります。超音波療法器を使う理由は、ホットパック、赤外線、入浴、灸では温度をあげることは困難な深部の加温と血流改善が可能なためです。
USの筋膜に対する作用
- 加温による潤滑剤の軟化促進と滑走性の回復
- 深部血流の改善による筋膜への水分補給。
パワープレート
スポーツジムだけでなく医療機関でも導入が進んでいるパワープレートを医療機器として使用しています。パワープレート上で体を動かすことで、平地で行うよりも短時間でウォーミングアップ効果を得られます。能動的な筋収縮運動により、体温上昇と血流改善を図ります。USはピンポイントで深部に対してアプローチできるのですが、パワープレートは全身に対してアプローチできます。施術内容に応じて使い分けています。
パワープレートの筋膜に対する作用
- 体温上昇による潤滑剤の軟化促進と滑走性の回復
- 全身血流の改善による筋膜への水分補給
IDマッサージ
IDマッサージはコリをほぐすだけでなく筋膜と筋肉両方のコンディションを改善し体のバランスを修正し、自律神経を整えて「体を変える」技術です。
具体的にどのようなマッサージかといいますと、人体に多数ある筋肉・筋膜を3次元の視点から個別にアプローチします。筋膜と筋肉は階層・重層構造となっているため、ひとつの部位を体位を変えながら様々な角度から刺激し、深部の筋膜・筋肉に対してもアプローチします。
IDマッサージは、マッサージと名前にありますが、単なる「もみほぐし」ではなく、筋膜に異常があれば筋膜リリースを、筋肉に異常があればマッサージを、関節可動域に異常があればストレッチや関節モビリゼーションを適宜行います。自律神経の乱れがあれば体性-自律神経反射を利用して自律神経にはたらきかけます。IDマッサージとは、肩ラボの按摩・指圧・オイルマッサージ・ストレッチ・関節モビリゼーション・筋膜リリースを組み合わせて行う技の総称です。ですから徒手による筋膜リリース(緩やかな圧迫と伸張与える手技)やIASTM(オイルやクリームなどの滑剤を用いて皮膚を摩擦する手技)の技術はIDマッサージの中に含まれています。
IDマッサージの筋膜に対する作用
- 血流を改善し水分補給をすることで、高密度化した筋膜の柔軟性獲得と潤滑剤の滑走性回復
- 物理的な伸長刺激を与えて、高密度化した部位の伸縮性改善
- 線維化してしまった部位に微細な組織損傷を与えて組織のリモデリングを誘導(表層のみ可)
一般的なマッサージと肩こりラボのIDマッサージは違うものです。筋膜リリースを、マッサージとストレッチの複合技・いいところ取りのように説明されることが多いようですが、そのような説明で意味するマッサージとIDマッサージの意味するマッサージは根本的に異なりますのでご留意ください。
3D鍼
IDマッサージ同様、人体に多数ある重層・階層構造の筋肉・筋膜を3次元の視点から個別に鍼を使ってアプローチします。
3D鍼では、IDマッサージでも困難な深部の筋膜と筋肉に対してダイレクトかつピンポイントでアプローチします。手では届かない部分の血流改善、筋肉の弛緩、微細損傷によるリモデリング喚起の効果がある。自律神経の乱れがあれば、体性-自律神経反射を利用して自律神経にはたらきかけます。
ツボや経絡といった考え方ではなく、体の動きや反応、触感によって異常となっている筋膜・筋肉やトリガーポイントを見つけ、ピンポイントで鍼を打ちます。ですから必要に応じた本数を打ちます。
3D鍼による筋膜への作用
- 血流を改善し水分補給をすることで、高密度化した筋膜の柔軟性獲得と潤滑剤の滑走性回復
- 線維化してしまった部位に微細な組織損傷を与えて組織のリモデリングを誘導(表層から深層まで任意で可)