「姿勢が悪い」「体幹が弱い」「もっとお腹に力を入れて」なんて言われたことはありませんか?
またドローインといった言葉をよく見聞きすることはないでしょうか。
今回は良い姿勢の維持やトレーニングをするときに重要となる「腹横筋」についてお話しします。
腹横筋がどんな筋肉なのか、鍛えるメリット、トレーニング方法についてお伝えさせていただきますので、是非最後までお付き合いくださいませ。
それでは、最初に腹横筋を鍛えるメリットについてお話しします。
大きく分けて以下3点が挙げられます。
①良い姿勢の維持
②スムーズな排泄や呼吸、内臓のポジション維持のために活躍
③腰痛、首肩こりの改善
なぜこのような効果があるのか順を追って説明していきます。
腹横筋とは?
どんな筋肉?
まず腹横筋は腹筋の中でも最も深層にあるインナーマッスルで、腰が痛いときに巻くコルセットやさらし、着物の帯のようにお腹の周りを包んでいてコルセット筋とも呼ばれます。
さらし、着物の帯を締めた時、自然と背筋が伸びて姿勢が良くなりますよね。
それはお腹に圧力がかかり、腹圧を高め腰部がしっかりと固定されるからなのです。
腹横筋が収縮すると、さらしや帯を締めるのと同様の意味があります。
また腹横筋が強くなることで、さらしや帯の引き締めもさらに強くなるのです。
| 起始 | 停止 | 支配神経 |
腹横筋 | 腸骨稜、胸腰筋膜、鼠径靭帯、第7~12肋軟骨内面 | 白線、腹直筋鞘 | 肋間神経 腸骨下腹神経 腸骨鼠径神経 陰部大腿神経 |
他の腹筋群について
腹筋と一塊に言いがちですが、腹筋には腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋といった筋肉があります。
腹直筋はシックスパックというとわかりやすいのではないでしょうか。
一般的にはアウターマッスルの筋肉で寝起きでカラダを起こす時に働いたり、カラダを前に倒すときに働きます。
ただ腹直筋の一部は腹横筋の深層に入り込むインナーマッスルでもあります。
そして先程挙げた腹横筋の停止は腹直筋鞘でした。
これは腹直筋が強固になることは腹横筋の出力が高まるということにつながります。
腹直筋を鍛えることは腹横筋を鍛える上でもとても重要なんです。
外腹斜筋はお腹の横側の最も表層の筋肉で単独で収縮すると上体を屈曲させ、また収縮方向にカラダを回旋する(回す)ことが出来ます。
内腹斜筋は外腹斜筋のすぐ深層に位置する筋肉で単独で収縮すると上体を屈曲させ、収縮方向とは逆にカラダを回旋する(回す)ことが出来ます。
腹横筋の作用
ドローイン
腹横筋の作用は「お腹を引き締める」ことです。
これをドローインと言います。
ドローインは英語で書くとDraw inで、drawは引き寄せる、引き締めるという意味で、inは中にという意味です。
つまり、直訳すると中に引き寄せるということです。
要はお腹を引き締める、腹横筋を収縮させた状態ですね。
機能的安定化
腹横筋は他の腹筋群とは異なる機能的安定化の役割をしています。
実はこの腹横筋単独の役割としては、カラダを前に倒すことや横に倒すという動きではなく、他の腹筋群付着部を固定したり、腹圧を高めることなのです。
その中でも腹圧を高めること、これがとても重要になります。
腹圧を高めることで腰部の安定化につながります。
また体幹の安定性を高める働きもあります。
腹横筋はカラダを安定させるための大事な筋肉なのです。
フィードフォワード機能
腹横筋には腕や足を上げる時に主働となる筋肉よりも先に腹横筋が働くという機能があります。
これをフィードフォワード機能と言います。
先に腹横筋が働くことでその後の動作を安定させたり、怪我の予防になります。
腹圧とは??
腹圧という言葉、先程出しましたがそもそも腹圧とは何なのかよく分かっていないという方もいらっしゃるのではないでしょうか?
腹部の筋が収縮すると(腹圧負荷)腹腔の容積が減少し、腹腔内圧の上昇によって腹部内臓が締めつけられることになる。この作用は例えば、直腸から便を排出する(排便)、尿を膀胱から放出する(排尿)、胃内容物を空
(プロメテウス解剖学アトラス総論ー運動器系)
にする(嘔吐)などの運動に重要な意味をもつ。また、腹圧負荷は分娩の娩出期の母体のいきみにとっても必須な運動である。
横隔膜と腹壁の筋や骨盤底の筋の協調的な収縮は腹腔内圧を上昇させる(腹圧負荷)。この運動の流体静力学的効果により体幹は安定し、脊柱(特に腰椎域)への負荷が軽減されるとともに、体幹壁は空気が充満したボールのように硬くなる。重いものを持ち上げるような時には、自動的にこの運動が行われる。こうしてできた体幹の”空気の圧力空間”は、上位腰椎の椎間板にかかる力を50%まで、下位腰椎でもおよそ30%まで軽減することができる。同時に、固有背筋の発揮する力も50%以上軽減される。このことは腹壁の筋をよい状態に保つことが、脊柱の疾患の予防と治療にとって重要であることを示している。
(プロメテウス解剖学アトラス総論ー運動器系)
腹圧とは腹腔内圧の略称で腹腔(お腹の中の空間)にかかる圧力のことです。
腹部の筋が収縮することで腹腔の内圧が上昇します。
たとえば重い荷物を持つ時や咳をするとき、力んだ時お腹が収縮している感じはありませんか?
そういった時に腹圧も上昇しているのです。
腹腔内圧の上昇により、呼吸、排便、排尿、嘔吐などがスムーズに行えます。
また、それだけではなく体幹の安定化、腰部や背筋の負担軽減、脊柱の疾患(腰部脊柱管狭窄症、側弯症など)の予防と治療にもつながるのです。
腹横筋を鍛えるメリット
冒頭で述べた腹横筋のメリットについて再度振り返っていきましょう。
良い姿勢の維持
普段デスクワークをしていてだんだんと姿勢が悪くなっている、そんなことはありませんか?
それは腹横筋の筋力不足かもしれません。
腹横筋は腹圧を高める筋肉で、コルセットのように腰部を安定させていましたね。
腹圧を高めることで座り姿勢、立ち姿勢でカラダを安定させることができ、良い姿勢を維持できるというわけです。
逆に腹圧が抜けてしまっている状態ですと、頭が前に出てしまったり猫背になります。
この状態ですと、本来カラダを安定させる筋肉でなく別の筋肉が必要以上に頑張る必要があり、それがこりの原因となることもあります。
スムーズな排便、排尿や内臓のポジション維持のために活躍
普段意識していないと思いますが、腹横筋は日常生活、色んな場面で使われています。
先程もお話しした通り腹圧を高めることで排泄、嘔吐や内臓のポジションを保つことや息を吐くことが出来るのです。
便秘や胃下垂の改善のための運動療法として腹横筋のトレーニングが用いられることもあります。
腰痛、首肩こりの改善
フィードフォワード機能、腹横筋が先に動いて土台のような働きをしていましたね。
動作前に腹横筋が働くことでカラダが安定し、円滑な運動へとつながるわけです。
筋トレでも腹横筋によってカラダを安定させることで、正しいフォームでトレーニングが行えます。
腹横筋が上手く使えることで腰部や肩に過度な負担をかけずにすむため、腰痛、首肩こりの改善にもつながるのです。
腹横筋のトレーニング
実際に腹横筋はどのようにして鍛えたらいいのでしょうか。
最も有名なトレーニングとして挙げられるのは「ドローイン」です。
ドローインは中に引き寄せるという意味でお腹を引き締める、腹横筋を収縮させた状態でしたね。
では実際にどのように行うか説明していきます。
[初級編]
仰向けに寝ます。
鼻から息を吸い、口から全て吐きお腹を凹ませます。
その状態をキープしたまま、お腹の位置が動かないように呼吸をします。
まずはお腹をしっかり凹ませることを意識して浅い呼吸から始めていきましょう。
腰や背中、首などその他にどこか不調が生じる場合は直ちに中止して下さい。
以下、YouTubeでも解説しております。
ご覧いただけますと幸いです。
[上級編]
仰向けでのドローインが出来るようになった方はレベルアップトレーニングとして体勢を変えたドローインにもチャレンジしてみましょう。
レベルアップバージョンのドローインに関しましても、以下YouTubeにて詳しく解説しておりますので合わせてご覧くださいませ。
まとめ
・腹横筋の作用は腹圧を高めること
・腹圧は排泄、呼吸などの日常生活動作においても大きく関わっている
・腹横筋を鍛えることで良い姿勢の維持、正しいフォームでの効果的な筋トレができ、首肩こり・腰痛の予防につながる
今回は腹横筋についてお話ししました。
腹横筋は良い姿勢やトレーニングのために大事なのはもちろんのこと、日常生活においてもとても関わりの深い筋肉でしたね。
腹横筋を正しく鍛えるためにも先程のトレーニングを是非行ってみてください。
また姿勢保持のためには腹横筋だけでなく、他にも重要な筋肉が存在します。
そちらも改めて記事にしますので参考にしていただけますと幸いです。
参考文献
(筋骨格系のキネシオロジー)
(基礎運動学第6版)
(プロメテウス解剖学アトラス総論ー運動器系)
(カパンジー機能解剖学Ⅲ 脊椎・体幹・頭部)
執筆者:中込 優平
Yuhei Nakagome
帝京大学 医療技術学部スポーツ医療学科 健康スポーツコース卒業
神奈川衛生学園専門学校 東洋医療総合学科卒業
鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師
健康運動実践指導者
私は大学時代、 市営の体育館のトレーニングルームで運動指導をしていましたが、当時の自分にはお客様が肩や腰が痛いと仰っても解決する手立てがありませんでした。
そこから鍼灸あん摩マッサージ指圧師に興味を持ち始め、資格を取得しました。
日常生活の中で肩こりや腰痛などで悩み、 やりたいことができない方やもっと健康で良い生活をしていきたい方、 そんな方々のお力になりたいと考えています。