画像をhttps://www.ac-illust.comより引用させていただきました
はじめに
現代の日本において生活形態の変化に伴い頸肩腕痛(首・肩・腕の痛み)を訴える人の割合が多く、日頃、何かしらのメンテナンスをされていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。
厚生労働省によって平成28年に行われた国民生活基礎調査では,肩こり症状の有訴率は女性は1 位、男性は2 位を占めたことが報告されています。
肩こりを訴える方は職種から見るとどのような特徴があるのか、また、どのような形態で仕事をされている方が多いのかを参考に肩こり対策の生活スタイルを考察したいと思います。
肩こりになりやすい方には特徴があります。
女性は筋力不足、男性はやや肥満傾向の方
まず職種を分析する前に男女差について解説いたします。
参考文献には、以下のように記載があります。
“肩こり症状有訴者は,肩こり症状非有訴者に比して,女性においては握力と下腿後面の筋力などが有意に低値であったこと,男性においては体脂肪率などが高値であったことを報告している.“
出典 勤労者の肩こり症状に関連する因子の検討 日職災医誌,67:87─94,2019
つまり、女性で肩こりでお悩みの方は、肩こりではない方と比べて筋力不足が認められること、男性においては肩こりでお悩みの方は、そうではない方よりも体脂肪率が高い傾向にあるとの研究結果になります。
また、男女共通して肩こり症状を有する方は、体幹筋の筋肉率が低値であることも認められています。
肩こりの原因は肩にはない
画像をhttpss://1post.jp/1646 から引用させていただきました
前述したように「体幹筋の筋力不足」について、首肩こりと体幹筋の筋力不足はどう関連するのかみていきましょう。
まずは具体的に、体幹筋とはどういう筋肉を指すのかご説明いたします。
体幹筋とは、腹部を支える「腹直筋」「腹横筋」「内腹斜筋」「外腹斜筋」と、腰背部を支える「脊柱起立筋」「多裂筋」「広背筋」、など字の通り、体の幹となる部分を前後で支えている筋肉になります。
これだけを見ると直接首や肩には関連の少ないように思われる方もいらっしゃるかもしれません。
体幹筋の弱さが肩こりの原因となる理由
では、なぜ、体幹筋の低下が首や肩へ影響を与えるのか。
大きな要因の一つとして、
「体幹筋が使えないことにより首肩こりが誘発される不良姿勢を作ってしまう」ということが考えられます。
体幹筋の役割は姿勢を維持することです。
体幹筋がうまく機能していないと胴体をよい位置で支える事ができないので、その上にある首や肩を支えている筋肉が代償的に働くこととなり、結果として肩こりという症状が出現します。
運動習慣の有無=肩こりの有無?
また、男性の肩こりを訴える方は肥満傾向にあるとのことですが、
筋肉の硬さとBMI(Body Mass Index:体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数)の関係性を調べた研究資料によると
“運動無し群のBMIが大きくなると筋硬度は運動有り群より数値が高くなる点に注目すれば(中略)運動不足とストレスが加味されて筋硬度が高くなっている。”
出典 肩こりのアンケート調査と筋硬度との相関 計測自動制御学会東北支部 第256回研究集会(2011/11/26)資料番号268-6
こちらの研究では、
普段運動習慣がありBMIが高い方・低い方、また 運動習慣がなくBMIが高い方・低い方の
4分類にわけて対象部位(肩こりの自覚症状のある部位)の筋肉の硬さを筋硬度計を用いて評価しています。
結果によると、
運動習慣がなく、BMIが高い方が他の3分類の方よりも筋硬度が高くなっております。
要因としては運動不足や筋緊張のストレスによって筋肉の硬さが大きくなると考えられるという研究結果でした。
運動習慣の有無とひとことに言っても、どのような種類の運動かにもよって使われる筋肉の比率は変わってきます。
全身運動と仮定した場合、アウターマッスルのみならず、体幹筋が体幹を安定したポジションで支えることによって、パフォーマンスアップにつながります。
ですので、運動習慣がある方は自ずと日頃から体幹筋を使う習慣があるということになり、肩こりの有無にも関与すると仮定できますね。
肩こりを訴える方の過半数は〇〇職!
現在、日本にはこんなにも様々な職種があります
では、本題となる職種別に肩こりとの因果関係をみていきましょう。
日本標準職業分類によると、
事務職, 管理職,専門・技術職,サービス職,保安職,農林漁業職,生産工程職,輸送・機械運転職,建設・採掘職,運搬・清掃・包装等・その他
と、現在の日本の職種は多岐に渡ります。
やっぱり1位はあの職種
しかし、これほどさまざまな業種が存在するにも関わらず、結果をみると
肩こりを訴える方の58.2%が「事務職」となっており、2番目に多い「専門・技術職」が24.1%、「管理職」が12.7%と続きます。
いかにデスクワークが首肩への負担が大きいかが伺えますね。
就業時間から見る肩こり率
みなさんの勤務時間はどのくらいでしょうか。
肩こりを訴える方と肩こりではない方との勤務状況で、もっとも顕著な違いが見られた項目は、勤務時間です。こちらは言わずもがなかもしれません。
肩こりの方で勤務時間が1日に9時間以内にとどまっている割合は26.6% 、肩こりではない方の勤務時間が1日に9時間以内にとどまっている割合は41.1%となり、勤務時間の長さに比例した肩こり率とも言えるでしょう。
お勤めをされていらっしゃる方の場合、個人で勤務時間を調整するのはなかなか難しいというかたもいらっしゃると思います。
こちらは個人では大きく改善することは難しいかもしれませんが次に述べる考察を参考に負担を軽減することは可能だと考えております。
職種から肩こりの原因を考察します
立たない・歩かないが要因の一つ
事務職の方が他業種と異なる大きな特徴は「座っている時間が長い」ということではないでしょうか。
肩こりを訴える方の就業時の姿勢について、さらに詳しく分析すると、事務職の方の中でも、「座位中心だが歩く人」に対して「座位中心で歩かない人」に肩こりを訴える方が多いという結果となっています。
人間は座位に比べて立位の方が体幹筋の活動量が大きくなりますので、
前述にある、体幹筋の筋力不足の方に肩こり有訴者が多いことに関連して、座位の時間が長いがゆえに筋力不足を招くとも考えられます。
普段から座位中心の就業姿勢の方はまず「立つ」動作の頻度を増やし体幹筋を活動させる回数を増やす必要がありそうですね。
長時間のPC作業の負担を減らすコツ
勤務時間が長くなってしまう方こそ、PC環境を整えることが重要となってきます。
是非、過去の記事、
「肩こり・首こりが気になる方が意識すべき、パソコン作業時の適切な姿勢(座り方)とデスク環境とは? 厚生労働省のガイドラインをふまえて解説します。」
をご参考に少しでも身体の負担が減る環境づくりをしていただきたいと思います。
在宅勤務が増えた方へ
画像をhttps://simplish.online/ceointerview/standingwork/より引用させていただきました
新型コロナウィルスの感染拡大の影響で在宅勤務が増えた方も多いと思います。
この変化により身体への負担が減った方・増した方、両方いらっしゃると思いますが皆さんはいかがでしょうか。
適宜、休憩を取れる点に関してはとても大きな利点に感じます。
人目を気にせずストレッチをしたり、疲れが蓄積される前に体勢を自由にかえたりすることで以前より首肩への負担を分散できているのではないでしょうか。
一方、自宅ではオフィスとは異なり、デスクとチェアではなく床に座りテーブルで作業されることを余儀なくされている方もいらっしゃるでしょう。
低いテーブルで頭は前方に倒れ、背中は丸まり、骨盤は後傾し、背部への負担が増大してしまいます。
後者でお困りの方は、まずは目線の高さを下げない工夫をしましょう。
ディスプレイの高さを上げるか、もし高めの棚などがあれば立ち上がった姿勢で作業することも首肩への負担は軽減されます。
床に座って作業される際は骨盤が後ろに倒れないようにお尻の後方にクッションなどを噛ませて骨盤を立たせ、背中が丸まり過ぎないよう意識してみてください。
まとめ
以上、肩こりを職種と照らし合わせてみたとき、
有訴者は男性よりも女性に多く、体幹筋の筋肉量が低く、さらに就業時の姿勢が座位中心でほとんど歩くことが少ない方に多いということになります。
以上のことから、肩こり対策における打開策として
・意識的に体幹筋を働かせて座位時の姿勢を正す。
・無意識でもその姿勢がキープできるように体幹筋をトレーニングにする。
・長時間の座位継続時間を避け、立つ・歩く動作を増やす。
・PC作業環境を整える。
が、挙げられます。
業種柄、肩こりでお悩みの方の参考になれば幸いです。
【参考文献】
勤労者の肩こり症状に関連する因子の検討 日職災医誌,67:87─94,2019
肩こりのアンケート調査と筋硬度との相関 計測自動制御学会東北支部 第256回研究集会(2011/11/26)資料番号268-6
執筆者:伊藤 美里
Misato Ito
盛岡医療福祉専門学校卒業
日本医学柔整鍼灸専門学校卒業
鍼師・灸師
柔道整復師
学生時代バレーボールに打ち込み、当時自分の心の支えとなったアスリートやアーティストに携わる仕事をしたいと思い、「身体の治療・ケア」する道を選びました。
日々患者さんの治療にあたる中で、さらに治療の引き出しを増やすべく鍼灸師の資格を取得。
解剖学的な構造、運動学、最新のエビデンスの理論を基におひとりおひとりの「何が原因か」を追究し、よい治療をご提案できるよう努めてまいります。