腹筋の筋力不足?首前こりについて解説します。

はじめに

首肩こりにも様々な種類があり、特につらく感じる場所も人それぞれです。

 

首肩こりといえば、「体の後ろ側がつらくなる」というのが一般的なイメージだと思いますが、実は前側が凝ってしまう方も多くいらっしゃるのです。

 

具体的にいうと「胸鎖乳突筋」「斜角筋」「広頚筋」が当てはまります。

胸鎖乳突筋

前斜角筋

広頚筋

 

 

筋肉の位置からわかるように、患者さんは「耳の後ろが痛い」「顎のラインがつらい」「鎖骨の骨に沿って凝る」といった訴えをされることもあります。

 

首の前側が凝りは、どのような体勢でもつらさが抜けづらく、さらに、「周りの人に理解してもらいにくい」というつらさもあるのではないでしょうか。

 

 

今回は、頚部の前面が凝ってしまう症状にフォーカスを当て、その原因として考えられる「腹筋の筋力不足」との関連性についてお伝えしてまいります。

 

なお、首肩こりの原因は、一つではなく複数あるのが普通です。

 

ですので、原因はコレだと述べることは難しいのですが、当院の症例で「前首こり」と「腹筋の筋力不足」との関連性を考察する そのメカニズム・原因・改善例を、ご紹介していきます。

 

 

メカニズム

『凝る』にも2パターンある

まずは、前首こりに関わらず、そもそも筋肉はどうなると『凝る』のかご説明していきます。

 

使い過ぎて凝る

筋肉をたくさん使った後、筋肉が硬くなってつらくなったことは誰しも経験があると思います。

 

例えば、たくさん歩いた日のふくらはぎなどを想像してみていただくと良いかもしれません。

 

普段よりもふくらはぎの筋肉の収縮が繰り返されたことで、筋肉がパンパンに張ってしまう、もしくは重だるさや痛みといった自覚症状としてあらわれます。

 

これは筋トレをした後の筋肉と同じ状態です。

 

ですので、しっかりと休息をとることで数日もあれば回復をします。

 

しかし、負荷が大きかったり、継続した負荷になったりすると休息をとっても回復せず、積み重なることで「凝り」になってしまうのです。

 

 

伸ばされ続けて凝る

「凝る」メカニズムのもう一つが、筋肉が常に引き伸ばされてしまうことです。

 

こちらは少しイメージがしづらいかもしれませんが、実は日常生活ではよくあることです。

 

たとえば、買い物帰り。

重い買い袋を両手に持って家に帰った時を思い出してみてください。

 

何度も繰り返し筋肉に収縮をかけたわけでもないのに、家に着く頃には、腕が相当疲れていると思います。

 

これは、袋の重みに腕の筋肉が引き伸ばされ、かつ、重みに耐えるために持続的に筋肉を収縮させているためです。

 

こちらも一時的であれば、問題なく回復しますが、蓄積によって休息しても解消されない「凝り」へと移行してしまうのです。

 

 

では、「前首こり」に当てはめて、「使いすぎて凝る」原因と「伸ばされ続けて凝る」原因を次の章で解説してまいります。

 

 

 

原因

「使いすぎて凝る」原因

 

首の前側の筋肉が使いすぎて凝ってしまう原因には「呼吸」と密接な関係があります。

 

本来、安静時の時の呼吸における「吸気(息を吸う)」は、横隔膜・外肋間筋の収縮によって胸郭が拡大することで肺に空気が入っていきます。

 

 

※胸郭とは:胸椎・肋骨・胸骨で構成されたかご状の骨格。胸郭の内部には胸腔があり、肺や気管、食道、心臓などを収めています。

 

 

しかし、この働きが弱まったり胸郭の可動性が少なくなったりすると、運動時や発熱時の時などゼイゼイとした呼吸(努力性吸気筋)として働く胸鎖乳突筋、前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋が常時働くこととなります。

 

 

人は平均、1分間に15~20回も呼吸しているといわれ、1日に換算すれば約3万回です。

 

呼吸のたびに、この筋肉たちが過剰に働いていると考えると、凝ってしまうのは想像できますね。

 

もう一つ、前首の筋肉が使いすぎて過緊張を起こす原因として「体幹筋」の弱さが考えられます。

 

体幹筋、特に背中(脊柱起立筋・僧帽筋下部)・お腹(腹横筋・腹直筋・腹斜筋)が弱いがために、頭の重さを「首」で支えているのです。

 

 

頭の重み 約5〜6kgを、胴体でもっとも細い首の筋肉で支え続けていると、凝りにつながるのも想像し易いのではないでしょうか。

 

 

 

 

「伸ばされ続けて凝る」原因

 

次に首の前側が引き伸ばされてしまう原因についてご説明いたします。

 

猫背姿勢を横から見た時に、背中が丸くなっているのと同時に、肋骨の前側は正常よりも下に下がっています。

 

 

 

前述したように、前首こりの起きやすい「胸鎖乳突筋」「斜角筋」「広頚筋」はいずれも頭部または頚部から体幹にかけて筋肉がついています。

 

肋骨の前側が下がることに伴って、頚部前面についているこれらの筋肉は下に引き伸ばされます。

 

結果、筋肉に伸長ストレスがかかり、凝りが生じてしまうのです。

 

 

 

姿勢不良との関連

 

立位での姿勢不良

 

肩こりの原因は「姿勢が悪いから」とよく耳にすることがあると思います。

 

しかし実際には、「姿勢が悪い」と一言に言っても、大きく4パターンあることをご存知でしょうか。

 

姿勢不良のパターンとして『ケンダル(Kendal)の分類』が最も有名で、世界的に活用されています。

 

皆さんが自分はどの姿勢に当てはまるのか、一緒にチェックしてみましょう。

 

 

筋:機能とテスト―姿勢と痛み 著ケンダル/マクレアリー/プロバランス 栢森 良二 翻訳より引用

 

 

A理想型

頭(耳穴または耳垂)・肩(肩峰の前面)・腰(大転子)・膝(膝蓋骨の後面)・足(外果の2〜3cm前方)が鉛直上にある。

 

 

B後弯―前弯型(カイホロードシス)

背中の丸みが強く、反り腰。首は大きく前に出ている。

 

 

C平背型 (フラットバック)

骨盤は後ろに倒れ、背中から腰にかけてまっすぐ。バランスを取るため頭は前に出ている。

 

D後弯―平坦型(スウェイバック)

背中は丸いが腰は平坦。ぽっこりお腹になりやすい。

 

 

E軍人型(ハイパーロードシス)

一見、理想型に近いが、反り腰が強い。

 

 

 

いかがでしたでしょうか。

 

この姿勢のパターンからもどこの筋肉が使いすぎてしまっているのか、あるいは、どこの筋肉が弱化しやすいのかは大よそ予測することができます。

 

なお、この分類で「理想型」に当てはまる人 すべてが首肩こりがないわけではありません。

 

一見良さそうな姿勢でも、正しい筋肉を使って支持されていないとそれはどこかに負担がかかり不調としてあらわれます。

 

 

重要なのは「その姿勢を、どこの筋肉で支えてるか」です。

 

 

もっとも理想的な姿勢を支える筋肉は

 

・お尻の大殿筋

・お腹の腹横筋・腹直筋・腹斜筋

・背中の上部の脊柱起立筋・多裂筋

 

です。

 

 

 

 

座った姿勢での姿勢不良

 

 

以上、ケンダルの姿勢分類についてご説明いたしました。

 

しかし、これはあくまでも立位の姿勢の話。

 

話を戻しまして、「前首こり」はデスクワークをされている人が訴えることが多い症例です。

 

そうなりますと座位での姿勢の考察が必要となります。

 

 

座位での姿勢不良は主に

 

・骨盤後傾(骨盤が後ろに倒れる)

・腰椎・胸椎後弯(腰から背中が丸くなる)

・頭部前方偏位(首が前にでる)

 

このパターンが多くみられます。

 

 

ここで重要になってくるのが「腹筋」になります。

 

 

 

 

キーポイントは腹筋!

腹筋が弱いと、首の前側が伸ばされる

 

座位での不良姿勢、

 

・骨盤後傾(骨盤が後ろに倒れる)

・腰椎・胸椎後弯(腰から背中が丸くなる)

・頭部前方偏位(首が前にでる)

 

以上となる原因のひとつは、お腹側で体幹を支えられないことにあります。

 

 

お腹の筋肉が使えない

↓

胴体を前側で支えられない

↓

背中が丸くなる

↓

肋骨の前側が下がる

↓

首の前側の筋肉が引き伸ばされる

 

といった経過が「前首こり」につながる要因の一つと肩こりラボでは考えております。

 

 

腹筋が弱いと、首の前が過剰に働く

 

また、ほかの要因として、

 

腹筋が弱い人が上体起こしなどの腹筋トレーニングをすると、胸鎖乳突筋などの首の前側の筋肉が過剰に代償することがしばしばみられます。

 

普段トレーニングをする方は、腹筋よりも先に首の前が疲れてしまうという経験をしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

同様に、日常生活でも腹筋が働くべき場面(ベッドからの起き上がり動作や、いきむ動作など)で、前頚部が過剰に働いてしまうことも「前首こり」の原因として挙げられます。

 

 

 

改善方法

 

ここまで、お読みいただいた方は腹筋の筋力不足が首の前側に与えるストレスについてご理解いただけたと思います。

 

では、ここからは、改善方法についてご紹介してまいります。

 

対症療法

まずは、筋緊張の強い筋肉自体の緩めることが初期治療となります。

 

マッサージや鍼治療などを駆使いたしまして、筋緊張の緩和をおこないます。

 

肩こりラボでは同時進行で、この後の根本治療に繋がる改善が必要なセルフケアをご提案させていただきます。

 

 

原因療法

対症療法で、痛みレベルが下がってきましたらここからが本題の腹筋のアプローチとなります。

 

対症療法では痛みは一時的に軽減されますが、まだ身体自体が変わったわけではありませんので、痛みの出ない身体にするにはここからが重要となります。

 

ここでは、肩こりラボで実践する腹筋トレーニング例をご紹介いたします。

 

なお、以下 ご紹介するトレーニング4種目につきましては、全メニュー、腰や背中、首などその他にどこか不調が生じる場合は無理せずに直ちに中止して下さい。

 

 

ドローイン

腹筋メニューの全ての基本になるトレーニングです。

腹部の最もインナーにある腹横筋がターゲットとなります。

 

  • 仰向けに寝ます

  • 息を鼻から吸って口から吐ききり、最大までお腹を凹ませます
  • お腹をキープしたまま胸式呼吸を続けます

 

※まずは呼吸に合わせて腹横筋を使えるようにすることが目標です。出来るようになりましたら、座った姿勢や、歩く時、会話をする際も意識してみましょう。

 

 

クランチ

 

腹横筋・腹直筋・腹斜筋の複合のトレーニングです。

特に、お腹の上部がターゲットとなります。

 

  • 首が力まないよう、手の力で頭を持ち上げます。
  • 腰をピタッと床に密着させます。

 

  • ①のドローインをしながら胸の中央をお臍に向けるイメージで腹筋を収縮させます。

 

※頭を高くあげようと思わず、腹筋を縮めるイメージで上体を持ち上げましょう。

 

 

 

 

レッグレイズ

腹横筋・腹直筋・腹斜筋の複合のトレーニングです。

特に、お腹の下部がターゲットとなります。

1お尻の下に手をしいて骨盤を傾け、背中・腰・骨盤を床に密着させます。

 

2両脚を天井方向へ持ち上げます。もも裏が硬い方は軽く膝を曲げます。

 

3①のドローインをしながらおへその下に力を込めて、脚を床に下ろします。

 

※腰や脚に力が入らないよう、最初は下げすぎず小さいストロークからスタートしましょう。

 

 

 

シットアップ

腹横筋・腹直筋・腹斜筋の複合のトレーニングです。

腹部全体がターゲットとなります。

1体育座りの姿勢で、脚を固定します。

 

2お腹が一番効いていると感じるところまで身体をゆっくり後ろへ倒します。

3ゆっくり起き上がります。

 

※つま先の角度を下に下げることで難易度があがります。

 

 

 

いずれも、正しいフォームでおこなわなければ、しっかりお腹へ効かせることができないばかりか他の部位へ負荷がかかり別の場所を傷めてしまう可能性があります。

 

フォームに自信の無いかたは、一度専門家の指導を受けることをおすすめいたします。

 

環境の見直し

 

あわせて、PC環境の見直しも重要となります。

 

身体が改善してきても悪い姿勢を促す環境で作業を続けますと効果が半減です。

 

より、前側の首への負担が少ない姿勢で作業を行えるよう、過去の記事「肩こり・首こりが気になる方が意識すべき、パソコン作業時の適切な姿勢(座り方)とデスク環境とは? 厚生労働省のガイドラインをふまえて解説します。」もご参考にしながら環境の見直しもおこなっていただけますと幸いです。

 

 

まとめ

以上、「前首こり」と「腹筋の筋力不足」との関連性、メカニズム、原因、改善例を、ご紹介してきました。

 

なお、急激に症状が現れたり、首肩こり以外の関連症状も同時に現れたりしている場合は、他の疾患が隠れている可能性があります。

 

その場合、まずは自己判断せず、医療機関を受診することをおすすめいたします。

 

 

今記事が、前首こりでお悩みの方のご参考になりましたら幸いです。

 

 

 

参考文献

筋:機能とテスト―姿勢と痛み 著ケンダル/マクレアリー/プロバランス 栢森 良二 翻訳

小学校高学年の立位姿勢とその特徴 

 


執筆者:伊藤 美里
Misato Ito

盛岡医療福祉専門学校卒業
日本医学柔整鍼灸専門学校卒業

鍼師・灸師
柔道整復師

学生時代バレーボールに打ち込み、当時自分の心の支えとなったアスリートやアーティストに携わる仕事をしたいと思い、「身体の治療・ケア」する道を選びました。
日々患者さんの治療にあたる中で、さらに治療の引き出しを増やすべく鍼灸師の資格を取得。
解剖学的な構造、運動学、最新のエビデンスの理論を基におひとりおひとりの「何が原因か」を追究し、よい治療をご提案できるよう努めてまいります。