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20年来の慢性的な首こりと、凝りに伴う頭痛がでゴールに至ったケース|ケースレポート

概要

整体とパーソナルトレーニングにより、一時のひどい状態からは改善したが、頭痛を伴う首こりによって仕事や日常生活に支障をきたしてしまっている。

O様 / 東京都在住 /  52歳 / 男性 / 会社員(管理職)

症状

・慢性的な首こり
・頭痛

状態

20年くらい前から肩こりと首こりで、様々な施術を受けてきた。

様々受けたなかで、肩こりや首こりを専門とする整体と、整体とは別のトレーナーによるパーソナルトレーニングに行き着き、この二つを併せて行うことで、かなり改善した(NRS 10→5)。
※NRS:Numerical Rating Scale 痛みを「0:痛みなし」から「10:これ以上ない痛み」までの11段階に分け、痛みの程度を数字で表す評価方法。

今は、もうほとんど肩こりの自覚はなく、姿勢も改善したという自覚がある。

姿勢はいつも気をつけているし、ゴルフやウォーキングなどの運動、日々のストレッチも行っているため、日常生活は特に問題がないと自覚している。

最も悪かった時から比べると今は5割ほどの状態だが、首こりだけがどうしても改善しない。肩こりは無いが、首がつらい。

首こりがひどい時は頭痛がして、仕事や日常生活に支障が出てしまう。頭痛は主に右の後頭部から頭頂部、両側のコメカミに生じる。

いくつかの病院で脳や首の検査を受けたが、異常は見つからず、おそらく凝りのせいだろうといわれた。整体で、強く押してもらうと気持ちが良いが、奥の芯の様な凝りが解消されず、改善には至らない。

見立て

【頭痛について】

まず、頭痛があるということで、命に影響を及ぼす疾患の可能性を考慮しなければならないが、当院初診一ヶ月前に、医療機関を受診して専門医の診察を受けて特に病気は無いといわれており、この間も症状に変化がないということから、再度の医療機関受診の必要性は低いと判断した。

触診により、首の後ろから横にかけての筋肉(僧帽筋、頭半棘筋、頭板状筋、後頭下筋群、胸鎖乳突筋、肩甲挙筋)や、頭部の筋肉(側頭筋、前頭筋、後頭筋)が緊張していることがわかった。

頭の感覚を担う神経は、首に由来するものがある。大後頭神経、大耳介神経、小後頭神経である。これらは頚椎から出て、首の筋肉を貫いて、頭にむかうため、首こりによって頭痛になることがある。首こりによる大後頭神経痛はその一つである。

また、頭部にも筋肉(前頭筋、側頭筋、後頭筋)があるため、眼、顎、首の酷使によって、これらの頭の筋肉自体が硬くなり、頭痛を招くことがある。このような頭痛が緊張性頭痛である。

本件の場合は、複数の医療機関で検査を受けて、脳や首に異常がないことが確認されており、且つ、症状のある部位の筋緊張が見受けられたため、頭痛は首こりや頭こりによるもの(頭部の筋肉自体が緊張して生じる頭痛と首こりによって大後頭神経が圧迫されて生じる頭痛の混合)である可能性が高いと推測した。

【首こりを招く要因について】

診察時の様子からも、とても姿勢には気をつけていることがうかがえた。

ところが、背スジをピンと伸ばしてはいるが、顎を強く引きすぎてしまっていた。顎を引くと見た目は美しく見えるが、首は力んでしまう。喰いしばりも強くなり、側頭筋が緊張し、頭こりや顔こりにつながってしまう。

真っ直ぐに伸びることを強く意識しているため、見た目は美しいが、力みが強い姿勢といえる。この力みにより、首や頭の筋肉に負担がかかり、凝りが生じてしまっていると考えた。

仕事のストレスが多いことから、ストレスによる凝りもあると思われるが、肉体的な負担がかかっていることも明らかなので、まずは肉体的なものを改善させる方針とした。

治療

慢性的な首こりの解消のために、今まで強いマッサージを受けても解消しきれなかったため、初回から鍼治療を行った。

3D鍼で首の浅層から深層まで筋肉(僧帽筋、半棘筋、板状筋、後頭下筋群、胸鎖乳突筋、肩甲挙筋)をひとつひとつほぐした。特に緊張が強い部分(半棘筋、板状筋)は、3D電気鍼(低周波鍼通電療法)も行った。

頭こりや顔こりは、マッサージで丁寧にほぐした。加えて、首と関連性が高い、背中や腰筋肉、肩甲骨の筋肉をマッサージで入念にほぐし、股関節と肩甲骨柔軟性改善のために、ストレッチを行った。

首こりは、1回の治療で、奥に芯となっているように感じていた慢性的な凝りが解消されたとのこと(NRS 1以下)。これにより、これまで週に2~3回は頭痛があったが、2回目の治療までの1週間で、一度も頭痛が出なかった。

首こりの解消も一時的なものではなく、一週間経過時点でも楽な状態が続いている。

 

首への負担を減らすために、原因療法として、同時に姿勢の改善も行った。

運動を行っているため、個々の筋力は十分だったので、それらを効率よく連動させる使い方の練習をした。姿勢の要点も確認して、首や肩に負担をかけない姿勢を体得していただいた。

一週間頻度で3回の治療で症状がほぼ無くなり、治療の内容を姿勢改善に重きをおくようシフトした。

4回目は2週間後。5回目は4週間後としたが、症状でつらくなることはなく、計5回の治療でゴールに至った。

コメント

本ケースの要点は二つあります。

一つ目は、対症療法。首こりや頭痛の元となっていた首の深層筋の凝りをくまなく解消することです。

O様は、これまでもマッサージ等の手技療法により、体の表面からは凝りのポイントに対処をしていました。実際、つらいところを強いマッサージでほぐしてもらうと、少しは楽になっていました。

ですが、いくら首を集中的にマッサージしても完全にすっきりすることはなく、翌日には戻ってしまう状態でした。一方、鍼治療も受けてはいましたが、翌日には戻ってしまうということに変わりはありませんでした。(鍼治療は、ツボや経絡に対して鍼をうつ東洋医学的な手法だったため、患部には直接的に刺してはいなかったとのことです。)

O様がこれまで受けてきた、凝りをほぐすための治療は、凝りのある皮膚上や、遠隔部から間接的には患部に対して対処をしていましたが、皮下にある「凝り」そのものに対して直接的なアプローチがなされていなかったということが想定されました。

そのため、対処を繰り返しても、凝りの「芯」が解消しきれず残ったままだったので、治療を受けてもすぐにぶり返してしまう状態だったのではないかと考えました。

全てではありませんが、慢性化している深層筋の凝りは、マッサージなどの体外からのアプローチでは解消しきれない場合が少なくありません。マッサージで解消しきれず慢性化してしまっている場合は、直接的にアプローチが可能な鍼が有効です。

鍼治療の技法は様々ありますが、このような筋肉性の場合は、ツボや経絡ではなく、対象となる筋肉に直接刺す手法が功を奏することが少なくありません。

O様の場合は、凝り固まってしまっている筋肉を鍼で直接ほぐしたところ、すぐに慢性的な状態から脱することができました。

O様の状態をひとことで言うと、ほぐし不足により慢性化してしまっていた、といえます。

 

二つめは、原因療法。首や肩に負担をかけない姿勢を理解し、体得することです。

実は、背筋をピンと伸ばして顎を引くという見た目が美しい姿勢と、首や肩に負担をかけない姿勢は、異なるものなのです。

O様は、姿勢を正そうと、とても意識をしてくださっていましたが、それが裏目に出てしまっていました。姿勢を正そうとすることで、かえって首を力ませてしまい、良かれと思って行っていたことが、かえって負担となってしまっていたのです。

O様は、日々運動をしていることから、柔軟性や筋力など基本的な要素が概ね良い状態でした。それ故に、簡単な補強運動と、体の使い方を練習し、姿勢のコツをお伝えすることで、すぐに正しい姿勢を身につけることができました

とはいえ、新しいことを体得するということはたいへんなことです。日常生活にて意識を続けてくださったことで、原因療法がスムーズに進み、早期にゴールに至ったと考えられます。

 

 

 


執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


肩こりや首こりを慢性化させないでほしい理由と慢性化させないための日常生活の工夫

テレワークで、慣れない環境や仕事に適していない環境で作業をしている方、オンラインでの仕事をはじめたことにより、以前よりもPC作業、タブレットやスマホでの作業が増えている、という方は少なくないでしょう。

 

新たな生活様式を構築してうまく折り合いをつけて生活できている方がいらっしゃる一方で、ストレスと運動不足が相まって、不調を自覚する方も少なくないと思います。

 

仕事や生活様式の変化によって、平時よりも首や肩への負担が増え、肩こりや首こりがつらくなってしまっているという方はいらっしゃるのではないでしょうか。

 

病気であれば、病院で診てもらうのが普通ですが、肩こりや首こりの場合はいかがでしょう。

 

全てではありませんが、多くの場合は、病院では異常がないとされる本態性肩こり(=病気が元ではない肩こり)ということで、おそらくほとんどの方は我慢か放置となってしまっているかもしれません。

 

また、平時であれば、つらくなったらマッサージに行ってほぐしていた方も、今は自粛しているという方もいらっしゃるかもしれません。

 

ほとんどの場合、肩こりや首こりは今すぐに命を脅かすものではありませんし、今すぐ生活に支障をきたすものでもありません。

 

ですが、はじめはたいしたことのなかった肩こりや首こりが慢性化、重症化することで思わぬ不調に陥ってしまうことがあります。

 

それを防ぐためには、軽症の時に、きちんと対処をすることです。

 

本格的な不調に陥る前に対処すれば、治療に費やさなけばならない経済的、時間的な負担軽減、情報収集のための労力軽減にもつながります。

 

何よりも、つらい思いをしなくて済みます。治療を受けなくてもよいのです。

 

ですので、是非この機会に、肩こり・首こりのイメージ、もっといえば筋肉や筋膜の過緊張という状態に対する考え方を改めていただきたいのです。

 

本記事では、主に以下2点をお伝えいたします。

1)肩こりや首こりを慢性化させないでいただきたい理由

2)慢性化・重症化を防ぐための2つのポイント

 

首や肩が凝ったな、重いな、なんだか不調だな・・・と思われた方は是非ご一読いただけましたら幸いです。

 

肩こりや首こりを慢性化させないでいただきたい理由

筋肉や筋膜の過緊張が生じるということ。これ自体は生理的な反応ですので、異常ではありません。

ではどのような状態が異常なのでしょうか。

まずはここからご説明いたします。

 

なにが正常で、なにが異常なのか?

誰でも筋肉を酷使すれば疲労します。

筋肉痛もおこります。

 

たとえば・・・

長い階段を登れば、太ももの筋肉に痛みが出るでしょう。

運動をすれば、翌日以降に筋肉痛が生じるでしょう。

長時間仕事をすれば、疲れるでしょう。

 

筋肉を酷使して疲労や筋肉痛が生じても、普通は、しばらく休めば元に戻ります。

負担を受けて、それに見合った疲労や痛みが一時的に出ることは、生きている限り自然なことです。

これは正常な状態です。

 

一方、いくら体を休めても、マッサージなどを受けても回復しない、あるいはすぐに再びつらくなってしまう場合があります。

また、たいして負担をかけていないにも関わらず、疲労や痛みが生じてしまうこともあります。

 

これは慢性化してしまっている状態です。

つまり、異常な状態といえます。

慢性化した肩こり・首こりは、カラダの自然治癒力が及ばない状態、つまり治療が必要といえます。

 

「治療って、そんな大げさな・・・」

「とにかく、ほぐしたいだけなんだけど」

「とりあえずラクになれればそれでいい」

 

肩こりや首こりで治療なんて・・・と敬遠されることでしょう。

 

でも、それは、おそらくそこまでヒドくない方だからこそです。

 

肩こりが慢性化すると病気のような症状を招く!?

肩こりを軽視してはいけない理由として一般的なのは、病気が元になっている肩こり(症候性肩こり)の可能性があり、命に関わる問題かもしれない、ということです。

 

これに関しては、メディアでも再三取り上げられていますし、ご存知の方も少なくないでしょう。

 

病気が元になっている肩こりがあるのは事実ではありますが、実際のところは、病気ではない肩こり(本態性肩こり)がほとんどなので実感がわかない方も多いと思います。

ですので、本記事では別角度からのお伝えをさせていただきます。

 

肩こりや首こりが慢性化すると、自律神経やメンタルにも影響が出てしまい、日常生活に支障をきたしてしまうことがあります。

 

首や肩の筋肉の過緊張が継続することで、筋肉の痛みや不快感以外の諸症状が生じてしまうのです。

 

凝りに伴う「凝り」以外の症状は、頭痛、めまい、耳鳴り、不眠、倦怠感、胃腸の不具合、精神症状(気分の落ち込み、イライラ、不安感 等) などがしばしば見受けられますが、定型的なものではなく個々によって異なります。

 

一般的に、このような症状があれば、病院で治療を受けるのが普通でしょう。

 

ところが、凝りが元の諸症状であった場合、病院にいって診察を受けても決定的な診断がでない、あるいは原因がわからないということになります。

 

そして、凝りに伴う諸症状は、うつ病やパニック障害等の精神の不調や、自律神経失調症と呼ばれる状態と類似していることから、症状の対処として、精神安定剤や抗うつ剤などを処方されるということが少なくありません。

誤解しないで頂きたいこと。強調したいこと。

二つあります。

一つ目は、病院受診についてです。

凝りが元になった不調である可能性があったとしても、病院に行っても意味がないということではありません。まずは必ず病院に行きましょう。

病院に行き、診断名がつく病気が元で生じている症状なのかどうかをはじめに確認することが何よりも大切なのです。

安易に自己判断せず、医師の診察を受けるようにしてください。

病気ではないということが確認されて、はじめて凝りによる不調ではないかということになります。

二つ目は、服薬についてです。

薬を飲まないで健康であることに越したことはありませんし、生命を維持するうえに必要不可欠な場合を除き、極力長期的な服用は避けるべきだと考えておりますが、本記事は服薬を否定し、鍼灸マッサージ治療を推奨するということを目的としていません。

たとえば、侵害可塑性疼痛(nociplastic pain)のような慢性疼痛であれば、普通の消炎鎮痛剤(たとえばロキソンなどのNSAIDs)よりも、抗うつ剤の方が効果的であるといわれています。

この場合であれば、精神症状改善のためではなく、痛みの治療のために抗うつ剤を利用することになります。

痛みが痛みを呼ぶという観点からも、とにかく症状の緩和(鎮痛)を行うということは治療において意味のあることです。

 

ここでお伝えしたいのは、

  • 一般的に病気ではないとされる「肩こり」や「首こり」が元になり、様々な不調が引き起こされることがある
  • 肩こり首こりがひどくなり、日常生活に支障をきたし、社会生活が困難になってしまうことがある

この二つです。

 

何よりも、こういった実態があることを知っていただきたいのです。

 

病気ではないからといって、肩こりや首こりを軽視しないでいただきたいと切に願います。

 

もし周囲に「肩こりがつらい」とお悩み方がいらっしゃいましたら、「気のせいだ」「気持ちの持ちようだ」「病気ではないでしょ」と思わず、是非親身になってお考えいただけたらと思います。

 

お悩みの方は少なくありません

首や肩の凝りが元で、様々な不調が生じてしまう状態を「頚性神経筋症候群」や「首こり病」と呼ぶことがあります。

 

「症候群」や「病」とつきますが、これらは医学的に正式な病名ではありません。ですが、実態としてこのような症状で苦しんでいる方がいらっしゃるということを知っていただきたいのです。

なかには、凝りとそれに伴う諸症状により、仕事が手につかなくなり、休職を余儀なくされ、社会生活が送れなくなってしまっているという方もいらっしゃいます。

 

つらい。身動きがとれない。自覚的には異常事態なのに、医学的には病気ではないとされます。(現代医学が悪いわけではなく、現時点の医学ではカバーしていない範疇であるというだけです)

 

ある病院で目立った異常は無いとされたとしても、症状があって自覚的には具合が悪いわけなので、複数の病院で検査を受けます。

複数の病院で同様の結果を受け、病院ではなく、治療院や施術所に足を運ぶようになるというという方が少なくありません。

 

複数の病院受診、複数の治療院・施術所へ通院し、施術を受けるということは、多大な労力と時間、費用がかかります。

医療者・施術者に対して、自分の状態を説明すること、これ自体もとてもたいへんなことです。

 

首や肩こりが慢性化、重症化すると、社会生活に支障をきたしてしまうことがあるのです。

 

ですので、肩こりや首こりを慢性化させないでいただきたいのです。

 

当院にいらっしゃる、重度の首こり・肩こりを患った方々を治療するなかで切に感じること。

それは、最も重要なのは、頚性神経筋症候群や首こり病といわれるような、慢性的かつ病的な凝りの状態にならないようにするということ。

 

つまり予防です。

 

慢性化・重症化を防ぐための2つのポイント

肩こり・首こりの慢性化や重症化の予防において大切なのは以下2点です。

  1. 首や肩の疲労を蓄積させないこと
  2. 首や肩への負担を減らすこと

 

当然のことだと思われるかもしれませんが、生活のなかでいざ実行しようとすると、簡単ではありません。

そこで、肩こりラボでの実際の治療でも取り入れている肩こりラボが推奨する方法とポイントをご紹介させていただきます。

 

【1】首や肩の疲労を蓄積させないこと → こまめな解消

疲労解消法は様々ありますが、日頃デスクワークが多い方におきまして、特にオススメしたいのは、カラダを動かすことです。

 

ただ、闇雲に動かせば良いというわけではありません。

日頃、ジムでのトレーニングや、スポーツをされている方でも首肩こりにお悩みの方は少なくないように、「体を動かす」ことにおいては要点があります。

 

ポイントは3つです。

  1. つらい箇所(首や肩)のストレッチはやりすぎないこと。※傷めてしまうことがあるため
  2. 肩甲骨や体幹を動かすこと。※痛みを伴わなければ静的よりも動的ストレッチの方がオススメ
  3. 体の前面をほぐして、後ろに反れるようにすること。 ※特に背中と股関節が後ろに反れるようにする

 

具体的に「何をやるか」におきましては、既に何らかの対処を行っていて自分に適しているものがあるようでしたら是非それを継続し、その際に上記のポイントを意識してみてください。

 

もし効果的なストレッチ方法をお探しであれば、こちらのストレッチ(YouTubeにとびます)をお試しいただけたらと思います。

 

こちらのストレッチは、肩こりラボの治療でも、実際に行うことがある7つのストレッチをご紹介しています。

※動かすと痛い場合は、痛みや違和感が出ないもののみ行ってください。特に背骨や肩関節の問題のある方(ヘルニア、四十肩・五十肩、反復性肩関節脱臼 等)の方は決して無理のないようにしてください。

 

「肩こりはあるが、日時生活に支障あるわけではない」という方におきまして、症状解消と慢性化予防として、お役にたてることでしょう。多くの方は、このストレッチで、十分な緩和・メンテナンスになります。

 

【2】首や肩への負担を減らすこと → 根本改善に重要

現代の生活においてPCやスマホを使わないということは不可能なように、首や肩の負担を完全に無くすということは不可能です。

 

でも日常生活の中でちょっとした工夫をすることで、首や肩の負担を軽減させることはできます。

塵も積もれば山となるように、ちょっとした工夫でも、積み重ねれば大きな違いになります。

 

本稿では首や肩の負担を減らすためのスマートフォンとパソコンの操作方法をご紹介いたします。

 

実際の患者さんに行っていただき成果をあげている方法です。

 

PC操作の工夫

厚労省の VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン では、休憩の頻度や環境について等、心身の負担を減らすための指針が記載されています。

 

たとえば休憩ですが、ガイドラインによると、一連続作業時間は1時間を超えないようにして、連続作業と連続作業の間に10-15分の作業休止時間を設け、かつ一連続作業時間内において1-2回程度の小休止を設けることとされています。

 

これらがきちんと実行できれば、おそらく疲労は軽減されることでしょう。ですが、理想を現実は異なります。

ガイドラインに記載されていることをすべて実行することは実際は難しい・・・・という方は少なくないでしょう。

 

そこで、様々改善は必要だが、実際のはなかなか難しいという現状をふまえて、実践的な首や肩の負担を減らすための方法をご紹介します。

 

それは、PCのディスプレイの高さ調整です。

 

みなさんは、PCのディスプレイはどのような高さの設定するのが望ましいか、ご存知でしょうか。

 

上述した”厚労省の VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン”によると、「ディスプレイは、その画面の上端が眼の高さとほぼ同じか、やや下になる高さにすることが望ましい。」とされています。

 

姿勢を正した姿勢で、ディスプレイの位置が下にありすぎると、背中は伸ばしていても、頭がうつむく形になってしまうと首には負担がかかってしまいます。

一方、ディスプレイの位置が高く、目線を上に向けすぎると眼精疲労の元になりますし、首を反らせて見上げる状態になってしまうと首にも負担になってしまうので位置が高すぎるのも要注意です。

 

体感として、適切な位置は、ディスプレイの大きさによっても異なりますので、厳格に画面の上端が眼の高さとほぼ同じか、やや下になる高さにするのではなく、これを目安に、ご自身の首肩や眼の疲労感の感覚とみながら微調整していただけたらと思います。

 

ちょうどよい高さは個々によって異なりますので、中には、画面中の作業スペースが目線にあるのがちょうど良いという方もいらっしゃるかもしれません。

ですので、当院の患者さんには、眼の疲労感と首の緊張の程度みながら、なるべく下を向かないで無理なく作業ができる位置に調整していただくようにしています。

 

当記事をお読みの方も、ガイドラインを参考に、是非微調整をしてみていただけたらと思います。

 

 

さて、デスクトップPCは、ほとんどの場合、モニターの高さ調整が可能です。

調整の幅が少なくてちょうど良いところにできない場合は、モニターの下に台を置いたり、椅子の高さを調整してみましょう。

 

一方、ノートPCをメインに作業をする方モニターの高さ調整が困難に思えます。

「自分は普段ノートPCだから液晶画面を高くするのはムリ!」とあきらめないでくださいね。ノートPCの方が下を向く程度がおおきくなりますので、日頃ノートPCを使用するほど、トライしていただきたいのです。

 

ノートPCの方を使う方にお願いしているのは、外付けのキーボード、あるいは外付けモニターをご用意していただくことです。

ブランドに拘らなければ、安価なものが多数販売されています。モニターも、モバイルモニターとして持ち運び可能なものがあります。

 

外付けキーボードを使う場合は、ノートPCを台に載せて、画面を高くあげるようにしましょう。

画面の高さは、上記デスクトップの時と同様、画面内の頻繁に使用する作業領域が眼の高さとほぼ同じか、やや下になるようにします。

 

外付けのキーボードか、モニターどちらが良いのか、それぞれの作業環境によりますので、自らが実際に使える方をお選びいただけたらと思います。

ノートPCの場合、オフィスや出先など異なった環境で作業することもあると思いますので、場合によっては両方用意するのもありかと思います。

 

PC作業におきましては、極力下を向かないで作業できるよう環境を整えるということがポイントです。マッサージにいくのを一回我慢したとしても、中長期的には体には首や肩には良い影響がありますので、是非購入をご検討いただきたいと思います。

 

スマホ操作の工夫

まず一番のポイントはスマートフォンを保持する高さです。スマートフォンの操作で一番の問題は下を向き続けることにあります。

ですので、なるべく画面を目線の高さに持ち上げて保持し、操作をしてほしいのです。

 

例えば、スマートフォンを片手で持ち、持っている手の肘の下にもう一方の手を入れて支えると、目線の高さに保持することの負担は軽減できます。

電車での移動中など座位であれば、膝の上に荷物やクッションを置き、肘を荷物に乗せてスマートフォンを保持すると負担を軽減することができます。

 

次のポイントは目と画面の距離です。もちろん「目」に対しては近くない方がよいのですが、あくまでも姿勢の改善という点に限りますと、画面は遠いよりは近いほうがよいです。

 

なぜかというと、目線の高さで、画面を顔から遠くに離して操作するというのは、実際のところ困難です。

スマホを目線の高さに保ち、顔から話して操作しようとすると、テコの原理でスマホがとても重く感じますし、さらには上肢の重みも加わり、このような状態で操作は困難であることに気がつきます。

 

すると数分も経たずに、懐に端末を保持することになり、下を向く姿勢となってしまいます。首や肩の負担を減らすためには下をなるべく向かないようにすることが大切です。

眼の負担と首肩の負担を考慮しますと、スマホを長時間操作するということを見直し、別の方法に代用するか、使用時間を自己管理するのが良いかもしれませんね。

 

スマートフォンの機種選びも重要です。近年では液晶大画面化の傾向にありますが、視覚的に見やすい反面、片手で操作ができないことや重量があることによって丸まった姿勢で操作せざるを得ない状況にもなっています。

肩こりにお悩みの方は、軽量で、かつ片手で操作できる端末を選ぶことが望ましいといえます。

 

なお、この「首や肩に負担のかかりにくいスマートフォンの持ち方」は、読書や書類閲覧の際にも共通していえることですので是非生活に取り入れていただけましたらと思います。

 

治療を検討する目安

今現在、さほどひどくない方は、上述した「重症化予防のポイント」にご留意して生活いただき、症状がつらくない状態を維持できるようであれば治療は必要ありません。

日常生活のなかで、首や肩の負担を減らすことを意識して生活をしてください。

 

一方、もし既に首肩こりがひどくつらい状態であれば、改善のために、適切な対処が必要です。

まずは、ご自身にとって、治療が必要か不要か、それを判断していただきたいのです。

 

首肩がガチガチでひどくつらい方で、治療が必要かどうかは、まず、セルフケア動画で紹介したストレッチ(YouTubeにとびます)ができるかどうか? そして、楽になる実感があるかどうか? これで見極めてください。

 

今現在、ひどくつらい状態だとしても、このセルフケアを日常的に行なうことで調子が良くなれば治療の必要はございません。

 

つまり、動画でご紹介しているストレッチが効くなら、あなたの肩こりや首こりは治療の必要がない状態いうことです。

このストレッチで効果が感じられない場合は、肩こり・首こりの治療を受けることをご検討いただけたらと思います。

 

治療を検討するにあたっては、治療院、マッサージ、整体に行く前に、まずは医療機関の受診をするようにしてください

 

医療機関を受診し、病気が元で凝りが生じているようであれば、診断が出て、病院で治療が行われます。

診断が出ず、病院で治療が必要な状態でない場合は、治療院の受診をご検討ください。

 

肩こり・首こりの根本的な改善を目指すための治療院を探すには、こちらの記事【治療院の選び方】を参考にしていただけたらと思います。

 

 

【 参考 】

Pain Relief ー痛みと鎮痛の基礎知識

Recently introduced definition of “nociplastic pain” by the International Association for the Study of Pain needs better formulation

Wikipedia(頚性神経筋症候群)

厚生労働省労働基準局/VDT作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


首こりと首の痛みによって不眠になり日常生活に支障をきたしてしまったケース|ケースレポート

概要

首こりと首の痛みが慢性化して、つらさのあまり、寝付きが悪い、眠りが浅い、寝ても疲れがとれない、頻繁に起きてしまうといった睡眠障害に陥ってしまい、心身ともに疲弊してしまった。

S様 / 東京都在住 / 29歳 / 女性 / 会社員

症状

首こり
首の痛み

状態

社会人になってから、首こりを自覚するようになった。仕事の忙しさと比例して、首の凝りが気になる状態だったが、デスクワークなので仕方がないと思っていた。首が凝っても、一晩休めば治るので、特に生活に支障はなかった。

ところが、一年ほど前に転職して仕事がかわった頃から急激にひどくなり、痛みも出るようになってしまった。これまでであれば 首が凝っても一晩寝れば回復していたが、最近は体を休めても回復しない。

つらい状態が続き、痛みも出てしまっていたため、整形外科を受診した。特に異常は見つからず、ストレートネックだといわれ、湿布と痛み止めを処方された。ところが鎮痛剤を飲んでも楽にならなかった。知人に鍼と整体を紹介されて何度か行ったが、効果を感じることができなかった。

首がつらくて、寝付けないこともある。眠れたとしても、何度も起きてしまったり、寝ても疲れがとれない状態になり、日中ぼーっとするようにもなってしまい、今が最もひどい状態。仕事に集中できなくなり、本格的に日常生活に支障をきたしてしまうようになってしまったので治療にきた。

見立て

首を触診したところ、表層の僧帽筋だけでなく、深層の半棘筋や板状筋まで過緊張状態にあることがわかった。首の緊張が最も強いが、頭から腰まで上半身全体の筋肉が硬くなってしまっていた。上下に首を動かすと、痛みが出る。(上を向く動作、下を向く動作共に痛みが出るためうがいができない状態)

整形外科で診察を受けて、骨や椎間板に異常や、病気がない事が確認されているため、筋肉や筋膜による痛み(筋筋膜性疼痛症候群:Myofascial Pain Syndrome:MPS)や、頚椎の機能不全(関節の動きの不調)の状態と推測した。

姿勢にも問題が見受けられた。立位だと反り腰となり、頭が前方に出ていた。座位では骨盤が後傾し、背中が丸まっており、猫背の状態となっていた。座位、立位いずれの場合も、頭が体よりも前方に出てしまっていた。丸まっている姿勢でパソコン作業をすることで首に負担がかかるが、立位姿勢も崩れているため、仕事以外の時間も首に負担がかかっており、回復できなくなってしまっていると考えられた。

首に負担をかけている要因として体幹部の機能不全が考えられるため、体幹に着目してさらに分析する。まず、背中が丸まっている(胸椎の後弯増強)ことから、胸郭の動きが少なくなり、胸式呼吸ができない状態となっていた。このため、頭が前方に出ている姿勢による首の筋肉に負担がかっていることに加えて、呼吸をすることでも首を力ませてしまっていた。

また、長時間のパソコン作業で胸や腕の緊張が強く、巻き肩になってしまっているため、仰向けで寝ても肩が浮いてしまう状態だった。その結果、就寝中も首や肩の緊張が抜けない状態となり、寝ても凝ってしまうことになる。首肩の緊張が最も高いが、手や足、頭を含める全身の筋肉の緊張が高まってしまっていた。

姿勢が崩れてしまう要因は、股関節の柔軟性不足、大殿筋・腹横筋・脊柱起立筋の筋力不足が主な要因と考えられる。筋力が低いため、身体造りの期間が長くかかることが予想される。セルフケアがどれだけできるかによってゴールまでの期間や回数がかわるだろう。

治療

首を中心に、全身の筋緊張を緩和するためにマッサージをしたが、首の緊張だけがどうしても緩和されなかった。そのため、深層筋に直接刺激を与えるために、3D鍼で、僧帽筋、半棘筋、板状筋、肩甲挙筋にアプローチをした。

深層筋への鍼が奏功し、1回で首の痛みが約半分(首痛のNRS 10→5)になり、3回の治療終了時点で首の動きに伴う痛みが無くなった(首痛のNRS 0)。
※NRS:Numerical Rating Scale 痛みを「0:痛みなし」から「10:これ以上ない痛み」までの11段階に分け、痛みの程度を数字で表す評価方法。

痛みが改善したので、残るは凝りの症状緩和となる。凝りは、治療後は楽になるが、時間の経過と共につらくなってしまう状態なので、体幹のコンディション改善と、日常生活の姿勢改善が必要となる。

初診時からマッサージに加えて、ストレッチを続けていることから、股関節の柔軟性は概ね良好になったので、今後は、筋力強化が課題となる。セルフケアを筋トレをメインとした。大殿筋強化はクラムシェルとヒップリフト、腹横筋強化は四つ這いドローイン、脊柱起立筋強化は肘つき、全体のためにスクワット、を行っていただいた。

鍼、マッサージ、ストレッチにて筋肉をほぐして症状を緩和するのと、関節可動域の改善を図り、筋トレで姿勢を保つための筋力と、正しい体の使い方の体得する治療を行った。

計7回の治療で、首の痛みと凝りがほぼ全て解消されて[首痛のNRS 0、首こりのNRS 1]、2週間経っても良い状態をキープできるようになった。その後、3週、4週と期間をあけても具合が悪くなることはなく、セルフケアも習慣化できていたため計9回の治療でゴールとなった。

コメント

首こりが慢性化し、ひどくなり、睡眠障害にまで発展してしまったケースです。一年前に、急激に悪化しましたが、それより以前から首や肩の筋肉に負担がかかりやすいお体であったたと推測でき、仕事が変わる前からの蓄積はあったと考えらます。

肩こりラボでは、肩こりという症状を客観的に診て、治療をするために、筋肉が硬いだけでは凝りではなく、症状を自覚してはじめて「凝り」である、と定義しています。

触診状の筋肉の硬さと症状の程度には、必ずしも相関関係はありませんが、硬くなっているということは、血行障害が生じやすく、筋肉や筋膜のコンディションが低下しやすい状況といえます。慢性的に筋肉の緊張が高く、硬くなっているという基盤があり、その上に心身のストレスや負担が加わることで、突如発症したり、悪化するという例は珍しくありません。本件もこのようなパターンであったと考えられます。

以前は自覚症状は強くは無かったとはいえ、コンディションが良いとはいえない状況のなか、仕事がかわって慣れない環境や作業により心身の負担が増えて、急に症状が顕在化したのではないかと考えらます。

痛み止めが効かないほど、強い症状が出ていましたが、対症療法としての3D鍼が著効し、早期に症状が解消しました。加えて、原因療法としてのセルフケアにもしっかりと取り組んでくださったおかげで、当初の予想よりも早くゴールに至ることができました。

 

 


執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


頭痛を伴う慢性的な肩こり・首こりに20年以上お悩みのケース|ケースレポート

概要

幼少期から首こり・肩こり、凝りに伴う頭痛に悩んでいて、最近では吐き気を伴うほど頭痛がひどくなってきてしまっている。

H様/ 東京都在住 / 35歳 /女性 / 会社員

症状

肩こり・首こり
首が前に出ている(ストレートネック)
慢性的に上半身の疲労感がある

状態

小学校高学年の頃から20年以上慢性的な肩こりと首こりに悩まされている。

高校生になってからは上半身の疲労感が抜けず、毎朝起きるのがつらい。
学生の頃に鍼治療を受けたことがあるが、楽になるのは一時的だった。

以前から月に1~2回ほど、こめかみの頭痛や、吐き気がすることがある。

ここ数年では、吐き気を催すほどひどい頭痛になってしまうことがある。脳神経外科を受診したところ緊張性頭痛だろうといわれ、痛み止めの処方と凝りをほぐすことを推奨された。

整形外科で、こりがつらい部分に筋膜リリース注射(ハイドロリリース)を受けて少しほぐれた感覚はあったが、翌日には凝りでつらい状態に戻ってしまった。その後何度か受けたが、良くても2〜3日ほどしか効果が持続しなかった。

社会人になってからはたまにヨガやピラティスを受けに行っている。背中の筋肉を使うことで首肩こりが楽になる感覚がある。

見立て

吐き気を催すほどの頭痛が生じる状態だが、脳神経外科を受診して命に関わる状態ではないことが確認されており、首こり・肩こりにおいても整形外科を受診して病気が元ではないことが確認されている。また症状が急激に発症したものではなく、長期的にみて安定しているため、我々の行う治療の適応範疇であると判断した。

触診により、首の筋肉(頭半棘筋、頭板状筋、肩甲挙筋、胸鎖乳突筋)や、肩の筋肉(僧帽筋)に強い緊張がみられた。首肩こりの症状を強く感じる部分と一致しているため、筋緊張が現在の症状を引き起こしている可能性が高い。

頭痛は、緊張性頭痛であると医療機関にて言われており、首肩こりの症状の程度に比例して起こっている。また、本人の自覚として、鍼、マッサージ、運動など血流改善により緩和されることから、首肩、頭の緊張をほぐすことが必要だと考えられる。

全身的に柔軟性に優れているが、脊柱起立筋、腹横筋、大殿筋など、姿勢を保持するための筋力や筋持久力が低く、姿勢が保持できずに背中が丸まりやすくなっていた。

筋力が低いために体幹で姿勢を保つことが困難で、頭の重みを首の筋肉で支えてしまっていることが見受けられた。

このことから、鍼や筋膜リリースなどの対症療法を行うと一時的につらさから解放されるが、首肩に負担がかかりやすい状況は変わらないので、すぐに再発してしまっていると考えられる。

対症療法と並行して筋力トレーニングを行い、姿勢保持に適した筋肉を長時間使えるようにすることで、今までの慢性的な状態から脱却できると考えた。

治療

初期治療

症状の解消に重きを置く治療フェイズ。頻度は5日~7日に一度。

自覚症状の強い部分である首や肩を中心に、全身的に鍼やマッサージを行い入念にほぐした。治療開始してから間もないうちは直後には少しは楽になるが、完全に解消されることはなく、今まで同様一週間ほど経つとこりが元に戻ってしまう状況だった。

当初は細い鍼(0.14mm)を使用していたが、症状の解消進度が緩やかだったため、段階的にやや太めに鍼(0.2mm)を使用するようにした。

また、角度や深さなどを調整して、こりのある部分にピンポイントで刺激を入れることに注力した。特に、仰向けで行なった首の鍼により、最もつらかった首のこりが解消し、首こりの解消に伴い頭の緊張感や頭重感も緩和した。これがきっかけとなり慢性化していた症状の改善につながった。

0.2mmの鍼で首や肩に鍼治療を行うのは、一般例と比べると強めの刺激ではあるが、H様にとっては適切な刺激となり、徐々に症状は下がっていき、105分の治療を6回行い、自覚症状が約8割改善された。NRSが10→2。

※NRS:Numerical Rating Scale。痛みを「0:痛みなし」から「10:これ以上ない痛み」までの11段階に分け、痛みの程度を数字で表す評価方法。

中期治療

原因療法に重きを置く治療フェイズ。頻度は10日〜14日に一度。

正しい姿勢を長時間キープできるように、脊柱起立筋、腹横筋、大殿筋の筋力強化を目的としてトレーニングに重きを置いた治療に移行した。(治療内容の主な配分は、30分の筋力トレーニングと75分の鍼マッサージ治療)

中期治療に移行してはじめのうちは、治療後一週間が経過すると症状が出やすい状態であったが、筋力が向上するにつれて症状を低い水準に維持できるようになり、二週間間隔にしてもNRS 5 以上になることはなくなった。夕方には多少こりが出るが、翌朝にはリセットされるようになった。

筋力トレーニングの内容を適宜アップデートしながら、セルフケアとして自宅でも行なっていただいた。

6回の治療で、H様の自覚として日々の生活で問題を感じなくなり、客観的にも筋力向上と姿勢改善が見受けられたため、治療からの離脱のために後期治療に移行することとした。

後期治療

セルフケアによる自己管理を体得する治療フェイズ。頻度は3週〜8週に一度。

症状を低い水準にコントロールしつつ、筋力強化を継続、3週、4週と徐々に治療の間隔をあけていくようにした。

その間、仕事の忙しさやストレスによって一過性に症状が出ることがあったが、セルフケアでの対処ができるようになってきた。

後期治療4回で、8週あけても悩ましくない状態をキープできるようになり、日常生活に支障をきたさなくなったため、ゴールとなった。

ゴール後も、症状や疲労解消のためのセルフケアだけでなく、筋力維持のための筋力トレーニングも生活習慣にしていただいた。

ゴールしてから6ヶ月後にチェックとメンテナンスを行なったところ、セルフケアが習慣になり、良好な状態を維持できていたため、卒業となった。

治療開始から約1年、計16回の治療でゴールになり、17回の治療で卒業に至った。

コメント

H様と同じように、様々な施術を受けても慢性的な症状が改善しないという方は少なくありません。本件において、転機となったのは、仰向けで行なった首の鍼治療でした。

仰向けで鍼をうつことで、ピンポイントで患部にアプローチをすることができ、慢性化してしまったいた症状が解消され、改善のための良いサイクルをつくることができました。

適切な治療内容は個々によって異なります。一般的にはあまり行わない手法、一般的には強めの刺激、だとしてもH様にとっては「適切な治療」になりました。

肩こりや首こりの治療は、あくまでも自覚症状を改善させることなので、患者さんからの訴えを治療に反映することがとても重要となります。本件は、H様が的確に感想をおっしゃってくださったおかげで、治療者との相互理解が深まり、治療に活かすことがきました。

患者さんにとって適している治療内容(方法や刺激量)や治療計画は個々によって異なるため、治療はそれにフィットさせていくことがとても重要です。

中期治療では、筋力トレーニングを正しくかつ積極的に行えるかどうかが進捗を左右しますが、H様はセルフケアをとても頑張ってくださいました。その甲斐あって、停滞しやすい中期治療をスムーズに進めることができました。計画通りにゴールに至れたのはH 様の頑張りの賜物です。ありがとうございました。

 

 

 


執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
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