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梅雨に肩こり・首こりがひどくなってしまうる理由 〜気圧や気温などの気象条件と体調不良の関係性〜

※画像をhttps://time-sharing.jp/sharing/8476-2から引用させていただきました

梅雨は不調の方が多い

 

春と夏に挟まれた雨の季節、梅雨。街角に咲く、満開の紫陽花が美しく、つい足を止めて眺めてしまいます。

 

この季節ならではの風情がある一方で、しとしと降る雨やどんよりとしたはっきりとしない天気が続き、気持ちが晴れないだけではなく、カラダもなんだか重だるいなという方は少なくないのではないでしょうか。

 

実際、当院でも、毎年春から梅雨にかけて、首や肩の凝りだけでなく、頭痛、めまい、倦怠感、寝ても疲れが取れない などといった、病気ではないけれど生活の質を低下させてしまうような不調を訴えてご来院される方が増える傾向にあります。

 

秋から冬にかけて寒くなる季節なら、なんとなく想像しやすいですが、だんだんと暖かくなるこの時期になぜ不調に見舞われる方が増えてしまうのでしょうか。

 

「五月病」と言われるように、年度変わりの疲れが時間差で出るといった社会的な要因など、様々なことが関係しているとは思います。

 

加えて、春から初夏にかけては、寒い冬からだんだんと暖かくなるとはいえ、ポカポカ暖かくて過ごしやすい日もあれば急に冷え込む日があったり、一日のなかでも朝夕での気温差、外と屋内での気温差など、気圧の変化や寒暖差が大きく天候をはじめとした気象条件が不安定な時期となります。

 

梅雨は特に気圧の変化が著しいため、前述したような気象条件による影響を受けて、身体が不調をきたしてしまっているということもあるのかもしれません。

 

 

天気によって、体調が影響を受けるというのは昔から経験的にいわれてきました。「雨が降る前は古傷が疼く」「頭痛がつらいと思ったら台風がきていた」「自分の身体は天気予報より正確だ」という方はいらっしゃることでしょう。

 

このように、気圧、気温、湿度などといった気象条件に伴って不調が生じるものを「気象病」と総称し、天気が崩れる時に慢性的な痛みや症状が悪化するものを「天気痛」といいます。

 

天気痛の実態を調査するために「ロート製薬」と「ウェザーニューズ」によって、2020年6月15日〜21日に実施された、全国の16,482人を対象にしたアンケートによると、天気痛は平均週2日発症し、5人に1人が生活への支障あるという結果が出ています。

 

当調査では、女性の約8割は天気痛持ちという結果も出ており、日本全国に天気痛で困っている方が多数いることが伺えます。

 

※参考 https://jp.weathernews.com/news/32013/

 

 

 

 

なんで不調になるのか、どうすれば解消の手掛かりになるのか

 

以前から経験的にいわれていた気象条件によって体調が変化するという現象が、単なる気のせいではなく、きちんと理由があったということを医学的に解明したのが、医師で医学博士の佐藤純氏です。

 

佐藤氏は、気圧の変化による影響は内耳にある気圧感受システムが関与し、気温の変化による影響は皮膚に分布する神経の受容変化によって生じていることを明らかにしました。

 

また、慢性的な痛みを抱えている方の一部では、気圧や気温の変化に対して、自律神経が過剰に反応することがあるということを発見しました。

 

 

天気痛をはじめとした気象条件の変化による不調のメカニズムは、耳や皮膚に備わるセンサーが、気圧の変化や気温の変化をキャッチして、気象条件が変化するに伴って自律神経のバランスを変化させることで生じているのです。

 

そして、慢性的な痛みや症状を抱えている方の方が、自律神経のバランスが崩れやすいので、天気痛が生じやすくなります。

 

 

 

さて、天気痛をはじめとした梅雨時の不調に対して何か自分でできる対策はあるのでしょうか。心を込めて、てるてる坊主を量産しても、再現性のある対策にはなりそうもありません。

 

天気や気象条件をどうにかすることはできませんので、影響を受ける自身の身体に着目してみましょう。

 

 

上述しましたように、佐藤氏の研究により、慢性的に痛みを抱えている方の中には、気象条件の変化に伴い自律神経が過剰に反応しやすい(自律神経のバランスが崩れやすい)方がいるということがわかりました。

 

これが改善のための重要なポイントとなります。

 

 

実は、これは私たちも日々の治療のなかでしばしば経験します。

 

慢性的な首こり・肩こりや腰痛といった症状を抱えている方は、気象条件によって不調を訴える方がとても多いのです。

 

そして、このような天気痛を訴える方が、首こり・肩こりや腰痛といった慢性的な症状を改善させていくにつれて、気象条件による体調の変化が出にくくなり、天気痛が改善していくのです。

 

鎮痛剤が手放せない状況だった方が、多少症状は出るが薬に頼らないで過ごすことができるようになったという方は少なくありません。

 

 

 

運動が解消の手段の一つ

 

肩こりや首こり、背中や腰の筋肉のこわばりに伴う重だるさ、なども痛覚神経によって知覚されるわけですので、広義には慢性的な痛みと考えてよいでしょう。

 

肩こり・首こり、腰痛といった生活習慣による諸症状に心当たりがあるという方は、日頃から筋肉の硬直や疲れを溜め込まないようにするということ、蓄積させないで日々解消することが大切です。

 

そのために、オススメなのは身体を動かすことです。マッサージでほぐすのも良いのですが、ほぐすことに加えて、可能ならば是非ストレッチや運動など、能動的に動かしていただきたいのです。

 

 

自らの力で筋肉を使って動かすことで、固くなっている部分の血行も良くなり、筋線維や筋膜も伸びやすくなっていきます。筋肉を動かし、使うことで筋ポンプ作用が働き結構の改善につながります。筋肉がきちんと機能していないから、力が入りにくく、身体が重く感じるということもあります。

 

また、運動には自律神経を整えるはたらきもあります。天気痛をはじめとした気象病の本態は自律神経の乱れですので、日頃から自律神経のバランスを整えるようにすること、そして乱れてしまった時に整える術を体得することは意味のあることです。

 

運動は、体力や体調に応じて行っていただきたいのですが、低負荷の有酸素運動で、可能ならば汗ばむくらい体を動かしてみましょう。

 

日頃運動習慣が無いという方は、いきなりジョギングをするのではなくウォーキングがよいです。息が上がる程度の、できる限り速めのウォーキングにしましょう。はじめは15分程度の短い運動でも良いので、生活習慣の中に組み込んで、無理なく続けられそうなことからはじめていただけたらと思います。

 

 

コロナ禍の影響によって、以前よりも外出する機会や運動量が減ってしまったという方は少なくないでしょう。心身ともに重だるくて動く気がしない・・・という時こそ、是非、積極的に身体を動かして汗をかいてみましょう!!

 

 

身体が重だるく、固まってしまっていて運動などできない・・・という方は、マッサージなど何らかの方法でほぐして、症状を緩和し、身体を動かせる状態に整えたうえで、少しずつでも身体を動かすようにして、運動の習慣をつくっていってみましょう。

 

どうしようもない時以外は、極力セルフケアで対処して自己管理できる術を身につけていっていただけたらと思います。

 

 

 

 

注意!病院に行かないといけないパターンもあります

 

ここまで梅雨時の体調不良対策として、多少体や気持ちが重だるくても、運動をして汗をかくことをおすすめしてきました。

 

ですが、天気痛にお悩みの方の中には、激しい頭痛や眩暈、吐き気で寝込んでしまうという方もいらっしゃいます。このような方の場合は、我慢をして運動することで悪化してしまうこともありますので、無理をしないようにしてください。

 

そのような方は、痛みや不調に耐え、天気が良くなるのをただ待つだけでなく、天気痛外来/気象病外来を一度受診して、きちんと検査をしたうえで、医学的かつ専門的な対策をするようにしてみましょう。

 

 

また、気象病や天気痛はあくまでも慢性的な症状です。急激に、日常生活に支障が出るほどの強い症状が出た場合は、速やかに専門の医療機関を受診するようにしましょう。

 

頭痛の場合は脳神経外科、眩暈や耳鳴りの場合は耳鼻咽喉科、をまずは受診してください。

 

激しい頭痛と共に嘔吐してしまう場合、手足がうまく動かせない、呂律がまわらないといった症状が出る場合は緊急性が高いので、救急車を利用することも考慮して、速やかに医療機関を受診するようにしてください。

 

併せてこちらの記事もご覧いただけますと幸いです。天気痛対策のセルフケアを記載しています。
低気圧による体調不良の仕組みを知って気象病・天気痛・気圧痛を解消!!病院いくなら何科?という疑問にもお答えします!

 

 

参考文献

1)佐藤純・ 気象変化と痛み 脊椎外科 29:153-156, 2015

2)佐藤純・ 天候変化と慢性疼痛. ペインクリニック 27 : 603-609, 2006

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


肩こりの原因(1)|肩こりや首こりの原因は血行不良や筋膜の癒着だけではありません。凝りでつらい部分は何がどうなっているのか?

はじめに

肩こりは大きく分けて、症候性肩こりと本態性肩こりの二つに分けられます。

 

症候性肩こりは、病気が元になって生じている肩こりで、この場合は医療機関にて病気の治療が必要となります。例えば、風邪の諸症状としての肩こり、メニエール病に伴う肩こり、肩関節周囲炎に伴う肩こり、うつ病に伴う肩こり、心臓病に伴う肩こり、などがあげられます。しばしば、テレビなどメディアで「肩こりだと思ったら怖い病気だった」などと報道されるのがこれにあたります。

 

一方、病気が元になって生じていないもの、言い換えれば症候性肩こり以外の肩こりを本態性肩こりといいます。本態性肩こりとは、症状は存在するけれど、現代医学的にはその原因が明らかでない肩こりのことを指します。世の中の多くの方が想像し、ご自覚される肩こりは、この本態性肩こりとなります。

 

本稿では、多くの方が該当する本態性肩こりの原因について解説していきます。

 

さて、本態性肩こりの原因は医学的に明らかとされていないのに、なぜ解説できるのかという矛盾を感じる方もいるかもしれません。

 

医学的に原因と言い切れるものは、因果関係が明確となった場合です。ですが、本態性肩こりを考えるうえで非常に難しいのは、ひとつの事象と症状発生の因果関係を見出すことが困難であるという点です。

 

筆者が考察する、本態性肩こりの原因を特定することが難しい理由は以下の4つです。

  1. 痛覚の閾値に個人差があるように、症状を自覚するにも個人差がある
  2. 症状は運動器(主に筋肉)にでるが、発症や症状の増減には自律神経や精神の影響を受ける
  3. 原因は想定できるが、定量化し難いため因果関係を見出すのが困難
  4. 複数ある原因が単一または複数絡み合うことで症状がでるが、この組み合わせに個人差がある

 

ご説明します。

 

たとえば、不良姿勢、柔軟性低下、筋力不足、運動不足などですと肩こりになりやすいイメージがあると思いますが、皆がそうであるかというとそうではありません。

おそらく皆さんの身の回りにも、姿勢が悪くても肩こりを感じない、体が硬くても肩こりを感じない、筋力がなくても肩こりを感じない、運動不足でも肩こりを感じないという方がいらっしゃるのではないでしょうか。

 

肩こりの原因を考える上で、まず一番の難しい点が、姿勢が悪い人が全員肩こりであるかというとそうではないという点です。柔軟性や筋力、運動量なども同様です。

例えばインフルエンザの原因は、インフルエンザウイルスに感染することです。これは因果関係がはっきりしていますが、本態性肩こりの場合は異なります。

症状が発生するわけですので、何らかの原因はあるはずなのですが、それでも因果関係が見出せない理由としてまずあげられるのは、痛みや凝りといった症状はあくまで主観であるという点です。

 

凝りも広い意味では痛みです。痛みに強い、弱いなどといわれるように、痛覚の自覚には個人差があります。貴方が痛いと感じる刺激と貴方の友人が痛いと感じる刺激は異なります。ですので、丸まった姿勢でPC作業をしていて、首肩の筋肉に負担がかかっているのは明白なのにも関わらず、症状の自覚に個人差があるのは、自覚症状の認知の仕方に個人差があるからなのです。

 

また、痛みの認知の仕方も、一個人のなかでも日々変動する様々な要素が関与しています。たとえば、自律神経やホルモンのバランス、精神的ストレス、気象条件 等、様々なことが関わり合い痛みの感じ方がかわってきます。

このように、医学的に因果関係がはっきりとした原因が見出せない理由として、まずは凝りという症状の定量化が難しいということと、認知の仕方が個人で異なるだけでなく、個人単位でも日々異なるという不確定要素が多分にあるからだと考えられます。

 

さらに、頚部の筋肉に負担をかけると考える日常生活動作、姿勢、柔軟性、筋力といった要素も、定量化がとても難しいです。

 

本態性肩こりは、定量化し難い様々な要素が関与しあって、症状が生じているため、医学的には原因が明らかとされていないとされているのです。

 

 

とはいえ、上記でも述べましたが、症状が発生するわけですので、何からの原因があるはずです。

 

 

ここからは、複数の文献や研究を元に、筆者の考察も交えまして、本態性肩こりの原因について解説していきます。尚、以下より本態性肩こりを「肩こり」と表記していきます。

 

 

肩こりの原因を考える上で大切なこと

 

はじめに、何度も繰り返しお伝えしていることですが、肩こりの原因を考える上でとても大切なことなのでここでもお話ししますね。

 

「凝り」はあくまでも「結果」です。

 

 

ですので、肩こりの原因は、二段階で考えると理解しやすいです。

 

二段階とは、

 

①症状を出している原因(凝り=結果の部分)

②「症状を出している原因」の原因

 

です。

 

この「結果=凝り」の部分はどういった状態になっているのか?これを結果因子といいます。

そして、この「結果=凝り」はなぜ生じるのか?これを原因因子といいます。

 

 

このように結果因子と原因因子に分けて考えることで、肩こりの原因が見えてきます。

 

 

 

結果因子とは

 

まずは①の「症状を出している原因」、結果因子から解説します。

 

日本整形外科学会によると、肩こりで凝り固まって症状を出す筋肉は、僧帽筋を中心に、頭半棘筋、頭板状筋、頚板状筋、肩甲挙筋、棘上筋、菱形筋が例としてあげられています。

 

では、首や肩が凝りでつらいという時には、これらの筋肉にいったいどういったことが起こっているのでしょうか。

 

この症状を出している原因(症状の元)は大きく4段階あります。

 

 

一般的に、1)から4)になるにつれて、重症度が高い状態といえますが、一個人においてもそれぞれが混在しているケースが少なくありません。

 

1) 代謝の異常・疲労

代表的なものは疲労や循環障害(血行不良)です。筋肉を酷使することで、その筋肉が疲労することで生じる違和感や痛みです。

また、疲労した筋肉は縮こまって硬くなるので、血流を阻害し、血行不良を招きます。血行が滞ることでも痛みや違和感が出ますが、血流が滞った状態ですと、疲労も回復しにくくなるので、症状が持続してしまいやすくなります。

ただ、筋肉疲労やそれに伴って血行不良が生じることは、生体として異常ではありません。重い荷物をもったら腕の筋肉がパンパンになって痛くなる、長い階段を登ったら脚の筋肉がパンパンになって痛くなる、ということはご経験があるかと思いますが、これは異常はことではありませんね。

このように代謝障害によって症状が出現している肩こりの場合は、休息をとったり、患部の血行を改善することで解消されます。

ですので、日々の生活の中で「肩がこったなぁ」と感じても、入浴して温めたり、良く寝たら翌日には解消されているという方は、首肩の筋肉が疲労して代謝障害を起こしている状態かもしれません。

この状態の肩こりは、セルフケアでも十分に解消や改善が可能です。肩こりでも比較的軽症なものといえます。

 

 

2) 神経生理学的な異常

 

スパズム(筋緊張亢進状態)

怪我をしたり、痛みがあると、人は無意識に庇ったり動かさないようにします。痛みのある箇所を庇うというのは、その部位を防御するという意味で人に本来備わっている正常な反応です。

その一環として、神経生理学な反応として「スパズム」というものがあります。スパズムとは、傷めたり、炎症が生じた箇所の周囲の筋肉が、意思とは関係なく緊張が高まり、患部を守ろうとする防御機能です。

ですので、痛みが生じたことの反応としてスパズム(筋緊張の亢進)が生じることは正常です。一旦生じたスパズムも、スパズムを引き起こした痛みや炎症が取り除かれたら、自然とスパズムも解消されるというのが正しい流れとなります。

ところが、炎症や痛みが長引くと、スパズム(筋緊張亢進)状態も長引きます。そうなると、筋緊張が高まった状態が続くわけなので、循環障害が生じ、起因となった痛みとは別に、循環障害による痛みが生じてしまいます。

こうなるとスパズムを引き起こした元々の問題が解決しても、循環障害による痛みや違和感が生じることになってしまいます。このように、スパズムは、生じること自体は患部を守り痛みを緩和するための人体に備わった正しい反応ではありますが、スパズムが長期化することで今度は痛みを出す元になってしまうのです。

「痛みが痛みを呼ぶ」という状態になって負のスパイラルに陥ってしまうのは、スパズムという反応が関係しています。

スパズムを解消するためには、まずは早期に起因となった元の痛みを緩和することが大切となります。ですので、対症療法も重要です。

また、スパズムは、筋肉に命令をする神経の興奮によって生じるので、スパズムの解消には、神経の興奮をおさえるための対処が必要です。神経の興奮をおさえるための対処として、誰でもすぐにできることは、温めたりさすったりすることです。アイシングなどの寒冷療法が効果的な場合もあります。

 

 

3) 筋膜の異常

筋肉の筋膜(Myofascia)は物理的に筋肉を保護するためでなく、筋膜内には神経が密に分布しており、感覚のレセプター(受容器)がたくさんあることがわかってきています。そのため、筋膜の異常によって、痛みやしびれ、違和感などが生じるということがわかってきています。

 

筋膜が異常を起こして痛みが生じるものを、筋膜性疼痛症候群(きんきんまくせい とうつうしょうこうぐん、Myofascial Pain Syndrome:MPS)と呼ばれています。

 

肩こりで、過緊張が起って症状を出す筋肉は、僧帽筋を中心に、頭半棘筋、頭板状筋、頚板状筋、肩甲挙筋、棘上筋、菱形筋などがありますが、これらの筋膜が異常をおこして症状が出ている場合もあります。

 

筋膜の異常は大きく分けて三つあります。

1, 高密度化(筋膜のシワ)

「筋膜のシワ」とよばれるものです。血行不良の状態が続くことで、筋膜への循環不全が長期化することで、筋膜の水分量が低下してしまっている状態です。構造自体がかわってしまっているわけではないので、改善のためには、患部の血行を増加させて、筋膜への水分補充をすることが必要です。

 

2,滑走性低下(癒着)

筋肉は筋膜で覆われていますので、隣接する筋肉は筋膜で接しています。この筋膜間には潤滑物質であるヒアルロン酸があります。不動の状態(動かさない状態)が続いたり、血行不良が続くことで、ヒアルロン酸の水分量が低下し、隣接する筋膜同士がくっついて動かなくなってしまいます。このように動きが悪い状態(滑走不全)がさらに長期化することで、癒着して完全に動かなくなっていってしまいます。動いていた箇所が動かなくなるわけですから、関節可動域や動作に変化が生じるだけでなく、循環不全にも拍車がかかります。筋膜の滑走不全を改善させるには、筋膜間のヒアルロン酸に水分を与えることが必要です。高密度化を改善させるのと同様、構造自体がかわってしまっているわけではないので、患部の血行改善が必要です。

 

3,線維化

筋膜に対して組織の強度を超える物理的な負担がかかると傷や炎症が生じます。傷や炎症が同様の場所に反復継続的に生じたり、大きな損傷が生じると、きちんと元通りに組織の修復が行われず、「かさぶた」のような状態で治癒が終わってしまいます。この「かさぶた」の様なものは瘢痕組織といって、筋膜とは別に組織になってしまいます。このように、線維化は、スポット的に筋膜が筋膜ではない組織になってしまうことをいいます。線維化してしまった筋膜は、血行を改善しても基本的には元にはもどりません。ですので、この筋膜の線維化は、正しくは機能的変化ではなく、下記の構造的変化に該当しますが、筋膜の異常の一環として、こちらに記載させていただきました。

 

筋膜について詳しくはこちらにまとめましたので併せてご一読ください。

 

 

 

4) 構造的変化

代謝障害や神経生理学的な異常はあくまでも機能の変化でしたので解剖学的な組織の性質や形状が変わってしまうということはありませんでした。一方、構造的変化とは、文字通り構造が変わってしまうので、異常な組織に置き換わってしまう、あるいは異常な組織ができてしまうということです。

 

1,モヤモヤ血管

2012年に奥野祐次医師によって発見された病態です。

慢性炎症部位・慢性疼痛部位には創傷治癒過程で生じた毛細血管が残存増殖して存在していて、この部位を血管造影で観察するモヤモヤした状態に見えることから「モヤモヤ血管」と名づけられました。モヤモヤ血管とは、異常な毛細血管の増殖です。創傷治癒の過程で毛細血管が増殖することは正常な反応なのですが、治癒が長引いたり、反復して損傷することで、本来治癒したら自然と消えるはずの増殖した毛細血管が残存してしまうのです。血管は神経とセットで存在するため、異常毛細血管に血流があるとポリモーダル受容器を刺激して疼痛が発生するというメカニズムです。

モヤモヤ血管について詳しくはこちらにまとめましたので併せてご一読ください。

 

2,硬結(こうけつ)

しばしば肩こりで肩の部分に触知できるシコリの部分のことを硬結といいます。

この硬結は、1843年ドイツの内科医Robert Froriep氏がリウマチ患者の筋肉中に索状に触れる圧痛部位を発見し、結合組織の沈着が原因であることを報告したことがはじまりです。その後、線維性結合組織炎、筋スパズム、酸素欠乏、炎症などの仮説が提唱されてきました。

 

硬結を実際に触診してみると、玉状のものだけでなく、索状だったり扁平な形状をしていることもあり、形状は様々です。

 

近年の病理学研究から、硬結の部位は、上記でご説明しました筋膜の線維化だけでなく、様々な変化が生じていることがわかってきました。

硬結部位は以下の状態になっています。

◆ 代謝異常
→浮腫、エネルギー供給と酸素流入の低下、pH低下

◆炎症反応
→肥満細胞増加(ヒスタミン放出)、血小板増加(セロトニン放出)

◆細胞の変性
→核の増加、ミトコンドリアの異常(赤色ぼろ線維=Regged Red Fiber)、筋原線維の異常(虫食い線維=Moth-Eaten Fiber=収縮フィラメントの溶解とZバンドの破壊)、プロテオグリカン増殖

 

硬結ができる機序はこのように考えられています。

筋損傷・過剰な筋疲労 → 細胞膜・筋小胞体の破壊

カルシウムイオンの過剰流入 → 局所的な筋収縮亢進

筋弛緩のためにATPが必要となり代謝が亢進するが、過剰な筋収縮が局所循環障害を招き酸素欠乏とエネルギー不足を招く

筋収縮状態が恒常的となる

 

硬結部位は、代謝異常と炎症反応という機能上の変化だけでなく、筋細胞自体の構造が変化してしまっているのです。つまり、硬結は、いくら温めたり、ストレッチや揉みほぐしを行っても、解消はされないのです。

ですので、硬結の状態になってしまっている場合、代謝異常という機能上に問題だけでなく、細胞自体が変化してしまっているため、組織を破壊し、再生(リモデリング)を促す対処が必要となります。

 

 

肩こり・首こりの根本的な改善には結果因子だけでなく原因因子を考えることが大切

 

さて、ここまでは凝りの症状を生む元(結果因子)、つまり凝り固まってしまっている筋肉そのものにどのような変化が生じてしまっているかについて解説しました。

 

「こり」を感じているところ(筋肉)をほぐせば、一時的に解消はされますように、結果因子に対して対処を行えば、ひとまず症状は解消します。これを対症療法といいます。

 

たとえば、普通の本態性肩こりならば、僧帽筋の部分がつらいと感じるならば、僧帽筋をほぐせばラクになります。

 

 

ところが、みなさん誰もがご存知のとおり、ほとんどの場合は時間の経過と共に再び症状が生じてきます。また、凝る→ほぐす→凝るの繰り返しによって、慢性化していってもしまいます。

 

「凝ったらほぐす」を繰り返さないためには、そもそもなぜ凝るのか?を知る必要があります。慢性的な肩こりを治すためには、まず原因を知る、その原因を解決できれば根本的な改善につながります。

 

 

 

次に、結果である「凝り」がなぜ生じるのかの部分、原因因子について解説します。原因因子とは、上記でご説明した結果因子の原因です。

 

 

肩こりの原因因子は、様々ありますが、上記でご説明してきた結果因子が生じさせるのは、首や肩の筋肉・筋膜に反復継続的な物理的な負荷が加わることです。

 

これに加えて、環境や何らかの刺激により自律神経のバランスや精神が乱れることで過緊張が生じたり、痛みを感じやすくなることで、症状を自覚するようになります。

 

 

 

次回は、肩こりの根本原因(原因因子)について解説します。

 

 

参考文献

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


肩こりの原因と分類

「肩こりは血行不良が原因」と聞いたことがあるという方は少なくないでしょう。

たしかに一部の肩こりは血行不良が原因となっている場合があります。この場合は、原因である血行不良を改善したら、結果である「肩こり」という症状も改善されます。

ところが血行を改善してもラクにならない肩こりや、温めている時はいいけれど、すぐに戻ってしまう肩こりもあります。この場合は、血行不良が原因とはいえないでしょう。

ですので、肩こりの原因は血行不良であるという説は間違いではありませんが、血行を改善しても改善しない肩こりがあるように、すべての肩こりが血行不良が原因となっているわけではないのです。

医学的には、肩こりは、その原因ごとに大きく二つに分類されます。症候性肩こりと本態性肩こりです。

 

症候性肩こり

医学的に診断がつく病気が元で、その症状として首や肩の凝りが生じるものを症候性肩こりといいます。よくテレビなどで紹介される「肩こりだと思ったら怖い病気だった」というパターンの肩こりです。

症候性肩こりの原因は、現代医学的に病名がつく疾患で、様々あります。

原因となる疾患は、たとえば、椎間板ヘルニア変形性頚椎症といった頚椎疾患、胸郭出口症候群、四十肩・五十肩やインピンジメント症候群といった肩関節疾患などの整形外科領域だけでなく、肺疾患や心疾患などの内科・外科領域もあます。

また、頚部の緊張を促しやすい耳鼻咽喉科領域(メニエール病、慢性鼻炎 等)、眼科領域(視力障害、眼精疲労 等)、歯科領域(虫歯、歯槽膿漏、顎関節症 等) の疾患に由来する肩こりもあります。

さらに、自立神経や免疫系の過敏状態を招きやすい精神神経科領域の疾患に由来する場合もあります。

たとえば、うつ病の症状として肩こりがある場合と、ひどい肩こりによってうつ病様の症状が出る場合がありますが、両者は異なるものです。前者は、うつ病の治療が必要ですが、後者は肩こりの治療が必要となります。これらは厳密に区切ることは難しいですが、それぞれにマッチした対処が必要となります。

 

症候性肩こりは、病気が元になっているわけなので、凝りの症状を引き起こしている病気の治療をすることが肩こり解消につながります。そのため基本的には病院で治療することになります。

(実際には、症候性肩こりの方の場合も、本態性の要素も含まれている場合が多く、病院で病気の治療や管理をしながら、当院での治療を併用している方が多いです)

 

本態性肩こり

一方、病気が元になっていない肩こりを総称して本態性肩こりといいます。「本態性」という聞き慣れない言葉がついていますが、多くの方がご想像する、一般的にいう「肩こり」とは、この本態性肩こりのことを指します。

 

辞書で「本態性」の意味を調べてみると『医学で、ある症状・疾患は存在するが、その原因が明らかでないものであること』と記されています。

また、定義の説明の際に引用元とした医学生の教科書である標準整形外科には、本態性肩こりは「原因不詳」と記載されています。

原因不詳、つまり、現代医学的な検査所見で目立った異常が見受けられないが、

後頚部から肩および肩甲背部にかけての筋肉の緊張感や疲労感などの一種の不快感、違和感、鈍痛などの症状 出典 標準整形外科学 医学書院 

がある場合に、本態性肩こりとなります。

 

現代医学的な検査所見で目立った異常が見受けられないため「原因不詳」とされているのです。

とはいえ、何らかの原因がなければ症状は生じないはずです。

 

次回は、多くの方が該当する本態性肩こりの原因について掘り下げて解説します。

 

 

 


執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


肩こりの定義

※画像を日本整形外科学会ホームページから引用させていただきました

 

本稿では、肩こりを論じる上で、前提となる肩こりの定義についてご説明していきます。

 

日本整形外科学会ホームページによると「肩こりの症状」として以下のように記されています。

首すじ、首のつけ根から、肩または背中にかけて張った、凝った、痛いなどの感じがし、頭痛や吐き気を伴うことがあります。

肩こりに関係する筋肉はいろいろありますが、首の後ろから肩、背中にかけて張っている僧帽筋という幅広い筋肉がその中心になります。

 

 

次に、医学生の教科書として用いられている標準医学シリーズの標準整形外科学 医学書院 を開いてみます。標準整形外科学には以下のように記されています。

肩こりについての明確な定義はなされていないが、後頚部から肩および肩甲背部にかけての筋肉の緊張感や疲労感などの一種の不快感、違和感、鈍痛などの症状と考えられる。     出典 標準整形外科学 医学書院

一般的ではない表現があるので説明しますね。

「後頚部(こうけいぶ)」は、首の後ろ側のことです。

「肩甲背部(けんこうはいぶ)」は、肩甲骨を含めた背中のことで比較的広い領域のことです。

簡単にいいますと「首・肩・肩甲骨まわりの筋肉の不快感、違和感、鈍痛などの症状」となります。

 

 

一方、医学大辞典 医学書院にも、このように記されています。

原因を問わず、僧帽筋を中心とした肩甲帯筋群のうっ血・浮腫により生じた同部のこり、はり、こわばり、重圧感、痛みなどの総称           出典 医学大辞典 医学書院

 

 

以上をふまえまして肩こりの定義を現代医学的な観点からまとめますと、

肩こりとは、検査所見や原因によって規定される明確な定義はなく、原因は問わず、首肩から肩甲骨周囲にかけての不快な自覚症状

となります。

 

原因は問わない=複数ある という点からすると、肩こりは「症候群」であるともいえますね。

尚、上述しましたように首の筋肉の過緊張や不快感も含めて肩こりと考えられるため、ここから先は、首こりや肩甲骨こりも含めて「肩こり」と表記させていただきます。

 

 

さて、以上の現代医学的な肩こりの定義をふまえまして、肩こりを考えるにあたって重要なポイントが二つあります。

 

一つ目は、原因は一つではないということです。

世の中には「肩こりの原因は◯◯」というようなキャッチーな言い回しが溢れていますが、肩こりにおいては「インフルエンザの原因はインフルエンザウイルスに感染すること」というような因果関係がはっきりしたものはありません。

「肩こりの原因は●●である」と、一つに限定できないのです。

肩こりを引き起こしている原因が一つの方もいますが、複数ある方もいます。大切なのは個々によって異なるということです。肩こりの原因は様々あるというのが大前提となります。

ですから、首肩の筋肉が血行不良を起こして不快感が生じるのも肩こりですし、首肩周辺の筋肉の筋膜の状態が低下し、周囲の筋膜との動きが制限されてしまっている(癒着)状態で不快感が生じるのも肩こりなのです。

 

 

二つ目は、自覚症状であるということです。

たとえば、自覚症状は無くとも、美容院や理容室で肩を揉まれ「肩凝っていますね」と言われた記憶はありませんか。

実際当院にも「自覚はないけど触られて肩が硬くて、肩こりだと言われたから治療してほしい」という方がご相談にいらっしゃいます。

肩こりはあくまでも、自覚症状です。

ですから、自覚的な症状が無ければ、それは肩こりではありません。肩こりは人から認定されるものではなく、あくまでも自覚するものです。

 

ただし、肩こりではなかった(症状を自覚していなかった)としても、異常がないかというとそれは必ずしもそうではありません。

筋肉は一定の緊張感を保ちながら伸び縮みすることが正常な機能ですから、縮こまって硬直している状態が続くというのは、正しい機能が失われてしまっているかもしれません。

すると今現在は症状としての自覚的な問題が生じていなかったとしても、機能が低下した状態が続くことで、それを補うためにどこかに皺寄せがいき、それが反復継続的に行われることでどこかに障害が生まれ、痛みが出てしまう可能性があります。

 

一例をあげますね。

僧帽筋の上部は、肩こりで凝り固まってつらくなる代表的な筋肉です。肩こりといえば僧帽筋というイメージをお持ちの方もいらっしゃると思いますが、解剖学に精通していなかったとしても僧帽筋をご存知という方は少なくないでしょう。

肩関節の動きは、インナーマッスルとアウターマッスルのバランス、肩甲骨周囲の筋力バランスや使い方、肩こりでつらくなりやすい僧帽筋の上部が硬直すると、肩関節の動きを妨げてしまいます。

僧帽筋上部が過緊張状態になり、優先的に働いてしまうことで、ぎこちない動きになります。(ほとんどの方は自覚できないレベルのぎこちなさです)

このようなアンバランスな状態が継続することで、負担が蓄積し、肩関節に炎症が生じてしまうということはめずらしいことではありません。

原因不明の慢性的な肩関節痛を引き起こしている原因のひとつが肩こりだったということは珍しいことではないのです。

 

まとめ

虫歯でなければ虫歯の治療はしません。でも歯の汚れなど口腔内環境の低下が継続することで虫歯になり得るため、日々セルフケアとして歯みがきをしますし、定期的に歯科を受診してクリーニングを行うでしょう。

ですので、自覚症状がなければそれは肩こりではないので肩こりの治療は必要ありません。

ただし、虫歯じゃないから歯磨きをしなくていいというわけでないように、異常な状態にならないための対処・セルフケアはすべきです。

具体的には、筋肉の硬直の改善、関節可動域の改善、筋力向上、運動習慣の確立等、筋肉の状態を改善させるために何らかの対処をすることをお勧めいたします。

 

— 続く—

 

 

肩こりラボは、真面目に、世の中から肩こりでお悩みの方を無くしたいと考え、日々活動しています。

 

 

この記事を書いた人

丸山太地

肩こりラボ鍼灸マッサージ院代表。日本大学文理学部体育学科にてスポーツ医学を学び、在学中よりトレーナーとして活動。東京医療専門学校にて国家資格を取得。上海中医薬大学へ留学、解剖学実習修了。人体の構造を理解するために、日本大学医学部、千葉大学医学部の解剖学教室にて人体解剖について学ぶ。 <資格>鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師/厚労省認定臨床実習指導者/NSCA-CSCS/日本体育協会認定 スポーツリーダー/中学・高校保健体育教員免許/パワープレート認定トレーナー

肩こりの現状

画像を厚生労働省ホームページから引用させていただきました

 

厚労省が行っている国民生活基礎調査によると、肩こりは、日本人が抱える自覚症状のうち腰痛に続いて上位にある症状です。

有訴者率(人口千対)の最も高い症状を性別にみると、男性は「腰痛」、女性は「肩こり」となっており、男女あわせて一位が腰痛で、二位が肩こりという状態が、何年も続いています。

厚労省のサイトで、閲覧することができる過去の国民生活基礎調査をみる限り、少なくとも、平成10年以降、20年間以上、肩こりが日本人の抱える自覚症状の上位3位以内にあるということがわかります。

 

そして、2020年はコロナ禍の影響により、多くの方が急遽テレワークをせざるを得なくなりました。

世の中の流れとして、コロナ禍以前から、東京オリンピック開催に向けてテレワークを推奨するながれになっていたとはいえ、コロナ禍をきっかけに、十分な準備が整わないまま、デスクワークに適した環境が整っていないなか、テレワークにて長時間のPC作業をすることになってしまったという方は少なくでしょう。

 

PC作業自体、首や肩に負担がかかりやすいのですが、適していない環境で作業をすることで今まで以上に負担がかかってしまいます。

加えて、在宅勤務となると外出する機会が極端に減ってしまい、運動不足にも拍車がかかってしまいます。活動量の低下や運動不足が続くことで、筋力低下や体重増加、そして肩こりや首こりにお悩みの方が増えてしまっているように感じます。

あくまで日々の治療を通して感じる体感的なものとなりますが、病気ではないけれど、良い状態ではないという方が増えているように思えます。

 

冒頭でお話したように長年にわたって日本人の多くが自覚症状として抱えている肩こりですが、「肩こり」という言葉や現象自体は知っていても、医学的に、具体的にどのような状態なのか、何をもって肩こりとするのか、ということを理解しているという方はそう多くはないのではないでしょうか。

 

「肩こりは首や肩まわりの血行が悪くなっているんでしょ?」という声が聞こえてきそうですが、残念ながら血行が悪くなっているだけではありません。特に慢性的な場合は。

血行が悪いのが原因ならば、入浴して血行が良くなれば改善するはずです。しかし慢性的な肩こりの場合は、入浴したり温めても改善されない、温めている最中だけ緩和するがその時だけ、ということが少なくありません。この場合、血行をよくしても改善されないわけですから、血行が悪いことだけが原因ではないのです。

一方で、「肩こりの原因は筋膜。筋膜が癒着しているんでしょ?」という声も聞こえてきそうです。これも間違いではありませんが、正解ではありません。ハイドロリリースという、エコーで目視しながら生理食塩水で、癒着している筋膜を物理的に剥がす施術がありますが、これを行っても肩こりが解消されない、あるいはすぐに再びつらくなってしまうという方もいらっしゃいます。

 

もちろん血行改善すれば肩こりが緩和する方、ハイドロリリースで肩こりが改善したという方は一定数いるでしょう。ですが、これらを行っても改善しないという方も一定数いるのです。

たしかに、血行不良や筋膜の癒着によって肩こりの症状がでることがありますので、それぞれは一つの原因として間違ってはいません。たいせつなのは、原因はひとつではないということです。

こう考えることで「なぜ自分は施術を受けているのに肩こりが改善しないのか」ということも腑に落ちてきませんか?

そうです。治療を受けているのに改善しない理由は、あなたの肩こりの原因に対して適切が対処が行われていないからです。

 

世の中には、肩こりにまつわる様々な情報がありますが、ある一部分を切り取って言及しているパターンが多いように感じます。

当記事では、肩こりとはいったい何なのか?何がどうなっているのか?ということを、現代医学的な理論に則り解説します。「肩こりとは  まとめ 」のような形にしていきますので、ご一読いただけましたら幸いです。

 

——  [ 肩こりの定義 ] に続く——

 

【参考】

厚生労働省ホームページ

 

 

肩こりラボは、真面目に、世の中から肩こりでお悩みの方を無くしたいと考え、日々活動しています。

 

 

 


執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


肩こり・首こりが気になる方が意識すべき、パソコン作業時の適切な姿勢とデスク環境とは? 厚生労働省のガイドラインをふまえて解説します。

昨今リモートワークが急激に普及し、パソコンを自宅で使う機会が多くなりました。

通勤時間の減少などメリットも多い一方で、運動不足に陥り、首こり・肩こりなどの慢性的な不調を訴える方が増えてきていると実感しております。当院の患者さんも、自宅でテレワークを行うことで、今まで通勤やオフィス内の移動が運動になっていたことに気がついたとおっしゃる方が少なくありません。

これまでは普段仕事をする環境ではなかった場所で、長時間のデスクワークを余儀無くされているわけですから、負担が増大するのも頷けます。

今回は、首こり・肩こりの予防を目的として、自宅で簡単に実践できる「パソコン作業時の適切なデスク環境」をご紹介していきたいと思います。
是非参考にしていただけたらと思います。

なぜデスク環境が大事なのか?

デスク環境

それではまず、首こり・肩こりの予防としてデスク環境を整えることがなぜ大事なのか?
以下3点を理由に挙げます。

  • 首こり・肩こりでお悩みの患者さんは座り仕事の方が圧倒的に多い。
  • 長時間過ごすため、少しの負担がチリツモになりやすい。
  • 首こり・肩こりの軽減として即効性が高い。

首こり・肩こりでお悩みの患者さんは座り仕事の方が圧倒的に多い。

座っている姿勢は、立っている姿勢と比べると疲れにくいし、楽に感じる方も多いと思います。

しかし、実際は座り姿勢の方が正しい姿勢を保ちにくく、首肩や腰に関しては負荷がかかりやすい状態となります。

長時間過ごすため、少しの負担がチリツモになりやすい。

デスクワーカーなど、仕事でパソコンを使う方などにとっては、1日のほぼ大半をデスクで過ごすことになります。

重い物を持つなどの重労働と比べると、短い時間にかかる負担の量は少ないです。

しかし、「塵も積もれば山となる」というように、少しの負担でも1日8時間以上ともなると、蓄積される負荷量はかなりのものになるでしょう。

首こり・肩こりの軽減として即効性が高い。

首こり、肩こりを軽減させるために、トレーニングやストレッチなどの運動は大切です。

しかし、筋力や柔軟性は一朝一夕で改善されるものではなく、効果の実感までに時間を要することが大半です。(今まで使えていなかった筋の使い方を覚えることで、一回のトレーニングで劇的に変化する方も中にはいらっしゃいます。)

その点デスク環境など、環境要因を改善することは、負担の軽減に即効性があり、一度整えてしまえば半永久的にその恩恵が受けられます。

以上の理由からデスク環境を整えることは、治療をすることと同等に首こり・肩こりの軽減に必要なことと考えます。

むしろ環境要因の改善そのものが治療の一部といっても過言ではありません。

厚生労働省のガイドライン

厚生労働省では、パソコン等の作業における労働衛生管理のためのガイドラインを公表しています。

平成14年4月5日「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」が発表されました。

その後、基本的な考え方は維持しつつ、多様な作業形態に対応するため、改定版として令和元年7月12日「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」が発表されました。

情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて(基発0712第3号)[PDF形式:1464KB]


このような公的機関のガイドラインは一定の基準と考えて良いでしょう。

ただ、個々のおかれている状況は異なりますし、作業環境を改善させるにも限界があるというのも実際のところです。

また、公的なガイドラインがあるものの、デスクワークにより、不調をきたす方が多いのも事実です。

今回は厚生労働省のガイドラインをふまえた上で、私たち肩こりラボが、肩こりや首こりの治療に取り組む中で見出した、より実践的なデスク環境をご紹介させていただきます。

一部、ガイドラインに記載されている内容と異なる箇所がありますが、実際をふまえたうえでの肩こりラボ独自のノウハウとなります。

この点をご了承いただきますよう、よろしくお願いいたします。

肩こりラボ推奨のデスクワーク環境設定

まずは早速、首肩に負担のかかりにくい理想の姿勢をご覧ください。

上記の姿勢を取る上で重要なポイントを大きく3つに分けました。

机と椅子の高さの調整

椅子の高さは、座って脇を閉じたまま机に手を置いた時に、肘の角度が概ね90°となるようにしましょう。

机が高すぎる場合、あるいは椅子が低すぎる場合、多くは肘の角度が90°以下になります。
すると肩がすくんで、腕が力みやすくなるため、負担が大きくなります。

また、机の高さはJIS規格により、多くが床から70cmとなっています。

これは1971年頃に成人男性の一般的な体格に合うように作られた規格です。

小柄な方ですと、前述の方法で机を基準に椅子の高さを合わせると、足が浮いてしまい不安定になってしまいます。
成人男性の平均身長を元にしているので、当然ながら女性には適しにくいです。

昇降デスクであれば高さの調節が可能ですが、そうでない場合、足元に台を置いて足裏が床に付くようにすると安定しやすいです。

こちらの記事で、自分に合った机と椅子の選び方について解説しています。
よろしければ参考にしてみてください。

〜関連記事〜

自分の体に適した机と椅子の高さとは?人間工学に基づいた計算方法をご紹介。デスクワークで肩こり・首こりにお悩みの方は是非ご一読ください。

ディスプレイやキーボードの置き方

デスクトップ型パソコンの場合

デスクトップ型のパソコンの場合、ディスプレイとキーボードが分かれています。
そのため、それぞれを最適な位置にセットしやすく、身体への負担は一番かかりにくいです。

●ディスプレイ
上端が目の高さと同じ、もしくはやや下となるように高さを合わせます。

●キーボード
肘や腕を机に乗せるスペースを確保しつつ、なるべく自分に近づけましょう。
肘掛けのある椅子を使用すると、肘を身体の近くに置くことができ、キーボードを身体の近くに置きやすくなります。

ノートパソコンの場合

ノートパソコンは持ち運びに優れる反面、ディスプレイとキーボードが一体となっています。
ディスプレイを適切な高さに合わせるとキーボードの位置が高すぎてしまい、その逆もまた然りです。

一番良い方法は外付けキーボードかディスプレイを使用し、デスクトップ型と同じ環境にすることです。

このようにすると体への負担は減りますが、用意する物品が増やしたくない方もいらっしゃると思います。
そこで、もう少し手軽な方法を推奨します。

それはキーボードに傾斜をつけることです。

ノートパソコンの奥が高くなるように傾斜をつけると、ディスプレイの高さを出しつつ、快適なキーボード操作が可能となります。

この傾斜をつける方法は、専用のスタンドも市販されていますが、雑誌などで簡易的に対応もできるため、誰でもすぐに実行でき、ディスプレイを高くして首肩の負担を減らすことができる利点があります。

一方で、キーボードを打つ際に、手首の背屈角度(反らす角度)が増すというデメリットもあります。手首の背屈が増すと、腕の甲側の筋肉(前腕伸筋群)の負担が増えることになり、手首や肘の痛みにつながる可能性もあります。

この方法は、外出時やどうしても外付けキーボードやモニターを用意できない場合など、あくまでも短時間の作業時に留めておくことが良いでしょう。

日々ノートパソコンで長時間の作業を行う方は、多少のコストは発生しますが、一回マッサージに行くよりも、肩こりや首こりに対して長期的にプラスにはたらきます。

ぜひ外付けキーボードかモニターをご用意していただけたらと思います。

姿勢の意識

最後は姿勢、座り方のコツです。

重心位置

頑張りすぎず、効率的に姿勢を保つために、重心をどこに置くかが重要です。

猫背で丸まってしまっている時は尾骨や仙骨あたりに体重が乗っていることが多いです。
このような座り方が「良くない姿勢」ということはお分かりだと思います。

問題は「良い姿勢」をとった時にどこに重心があるかです。

試しに良い姿勢をとってみましょう。どこに一番体重が乗っているでしょうか。

おそらくですが、多くの方が「坐骨」というお尻の出っ張っている骨の部分に体重が乗っているのではないでしょうか。

坐骨を示す骨模型

実はこの「坐骨座り」は、キープして姿勢を支えるのに、たくさんの筋力が必要です。
ですから良い姿勢をキープしようとしてもすぐに疲れてしまい維持できないのです。

「坐骨座り」でピッと背すじを伸ばしている姿勢は見た目はキレイですが、とても力を必要としますので、長時間のデスクワークを考えると現実的ではありません。良い姿勢をとりたくても、維持できなかったり、かえってつらいという方はこの「坐骨座り」が原因かもしれません。

ではどうすれば良いかといいますと、重心位置を坐骨よりもさらに前方にします。
坐骨よりも前側、太もものつけねです。


首肩に優しい重心のポジションを意識した座り方は「太もも座り」です。

慣れないうちは少し前傾すぎに感じると思いますが、鏡で横から見ると思いのほか姿勢がまっすぐになっているのが確認できると思います。

ただし「太もも座り」にも欠点があります。
それは、反り腰になりやすいことです。
場合によっては腰に痛みや負担感をご自覚する方もいらっしゃるかもしれません。

その場合は無理に「太もも座り」を維持しようとしないでください。

「首肩こりと腰痛のどちらもある…。」という方の場合は、個別に適切な重心位置を調整する必要がありますので、専門家に診てもらうのがいいでしょう。

肩こりや首こりの解消と改善なら鍼灸マッサージ院の肩こりラボ|学芸大学徒歩1分

上半身の使い方/ポイントは「胸」

重心位置が整ったら次は上半身を整えていきます。

ポイントは「胸」です。
胸を前上方に突き出すように意識してみましょう。

良い姿勢を取ろうと無理に「肩を引く」のではなく、「胸を突き出す(引き上げる)」ようにすることで、「脊柱起立筋」という姿勢維持に適した筋肉が収縮しやすくなり、長時間の座り姿勢を少ない負担で支えることができます。

良い姿勢と言うと、肩甲骨をグッと後ろに引いた状態をイメージしがちですが、実は努力して肩を後ろに引こうとすると、アウターマッスルである僧帽筋や広背筋がメインで働きます。

僧帽筋は肩こりで硬直しやすい筋肉であることは多くの方がご存知だと思いますが、その僧帽筋自体に負荷をかけてしまいます。

また、広背筋がたくさん収縮することで、肩関節が内側に巻いてしまい、いわゆる「巻き肩」の状態になりやすくなり、さらに僧帽筋に負荷がかかります。

また、肩甲骨は僧帽筋や肩甲挙筋で、首と連結しています。(首からぶら下がっている様な状態)

広背筋は肩甲骨を下に引っ張るはたらきもありますので、過剰に収縮することで、肩甲骨を上から支えている僧帽筋や肩甲挙筋に負荷をかけることになります。

肩関節を動かしたり体幹を支える上で、僧帽筋や広背筋はとても重要な筋肉ですが、そればかりが過剰に働いてしまうと悪影響もあります。

丸まっているのを直そうとして肩をグッと後ろにひこうとすることで、効果が無いだけでなくかえって状況が悪くなってしまう可能性もありますので、注意をしてくださいね。

サポートアイテムの利用

上記2つ「太もも座り」と「胸出し」を意識して座ると、大腿部と背部の筋肉を使えるようになり、首肩への負担軽減につながります。

ですが、この姿勢をキープするにもある程度体幹の筋力が必要であり、最初のうちは短い時間で疲れてしまうかと思います。

そこである道具を使うことで、姿勢のキープがとても楽になります。

正しい姿勢を理想論ではなく、今日から実際に活かしていただくためのとっておきの方法です。

それは、クッションです。ただしその使い方が特殊です。

世の中に、姿勢をサポートするクッションなどのグッズはごまんとありますが、その多くは座面や背もたれに設置するタイプのものです。

肩こりラボが推奨するクッションの使い方は、座面や背もたれに挟むのではなく、クッションを太ももの上に置き、お腹と机で挟み込むように座りましょう。

クッションを前方に設置することで、背もたれ側ではなく、お腹の方に寄りかかることができます。このようにすることで、自然と太もも座りや胸出しを促すことになり、無意識に背中が丸まってしまうのを防ぐことができます。

また、ここで使うクッションは、ソファ用クッションや座布団、あるういはタオルや掛け布団を丸めたものでも代用できます。今現在ご自宅にあるもので代用できますので、新たなものも購入する必要はございません。

市販されている、骨盤が立つように座面をサポートしてくれるシートなどと併せて行っていただいてもよいでしょう。

まとめ

首・肩に負担をかけにくいデスク環境を以下にまとめます。

椅子と机の高さは肘が概ね90°になるように調節する。

※足が浮いてしまう場合は足置き台などを使用。

昇降式のデスクと椅子を使用するのがベスト。

ディスプレイ上端が目と同じ高さ、キーボードはなるべく近くに寄せる。

※ノートパソコンの場合
外付けのディスプレイかキーボードを使用
もしくはキーボードに傾斜をつける

理想の姿勢は重心が太もものつけね、胸を突き出した状態。

※長時間キープが疲れてしまう場合

クッションを太ももの上に置き、机とお腹で挟む

現在使用しているパソコンがノートパソコンの場合は上の図のようにサポートアイテムを使うことで、首や肩の負担を減らすことができます。

家にあるもので代用しやすいので、新たに周辺機器を購入する必要がないのがメリットです。

厚生労働省のガイドラインは学術的知見を踏まえて、適切なデスク環境への措置方法が網羅されています。

本記事も厚生労働省のガイドラインに基づいた内容となっておりますが、中には会社の規定や個人的な事情により、ベストな状況にしたくてもできない方も多いと思います。

そのため、家にあるもので代用できる案も、合わせてご紹介をさせていただきました。

まずは簡単に実践できるものから試してみてはいかがでしょうか。

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執筆者:須藤 大登
Hiroto Sudo

呉竹鍼灸柔整専門学校 柔整科卒業
神奈川衛生学園専門学校 東洋医療総合学科卒業

鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師
柔道整復師

学生の頃、大きな怪我で部活が出来ない時期がありました。
全治2~3ヶ月と診断を受けた時、リハビリ担当の先生が「大丈夫。しっかり治すために一緒に頑張ろう」と声をかけてくれました。
なんでもない言葉ですが、当時の私にはすごく心強く、前向きになれたことを覚えています。
治療する立場となった現在、かつて私がしてもらったように、少しでも前向きに思えるような治療や言葉を届けられる存在となれるよう日々精進いたします。


遠方からの通院で慢性的な首こり・肩こりが解消したケース|ケースレポート

概要

Y様 / 静岡県在住 / 33歳 / 女性 / 会社員

症状

肩こり

首こり

頭痛

状態

肩こり、首こりは高校生の頃からあったが、1年前くらいから特にひどくなってきた。

ひどい時は頭痛や吐き気を伴うこともある。

頭痛外来にて精密検査などを行ったが、これといった異常所見はみられなかった。

はっきりとした原因が特定できないまま、徐々に症状が悪化してきたためご来院された。

頭痛が特にひどいときは痛み止めを飲みながら緩和している。

マッサージや鍼を受けると一時的に緩和するが、数日すると元のつらい状態に戻ってしまう。

仕事はデスクワークが中心で、長時間座りながらパソコン作業をしていることが多い。

見立て

まず、首や肩のつらい部分と一致して、頭半棘筋、頭板状筋、肩甲挙筋、僧帽筋に強い筋緊張がみられる。そして頭半棘筋や僧帽筋を圧迫した際に、普段の頭痛に近い痛みが再現された。

このことから、頭痛は首や肩の筋緊張により、引き起こされている可能性が高いと考えた。

 

そして各関節可動域や筋力を検査したところ、股関節や胸椎の可動域の低さ、姿勢維持のために適した筋(脊柱起立筋、腹横筋、大殿筋)の筋力が十分ではないことがわかった。

 

上記の関節可動域の低下や筋力低下があると、良い姿勢を長時間キープすることが困難となる。

仕事では長時間座るため、適した筋肉で支えられていないことで首や肩にかなりの負担を強いることとなる。

 

まずは鍼やマッサージで筋緊張を緩和し、自覚症状をできるだけ少なくするよう努める。

次に根本的な部分の改善として運動療法をメインに進めていき、治療期間をあけても大丈夫な状態を目指すこととなった。

治療

初期治療

初期治療では通常一週間に一度ほどの頻度で集中的に治療をしていくが、静岡県からご来院されるため、二週間に一度のペースで行っていくこととなった。

そして次回の治療までに、なるべくこりの少ない状態をキープしていただくために、セルフケアとしてストレッチや体操を通常よりも多く行ってもらった。

治療を開始して約3ヶ月、7回の治療でこりや頭痛の程度がNRS3まで落ち着いたため、運動療法がメインとなる中期治療へ移行した。

※NRS:Numeric Rating Scale。痛みを「0:痛みなし」から「10:これ以上ない痛み」までの11段階に分け、痛みの程度を数字で表す評価方法。

中期治療

まずは治療開始前のような強いこりや頭痛が出ないようにすること。(鍼やマッサージによるほぐし)

そして姿勢改善のため、可動域改善と筋力強化をメイン課題として運動療法を中心に治療を進めた。

まずは脊柱起立筋、腹横筋、大殿筋など姿勢維持のために必要な筋を個々にトレーニング。

それぞれが十分に使えるようになったら、徐々に連動性をもたせるトレーニングへと発展。

トレーニング開始してから間もない頃は、背中の筋を使おうとすると首や肩など、上半身に力が入ってしまっていた。

腹横筋や大殿筋など体幹や下肢の筋肉が使えるようになると、徐々に上半身の余計な力みがなくなり、目的の筋を選択的に収縮できるようになった。

治療を開始してから約1年。治療回数は26回。良好姿勢が定着したため、後期治療へ移行した。

後期治療

Y様とのご相談により、3ヶ月に一度の治療頻度で良好な状態がキープできるようにすることを目標に、徐々に治療間隔をあけていった。

肩や肩甲骨、鎖骨周りが張ることもしばしばあったが、大きく調子を崩すこともなく、良好姿勢やセルフケアの習慣化なども出来ており、3ヶ月あけても問題ない状態となったため、治療はゴール。

治療期間は約1年9ヶ月。総治療回数は31回。

コメント

当院には、北海道から九州までさまざまな地域から治療を受けにいらっしゃいます。

遠方からご来院される方や、さまざまな事情により当院が推奨している頻度で通うことが難しい場合でも、セルフケアや治療内容のカスタマイズにより、根本的改善に向かっていくことは十分可能です。

 

Y様も静岡県からのご来院ということもあり、平均よりも長期間となることを見据えての治療計画となりました。

セルフケアなど地道に続けていただいた結果、着実に身体が改善していき、ゴールへと到達することができました。

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


「ドラクエの戦闘シーン」と「肩こり・首こりの根本治療」の類似性

 

画像を「SQUARE ENIX 」ホームページから引用させていただきました

肩こり・首こりの根本治療ってどういうこと?

 

「 根本治療 」

 

多くの治療院、整骨院、整体などのホームページや広告などで目にする機会が多い言葉ですね。

 

 

「根本治療」や「根本改善」と聞くと、みなさんはどんな印象を持たれていますか?

 

 

“なんとなく”良いイメージを持つという方は少なくないでしょうか。

 

 

 

一方、真面目に治療を検討している方であれば、

 

「根本治療っていうけど、具体的に何をどうするの??」

「根本治療をしたらどのような状態になるの??」

 

このような疑問を抱く方も少なからずいらっしゃるかもしれません。

 

 

 

たしかに、患者さんの立場になって考えてみると、

 

  • 「根本治療」って、なんとなく良いイメージがあるけれど、実はわかりにくい(抽象的)

 

  • 「根本治療」というけれど、何をどうするのかわからない(具体的な説明がない)

 

という印象があります。

 

 

 

かく言う私たち肩こりラボも「根本治療」を提言している治療院のひとつです。

 

 

 

私たちは、治療を行うにあたりまして、治療者からの一方向的なものではなく、患者さんと対話をしながら一緒に治していくということを重視しています。

 

ですので、患者さんには”なんとなく”ではなく、”きちんと”理解し、納得して、治療を受けていただきたいのです。

 

そのためにも、きちんとした説明をして、前提を共有することは必要不可欠と考えております。

 

 

 

世の中に「根本治療」という言葉が溢れかえっている状況です。

 

「根本治療」という言葉の「わかりにくさ」「不透明さ」を少しでも解消したい。

 

また、慢性的な肩こりや首こりにお悩みで、本気で治したいとお考えの方のヒントになればと思い、本記事を執筆いたしました。

 

 

 

治療者によって「根本治療」の捉え方は様々あるかと思いますが、肩こりラボが考え、実践している「肩こり・首こりの根本治療」を、有名テレビゲーム「ドラゴンクエスト」を例にご説明させていただきます。

 

なお、本記事では、慢性的な肩こり・首こりにお悩みで、施術を受ければ一時的に緩和するが、日常生活をするとすぐに元どおりになってしまい、本質的に状況が改善しないという方が、施術を受けなくても大丈夫な状態(治療を必要としない状態)になるということをゴールと考えてお話いたします。

 

 

ご参考になりましたら幸いです。

 

 

根本治療はドラクエの戦闘と似ている?

さて、筆者が幼少時代から愛してやまないゲームがあります。

 

それは「ドラゴンクエスト」通称ドラクエです。

 

 

ドラクエとは、RPGの金字塔とも言える作品で、プレーヤーが主人公=勇者となって、世界を脅かしている魔王を倒すために冒険をします。

 

その過程でたくさんの手強いモンスターと遭遇し、戦って勝利をしなければなりません。

 

 

実はこのドラクエの戦闘において、プレーヤーのとるべき戦略と、首こり・肩こりの根本治療への治療計画には共通する部分があります。

 

※ドラゴンクエストをご存知でない方は、本項はとばして次項「水漏れの状況を例にご説明いたします」からお読みいただけますと幸いです。

 

 

 

まずはドラクエの戦闘についてお話しします。

 

ドラクエでは、モンスターに遭遇すると、モンスターはプレーヤーに対して様々な攻撃を仕掛け、ダメージを与えようとしてきます。

 

そして、プレーヤーのHP(Hit Point=体力)が0になると、戦闘不能になってしまいます。

強敵であるほど受けるダメージが大きいため、戦略が非常に重要となります。

 

 

なお、プレーヤーが取る行動の選択肢として、「にげる」というコマンドもありますが、ここでは「たたかう」ことを前提として話を進めさせていただきます。

 

 

話をバトルに戻します。

 

まずこちらのHPに余裕がある時は、モンスターに攻撃する、あるいは強化呪文を使い、守備力などを上げることで次回以降のターンを有利に進めるために備える。

 

これが強敵と戦う上での定石でしょう。

 

 

一方で、モンスターの攻撃を受け、HPが残り少なくなると、戦闘不能とならないように回復呪文でHPを回復する必要があります。

 

つまり、HPに余裕がある時、とるべき行動の優先順位は

攻撃、強化>回復

 

そして、HPが残り少ない時、とるべき行動の優先順位は

攻撃、強化<回復

 

となります。

 

 

また、ドラクエでは特殊な装備や呪文などにより、毎ターン自然回復をすることも可能です。

モンスターの攻撃によるダメージ量よりも、自然回復の量が上回ることで、回復呪文を使わずに戦い続けることも可能となります。

 

 

このように状況に応じて、戦略を変えていくことによって、ダメージを受けつつも倒されずにモンスターに立ち向かうことができます。

 

反対に優先順位を間違えるとモンスターを倒すのに時間がかかってしまう。あるいはHPが尽き、戦闘不能(ゲームオーバー)となってしまうのです。

 

 

 

水漏れの状況を例にご説明いたします

ドラクエに馴染みのない方も多いと思います。

今度はより一般的で誰にでもイメージしやすい例をもう一つご紹介します。

 

 

洗面台の排水口が詰まっており、水が流れにくくなった状態のなか、ある時、蛇口が破損して水が止まらなくなってしまったという状況をご想像ください。

 

排水量よりも漏水量が上回ってしまい、時間の経過と共に徐々に水位が上がり、遂には洗面台から水が溢れ、床が水浸しになってしまっていました。

浸水はどんどんひろがっていきます。家具などが水浸しになって壊れてしまうだけでなく、下層にまで漏水してしまうと大きな損害を与えてしまうことになります。

 

 

さて、このような状況で、あなたが最初にとるべき行動は何でしょうか?

 

 

対処方法は色々あると思います。

この場合、一番困っているトラブルは床が水浸しとなってしまっているという現象ですが、水浸しとなっている箇所をいくら拭いても、問題解決に至らないのは容易に想像できます。

 

床が水浸しとなってしまっているという問題を根本的に解決するためには、一番は蛇口から漏れ出ている水を止めることですが、排水口の詰まりを解消することでも漏水自体はひとまずおさえることができるでしょう。

 

 

でも、排水口の詰まりの解消や、蛇口の修理に多少なりとも時間がかかるとしたら・・・

 

 

水浸しになっている範囲が現在進行形で広がっていく最中、排水口や蛇口の修理に時間をかけてしまうと、その間に被害がどんどん広がってしまう状況が想像できると思います。

 

このような状況で、被害を最小限にするためには、まずはこれ以上浸水が広がらないように床を拭くこと。そして、洗面台の水をかき出すことで一時的にでも、水位を下げて溢れ出てくる水を減らすという応急処置をすることではないかと思います。

 

 

応急処置をして、多少の時間をかせいだうえで、落ち着いて、しっかりと排水口や蛇口を修理することで、水浸しの被害を最小限に抑えながら、問題の根本的な解決に至ることができるでしょう。

 

https://illust8.com/contents/4358から引用させていただきました

 

 

「ドラクエの戦闘」と「水漏れ」の共通点

 

二つの例をご紹介しました。共通点はどこにあるでしょう?

 

 

根本的に解決しなければならない問題

ドラクエ → モンスターを倒し、これ以上ダメージを受けないようにする。

水漏れ    →  洗面台の本来の機能を取り戻し、水漏れを止める。

 

 

根本的解決のために必要なこと

ドラクエ →  攻撃をする、強化呪文を使う。

水漏れ    →  排水口、蛇口の修理をする。

 

 

早急に対処しなければいけないこと

ドラクエ → HPが少なくなったら回復をする。

水漏れ    →  床を拭く、洗面台の水をかき出す。

 

どちらも状況に応じて、やるべきことの優先順位があるという点で共通しています。

 

首こり・肩こり治療に置き換えると?

 

上記の共通点は首こり、肩こりなどの慢性症状の治療においても、同様のことが言えます。

 

 

一つ例をあげます。

 

Aさんは慢性的な肩こりがあり、日常生活に支障が出ている状態。

その原因はデスクワークにより長時間同じ姿勢でいること。

そして、その姿勢が悪いことにより、首や肩に負担をかけている。

姿勢を正さなければいけないことはわかっているが、凝りがつらくて、日々姿勢を意識することや、筋トレを続けることが難しい。

 

 

このようなケースを、上述した例え話に置き換えると以下のようになります。

 

 

根本的に解決したい問題

肩こりのつらさによって日常生活に支障が出ている。

 

 

根本的な解決のために必要なこと

肩に負担をかけない姿勢や身体の使い方を習得すること。

→これを原因療法といいます

 

ドラクエだと強化呪文、水漏れだと排水口や蛇口の修理をすることです。

 

肩こりラボでは主にストレッチやトレーニングなどの運動療法が該当します。

不良姿勢の原因筋をほぐすという観点ではIDマッサージや3D鍼などの手技療法も当てはまります。

また、デスク環境を整えるなど、日常生活の工夫をすることも原因療法です。

 

 

早急に対処しなければいけないこと

凝り固まっている所をほぐし、つらさを緩和させること。

→これを対症療法といいます

 

ドラクエだと回復呪文、水漏れだと床を拭き、洗面台の水をかき出すことです。

肩こりラボでは主にIDマッサージや3D鍼などの手技療法が該当します。

凝り固まっている筋を緩めるためのストレッチや体操などもこれにあたります。

 

肩こりラボの考える「根本治療」とは

トレーニングや姿勢を正すこと(原因療法)はもちろん非常に重要です。

ですが、こりのつらさによって日常生活に支障が出ている以上、まずは凝り固まっている筋肉をほぐし、こりのつらさから一時的にでも解放されること(対症療法)が、効果的な原因療法を行うためにも重要となります。

 

対症療法で症状を緩和させながら、原因療法を併せて行い、根本的な改善を目指すのです。

 

そして、仕事など日常的にかかる負担の量よりも、自己の負荷許容量や、休息による自己回復量が上回った際に、治療をしなくても良い状態となります。

 

 

つまり、即効性のある特殊技術を行うこと(対症療法)や、原因療法だけを行うことが根本治療ではございません。

「根本的に解決したい問題」「根本的解決のために必要なこと」「早急に対処しなければいけないこと」これらを整理したうえで、問題を引き起こしている原因を明らかにし、状況によって対症療法と原因療法を組み合わせて対処を行うことが肩こりラボの考える根本治療です。

 

 

当院独自の技術である3D鍼、IDマッサージも一つ一つは単なるメソッド(手段)に過ぎません。

鍼をやったら必ず楽になる!肩こりを治すにはトレーニングじゃなきゃ絶対だめ!ということはございません。

 

 

解決すべき問題を明らかにし、根本的な解決のために必要なこと、早急に対処が必要なこと、これらをまずはしっかりと整理し(見立て)、最短で問題解決に到るための手順を考える(治療計画)、ということが大切となります。

 

 

この「見立て」と「治療計画」があって、次に具体的な対処法(メソッド)の話になるのです。

 

 

「根本治療」において大切なことは、特殊技術ではなく、患者さんの抱えている問題やお悩みをきちんと把握して、それに応じて治療計画を立てていくことと私たちは考えています。

 

 

 

 

まとめ

 

根本治療に必要なことを次の5つにまとめました。

  1. 状況によって対症療法と原因療法の優先度が変わる。
  2. 優先度を踏まえ、対症療法と原因療法を組み合わせる。
  3. 使う道具や技術などは単なるメソッドである。
  4. 必要なメソッドは人や目的により異なる。
  5. 根本治療において重要なのは「見立て」と「治療計画」である。

 

難しい表現をしておりますが、一言で言うと「カスタムメイドが大事」ということです。

 

 

 

症状を文字にすると「肩こり」「首こり」と皆同じように思えますが、解決すべき問題、程度、状況は患者さんによって様々なので、原因も様々です。ですので、原因を解消する手段や手順も様々であるのが自然だと思います。

 

もちろん私たち肩こりラボとしての標準治療は設けておますが、それを強要すること、その手順をいかなる時も遂行することが正解ではないと考えております。

 

ですので、効果的な方法(施術)を行うことや、唯一のマニュアルがあってそれを遂行すること自体が「根本治療」 というわけではございません。

 

一つの治療法にこだわるのではなく、患者さんの抱える問題、生活スタイル、考え方に応じて様々なやり方を提示できる治療院こそ、根本治療を望めると考えます。

 

 

 

さいごに

今回は、治療をし続けなくても良い状態になって治療を卒業することをゴールとし、これを達成するための治療を「根本治療」としてご説明させていただきました。

 

しかし、治療を卒業することのみが目指すべきゴールではありません。

 

患者さんの中にはメンテナンスとして定期的に治療を受けることを望んでおり、それにより良い状態を保てている方もいらっしゃいます。

 

ドラクエの「ゾーマ」級にダメージ量の多いプロジェクトを抱えている方にとっては、回復役が常に回復呪文を唱え続けなければ、戦い続けることはできません。

※ゾーマとはドラクエⅢの魔王(最終ボス)のことです。

 

 

個々の抱えている問題やお悩みは人によって千差万別です。

 

症状をただ治すことを目的とするのではなく、それぞれの問題やお悩みに沿って戦略をカスタマイズし、「問題」を解決すること。

 

それこそが目指すべき本当のゴールと考えております。

 

 

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執筆者:須藤 大登
Hiroto Sudo

呉竹鍼灸柔整専門学校 柔整科卒業
神奈川衛生学園専門学校 東洋医療総合学科卒業

鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師
柔道整復師

学生の頃、大きな怪我で部活が出来ない時期がありました。
全治2~3ヶ月と診断を受けた時、リハビリ担当の先生が「大丈夫。しっかり治すために一緒に頑張ろう」と声をかけてくれました。
なんでもない言葉ですが、当時の私にはすごく心強く、前向きになれたことを覚えています。
治療する立場となった現在、かつて私がしてもらったように、少しでも前向きに思えるような治療や言葉を届けられる存在となれるよう日々精進いたします。


息苦しい・呼吸がしづらい・呼吸が浅い等の自覚症状がマッサージと運動療法で解消したケース|ケースレポート

概要

K様 / 東京都在住 / 50歳 / 男性 / 自営業

症状

・息苦しい

・呼吸がしづらい

・呼吸が浅い

状態

特に心当たりはないが、1年程前から、ふとした時に息苦しさや呼吸のしづらさを自覚するようになった。

だんだんとひどくなってきたので、循環器内科と呼吸器内科を受診し、心電図、レントゲン、肺機能検査を受けたが心臓や肺に異常はみられなかった。

以前から、慢性的に首肩こりや頭痛があり、今回の症状でも鍼やマッサージを受けてみたところ、施術を受けた直後にすぐにラクになるということはなかったが、3ヶ月ほどするといつの間にか息苦しさは気にならなくなっていた。

 

数ヶ月間は比較的良い状態が続いたが、2ヶ月前からまた同じ様な症状が出始め、再度医療機関を受診して検査を受けたが、今回も特に異常はみうけられなかったため、当院への来院に至った。

来院時点では常に呼吸が浅くなっている自覚があり、息苦しさを感じている状態。深呼吸すると少し楽になる。そのため、意識的に深呼吸を多く行なってしまう。

 

息苦しさに影響する要因に心当たりはない。仕事では、主にデスクワークや車の運転など、長時間座っている事が多い。

ジムで週2回、筋力強化のためのトレーニングをしている。

見立て

まず医療機関で精密検査を2度行っていたことから、命に関わる呼吸器や循環器の疾患である可能性が低いことを前提として診察を行った。

 

呼吸のメカニズムの重要な要素として、胸郭の可動性が挙げられる。

※胸郭とは胸椎、肋骨、胸骨で構成されたかご状の骨格。胸郭の内部には胸腔があり、肺や気管、食道、心臓などを収めている。

呼吸では、胸郭が大きく広がることで空気が肺に到達するメカニズムとなっている。胸郭が可動性に富んでおり、拡大することができなければ、肺が空気を取り込んで拡大することが困難となってしまう。

 

K様のお身体を診察したところ、胸郭に付着している筋肉(胸鎖乳突筋、大胸筋、広背筋、腹筋群など)の緊張が著しく高くなっていた。また、頚部の緊張も非常に高い。姿勢は、猫背で、いわゆる「巻き肩」の状態となっており、筋緊張と姿勢の観点から、胸郭が広がりにくい状態となっていた。

 

仕事で長時間の座ることが多いとのことで、不良姿勢により胸郭が可動しにくくなっていることが、自覚的な「息苦しさ」や「呼吸の浅さ」につながっていると考えた。

まずは猫背や巻き肩の原因となってしまっている胸郭周囲の筋緊張ならびに関節可動域をマッサージやストレッチで緩め、胸郭が拡大しやすい状態になるようにした。

そして、正しい座り姿勢を習得するために体幹筋(主に上背部の脊柱起立筋と腹横筋)の筋力強化と、体の使い方を練習する方針とした。

 

一方で、当該症状は、精神的ストレスが起因することもある。(内臓疾患が無いということが確認されているため)

仕事でのストレスやプレッシャー、そして「息苦しい」という症状のつらさ自体が精神的ストレスとなり、さらに息苦しさや呼吸の浅さが気になってしまうという悪循環が起こっている可能性もあると考えた。

そのため治療では、肉体だけでなく心理的なリラクセーションにも重きを置き、処置方法として、K様が心理的に心地よいと感じる治療を優先的に行うことした。このような理由から、鍼ではなく、ほぐす手段は、マッサージとストレッチを主体に処置を行なった。

また、緊張を緩和し可動性を改善させたいターゲット部位は胸郭周囲だが、自律神経のバランス調整のためにも、上肢や下肢へのアプローチも行なった。

 

治療

1回目の治療

猫背や巻き肩など、不良姿勢や胸郭の可動性を制限している要因の解除ため、胸鎖乳突筋、大胸筋、広背筋、脊柱起立筋を中心にマッサージで緩めた。

上肢や下肢への刺激は副交感神経を有意にするため、体幹だけでなく、手や足もほぐした。

治療直後のK様の感想として「呼吸のしづらさ」の目立った改善効果は特に実感できなかった。

セルフケアとして、胸椎や胸郭の可動性を上げるストレッチを毎日セルフケアで行っていただいた。

2回目の治療

初回から2週間後のご来院。

初回よりは少し軽減しているが、依然として頚部から上部体幹の筋緊張がとても高い状態となっている。「息苦しい」「呼吸がしづらい」「呼吸が浅い」といって症状も特に変化はない。

処置の内容は、基本方針は初回と同じとして、緊張の高い部位へ処置を行う時間を長くし、それに加えて、頭部と顔面のマッサージを行なった。セルフケアも、同様のメニューを継続とした。

初回同様、直後の改善効果は特に無し。

3回目の治療

2週間後のご来院。治療を行って1ヶ月ほど経過。

客観的な視点では、徐々に胸椎の可動性が出始めた。

呼吸もいつの間にかあまり苦しいと感じる頻度が減るようになった。

良い姿勢を長時間キープするために必要な脊柱起立筋のトレーニングも行いつつ、全身の筋緊張を緩めていった。

4回目の治療

2週間後のご来院。

たまに深呼吸したいと思うことはあるが、以前のように「息苦しい」「呼吸しづらい」「呼吸が浅い」ということは無くなった。

身体所見としては、巻き肩と猫背姿勢はほぼ改善。

胸椎、胸郭の可動性はまだ改善の余地はあったが、日常生活に支障をきたさない状態となったため、治療はゴールとなった。

総治療回数は4回。治療期間は約1ヶ月半。

コメント

呼吸が苦しいなどの症状に関わらず、治療をする上での大前提として、現在起こっている症状が、病気が元になっているか(症候性)か、そうでないか(本態性)かの見極めが重要となります。

症候性とは、医学的に診断のつく疾患など明確な原因が背景にあり、その疾患の一症状として、当該症状が出ているという状態です。

症候性の症状の改善のためには、その原因となっている疾患を専門の医療機関で治療する必要があります。一般的に、呼吸が苦しいというと、呼吸器系、循環器系、血液系などの疾患が背景に隠れている可能性があります。

 

一方、本態性とは、症候性のように症状を引き起こしている明確な原因が特定できないもの(病院では異常がないとされるもの)を指します。

たとえば、肩こりや首こりの原因は様々ありますが、病気が元になっているわけではなく、筋肉や筋膜の過緊張、体の使い方不良、姿勢不良、自律神経の不調、精神的ストレスなどによって引き起こされる場合は本態性の肩こり・首こりとなります。

 

当院で治療の適応となるのは、あくまでも本態性の症状となります。

K様は来院前に循環器内科、呼吸器内科の診察を少なくとも2回受けており、検査に異常がなく、症候性の可能性が低いことから、姿勢不良やストレスなどから呼吸に影響を与えていると見立てて、治療を行いました。

そしてその息苦しさを招いていた原因として、胸郭の広がりにくさなど、筋肉や関節の硬さが原因の多くを占めていたため、マッサージや運動療法によって早期の改善に至りました。

 

自覚的に症候性の可能性が低いと感じている場合でも、症候性の可能性を否定するという意味で、病院への受診はとても重要です。万が一、症候性で、なんらかの病気のサインだった場合、命に関わることがあります。

「息苦しい」「呼吸しづらい」「呼吸が浅い」というような症状がある方は、自己判断せず、まずは必ず医療機関を受診するようにしましょう。

 

 

【セルフケア方法をお探しの方へ】

医療機関を受診して異常が無いことを確認したうえで対処法を探しているという方のために、こちらで肩甲骨や胸郭の動きを改善するストレッチをご紹介しています。

このストレッチは治療の中に組み込むこともございます。

必ず痛みや違和感のない範囲で行ってください。

↓↓↓

 

 

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


首・肩・背中のひどい凝りと痛みが慢性化して約7年間も続いてしまっているケース|ケースレポート

概要

仕事柄うつむく姿勢を長時間しなければならず、元々首肩の疲れや凝りを自覚していたが、年々ひどくなってきており、ある時背中を傷めてしまったことがきっかけで状態が悪化して、痛みや可動域制限等も生じるようになってしまった。

H様 / 東京都在住 / 39歳 / 女性 / 会社員(研究職)

症状

・首こり、肩こり、背中こり
・頭痛
・首から背中の痛み
・首が回らない(首の可動域が狭い)
・手の痺れ、握力低下

 状態

もともと肩こりはあったが約7年前から徐々に悪化してきて、年に2~3回はとてもつらい状態になり、頭痛も出てしまう。仕事は研究職で、顕微鏡を眺めることが多く、加えて長時間のPC作業。

半年くらい前、カバンを持った時に背中がピキッとして痛くなった。以前から、首の動きはよくなかったが、背中を傷めてから痛みでさらに可動域が狭くなってしまった。横を向くことと、上を向くのが制限されている。

整形外科に行ったところ、レントゲンでは異常がなく、湿布と痛み止めを処方された。しばらく様子をみたが、良くならなかった。

とてもつらかったため、マッサージや鍼に行くようになった。

鍼やマッサージを受けると、治療後はラクになるが、翌日にはつらい状態に戻るということを繰り返している。現在は、背中の痛みは最初よりはマシにはなったが、まだ完全に治ってはいない。

首肩背中の広範囲が慢性的に凝っていて、首の可動域も相変わらずせまく、痛みが出る。最近、腕から手にかけてしびれが出てきて、力が入りにくくなったため、再度整形外科にいった。レントゲンとMRI検査を受けて目立った異常はなかったため、リハビリをするように勧められた。

リハビリに、週2回、1ヶ月通ったが、状況に変化はない。

このままだとダメだと思い、根本的に治すために治療院を探していた。

見立て

病気が元になっている症状ではないかの確認

今回のケースは、肩から背中の痛み、首の可動域制限、腕の痺れや握力低下といった症状があったため、頚椎椎間板ヘルニア・頚椎神経根症といった整形外科的な疾患や脳神経外科領域の疾患が元になって症状が出ているのでないかの確認が必要となる。

当院受診の前に医療機関を受診して、疾患が無いことが確認されていたため鍼灸マッサージ治療の適用とした。

診察にて、以下5つを確認

  1. 問診
  2. 触診(炎症所見の確認、圧痛部位の特定、筋緊張の確認、筋肉量の確認)
  3. 可動域
  4. 筋力
  5. 姿勢

1.問診

症状が出たきっかけ、思い当たる原因、発症から現在までの経過、生活習慣と症状の関連性、日常生活動作 等 過去から現在の状況について詳しくお伺いした。

2. 触診

自覚部位の僧帽筋、肩甲挙筋、頭半棘筋、胸鎖乳突筋、板状筋の硬さが顕著であった。症状を自覚する部位に、筋硬結と圧痛を確認することができた。

その他、ハムストリングス、大腿前面、肩甲骨外側筋群、胸筋群、上腕二頭筋の過緊張が見受けられた。

ハムストリングス、大腿前面の硬化は股関節の可動域低下を招き、不良姿勢を招く要因となり、上半身の力みに繋がると考えられる。

上腕二頭筋や胸筋群の過緊張は肩甲骨を外転・前傾させ、肩甲骨外側筋群の過緊張は肩関節が内旋させてしまうため、「巻き肩」を招くことになる。

3. 可動域

頚椎、股関節、胸椎、肩甲胸郭関節の可動域が、日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の定める参考可動域に満たないことが確認できた。

  • 頚椎:屈曲、伸展、側屈、回旋、全ての動きで10°動かすと首から背中までの痛みが出現し、再現できる。
  • 股関節:両足屈曲45°、伸展0° 。曲げるのも伸ばすのもどちらも可動域が低い。
  • 胸椎:他動運動、自動運動どちらも伸展が不可。
  • 肩甲胸郭関節:常時外転挙上位、自分自身で内転が不可。内転させようとすると頚部と上肢が過剰に緊張する。

 

Joint by joint theory によると、関節には「可動性(Mobility)」と「安定性(stability)」という役割があるとされています。

  • モビリティ関節 (Mobility joint)   : 動作の際に主に可動する関節
  • スタビリティ関節 (Stability joint): モビリティ関節が可動するのを支える、モビリティ関節に伴って可動する関節

たとえば、胸椎や股関節はモビリティ関節に該当する。H様の場合は、本来可動するべき胸椎や股関節の可動域が著しく低下してしまっており、その代償としてスタビリティ関節である頚椎に可動を強いることになり、過負荷が生じてしまっていることが推測された。

4. 筋力

各種筋力テストにより、腹筋群(特に腹横筋)、大殿筋、上背部の脊柱起立筋の筋力低下が確認された。これらは姿勢を保持するのに重要な役割を持つ。

5. 姿勢

立位、座位の姿勢を確認した。

立位姿勢は、Kendall姿勢の分類における Sway back(後弯平背姿勢)が見受けられた。スウェイバック姿勢とは、横から見ると、頭部が前方に移動し、頚部は軽度伸展位、胸椎は丸まり上半身の後方移動を伴い、骨盤後傾位の状態。

一方、座位は、骨盤が後傾し、頭部前方位。横から見ると、C字に丸まってしまっている姿勢が見受けられた。

しびれと握力低下についての考察

頚部の動きと痛みを観察したところ、動きに伴い首から背中にかけての痛みは再現されるが、全動作を通して腕の痺れは再現することはできない。また、診察時は握力低下も見受けられなかった。

腕の痺れや握力低下は、実際に物も落としたり手作業ができなくなるというわけではなく「動かしづらさ」を自覚する状態。仕事が忙しくなり、肩こりや首こりが酷くなると出現するとのことで、「凝り」に伴って出現するという特徴がある。

診察時に握力を確認したところ、特に減弱している所見は見受けられなかった。整形外科にてMRI検査を踏まえて器質的な疾患(頚椎椎間板ヘルニアや変形性頚椎症 等)や他の病気ではないことが確認されているため、身体所見、徒手検査、経過をふまえて、手のしびれ感と握力低下は、首から上肢にかけての筋疲労や筋の過緊張による「しびれ感」「握力低下感」であると予想した。

首・肩・背中にかけての凝りや痛み、首の可動域制限についての考察

自動運動と他動運動の際の、可動域の違いや痛みの出方を調べた。
※自動運動は、患者さん自分自身で動かすこと。他動運動は、セラピストが動かすこと。

自動運動に比べ、他動運動では痛みは少し軽減した。このことから痛みが軽減したことから頚椎の椎間関節の問題である可能性は低いと予想した。

しかし、わずかながら痛みが出現することから頚椎の椎間関節の問題が完全に除外できたわけではなかった。現段階では筋肉硬化による問題、関節の問題が考えられた。

整形外科で画像検査をふまえて構造的な異常がないことが確認されていること。
今まで鍼やマッサージを行なって悪化はしていないこと。
頚椎が動かせないほどの激痛ではないこと。

上記3点に加えて、当院での検査所見をふまえて総合的に考慮し、頚部周辺の筋緊張、頚椎周囲のインナーマッスル機能低下、頚椎椎間関節の機能低下が痛みや症状を招いている可能性があると考えた。

首こり・肩こり・背中こりについての考察

関節機能の低下や体幹筋力の低下によって、不良姿勢と不良動作を招き、安静時・業務時問わず反復継続的に首肩の筋肉に負担がかかってしまっていることが慢性的な凝りの原因であると推測した。

痛みに関しては、こりが酷くなるにつれて生じることから、筋筋膜性疼痛症候群 (Myofascial Pain Syndrome:MPS)や、頚椎や胸椎の椎間関節の機能不全(関節の動きの不調)の状態と推測した。

動作時に痛みがある場合は身体の使い方を根本から解決しないと良くならない傾向があるため、治療は通常よりも長期的になることが予想できた。仮説を説明し、同意を得られたため、治療を開始した。

治療

初期治療:主な目的は症状緩和。頻度は7~10日に一回。

初回の治療

しばらく鍼やマッサージにいっていないため、自覚症状として、今非常につらい状態。(NRS 10)
※NRS:Numerical Rating Scale。痛みを「0:痛みなし」から「10:これ以上ない痛み」までの11段階に分け、痛みの程度を数字で表す評価方法。

自覚症状部位に対して3D鍼、IDマッサージを行った。続いて姿勢改善のために、姿勢を崩していると考えられる胸筋群、上腕二頭筋、ハムストリングスにIDマッサージを行った。

セルフケア(日常生活の意識)として、座位時、立位時の不良姿勢改善を試みたが、関節可動域不足と筋力不足で正しい姿勢自体をとることが困難だったため、正しい姿勢をとる前段階と判断した。

そのため、初回のセルフケアは、胸椎の伸展可動域が向上させるためのタオルを用いたストレッチ、座位時の骨盤後傾姿勢の改善のための良好姿勢保持の要点とコツをお伝えした。

2回目の治療

初回治療から1週間後のご来院。前回治療後、少しラクになったが少しずつ元に戻っていき、完全に元どおおりでははいが、前回受診前に近い状態。(NRS 10→9.5)

処置は、初回よりも、患部に対して少し多めに3D鍼を行ない、本日から原因療法として運動療法を開始した。

正しい立位姿勢・座位姿勢をとるのに必要な関節可動域を出す為に背中(胸椎)、もも裏(股関節伸筋群)の静的ストレッチと動的ストレッチを行なった。また、体幹筋力強化のため、お腹(腹横筋)と臀筋(大殿筋)の筋力強化を行った。

セルフケアは同じ。鍼やマッサージでほぐして症状が緩和した状態をキープできるよう、とにかく立位、座位を、力むことなくラクにとれるようにすることが課題である。

3回目の治療

前回から10日後のご来院。1週間は効果がもったが、その後、段々戻ってきた。(NRS 8)

症状緩和に変化が出たことから、3回目の治療も2回目同様、患部に対して多めに鍼治療を行なった。

運動療法では、腹部(腹横筋)と臀部(大殿筋)を入念に筋力トレーニングを行なった。運動療法の時間は、前回は10分間だったが、今回は15分間行なった。

セルフケアストレッチの効果で関節可動域が改善したため、正しい姿勢をとった際の力みが軽減した。そのため日常生活で、なるべく正しい姿勢(立位、座位)を保つよう意識をしていただくことをお願いした。

4回目の治療

前回と同様の経過で本日に至る。悪くはなっていないが状況は大きく変わらない。(NRS 8)

首肩の症状を抱えている箇所だけでなく、筋膜の連結のある背中から腰、上肢にかけても鍼治療を行った。

運動療法は、20分間行なった。

セルフケアは、細かい修正をしたが、おおきく変えず今行なっていることをきちんと定着させることとした。

5回目の治療

この時も大きく状況が変わらなかった(NRS 8)ため、鍼治療の刺激を強めにすることを決断。

この日は、これまで以上に首肩に対して入念に鍼治療を行った。首肩への3D鍼はいつもの倍、時間かけた。

本日運動療法は、セルフケアの確認のみで、105分間ほぼすべて鍼とマッサージにて全身をほぐすことに特化した治療を行なった。

6回目の治療

前回後、二日間「揉み返し」のような筋肉痛が続いたが、その後、これまでと異なり、とてもラクになったのを実感した。

10日経った今の時点でも状態は良好で、痛みは無い状態。こりが少し気になるが、当初と比べると格段にラクな状態まで症状の程度が下がった。可動域制限やしびれ、握力低下、頭痛も無し。(NRS 2~3)

前回同様、3D鍼で入念に首肩背中をほぐし、下肢や上肢はマッサージとストレッチを組み合わせた処置を行なった。

中期治療:主な目的は体幹筋力強化・身体の使い方・姿勢と動作の改善。頻度は2週に一度(セルフケアができる場合)。

7~18回目の治療

前回の治療でさらにもう一段階ラクになった実感あり。症状を感じない時間が増えてきた。前回からの期間を通して、低水準で安定(NRS 0~3)。

症状の緩和とコントロールが可能になったため、今回から中期治療に移行する。

運動療法に重きを起き、筋力強化、可動域改善、使い方改善を図る。

 

処置の内容として以下をH様の治療の基本形式とした。

  • 鍼マッサージ治療は75分間(上半身へのアプローチはほぼ3D鍼のみ、股関節から脚にかけてはIDマッサージ)
  • 運動療法は30分間(体幹の強化)

セルフケアは、症状解消目的のものから、身体造りのためのメニューの割合を増やした。

 

今回以降、中期治療として、約2週間の頻度で12回の治療を行なった。

後期治療:主な目的は自己管理能力の体得・治療からの卒業準備。頻度は段階的に拡大。

19回目の治療

症状は安定(NRS 0~3)しており、つらくない時間の方が長くなってきた。仕事が立て込むと、一時的につらくなるが、セルフケアをして就寝することで、翌日に持ち越さなくなった。

H様の自覚的にはとても良好が状態をキープできているとのこと。

客観的に見ても、姿勢が改善し、首肩の負担が軽減していることが見受けられる。セルフケアも日々行うことができているため、今回以降、後期治療に移行することになった。

後期治療は、自己管理と治療からの離脱が目的となる。

次回は、3週間後とし、問題がなければ、段階的に頻度を拡大していく。

20~22回目の治療

3週間、治療の間隔をあけて問題なし。(NRS 0~3)

セルフケアをきちんと実行できているため、以後治療の間隔を21回目は4週、22回目は5週、23回目は6週と段階的に間隔をあけていく。

23回目の治療

治療の間隔が1ヶ月以上になると、途中、疲労がでることはあったが、セルフケアで解消することができ、以前のようなひどい痛みや凝りにでつらくなることはなかった。(つらくなった時にセルフケアをやろうと思えたこと、セルフケアで症状を解消できたことがこれまでと違った)

次回は2ヶ月後。

24回目の治療

問題ない状況。ゴールの相談をしたが、念のためもう一度、2ヶ月あけてみることになった。

25回目の治療(ゴール)

さらに2ヶ月あけても、症状安定。一過性に症状がでてもつらい状態にはならい。

忙しくて少し気になってもセルフケアでリカバリーができる状態。

症状に悩まされることがなくなり、自己管理できる状態となったので、治療をゴールとした。

コメント

本症例は、凝りだけでなく痛みもあり、非常に慢性化してしまっていました。またお仕事柄とても簡単に負担を減らすことができないということもあり、数回で完治するような軽症例ではありませんでした。

ゴールまで約2年(治療回数25回)かかりましたが、あきらめずに継続したことで、日に日にひどくなって約7年間も続いてしまっていた「つらい凝りと痛みのある生活」から脱することができました。

様々な施術を受けてきたが良くならなかった慢性的な症状が、なぜ完治に至ることができたのでしょうか。

治療の要点は2つあると考えられます。

1)しっかりとした刺激の鍼治療を行った

ひとつめは、中途半端な刺激ではなく、しっかりとした刺激で鍼治療を行い、徹底的に筋肉をほぐしたことです。

当初から鍼を用いて、筋肉をほぐしておりましたが、「かえし」とよばれる副作用面とのバランスを考慮して、極端に強い治療は行なっておりませんでした。

中程度の強さの鍼治療によって、一定の効果はあるものの、症状の緩和という観点からすると前進できていない状況でした。

そこで5回目の治療時に、「かえし」が強く出る可能性があることを説明し、H様の同意が得られたため、強めの鍼治療で、しっかりと首肩背中の筋肉へアプローチを行いました。

この強めの鍼が功を奏して、症状が急激に解消されました。これが転機となり、治療を進めることができました。

 

対症療法はネガティヴな印象をもたれがちですが、根本的な改善のための第一歩として、重要です。

H様におかれましても、H様に適した対症療法がきちんとなされていなかったために、症状がすぐにぶりかえしてしまうなど慢性化してしまっていたのだと考えられます。

症状が解消されたために、姿勢も維持しやすくなり、セルフエクササイズに取り組みやすくなったということもあるでしょう。

 

このようなことから、思い切って強い治療に踏み切って、症状の解消をできたことが、一つ目の要点と考えられます。

誤解のないように付け足しますと、誰でも強い治療をすれば良いというわけではございません。H様にとっては、今回行なった強さが「適した刺激」であったということです。

大切になのは、個々の患者さんにとっての「適した刺激」を行うことです。

2)姿勢意識を徹底していただいた

H様は、お仕事柄首や肩に負担がかかりやすい状況で、仕事中はうつむく姿勢を取らざるを得ず、理想的な姿勢を維持することは症状や身体のコンデションに関係なく困難でした。

そのため仕事以外のシーンにて姿勢に気をつけてお過ごしいただくことをご提案させていただきました。

一日の仕事が約10~12時間、睡眠を6時間とすると、残りの約6時間は移動やプライベートの時間となります。今までは仕事以外のこの約6時間も、常に不良姿勢で首や肩に負担をかけ続けてしまっていました。

この約6時間だけでも、首肩に負担へかかりにくい姿勢を意識して生活していただくことで、今まで16~18時間負担をかけていたものが、10~12時間になります。すると単純計算ではありますが、3〜4割程度の負担が軽減することになります。

仕事中柄、うつむかないということは不可能なわけなので、これならば出来そうということで、H様も納得してくださり、ご協力くださいました。

これによって常にかかっていた負担が軽減していき、症状がすぐに戻ってしまうということの抑制につながりました。

そして、はじめは強く意識しなければできなかった理想的な姿勢が無意識でもできる状態に定着していきました。するといつのまにか、仕事中もうつむかないで良い時間は良い姿勢になっていることに気がついたそうです。

 

生活スタイルは個々で違うのが当然なように、皆一様に生活全てで姿勢を気をつけるべき(姿勢が維持できないから治らない)と決めつけるのではなく、個々の生活を考慮してそれにアジャストさせることが大切だと考えております。

このように、できることからスタートし、まずは仕事以外での負担を徹底的に減らす方針で原因療法を行ないました。H様はとても努力してくださり、改善につながりました。

完治に至れた理由

ひとつ確かなことがあります。

それは、完治できたのはH様の「治したい」という気持ちと努力のおかげということです。

慢性的な症状を改善させるためには、(現時点では)手っ取り早く手間をかけずにやることは困難で、患者さんの努力が少なからず必要となります。

今回の治療は、はじめはなかなかわかりやすい効果を感じることができませんでしたが、そこであきらめず、約2年間という長い期間、しっかりと計画に則り、治療に取り組んでくださいました。

当初はとてもおつらい状態で、大変だったと思います。お伝えしたことを毎日地道に行なってくださりありがとうございました。

約2年間の治療、本当にお疲れ様でした。

 

 

 


執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。