肩こりに関わる筋肉「抗重力筋」とは?

みなさんは肩こりに悩まされたことはありませんか?

多くの方が悩む肩こりを考える上で知っておきたいのが「抗重力筋」という筋肉です。ここでは抗重力筋について解説するほか、抗重力筋の仕組みをふまえた肩こり対策も見ていきたいと思います。

抗重力筋とは?

日常生活を送るためには、重力に逆らう必要があります。そのとき、知らず知らずのうちにさまざまな筋肉を使っていますが、その中でも特に必要な筋肉群を「抗重力筋」といいます。この抗重力筋のおかげで、さまざまな姿勢を保持して生活ができているのです。

多くの人にとって聞きなれない言葉かもしれませんが、実は人間が生活をしていく上でとても大切な筋肉群だと言えるでしょう。

抗重力筋に含まれる筋肉

抗重力筋は膝から足首までの部分(下腿)・太もも(大腿)・お腹(腹部)・胸部・首といった体のそれぞれの部位の前後に張り巡らされており、前後に交代しながら伸び縮みをすることでバランスをとっています。

それぞれの筋肉で支えている部分は異なり、主に3つのグループに分類することができます。

・腕を支えている筋肉:上腕二頭筋、僧帽筋上部、大胸筋、小胸筋など

・肩甲骨を支えている筋肉:上腕三頭筋、上腕二頭筋、三角筋、僧帽筋上部 など

・体幹を支えている筋肉:腸腰筋、腹筋群、脊柱起立筋群など

姿勢の保持には抗重力筋が必要である

抗重力筋に含まれるのは、それぞれ生活していくうえで姿勢を保持するためには欠かすことができない筋肉ばかりです。

たとえば、立ったり座ったりするだけでもどれかの抗重力筋が働いており、大腿四頭筋は膝を伸ばす働き、大臀筋は太ももを後ろに振る働き、背筋群と腹筋群の2つの大きな筋肉群で上体を支えています。

もちろん、頭を支えるだけでも首の筋肉は支えるために働き続けています。

抗重力筋は休むことなく使い続けられているため、ほかの筋肉と比べると疲れやすかったり、こりやすかったりするとも言えるでしょう。

肩こりと抗重力筋

身体の「こり(凝り)」の中でも、特に悩む人が多い症状が「肩こり」です。

抗重力筋が本来の“正しい状態”にある場合、筋肉群である抗重力筋がバランスを取り合うことで自然と歪みが直り、正しい姿勢をキープできます。しかし日常生活の中の動きで体の姿勢に癖がついた場合、抗重力筋が“歪んだ姿勢の状態”を記憶してしまうことから体の特定部位に負荷をかけやすくなり、慢性の腰痛や肩こりを引き起こすことになります。

参考:抗重力筋 | e-ヘルスネット(厚生労働省)


特に現代はパソコン・スマホ・タブレットを使うのが当たり前です。多くの場合、画面を見るために首が下に向いたままになっていたり、同じ姿勢でずっと過ごしていたりします。それと同時に画面を長時間観ています。これらのパソコンやスマホなどを使用しているときの姿勢や行動の歪みも抗重力筋に影響し、肩こりの原因の1つとなりうるのです。

また首は5kg~6kgもある重い頭をずっと支えており、そのままでも肩こりの原因に繋がるケースもあります。さらにパソコンやスマホなどを使うために下を向いたり、キーボードを打つために腕を酷使したりしているのです。また、日本人は欧米の方と比べると体格が小さいにもかかわらず重い頭を支え続けているため、欧米の方より肩こりを訴える方が多いことが特徴とも言えるでしょう。

そして人間は無意識のうちに重力に逆らって生活しています。重力に逆らって生活すること自体、体に負担をかけているのです。

他にも、冷え・運動不足・ストレスなども肩こりにつながります。昔と比べると首に負担をかけたり体を動かさなかったりすることが、現代は肩こりを訴える方が多い理由だと考えられています。

抗重力筋は衰える

加齢に伴って筋肉が萎縮することを「廃用性筋委縮症」(サルコペニア)といいます。筋肉は運動不足や加齢が原因で衰えます。抗重力筋が衰えると、肩こりだけではなく歩く・立つ・座るなどの生活をしていく上で当たり前に行っている動作ができなくなります。

加齢と共に動きがゆっくりになる方も多いですが、これは抗重力筋が衰えていることが原因の1つにあります。例えば大腿四頭筋の場合、80歳代の筋肉量と30歳代の筋肉量を比べると80歳代になると半分まで低下することが分かっています。さらに抗重力筋が衰えると日常生活の動作ができなくなり「廃用症候群」になります。

動作が不自由になる前に、肩こりや腰痛などの症状が出てしまい生活に影響が出ることもあるでしょう。「たかが肩こり、されど肩こり」で、肩こりから頭痛や吐き気につながり仕事や勉強に集中できなくなります。さまざまなパフォーマンスが低下することもあり、肩こりを放置してはいけません。肩こりは若い方でもなるため、必要な対策を講じることが大切です。

抗重筋の仕組みをふまえた肩こり予防

ここまでは抗重力筋の役割や、抗重力筋と肩こりの関係について解説しました。それをふまえた肩こり予防法をいくつかご紹介しましょう。

正しい姿勢を維持する

パソコン・スマホ・タブレットは便利なツールですが、いつの間にか体に負担をかけ肩こりになってしまいます。肩こりにならないためには、正しい姿勢を維持することが大切です。さらに、筋肉の疲労だけではなく目の疲れ(眼精疲労)も関係しています。

パソコンやスマホなどを使っているときの姿勢は、肩が体の内側に入り体をすぼめている状態です。この姿勢を続けていると首から肩、場合によっては胸筋まで疲れてしまい肩こりや血流の悪化などが起こります。

さらに、細かい文字を見続けていると目の周囲にある筋肉が緊張し、首の筋肉まで緊張が伝わります。集中して画面を見続けていると、瞬きの回数も減少します。さまざまなことが積み重なって、肩こりになります。仕事や勉強のためにパソコンやスマホなどは必須アイテムです。そのため肩こりにならないためには、1時間ごとに休憩したり意識して正しい姿勢を維持したりしましょう。

参考:肩こり・首こりが気になる方が意識すべき、パソコン作業時の適切な姿勢(座り方)とデスク環境とは? 厚生労働省のガイドラインをふまえて解説します。

抗重力筋のバランスを整える

抗重力筋のはたらきをサポートするためにも、適切な運動により筋肉を鍛えたり、バランスを整えたりしていくことが重要です。

なお運動には様々な種類がありますが、どの運動を取り入れても一度に鍛えることはできず継続する必要があります。「継続しやすいかどうか」という観点もふまえて選ぶと良いでしょう。

まずは定期的にストレッチを行い筋肉の緊張をほぐしましょう。一定の姿勢を続けると抗重力筋の収縮や疲労に繋がるため、バランスをくずしやすくなります。

そして適度にウォーキングやジョギングを行ってみましょう。運動によるケガの心配がある場合、もしくは運動する時間がとれない場合は、日常生活の活動量を増やすだけでも効果を期待できます。

さらに負荷の高い運動が好みの方は、スクワット・腕立て伏せ・腹筋などのレジスタンス運動も合わせて取り入れましょう。レジスタンス運動とは鍛えたい筋肉に的を絞り、負荷をかける運動のことです。

ただし抗重力筋はバランスが大切です。一部だけを極端に鍛えるとバランスがくずれ、かえって逆効果になる可能性もあるでしょう。

関連ページ:肩こり・首こりの根本解消に有効なエクササイズとは(運動学・バイオメカニクスの観点から)

関連ページ:肩こりラボのパーソナルトレーニング・運動療法について

まとめ

今回は抗重力筋についてお伝えしました。抗重力筋は大切な筋肉群であり、正しくバランスを整えると肩こり対策だけではなく様々なメリットがあるかもしれません。

また運動には抗重力筋の調整だけではなく、気分転換・ストレス発散などの効果も期待できます。筋肉を鍛えることで血行が改善されれば、冷えの対策もできるでしょう。

人間の筋肉は互いに影響し合っているため、1つの行動が様々な結果に繋がる可能性も考えられます。


執筆者:伊藤 美里
Misato Ito

盛岡医療福祉専門学校卒業
日本医学柔整鍼灸専門学校卒業

鍼師・灸師
柔道整復師

学生時代バレーボールに打ち込み、当時自分の心の支えとなったアスリートやアーティストに携わる仕事をしたいと思い、「身体の治療・ケア」する道を選びました。
日々患者さんの治療にあたる中で、さらに治療の引き出しを増やすべく鍼灸師の資格を取得。
解剖学的な構造、運動学、最新のエビデンスの理論を基におひとりおひとりの「何が原因か」を追究し、よい治療をご提案できるよう努めてまいります。