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首・肩・背中のひどい凝りと痛みが慢性化して約7年間も続いてしまっているケース|ケースレポート

概要

仕事柄うつむく姿勢を長時間しなければならず、元々首肩の疲れや凝りを自覚していたが、年々ひどくなってきており、ある時背中を傷めてしまったことがきっかけで状態が悪化して、痛みや可動域制限等も生じるようになってしまった。

H様 / 東京都在住 / 39歳 / 女性 / 会社員(研究職)

症状

・首こり、肩こり、背中こり
・頭痛
・首から背中の痛み
・首が回らない(首の可動域が狭い)
・手の痺れ、握力低下

 状態

もともと肩こりはあったが約7年前から徐々に悪化してきて、年に2~3回はとてもつらい状態になり、頭痛も出てしまう。仕事は研究職で、顕微鏡を眺めることが多く、加えて長時間のPC作業。

半年くらい前、カバンを持った時に背中がピキッとして痛くなった。以前から、首の動きはよくなかったが、背中を傷めてから痛みでさらに可動域が狭くなってしまった。横を向くことと、上を向くのが制限されている。

整形外科に行ったところ、レントゲンでは異常がなく、湿布と痛み止めを処方された。しばらく様子をみたが、良くならなかった。

とてもつらかったため、マッサージや鍼に行くようになった。

鍼やマッサージを受けると、治療後はラクになるが、翌日にはつらい状態に戻るということを繰り返している。現在は、背中の痛みは最初よりはマシにはなったが、まだ完全に治ってはいない。

首肩背中の広範囲が慢性的に凝っていて、首の可動域も相変わらずせまく、痛みが出る。最近、腕から手にかけてしびれが出てきて、力が入りにくくなったため、再度整形外科にいった。レントゲンとMRI検査を受けて目立った異常はなかったため、リハビリをするように勧められた。

リハビリに、週2回、1ヶ月通ったが、状況に変化はない。

このままだとダメだと思い、根本的に治すために治療院を探していた。

見立て

病気が元になっている症状ではないかの確認

今回のケースは、肩から背中の痛み、首の可動域制限、腕の痺れや握力低下といった症状があったため、頚椎椎間板ヘルニア・頚椎神経根症といった整形外科的な疾患や脳神経外科領域の疾患が元になって症状が出ているのでないかの確認が必要となる。

当院受診の前に医療機関を受診して、疾患が無いことが確認されていたため鍼灸マッサージ治療の適用とした。

診察にて、以下5つを確認

  1. 問診
  2. 触診(炎症所見の確認、圧痛部位の特定、筋緊張の確認、筋肉量の確認)
  3. 可動域
  4. 筋力
  5. 姿勢

1.問診

症状が出たきっかけ、思い当たる原因、発症から現在までの経過、生活習慣と症状の関連性、日常生活動作 等 過去から現在の状況について詳しくお伺いした。

2. 触診

自覚部位の僧帽筋、肩甲挙筋、頭半棘筋、胸鎖乳突筋、板状筋の硬さが顕著であった。症状を自覚する部位に、筋硬結と圧痛を確認することができた。

その他、ハムストリングス、大腿前面、肩甲骨外側筋群、胸筋群、上腕二頭筋の過緊張が見受けられた。

ハムストリングス、大腿前面の硬化は股関節の可動域低下を招き、不良姿勢を招く要因となり、上半身の力みに繋がると考えられる。

上腕二頭筋や胸筋群の過緊張は肩甲骨を外転・前傾させ、肩甲骨外側筋群の過緊張は肩関節が内旋させてしまうため、「巻き肩」を招くことになる。

3. 可動域

頚椎、股関節、胸椎、肩甲胸郭関節の可動域が、日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の定める参考可動域に満たないことが確認できた。

  • 頚椎:屈曲、伸展、側屈、回旋、全ての動きで10°動かすと首から背中までの痛みが出現し、再現できる。
  • 股関節:両足屈曲45°、伸展0° 。曲げるのも伸ばすのもどちらも可動域が低い。
  • 胸椎:他動運動、自動運動どちらも伸展が不可。
  • 肩甲胸郭関節:常時外転挙上位、自分自身で内転が不可。内転させようとすると頚部と上肢が過剰に緊張する。

 

Joint by joint theory によると、関節には「可動性(Mobility)」と「安定性(stability)」という役割があるとされています。

  • モビリティ関節 (Mobility joint)   : 動作の際に主に可動する関節
  • スタビリティ関節 (Stability joint): モビリティ関節が可動するのを支える、モビリティ関節に伴って可動する関節

たとえば、胸椎や股関節はモビリティ関節に該当する。H様の場合は、本来可動するべき胸椎や股関節の可動域が著しく低下してしまっており、その代償としてスタビリティ関節である頚椎に可動を強いることになり、過負荷が生じてしまっていることが推測された。

4. 筋力

各種筋力テストにより、腹筋群(特に腹横筋)、大殿筋、上背部の脊柱起立筋の筋力低下が確認された。これらは姿勢を保持するのに重要な役割を持つ。

5. 姿勢

立位、座位の姿勢を確認した。

立位姿勢は、Kendall姿勢の分類における Sway back(後弯平背姿勢)が見受けられた。スウェイバック姿勢とは、横から見ると、頭部が前方に移動し、頚部は軽度伸展位、胸椎は丸まり上半身の後方移動を伴い、骨盤後傾位の状態。

一方、座位は、骨盤が後傾し、頭部前方位。横から見ると、C字に丸まってしまっている姿勢が見受けられた。

しびれと握力低下についての考察

頚部の動きと痛みを観察したところ、動きに伴い首から背中にかけての痛みは再現されるが、全動作を通して腕の痺れは再現することはできない。また、診察時は握力低下も見受けられなかった。

腕の痺れや握力低下は、実際に物も落としたり手作業ができなくなるというわけではなく「動かしづらさ」を自覚する状態。仕事が忙しくなり、肩こりや首こりが酷くなると出現するとのことで、「凝り」に伴って出現するという特徴がある。

診察時に握力を確認したところ、特に減弱している所見は見受けられなかった。整形外科にてMRI検査を踏まえて器質的な疾患(頚椎椎間板ヘルニアや変形性頚椎症 等)や他の病気ではないことが確認されているため、身体所見、徒手検査、経過をふまえて、手のしびれ感と握力低下は、首から上肢にかけての筋疲労や筋の過緊張による「しびれ感」「握力低下感」であると予想した。

首・肩・背中にかけての凝りや痛み、首の可動域制限についての考察

自動運動と他動運動の際の、可動域の違いや痛みの出方を調べた。
※自動運動は、患者さん自分自身で動かすこと。他動運動は、セラピストが動かすこと。

自動運動に比べ、他動運動では痛みは少し軽減した。このことから痛みが軽減したことから頚椎の椎間関節の問題である可能性は低いと予想した。

しかし、わずかながら痛みが出現することから頚椎の椎間関節の問題が完全に除外できたわけではなかった。現段階では筋肉硬化による問題、関節の問題が考えられた。

整形外科で画像検査をふまえて構造的な異常がないことが確認されていること。
今まで鍼やマッサージを行なって悪化はしていないこと。
頚椎が動かせないほどの激痛ではないこと。

上記3点に加えて、当院での検査所見をふまえて総合的に考慮し、頚部周辺の筋緊張、頚椎周囲のインナーマッスル機能低下、頚椎椎間関節の機能低下が痛みや症状を招いている可能性があると考えた。

首こり・肩こり・背中こりについての考察

関節機能の低下や体幹筋力の低下によって、不良姿勢と不良動作を招き、安静時・業務時問わず反復継続的に首肩の筋肉に負担がかかってしまっていることが慢性的な凝りの原因であると推測した。

痛みに関しては、こりが酷くなるにつれて生じることから、筋筋膜性疼痛症候群 (Myofascial Pain Syndrome:MPS)や、頚椎や胸椎の椎間関節の機能不全(関節の動きの不調)の状態と推測した。

動作時に痛みがある場合は身体の使い方を根本から解決しないと良くならない傾向があるため、治療は通常よりも長期的になることが予想できた。仮説を説明し、同意を得られたため、治療を開始した。

治療

初期治療:主な目的は症状緩和。頻度は7~10日に一回。

初回の治療

しばらく鍼やマッサージにいっていないため、自覚症状として、今非常につらい状態。(NRS 10)
※NRS:Numerical Rating Scale。痛みを「0:痛みなし」から「10:これ以上ない痛み」までの11段階に分け、痛みの程度を数字で表す評価方法。

自覚症状部位に対して3D鍼、IDマッサージを行った。続いて姿勢改善のために、姿勢を崩していると考えられる胸筋群、上腕二頭筋、ハムストリングスにIDマッサージを行った。

セルフケア(日常生活の意識)として、座位時、立位時の不良姿勢改善を試みたが、関節可動域不足と筋力不足で正しい姿勢自体をとることが困難だったため、正しい姿勢をとる前段階と判断した。

そのため、初回のセルフケアは、胸椎の伸展可動域が向上させるためのタオルを用いたストレッチ、座位時の骨盤後傾姿勢の改善のための良好姿勢保持の要点とコツをお伝えした。

2回目の治療

初回治療から1週間後のご来院。前回治療後、少しラクになったが少しずつ元に戻っていき、完全に元どおおりでははいが、前回受診前に近い状態。(NRS 10→9.5)

処置は、初回よりも、患部に対して少し多めに3D鍼を行ない、本日から原因療法として運動療法を開始した。

正しい立位姿勢・座位姿勢をとるのに必要な関節可動域を出す為に背中(胸椎)、もも裏(股関節伸筋群)の静的ストレッチと動的ストレッチを行なった。また、体幹筋力強化のため、お腹(腹横筋)と臀筋(大殿筋)の筋力強化を行った。

セルフケアは同じ。鍼やマッサージでほぐして症状が緩和した状態をキープできるよう、とにかく立位、座位を、力むことなくラクにとれるようにすることが課題である。

3回目の治療

前回から10日後のご来院。1週間は効果がもったが、その後、段々戻ってきた。(NRS 8)

症状緩和に変化が出たことから、3回目の治療も2回目同様、患部に対して多めに鍼治療を行なった。

運動療法では、腹部(腹横筋)と臀部(大殿筋)を入念に筋力トレーニングを行なった。運動療法の時間は、前回は10分間だったが、今回は15分間行なった。

セルフケアストレッチの効果で関節可動域が改善したため、正しい姿勢をとった際の力みが軽減した。そのため日常生活で、なるべく正しい姿勢(立位、座位)を保つよう意識をしていただくことをお願いした。

4回目の治療

前回と同様の経過で本日に至る。悪くはなっていないが状況は大きく変わらない。(NRS 8)

首肩の症状を抱えている箇所だけでなく、筋膜の連結のある背中から腰、上肢にかけても鍼治療を行った。

運動療法は、20分間行なった。

セルフケアは、細かい修正をしたが、おおきく変えず今行なっていることをきちんと定着させることとした。

5回目の治療

この時も大きく状況が変わらなかった(NRS 8)ため、鍼治療の刺激を強めにすることを決断。

この日は、これまで以上に首肩に対して入念に鍼治療を行った。首肩への3D鍼はいつもの倍、時間かけた。

本日運動療法は、セルフケアの確認のみで、105分間ほぼすべて鍼とマッサージにて全身をほぐすことに特化した治療を行なった。

6回目の治療

前回後、二日間「揉み返し」のような筋肉痛が続いたが、その後、これまでと異なり、とてもラクになったのを実感した。

10日経った今の時点でも状態は良好で、痛みは無い状態。こりが少し気になるが、当初と比べると格段にラクな状態まで症状の程度が下がった。可動域制限やしびれ、握力低下、頭痛も無し。(NRS 2~3)

前回同様、3D鍼で入念に首肩背中をほぐし、下肢や上肢はマッサージとストレッチを組み合わせた処置を行なった。

中期治療:主な目的は体幹筋力強化・身体の使い方・姿勢と動作の改善。頻度は2週に一度(セルフケアができる場合)。

7~18回目の治療

前回の治療でさらにもう一段階ラクになった実感あり。症状を感じない時間が増えてきた。前回からの期間を通して、低水準で安定(NRS 0~3)。

症状の緩和とコントロールが可能になったため、今回から中期治療に移行する。

運動療法に重きを起き、筋力強化、可動域改善、使い方改善を図る。

 

処置の内容として以下をH様の治療の基本形式とした。

  • 鍼マッサージ治療は75分間(上半身へのアプローチはほぼ3D鍼のみ、股関節から脚にかけてはIDマッサージ)
  • 運動療法は30分間(体幹の強化)

セルフケアは、症状解消目的のものから、身体造りのためのメニューの割合を増やした。

 

今回以降、中期治療として、約2週間の頻度で12回の治療を行なった。

後期治療:主な目的は自己管理能力の体得・治療からの卒業準備。頻度は段階的に拡大。

19回目の治療

症状は安定(NRS 0~3)しており、つらくない時間の方が長くなってきた。仕事が立て込むと、一時的につらくなるが、セルフケアをして就寝することで、翌日に持ち越さなくなった。

H様の自覚的にはとても良好が状態をキープできているとのこと。

客観的に見ても、姿勢が改善し、首肩の負担が軽減していることが見受けられる。セルフケアも日々行うことができているため、今回以降、後期治療に移行することになった。

後期治療は、自己管理と治療からの離脱が目的となる。

次回は、3週間後とし、問題がなければ、段階的に頻度を拡大していく。

20~22回目の治療

3週間、治療の間隔をあけて問題なし。(NRS 0~3)

セルフケアをきちんと実行できているため、以後治療の間隔を21回目は4週、22回目は5週、23回目は6週と段階的に間隔をあけていく。

23回目の治療

治療の間隔が1ヶ月以上になると、途中、疲労がでることはあったが、セルフケアで解消することができ、以前のようなひどい痛みや凝りにでつらくなることはなかった。(つらくなった時にセルフケアをやろうと思えたこと、セルフケアで症状を解消できたことがこれまでと違った)

次回は2ヶ月後。

24回目の治療

問題ない状況。ゴールの相談をしたが、念のためもう一度、2ヶ月あけてみることになった。

25回目の治療(ゴール)

さらに2ヶ月あけても、症状安定。一過性に症状がでてもつらい状態にはならい。

忙しくて少し気になってもセルフケアでリカバリーができる状態。

症状に悩まされることがなくなり、自己管理できる状態となったので、治療をゴールとした。

コメント

本症例は、凝りだけでなく痛みもあり、非常に慢性化してしまっていました。またお仕事柄とても簡単に負担を減らすことができないということもあり、数回で完治するような軽症例ではありませんでした。

ゴールまで約2年(治療回数25回)かかりましたが、あきらめずに継続したことで、日に日にひどくなって約7年間も続いてしまっていた「つらい凝りと痛みのある生活」から脱することができました。

様々な施術を受けてきたが良くならなかった慢性的な症状が、なぜ完治に至ることができたのでしょうか。

治療の要点は2つあると考えられます。

1)しっかりとした刺激の鍼治療を行った

ひとつめは、中途半端な刺激ではなく、しっかりとした刺激で鍼治療を行い、徹底的に筋肉をほぐしたことです。

当初から鍼を用いて、筋肉をほぐしておりましたが、「かえし」とよばれる副作用面とのバランスを考慮して、極端に強い治療は行なっておりませんでした。

中程度の強さの鍼治療によって、一定の効果はあるものの、症状の緩和という観点からすると前進できていない状況でした。

そこで5回目の治療時に、「かえし」が強く出る可能性があることを説明し、H様の同意が得られたため、強めの鍼治療で、しっかりと首肩背中の筋肉へアプローチを行いました。

この強めの鍼が功を奏して、症状が急激に解消されました。これが転機となり、治療を進めることができました。

 

対症療法はネガティヴな印象をもたれがちですが、根本的な改善のための第一歩として、重要です。

H様におかれましても、H様に適した対症療法がきちんとなされていなかったために、症状がすぐにぶりかえしてしまうなど慢性化してしまっていたのだと考えられます。

症状が解消されたために、姿勢も維持しやすくなり、セルフエクササイズに取り組みやすくなったということもあるでしょう。

 

このようなことから、思い切って強い治療に踏み切って、症状の解消をできたことが、一つ目の要点と考えられます。

誤解のないように付け足しますと、誰でも強い治療をすれば良いというわけではございません。H様にとっては、今回行なった強さが「適した刺激」であったということです。

大切になのは、個々の患者さんにとっての「適した刺激」を行うことです。

2)姿勢意識を徹底していただいた

H様は、お仕事柄首や肩に負担がかかりやすい状況で、仕事中はうつむく姿勢を取らざるを得ず、理想的な姿勢を維持することは症状や身体のコンデションに関係なく困難でした。

そのため仕事以外のシーンにて姿勢に気をつけてお過ごしいただくことをご提案させていただきました。

一日の仕事が約10~12時間、睡眠を6時間とすると、残りの約6時間は移動やプライベートの時間となります。今までは仕事以外のこの約6時間も、常に不良姿勢で首や肩に負担をかけ続けてしまっていました。

この約6時間だけでも、首肩に負担へかかりにくい姿勢を意識して生活していただくことで、今まで16~18時間負担をかけていたものが、10~12時間になります。すると単純計算ではありますが、3〜4割程度の負担が軽減することになります。

仕事中柄、うつむかないということは不可能なわけなので、これならば出来そうということで、H様も納得してくださり、ご協力くださいました。

これによって常にかかっていた負担が軽減していき、症状がすぐに戻ってしまうということの抑制につながりました。

そして、はじめは強く意識しなければできなかった理想的な姿勢が無意識でもできる状態に定着していきました。するといつのまにか、仕事中もうつむかないで良い時間は良い姿勢になっていることに気がついたそうです。

 

生活スタイルは個々で違うのが当然なように、皆一様に生活全てで姿勢を気をつけるべき(姿勢が維持できないから治らない)と決めつけるのではなく、個々の生活を考慮してそれにアジャストさせることが大切だと考えております。

このように、できることからスタートし、まずは仕事以外での負担を徹底的に減らす方針で原因療法を行ないました。H様はとても努力してくださり、改善につながりました。

完治に至れた理由

ひとつ確かなことがあります。

それは、完治できたのはH様の「治したい」という気持ちと努力のおかげということです。

慢性的な症状を改善させるためには、(現時点では)手っ取り早く手間をかけずにやることは困難で、患者さんの努力が少なからず必要となります。

今回の治療は、はじめはなかなかわかりやすい効果を感じることができませんでしたが、そこであきらめず、約2年間という長い期間、しっかりと計画に則り、治療に取り組んでくださいました。

当初はとてもおつらい状態で、大変だったと思います。お伝えしたことを毎日地道に行なってくださりありがとうございました。

約2年間の治療、本当にお疲れ様でした。

 

 

 


執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


20年来の慢性的な首こりと、凝りに伴う頭痛がでゴールに至ったケース|ケースレポート

概要

整体とパーソナルトレーニングにより、一時のひどい状態からは改善したが、頭痛を伴う首こりによって仕事や日常生活に支障をきたしてしまっている。

O様 / 東京都在住 /  52歳 / 男性 / 会社員(管理職)

症状

・慢性的な首こり
・頭痛

状態

20年くらい前から肩こりと首こりで、様々な施術を受けてきた。

様々受けたなかで、肩こりや首こりを専門とする整体と、整体とは別のトレーナーによるパーソナルトレーニングに行き着き、この二つを併せて行うことで、かなり改善した(NRS 10→5)。
※NRS:Numerical Rating Scale 痛みを「0:痛みなし」から「10:これ以上ない痛み」までの11段階に分け、痛みの程度を数字で表す評価方法。

今は、もうほとんど肩こりの自覚はなく、姿勢も改善したという自覚がある。

姿勢はいつも気をつけているし、ゴルフやウォーキングなどの運動、日々のストレッチも行っているため、日常生活は特に問題がないと自覚している。

最も悪かった時から比べると今は5割ほどの状態だが、首こりだけがどうしても改善しない。肩こりは無いが、首がつらい。

首こりがひどい時は頭痛がして、仕事や日常生活に支障が出てしまう。頭痛は主に右の後頭部から頭頂部、両側のコメカミに生じる。

いくつかの病院で脳や首の検査を受けたが、異常は見つからず、おそらく凝りのせいだろうといわれた。整体で、強く押してもらうと気持ちが良いが、奥の芯の様な凝りが解消されず、改善には至らない。

見立て

【頭痛について】

まず、頭痛があるということで、命に影響を及ぼす疾患の可能性を考慮しなければならないが、当院初診一ヶ月前に、医療機関を受診して専門医の診察を受けて特に病気は無いといわれており、この間も症状に変化がないということから、再度の医療機関受診の必要性は低いと判断した。

触診により、首の後ろから横にかけての筋肉(僧帽筋、頭半棘筋、頭板状筋、後頭下筋群、胸鎖乳突筋、肩甲挙筋)や、頭部の筋肉(側頭筋、前頭筋、後頭筋)が緊張していることがわかった。

頭の感覚を担う神経は、首に由来するものがある。大後頭神経、大耳介神経、小後頭神経である。これらは頚椎から出て、首の筋肉を貫いて、頭にむかうため、首こりによって頭痛になることがある。首こりによる大後頭神経痛はその一つである。

また、頭部にも筋肉(前頭筋、側頭筋、後頭筋)があるため、眼、顎、首の酷使によって、これらの頭の筋肉自体が硬くなり、頭痛を招くことがある。このような頭痛が緊張性頭痛である。

本件の場合は、複数の医療機関で検査を受けて、脳や首に異常がないことが確認されており、且つ、症状のある部位の筋緊張が見受けられたため、頭痛は首こりや頭こりによるもの(頭部の筋肉自体が緊張して生じる頭痛と首こりによって大後頭神経が圧迫されて生じる頭痛の混合)である可能性が高いと推測した。

【首こりを招く要因について】

診察時の様子からも、とても姿勢には気をつけていることがうかがえた。

ところが、背スジをピンと伸ばしてはいるが、顎を強く引きすぎてしまっていた。顎を引くと見た目は美しく見えるが、首は力んでしまう。喰いしばりも強くなり、側頭筋が緊張し、頭こりや顔こりにつながってしまう。

真っ直ぐに伸びることを強く意識しているため、見た目は美しいが、力みが強い姿勢といえる。この力みにより、首や頭の筋肉に負担がかかり、凝りが生じてしまっていると考えた。

仕事のストレスが多いことから、ストレスによる凝りもあると思われるが、肉体的な負担がかかっていることも明らかなので、まずは肉体的なものを改善させる方針とした。

治療

慢性的な首こりの解消のために、今まで強いマッサージを受けても解消しきれなかったため、初回から鍼治療を行った。

3D鍼で首の浅層から深層まで筋肉(僧帽筋、半棘筋、板状筋、後頭下筋群、胸鎖乳突筋、肩甲挙筋)をひとつひとつほぐした。特に緊張が強い部分(半棘筋、板状筋)は、3D電気鍼(低周波鍼通電療法)も行った。

頭こりや顔こりは、マッサージで丁寧にほぐした。加えて、首と関連性が高い、背中や腰筋肉、肩甲骨の筋肉をマッサージで入念にほぐし、股関節と肩甲骨柔軟性改善のために、ストレッチを行った。

首こりは、1回の治療で、奥に芯となっているように感じていた慢性的な凝りが解消されたとのこと(NRS 1以下)。これにより、これまで週に2~3回は頭痛があったが、2回目の治療までの1週間で、一度も頭痛が出なかった。

首こりの解消も一時的なものではなく、一週間経過時点でも楽な状態が続いている。

 

首への負担を減らすために、原因療法として、同時に姿勢の改善も行った。

運動を行っているため、個々の筋力は十分だったので、それらを効率よく連動させる使い方の練習をした。姿勢の要点も確認して、首や肩に負担をかけない姿勢を体得していただいた。

一週間頻度で3回の治療で症状がほぼ無くなり、治療の内容を姿勢改善に重きをおくようシフトした。

4回目は2週間後。5回目は4週間後としたが、症状でつらくなることはなく、計5回の治療でゴールに至った。

コメント

本ケースの要点は二つあります。

一つ目は、対症療法。首こりや頭痛の元となっていた首の深層筋の凝りをくまなく解消することです。

O様は、これまでもマッサージ等の手技療法により、体の表面からは凝りのポイントに対処をしていました。実際、つらいところを強いマッサージでほぐしてもらうと、少しは楽になっていました。

ですが、いくら首を集中的にマッサージしても完全にすっきりすることはなく、翌日には戻ってしまう状態でした。一方、鍼治療も受けてはいましたが、翌日には戻ってしまうということに変わりはありませんでした。(鍼治療は、ツボや経絡に対して鍼をうつ東洋医学的な手法だったため、患部には直接的に刺してはいなかったとのことです。)

O様がこれまで受けてきた、凝りをほぐすための治療は、凝りのある皮膚上や、遠隔部から間接的には患部に対して対処をしていましたが、皮下にある「凝り」そのものに対して直接的なアプローチがなされていなかったということが想定されました。

そのため、対処を繰り返しても、凝りの「芯」が解消しきれず残ったままだったので、治療を受けてもすぐにぶり返してしまう状態だったのではないかと考えました。

全てではありませんが、慢性化している深層筋の凝りは、マッサージなどの体外からのアプローチでは解消しきれない場合が少なくありません。マッサージで解消しきれず慢性化してしまっている場合は、直接的にアプローチが可能な鍼が有効です。

鍼治療の技法は様々ありますが、このような筋肉性の場合は、ツボや経絡ではなく、対象となる筋肉に直接刺す手法が功を奏することが少なくありません。

O様の場合は、凝り固まってしまっている筋肉を鍼で直接ほぐしたところ、すぐに慢性的な状態から脱することができました。

O様の状態をひとことで言うと、ほぐし不足により慢性化してしまっていた、といえます。

 

二つめは、原因療法。首や肩に負担をかけない姿勢を理解し、体得することです。

実は、背筋をピンと伸ばして顎を引くという見た目が美しい姿勢と、首や肩に負担をかけない姿勢は、異なるものなのです。

O様は、姿勢を正そうと、とても意識をしてくださっていましたが、それが裏目に出てしまっていました。姿勢を正そうとすることで、かえって首を力ませてしまい、良かれと思って行っていたことが、かえって負担となってしまっていたのです。

O様は、日々運動をしていることから、柔軟性や筋力など基本的な要素が概ね良い状態でした。それ故に、簡単な補強運動と、体の使い方を練習し、姿勢のコツをお伝えすることで、すぐに正しい姿勢を身につけることができました

とはいえ、新しいことを体得するということはたいへんなことです。日常生活にて意識を続けてくださったことで、原因療法がスムーズに進み、早期にゴールに至ったと考えられます。

 

 

 


執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
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肩こりや首こりを慢性化させないでほしい理由と慢性化させないための日常生活の工夫

テレワークで、慣れない環境や仕事に適していない環境で作業をしている方、オンラインでの仕事をはじめたことにより、以前よりもPC作業、タブレットやスマホでの作業が増えている、という方は少なくないでしょう。

 

新たな生活様式を構築してうまく折り合いをつけて生活できている方がいらっしゃる一方で、ストレスと運動不足が相まって、不調を自覚する方も少なくないと思います。

 

仕事や生活様式の変化によって、平時よりも首や肩への負担が増え、肩こりや首こりがつらくなってしまっているという方はいらっしゃるのではないでしょうか。

 

病気であれば、病院で診てもらうのが普通ですが、肩こりや首こりの場合はいかがでしょう。

 

全てではありませんが、多くの場合は、病院では異常がないとされる本態性肩こり(=病気が元ではない肩こり)ということで、おそらくほとんどの方は我慢か放置となってしまっているかもしれません。

 

また、平時であれば、つらくなったらマッサージに行ってほぐしていた方も、今は自粛しているという方もいらっしゃるかもしれません。

 

ほとんどの場合、肩こりや首こりは今すぐに命を脅かすものではありませんし、今すぐ生活に支障をきたすものでもありません。

 

ですが、はじめはたいしたことのなかった肩こりや首こりが慢性化、重症化することで思わぬ不調に陥ってしまうことがあります。

 

それを防ぐためには、軽症の時に、きちんと対処をすることです。

 

本格的な不調に陥る前に対処すれば、治療に費やさなけばならない経済的、時間的な負担軽減、情報収集のための労力軽減にもつながります。

 

何よりも、つらい思いをしなくて済みます。治療を受けなくてもよいのです。

 

ですので、是非この機会に、肩こり・首こりのイメージ、もっといえば筋肉や筋膜の過緊張という状態に対する考え方を改めていただきたいのです。

 

本記事では、主に以下2点をお伝えいたします。

1)肩こりや首こりを慢性化させないでいただきたい理由

2)慢性化・重症化を防ぐための2つのポイント

 

首や肩が凝ったな、重いな、なんだか不調だな・・・と思われた方は是非ご一読いただけましたら幸いです。

 

肩こりや首こりを慢性化させないでいただきたい理由

筋肉や筋膜の過緊張が生じるということ。これ自体は生理的な反応ですので、異常ではありません。

ではどのような状態が異常なのでしょうか。

まずはここからご説明いたします。

 

なにが正常で、なにが異常なのか?

誰でも筋肉を酷使すれば疲労します。

筋肉痛もおこります。

 

たとえば・・・

長い階段を登れば、太ももの筋肉に痛みが出るでしょう。

運動をすれば、翌日以降に筋肉痛が生じるでしょう。

長時間仕事をすれば、疲れるでしょう。

 

筋肉を酷使して疲労や筋肉痛が生じても、普通は、しばらく休めば元に戻ります。

負担を受けて、それに見合った疲労や痛みが一時的に出ることは、生きている限り自然なことです。

これは正常な状態です。

 

一方、いくら体を休めても、マッサージなどを受けても回復しない、あるいはすぐに再びつらくなってしまう場合があります。

また、たいして負担をかけていないにも関わらず、疲労や痛みが生じてしまうこともあります。

 

これは慢性化してしまっている状態です。

つまり、異常な状態といえます。

慢性化した肩こり・首こりは、カラダの自然治癒力が及ばない状態、つまり治療が必要といえます。

 

「治療って、そんな大げさな・・・」

「とにかく、ほぐしたいだけなんだけど」

「とりあえずラクになれればそれでいい」

 

肩こりや首こりで治療なんて・・・と敬遠されることでしょう。

 

でも、それは、おそらくそこまでヒドくない方だからこそです。

 

肩こりが慢性化すると病気のような症状を招く!?

肩こりを軽視してはいけない理由として一般的なのは、病気が元になっている肩こり(症候性肩こり)の可能性があり、命に関わる問題かもしれない、ということです。

 

これに関しては、メディアでも再三取り上げられていますし、ご存知の方も少なくないでしょう。

 

病気が元になっている肩こりがあるのは事実ではありますが、実際のところは、病気ではない肩こり(本態性肩こり)がほとんどなので実感がわかない方も多いと思います。

ですので、本記事では別角度からのお伝えをさせていただきます。

 

肩こりや首こりが慢性化すると、自律神経やメンタルにも影響が出てしまい、日常生活に支障をきたしてしまうことがあります。

 

首や肩の筋肉の過緊張が継続することで、筋肉の痛みや不快感以外の諸症状が生じてしまうのです。

 

凝りに伴う「凝り」以外の症状は、頭痛、めまい、耳鳴り、不眠、倦怠感、胃腸の不具合、精神症状(気分の落ち込み、イライラ、不安感 等) などがしばしば見受けられますが、定型的なものではなく個々によって異なります。

 

一般的に、このような症状があれば、病院で治療を受けるのが普通でしょう。

 

ところが、凝りが元の諸症状であった場合、病院にいって診察を受けても決定的な診断がでない、あるいは原因がわからないということになります。

 

そして、凝りに伴う諸症状は、うつ病やパニック障害等の精神の不調や、自律神経失調症と呼ばれる状態と類似していることから、症状の対処として、精神安定剤や抗うつ剤などを処方されるということが少なくありません。

誤解しないで頂きたいこと。強調したいこと。

二つあります。

一つ目は、病院受診についてです。

凝りが元になった不調である可能性があったとしても、病院に行っても意味がないということではありません。まずは必ず病院に行きましょう。

病院に行き、診断名がつく病気が元で生じている症状なのかどうかをはじめに確認することが何よりも大切なのです。

安易に自己判断せず、医師の診察を受けるようにしてください。

病気ではないということが確認されて、はじめて凝りによる不調ではないかということになります。

二つ目は、服薬についてです。

薬を飲まないで健康であることに越したことはありませんし、生命を維持するうえに必要不可欠な場合を除き、極力長期的な服用は避けるべきだと考えておりますが、本記事は服薬を否定し、鍼灸マッサージ治療を推奨するということを目的としていません。

たとえば、侵害可塑性疼痛(nociplastic pain)のような慢性疼痛であれば、普通の消炎鎮痛剤(たとえばロキソンなどのNSAIDs)よりも、抗うつ剤の方が効果的であるといわれています。

この場合であれば、精神症状改善のためではなく、痛みの治療のために抗うつ剤を利用することになります。

痛みが痛みを呼ぶという観点からも、とにかく症状の緩和(鎮痛)を行うということは治療において意味のあることです。

 

ここでお伝えしたいのは、

  • 一般的に病気ではないとされる「肩こり」や「首こり」が元になり、様々な不調が引き起こされることがある
  • 肩こり首こりがひどくなり、日常生活に支障をきたし、社会生活が困難になってしまうことがある

この二つです。

 

何よりも、こういった実態があることを知っていただきたいのです。

 

病気ではないからといって、肩こりや首こりを軽視しないでいただきたいと切に願います。

 

もし周囲に「肩こりがつらい」とお悩み方がいらっしゃいましたら、「気のせいだ」「気持ちの持ちようだ」「病気ではないでしょ」と思わず、是非親身になってお考えいただけたらと思います。

 

お悩みの方は少なくありません

首や肩の凝りが元で、様々な不調が生じてしまう状態を「頚性神経筋症候群」や「首こり病」と呼ぶことがあります。

 

「症候群」や「病」とつきますが、これらは医学的に正式な病名ではありません。ですが、実態としてこのような症状で苦しんでいる方がいらっしゃるということを知っていただきたいのです。

なかには、凝りとそれに伴う諸症状により、仕事が手につかなくなり、休職を余儀なくされ、社会生活が送れなくなってしまっているという方もいらっしゃいます。

 

つらい。身動きがとれない。自覚的には異常事態なのに、医学的には病気ではないとされます。(現代医学が悪いわけではなく、現時点の医学ではカバーしていない範疇であるというだけです)

 

ある病院で目立った異常は無いとされたとしても、症状があって自覚的には具合が悪いわけなので、複数の病院で検査を受けます。

複数の病院で同様の結果を受け、病院ではなく、治療院や施術所に足を運ぶようになるというという方が少なくありません。

 

複数の病院受診、複数の治療院・施術所へ通院し、施術を受けるということは、多大な労力と時間、費用がかかります。

医療者・施術者に対して、自分の状態を説明すること、これ自体もとてもたいへんなことです。

 

首や肩こりが慢性化、重症化すると、社会生活に支障をきたしてしまうことがあるのです。

 

ですので、肩こりや首こりを慢性化させないでいただきたいのです。

 

当院にいらっしゃる、重度の首こり・肩こりを患った方々を治療するなかで切に感じること。

それは、最も重要なのは、頚性神経筋症候群や首こり病といわれるような、慢性的かつ病的な凝りの状態にならないようにするということ。

 

つまり予防です。

 

慢性化・重症化を防ぐための2つのポイント

肩こり・首こりの慢性化や重症化の予防において大切なのは以下2点です。

  1. 首や肩の疲労を蓄積させないこと
  2. 首や肩への負担を減らすこと

 

当然のことだと思われるかもしれませんが、生活のなかでいざ実行しようとすると、簡単ではありません。

そこで、肩こりラボでの実際の治療でも取り入れている肩こりラボが推奨する方法とポイントをご紹介させていただきます。

 

【1】首や肩の疲労を蓄積させないこと → こまめな解消

疲労解消法は様々ありますが、日頃デスクワークが多い方におきまして、特にオススメしたいのは、カラダを動かすことです。

 

ただ、闇雲に動かせば良いというわけではありません。

日頃、ジムでのトレーニングや、スポーツをされている方でも首肩こりにお悩みの方は少なくないように、「体を動かす」ことにおいては要点があります。

 

ポイントは3つです。

  1. つらい箇所(首や肩)のストレッチはやりすぎないこと。※傷めてしまうことがあるため
  2. 肩甲骨や体幹を動かすこと。※痛みを伴わなければ静的よりも動的ストレッチの方がオススメ
  3. 体の前面をほぐして、後ろに反れるようにすること。 ※特に背中と股関節が後ろに反れるようにする

 

具体的に「何をやるか」におきましては、既に何らかの対処を行っていて自分に適しているものがあるようでしたら是非それを継続し、その際に上記のポイントを意識してみてください。

 

もし効果的なストレッチ方法をお探しであれば、こちらのストレッチ(YouTubeにとびます)をお試しいただけたらと思います。

 

こちらのストレッチは、肩こりラボの治療でも、実際に行うことがある7つのストレッチをご紹介しています。

※動かすと痛い場合は、痛みや違和感が出ないもののみ行ってください。特に背骨や肩関節の問題のある方(ヘルニア、四十肩・五十肩、反復性肩関節脱臼 等)の方は決して無理のないようにしてください。

 

「肩こりはあるが、日時生活に支障あるわけではない」という方におきまして、症状解消と慢性化予防として、お役にたてることでしょう。多くの方は、このストレッチで、十分な緩和・メンテナンスになります。

 

【2】首や肩への負担を減らすこと → 根本改善に重要

現代の生活においてPCやスマホを使わないということは不可能なように、首や肩の負担を完全に無くすということは不可能です。

 

でも日常生活の中でちょっとした工夫をすることで、首や肩の負担を軽減させることはできます。

塵も積もれば山となるように、ちょっとした工夫でも、積み重ねれば大きな違いになります。

 

本稿では首や肩の負担を減らすためのスマートフォンとパソコンの操作方法をご紹介いたします。

 

実際の患者さんに行っていただき成果をあげている方法です。

 

PC操作の工夫

厚労省の VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン では、休憩の頻度や環境について等、心身の負担を減らすための指針が記載されています。

 

たとえば休憩ですが、ガイドラインによると、一連続作業時間は1時間を超えないようにして、連続作業と連続作業の間に10-15分の作業休止時間を設け、かつ一連続作業時間内において1-2回程度の小休止を設けることとされています。

 

これらがきちんと実行できれば、おそらく疲労は軽減されることでしょう。ですが、理想を現実は異なります。

ガイドラインに記載されていることをすべて実行することは実際は難しい・・・・という方は少なくないでしょう。

 

そこで、様々改善は必要だが、実際のはなかなか難しいという現状をふまえて、実践的な首や肩の負担を減らすための方法をご紹介します。

 

それは、PCのディスプレイの高さ調整です。

 

みなさんは、PCのディスプレイはどのような高さの設定するのが望ましいか、ご存知でしょうか。

 

上述した”厚労省の VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン”によると、「ディスプレイは、その画面の上端が眼の高さとほぼ同じか、やや下になる高さにすることが望ましい。」とされています。

 

姿勢を正した姿勢で、ディスプレイの位置が下にありすぎると、背中は伸ばしていても、頭がうつむく形になってしまうと首には負担がかかってしまいます。

一方、ディスプレイの位置が高く、目線を上に向けすぎると眼精疲労の元になりますし、首を反らせて見上げる状態になってしまうと首にも負担になってしまうので位置が高すぎるのも要注意です。

 

体感として、適切な位置は、ディスプレイの大きさによっても異なりますので、厳格に画面の上端が眼の高さとほぼ同じか、やや下になる高さにするのではなく、これを目安に、ご自身の首肩や眼の疲労感の感覚とみながら微調整していただけたらと思います。

 

ちょうどよい高さは個々によって異なりますので、中には、画面中の作業スペースが目線にあるのがちょうど良いという方もいらっしゃるかもしれません。

ですので、当院の患者さんには、眼の疲労感と首の緊張の程度みながら、なるべく下を向かないで無理なく作業ができる位置に調整していただくようにしています。

 

当記事をお読みの方も、ガイドラインを参考に、是非微調整をしてみていただけたらと思います。

 

 

さて、デスクトップPCは、ほとんどの場合、モニターの高さ調整が可能です。

調整の幅が少なくてちょうど良いところにできない場合は、モニターの下に台を置いたり、椅子の高さを調整してみましょう。

 

一方、ノートPCをメインに作業をする方モニターの高さ調整が困難に思えます。

「自分は普段ノートPCだから液晶画面を高くするのはムリ!」とあきらめないでくださいね。ノートPCの方が下を向く程度がおおきくなりますので、日頃ノートPCを使用するほど、トライしていただきたいのです。

 

ノートPCの方を使う方にお願いしているのは、外付けのキーボード、あるいは外付けモニターをご用意していただくことです。

ブランドに拘らなければ、安価なものが多数販売されています。モニターも、モバイルモニターとして持ち運び可能なものがあります。

 

外付けキーボードを使う場合は、ノートPCを台に載せて、画面を高くあげるようにしましょう。

画面の高さは、上記デスクトップの時と同様、画面内の頻繁に使用する作業領域が眼の高さとほぼ同じか、やや下になるようにします。

 

外付けのキーボードか、モニターどちらが良いのか、それぞれの作業環境によりますので、自らが実際に使える方をお選びいただけたらと思います。

ノートPCの場合、オフィスや出先など異なった環境で作業することもあると思いますので、場合によっては両方用意するのもありかと思います。

 

PC作業におきましては、極力下を向かないで作業できるよう環境を整えるということがポイントです。マッサージにいくのを一回我慢したとしても、中長期的には体には首や肩には良い影響がありますので、是非購入をご検討いただきたいと思います。

 

スマホ操作の工夫

まず一番のポイントはスマートフォンを保持する高さです。スマートフォンの操作で一番の問題は下を向き続けることにあります。

ですので、なるべく画面を目線の高さに持ち上げて保持し、操作をしてほしいのです。

 

例えば、スマートフォンを片手で持ち、持っている手の肘の下にもう一方の手を入れて支えると、目線の高さに保持することの負担は軽減できます。

電車での移動中など座位であれば、膝の上に荷物やクッションを置き、肘を荷物に乗せてスマートフォンを保持すると負担を軽減することができます。

 

次のポイントは目と画面の距離です。もちろん「目」に対しては近くない方がよいのですが、あくまでも姿勢の改善という点に限りますと、画面は遠いよりは近いほうがよいです。

 

なぜかというと、目線の高さで、画面を顔から遠くに離して操作するというのは、実際のところ困難です。

スマホを目線の高さに保ち、顔から話して操作しようとすると、テコの原理でスマホがとても重く感じますし、さらには上肢の重みも加わり、このような状態で操作は困難であることに気がつきます。

 

すると数分も経たずに、懐に端末を保持することになり、下を向く姿勢となってしまいます。首や肩の負担を減らすためには下をなるべく向かないようにすることが大切です。

眼の負担と首肩の負担を考慮しますと、スマホを長時間操作するということを見直し、別の方法に代用するか、使用時間を自己管理するのが良いかもしれませんね。

 

スマートフォンの機種選びも重要です。近年では液晶大画面化の傾向にありますが、視覚的に見やすい反面、片手で操作ができないことや重量があることによって丸まった姿勢で操作せざるを得ない状況にもなっています。

肩こりにお悩みの方は、軽量で、かつ片手で操作できる端末を選ぶことが望ましいといえます。

 

なお、この「首や肩に負担のかかりにくいスマートフォンの持ち方」は、読書や書類閲覧の際にも共通していえることですので是非生活に取り入れていただけましたらと思います。

 

治療を検討する目安

今現在、さほどひどくない方は、上述した「重症化予防のポイント」にご留意して生活いただき、症状がつらくない状態を維持できるようであれば治療は必要ありません。

日常生活のなかで、首や肩の負担を減らすことを意識して生活をしてください。

 

一方、もし既に首肩こりがひどくつらい状態であれば、改善のために、適切な対処が必要です。

まずは、ご自身にとって、治療が必要か不要か、それを判断していただきたいのです。

 

首肩がガチガチでひどくつらい方で、治療が必要かどうかは、まず、セルフケア動画で紹介したストレッチ(YouTubeにとびます)ができるかどうか? そして、楽になる実感があるかどうか? これで見極めてください。

 

今現在、ひどくつらい状態だとしても、このセルフケアを日常的に行なうことで調子が良くなれば治療の必要はございません。

 

つまり、動画でご紹介しているストレッチが効くなら、あなたの肩こりや首こりは治療の必要がない状態いうことです。

このストレッチで効果が感じられない場合は、肩こり・首こりの治療を受けることをご検討いただけたらと思います。

 

治療を検討するにあたっては、治療院、マッサージ、整体に行く前に、まずは医療機関の受診をするようにしてください

 

医療機関を受診し、病気が元で凝りが生じているようであれば、診断が出て、病院で治療が行われます。

診断が出ず、病院で治療が必要な状態でない場合は、治療院の受診をご検討ください。

 

肩こり・首こりの根本的な改善を目指すための治療院を探すには、こちらの記事【治療院の選び方】を参考にしていただけたらと思います。

 

 

【 参考 】

Pain Relief ー痛みと鎮痛の基礎知識

Recently introduced definition of “nociplastic pain” by the International Association for the Study of Pain needs better formulation

Wikipedia(頚性神経筋症候群)

厚生労働省労働基準局/VDT作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


頭痛を伴う慢性的な肩こり・首こりに20年以上お悩みのケース|ケースレポート

概要

幼少期から首こり・肩こり、凝りに伴う頭痛に悩んでいて、最近では吐き気を伴うほど頭痛がひどくなってきてしまっている。

H様/ 東京都在住 / 35歳 /女性 / 会社員

症状

肩こり・首こり
首が前に出ている(ストレートネック)
慢性的に上半身の疲労感がある

状態

小学校高学年の頃から20年以上慢性的な肩こりと首こりに悩まされている。

高校生になってからは上半身の疲労感が抜けず、毎朝起きるのがつらい。
学生の頃に鍼治療を受けたことがあるが、楽になるのは一時的だった。

以前から月に1~2回ほど、こめかみの頭痛や、吐き気がすることがある。

ここ数年では、吐き気を催すほどひどい頭痛になってしまうことがある。脳神経外科を受診したところ緊張性頭痛だろうといわれ、痛み止めの処方と凝りをほぐすことを推奨された。

整形外科で、こりがつらい部分に筋膜リリース注射(ハイドロリリース)を受けて少しほぐれた感覚はあったが、翌日には凝りでつらい状態に戻ってしまった。その後何度か受けたが、良くても2〜3日ほどしか効果が持続しなかった。

社会人になってからはたまにヨガやピラティスを受けに行っている。背中の筋肉を使うことで首肩こりが楽になる感覚がある。

見立て

吐き気を催すほどの頭痛が生じる状態だが、脳神経外科を受診して命に関わる状態ではないことが確認されており、首こり・肩こりにおいても整形外科を受診して病気が元ではないことが確認されている。また症状が急激に発症したものではなく、長期的にみて安定しているため、我々の行う治療の適応範疇であると判断した。

触診により、首の筋肉(頭半棘筋、頭板状筋、肩甲挙筋、胸鎖乳突筋)や、肩の筋肉(僧帽筋)に強い緊張がみられた。首肩こりの症状を強く感じる部分と一致しているため、筋緊張が現在の症状を引き起こしている可能性が高い。

頭痛は、緊張性頭痛であると医療機関にて言われており、首肩こりの症状の程度に比例して起こっている。また、本人の自覚として、鍼、マッサージ、運動など血流改善により緩和されることから、首肩、頭の緊張をほぐすことが必要だと考えられる。

全身的に柔軟性に優れているが、脊柱起立筋、腹横筋、大殿筋など、姿勢を保持するための筋力や筋持久力が低く、姿勢が保持できずに背中が丸まりやすくなっていた。

筋力が低いために体幹で姿勢を保つことが困難で、頭の重みを首の筋肉で支えてしまっていることが見受けられた。

このことから、鍼や筋膜リリースなどの対症療法を行うと一時的につらさから解放されるが、首肩に負担がかかりやすい状況は変わらないので、すぐに再発してしまっていると考えられる。

対症療法と並行して筋力トレーニングを行い、姿勢保持に適した筋肉を長時間使えるようにすることで、今までの慢性的な状態から脱却できると考えた。

治療

初期治療

症状の解消に重きを置く治療フェイズ。頻度は5日~7日に一度。

自覚症状の強い部分である首や肩を中心に、全身的に鍼やマッサージを行い入念にほぐした。治療開始してから間もないうちは直後には少しは楽になるが、完全に解消されることはなく、今まで同様一週間ほど経つとこりが元に戻ってしまう状況だった。

当初は細い鍼(0.14mm)を使用していたが、症状の解消進度が緩やかだったため、段階的にやや太めに鍼(0.2mm)を使用するようにした。

また、角度や深さなどを調整して、こりのある部分にピンポイントで刺激を入れることに注力した。特に、仰向けで行なった首の鍼により、最もつらかった首のこりが解消し、首こりの解消に伴い頭の緊張感や頭重感も緩和した。これがきっかけとなり慢性化していた症状の改善につながった。

0.2mmの鍼で首や肩に鍼治療を行うのは、一般例と比べると強めの刺激ではあるが、H様にとっては適切な刺激となり、徐々に症状は下がっていき、105分の治療を6回行い、自覚症状が約8割改善された。NRSが10→2。

※NRS:Numerical Rating Scale。痛みを「0:痛みなし」から「10:これ以上ない痛み」までの11段階に分け、痛みの程度を数字で表す評価方法。

中期治療

原因療法に重きを置く治療フェイズ。頻度は10日〜14日に一度。

正しい姿勢を長時間キープできるように、脊柱起立筋、腹横筋、大殿筋の筋力強化を目的としてトレーニングに重きを置いた治療に移行した。(治療内容の主な配分は、30分の筋力トレーニングと75分の鍼マッサージ治療)

中期治療に移行してはじめのうちは、治療後一週間が経過すると症状が出やすい状態であったが、筋力が向上するにつれて症状を低い水準に維持できるようになり、二週間間隔にしてもNRS 5 以上になることはなくなった。夕方には多少こりが出るが、翌朝にはリセットされるようになった。

筋力トレーニングの内容を適宜アップデートしながら、セルフケアとして自宅でも行なっていただいた。

6回の治療で、H様の自覚として日々の生活で問題を感じなくなり、客観的にも筋力向上と姿勢改善が見受けられたため、治療からの離脱のために後期治療に移行することとした。

後期治療

セルフケアによる自己管理を体得する治療フェイズ。頻度は3週〜8週に一度。

症状を低い水準にコントロールしつつ、筋力強化を継続、3週、4週と徐々に治療の間隔をあけていくようにした。

その間、仕事の忙しさやストレスによって一過性に症状が出ることがあったが、セルフケアでの対処ができるようになってきた。

後期治療4回で、8週あけても悩ましくない状態をキープできるようになり、日常生活に支障をきたさなくなったため、ゴールとなった。

ゴール後も、症状や疲労解消のためのセルフケアだけでなく、筋力維持のための筋力トレーニングも生活習慣にしていただいた。

ゴールしてから6ヶ月後にチェックとメンテナンスを行なったところ、セルフケアが習慣になり、良好な状態を維持できていたため、卒業となった。

治療開始から約1年、計16回の治療でゴールになり、17回の治療で卒業に至った。

コメント

H様と同じように、様々な施術を受けても慢性的な症状が改善しないという方は少なくありません。本件において、転機となったのは、仰向けで行なった首の鍼治療でした。

仰向けで鍼をうつことで、ピンポイントで患部にアプローチをすることができ、慢性化してしまったいた症状が解消され、改善のための良いサイクルをつくることができました。

適切な治療内容は個々によって異なります。一般的にはあまり行わない手法、一般的には強めの刺激、だとしてもH様にとっては「適切な治療」になりました。

肩こりや首こりの治療は、あくまでも自覚症状を改善させることなので、患者さんからの訴えを治療に反映することがとても重要となります。本件は、H様が的確に感想をおっしゃってくださったおかげで、治療者との相互理解が深まり、治療に活かすことがきました。

患者さんにとって適している治療内容(方法や刺激量)や治療計画は個々によって異なるため、治療はそれにフィットさせていくことがとても重要です。

中期治療では、筋力トレーニングを正しくかつ積極的に行えるかどうかが進捗を左右しますが、H様はセルフケアをとても頑張ってくださいました。その甲斐あって、停滞しやすい中期治療をスムーズに進めることができました。計画通りにゴールに至れたのはH 様の頑張りの賜物です。ありがとうございました。

 

 

 


執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


肩こり・肩甲骨こりが慢性化して自律神経の乱れやイライラなどの精神症状をきたしたケース|ケースレポート

概要

肩こりと肩甲骨こりが、一時しのぎを続けるうちに慢性化し、日常生活に支障が出るほどになってしまった。

K様 / 東京都在住 / 38歳 / 男性 / システムエンジニア

症状

・重度の肩こり、肩甲骨こり
・怒りっぽい、イライラなどの精神症状

状態

学生時代から首や肩の凝りを自覚していたが、就職して、デスクワークの時間が長くなり、ひどくなってきた。つらくなると湿布や貼付型磁気治療器を貼り、どうしてもつらくなるとマッサージにいってほぐすということを続けてきた。(貼付型磁気治療器をと使うとラクにはなる)

マッサージの頻度は、はじめは月に1回程だったが、次第に間隔が短くなってきて、数年前からは週に1〜2回は行くようになってしまった。というよりも正確には、週に1〜2回通わないと仕事に集中できない状態だった。以前は、マッサージに行ってほぐしてもらうとしばらくは楽になっていたが、ここのところは、いくら揉んでも、押されているその時に気持ちが良いだけで、楽にならならないし改善もしない。

病院で診てもらったところ、特に異常はなく、ストレートネックであることを指摘されるだけで、解決法が見出されなかった。痛み止めと湿布を処方されて様子をみるように言われた。

効果的であるといわれている鍼、注射、ハイドロリリースなど様々な治療を受けても、凝りが緩和されるのはその日だけで、翌日には戻ってしまう。治療を受けてもすぐに戻ってしまうため、最近では、もう通うのをやめてしまった。

最近特につらいのは肩甲骨の内側の凝りで、つらくて気になってしまい仕事で座っていられないため、湿布やピップエレキバンを毎日貼らざるを得ず、時間があればテニスボールや柱などで肩甲骨の内側をゴリゴリするのが癖になってしまっている。

以前は、デスクワークの時間が長くなるにつれて凝りがつらくなっていたが、今は常に凝りがある状態。凝りが気になって寝付けないこともあるし、寝起きからひどく凝っていることもある。常時気になってしまうため、仕事に集中できず、ミスを繰り返してしまっている。ちょっとのことですぐにカッとなってしまい、家族にも申し訳ない。申し訳ないと思いつつも感情をおさえられない。

この先、一生このままなのか、と思うと気が滅入りそうになる。日常生活に支障をきたしてしまっていることから、治るものなら治したいと思って治療にきた。

見立て

まず、医療機関で異常がないことが確認されており、他の疾患が想定される症状ならびに所見が見受けられなかったため、病気が元になっている「肩こり・肩甲骨こり」ではないということを前提とした。

触診にて調べたところ、自覚症状と一致する部位、特に僧帽筋に非常に強い緊張が見受けられた。

また、関節可動域と筋力を調べたところ、背骨(胸椎)と股関節の可動性が低いこと、腹横筋と大殿筋が極めて弱っていることが判明した。特に大殿筋においては、自力で収縮させることが困難で、動かす感覚が全くない状態。

一方で、学生の頃にラグビーをやっていたということもあり、胸や上肢の筋肉は発達している。体を支える土台となる体幹下部の筋肉が弱ってしまっているために、効率良く姿勢をキープすることができない状態となってしまっていた。

K様の場合は、体幹で姿勢をキープすることができず、デスクワーク時に背中が丸まってしまい、負担が首、肩、肩甲骨付近に集中し、凝りが生じていると考えられた。

首や肩に負担をかけている原因への対処をせず、凝りのある箇所に限局したマッサージを常習的に受けていたことから、刺激に慣れてしまい、慢性化してしまったと推測できる。

また、慢性的な凝りによるつらさがストレスになり、イライラや情緒不安定等の精神症状につながってしまっていると考えられる。常時自覚する煩わしい症状、そして症状がつらいというということに加えて解決策の見出せないというストレスが、自律神経を乱し、さらなる凝りを招くという負のスパイラルに陥ってしまっていると考えられた。

症状が慢性化しており、自己回復が困難なため、治療が必要な状態と判断した。きちんと症状を解消することだけでなく、日常生活動作の改善含めて、原因療法が重要になると考えられる。

治療

症状のつらさからくるストレスや精神症状が、さらなる凝りを招く負のスパイラルを形成していたため、まずは慢性的な症状をきちんと解消することからスタートした。3D鍼にて首や肩の筋肉一つ一つにアプローチして、丁寧に凝りをほぐした。特に肩甲骨こりの症状を招いている僧帽筋中部と下部には積極的に3D鍼でアプローチをした。

また、同時並行して、運動療法にて、根本原因である体幹のコンディション改善を行った。具体的には、背中(胸椎)と股関節の可動性改善、体幹の筋力強化。特に、最も筋力低下が著しかった大殿筋の強化に注力した。

慢性的な症状の緩和のために、はじめは凝りを詳細にほぐすことを重きを置いた治療を行なった。初回は体の反応をみるために、3D鍼を弱めにうち、IDマッサージをメインで行ったところ、あまり効果を感じられなかった。

マッサージで効果が得られにくいということから、2回目にやや強めの3D鍼を行ったところ、症状が緩和[ NRS10→8 ]した。これまで施術を受けても全く楽にならなかったため、症状は依然としてあるが、わずかながらも変化がでたということに希望を感じたとのこと。
※NRS:Numerical Rating Scale。痛みを「0:痛みなし」から「10:これ以上ない痛み」までの11段階に分け、痛みの程度を数字で表す評価方法。

3回目の治療も3D鍼で僧帽筋を集中的にアプローチしたところ、症状がおおきく改善[ NRS8→2 ]し、日常生活に支障をきたすひどい症状が緩和した。

4回目以降は、症状の緩和のための鍼マッサージと、原因解消のための運動療法を並行して行った。週一回の治療8回の時点で、悩ましい慢性的な症状は解消された[ NRS0〜1 ]。

症状のコントロールができるようになったので、9回目以降は、治療の頻度を2週間とし、セルフケアでのストレッチ(主に大腿部と背中)と筋力トレーニング(主に大殿筋と腹横筋)を積極的に行い、デスクワーク時の姿勢の改善と定着化を図った。2週間頻度の治療を4回行ない、症状の安定と筋力や関節可動域の改善が見受けられた。

13回目の治療を4週間隔としたところ問題なく過ごすことができ、一度も湿布や貼付型磁気治療器を使用することがなかった。仕事が忙しくなると、夕方に肩や肩甲骨の内側が多少重くなるが、セルフケア体操をして就寝すればリセットでき、翌日には持ち越さないようになった。

14回目、15回目は8週間隔としたが、問題なく過ごせた。日常生活において凝りに悩むということがなくなり、仕事の生産性があがり、休日も家族と楽しく過ごすことができるようなった。人柄も明るくなり、元気になった。

常時ストックしてあった湿布や貼付型磁気治療器にかかる費用面の負担がなくなり経済的にもプラスとなった。疲れることをして、然るべき疲労が生じることは正常である。凝りに悩むことがなくなり、セルフケアで自己管理ができるようになったため、計15回、約9ヶ月間の治療でゴールに至った。

コメント

本件は、一時をしのぐ対処を続けるうちに慢性化、重症化してしまった典型例といえます。はじめは効果があったマッサージも、続けるうちに効果が弱くなり、やがて全く効かなくなってしまう、という方は少なくありません。

痛みが痛みを呼ぶことがあるように、凝りが凝りを呼ぶこともあります。したがって、凝りをほぐすことは、とても大切なことではありますが、それだけでは同じことの繰り返しとなり、やがてひどくなっていってしまいます。肩こり・首こり・肩甲骨の改善のためには、「なぜ凝りが生じるのか?」を分析して、対症療法と同時に原因療法の行うことが大切です。

K様の場合、臀部や腹部といった下部体幹の筋力が低くなってしまっていたために、首肩・肩甲骨周囲の筋肉に過剰な負担がかかってしまっていました。そのため、一見、首や肩のこりと関係がなさそうな、お尻やお腹のトレーニングを行うことで負担が減り、こりが生じにくくなっていきました。

とても慢性的な状態で日常生活にも支障をきたしてしまっていましたが、セルフケアもきちんと行っていただいたことで早期に体が変わり、スムーズにゴールに至りました。つらくても諦めずに、本当によく頑張ってくださいました。

 

 


執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


肩こりと鎖骨の関係性|鎖骨をつまむだけで肩こりが解消するって本当!?

鎖骨と肩こりの関係性を詳しく解説していきます

鎖骨をつまむと肩こりに効くって聞いたのですが、本当ですか?

はい。結論からいいますと本当です。正確には鎖骨そのものではなく鎖骨周辺をつまんだりマッサージが効果的です。

鎖骨へのアプローチで期待できる効果は2つあります。1つ目は、今のつらい症状を緩和する効果。2つ目は、姿勢を改善して首や肩の負担を減らす効果。とにかくつらいから何とかしてほしい場合の対症療法だけでなく姿勢の改善といった原因療法にも有効ですので首や肩の不調と鎖骨へのアプローチは切っても切れない関係にあります。ですから当院の肩こり治療でも鎖骨へのアプローチは基本的な施術として行っています。

鎖骨は見た目ではなく、その機能性にも注目してほしい!

きっと多くの方が、毎朝・毎晩鏡で自身の鎖骨を目にしているはずです。ですが、鎖骨の見た目を意識することはあっても、意識して動かしている方はほとんどいらっしゃらないと思います。

鎖骨ってどんな骨?

人間の骨の中で唯一水平に位置しています。ゆるいS字カーブをもつ棒状の形をした長骨です。人間が腕を自由に動かせるのは鎖骨のおかげです。四足歩行の動物には鎖骨はありません。人が体を動かす際にとても重要な骨ですが、人体の骨の中でもっとも折れやすい骨でもあります。そんな鎖骨を「肩こり」の面から掘り下げていきます。この記事を読んで、鎖骨を意識して動かしたくなってもらえたら幸いです。

なんで鎖骨をつまむと肩が楽になるの?

鎖骨ほぐしは肩こりへの対症療法としてなぜ効果的なのか?その理由を解剖学に則り解説していきます。

肩こりと鎖骨ほぐしを繋ぐカギは「僧帽筋」

僧帽筋(そうぼうきん、英語: trapezius)は、肩こりにお悩みの方でしたら、きっと一度くらいは耳にしたりテレビ番組でご覧になられたことがあると思います。

僧帽筋とは頭の後ろの頚椎の中央からはじまり、首・肩・背中を広範囲に覆っている筋肉です。

僧帽筋の場所

 

 

※オレンジ色部分が僧帽筋です

この僧帽筋の過緊張や筋膜異常が、肩こりのつらい症状を引き起こしている大きな要因です。

僧帽筋は背中にありますが「鎖骨」と繋がっています

首や肩のつらい症状は背中側です。僧帽筋も背中の上半分近くを覆っている筋肉ですが、なんと鎖骨と繋がっているのです。

僧帽筋と鎖骨

 

 

鎖骨と僧帽筋は繋がっています

鎖骨は脂肪がつくと見えにくくなる、痩せている人は鎖骨が綺麗といったイメージをきっとお持ちだと思います。ですから筋肉のイメージがない方がほとんどでしょう。

実際は上の画像のように僧帽筋とくっついているのです。

つまり鎖骨をつまむと僧帽筋に影響します。

僧帽筋への影響を考えて上手に鎖骨をつまむ・鎖骨周辺をほぐすことで、肩こりの症状に効果がでるのです。これは直接背中側からアプローチするよりも鎖骨からアプローチしたほうが効果的なケースがあり、鎖骨側だけが全てではございません。

もう少し具体的に詳しく説明します。

僧帽筋は、首・肩・背中といった広いエリアを覆う大きな筋肉です。僧帽筋はひとつではなく、解剖学的には上部、中部、下部の3つのパートにわかれていて、それぞれ異なった役割があります。鎖骨と関係が深いのは上部の僧帽筋です。

僧帽筋の場所

 

 

つらいのは上部の僧帽筋

一般的につらい肩こりは首から肩の関節に向かってのラインです。このラインがまさに僧帽筋の上部にあたります。僧帽筋の上部は、後頭部や頚椎の中央部分からはじまり、鎖骨(正確には、鎖骨の外側1/3の後縁)に至ります。

ストレッチでほぐれる理由・ほぐれない理由

僧帽筋と鎖骨の関係を語る上で、なぜ、ストレッチをすると凝りがほぐれるのか?この理由を簡単に知っておく必要があります。

筋肉は骨とくっついています。くっついている箇所を「付着部」といいます。付着部には、筋膜や腱といった組織があり、筋肉と骨を結びつけています。この付着部には刺激を感知する受容体や神経といった様々なセンサーが密に分布しています。みなさんにとってお馴染みのストレッチですがそのセンサーを上手く利用するのがストレッチの本質です。

ストレッチは可動域改善の代表的手法。ひとことでストレッチといっても様々で、反動をつけずにゆっくりと筋肉を引き伸ばす「静的ストレッチ」の場合、付着部付近に存在するゴルジ腱器官というセンサーに刺激を与え、その反射で筋肉の弛みを誘導して可動域を広げます。

おそらく多くの方がストレッチを物理的な手段・自分でできる・誰でもできる簡単な方法と思われているはずです。

本当に効果のあるストレッチ・プロが人に対して行うストレッチというのは、神経系に働きかけて筋緊張をコントロールするのです。

軽いコリでしたら物理的なほぐしで十分ですが、ひどい緊張状態にある強張った筋肉に対しては物理的なほぐしが通用しないことが多いのです。

緊張が生じている部分を物理的にほぐすだけでなく、解剖学的な筋肉の走行と付着部、そして筋肉を支配する神経の機能を意識した対処が必要なのです。

僧帽筋上部の過緊張を解く鍵が鎖骨

僧帽筋上部の過緊張を改善したい場合、ダイレクトに問題の筋繊維や筋膜へのアプローチはもちろん必要ですが、僧帽筋の付着部である鎖骨へのアプローチが効果を発揮します。僧帽筋の付着部は鎖骨だけではありません。後頭部や頚椎の際にもございます。ですので首や頭へのアプローチは普通に行われています。首や頭と同じように鎖骨が大切なのです。

鎖骨をつまむと僧帽筋は緩む・肩こり解消に効果的というのは正確には鎖骨だけではなく後頭部や頚椎の際といった僧帽筋の付着部へのアプローチが肩こり症状に効果的ということなのです。

首こりと鎖骨ほぐしの関連性

肩こりだけでなく首こりに鎖骨ほぐしの効果はあるの?という方もいらっしゃると思います。もちろん効果あります。

実は鎖骨には、僧帽筋以外にも首や肩の凝りに関係のある筋肉が付着します。

胸鎖乳突筋です。きょうさにゅうとつきんと読みます。

胸鎖乳突筋は、首の横から前に走行する筋肉です。名前の由来は、胸骨・鎖骨から側頭骨の乳様突起を結んでいることからです。いわゆるつらい首筋の痛み・凝りは、まさにこの胸鎖乳突筋のトラブルであることが多いです。

僧帽筋と鎖骨

 

 

胸と鎖骨と頭を繋ぐ胸鎖乳突筋

胸鎖乳突筋は、下を向く時、顎を引く時、首をかしげる時、歯を食いしばる時にはたらく筋肉です。猫背で丸まってパソコン作業をしている時や、下を向いてスマホ操作をしている時は、自覚はなくとも胸鎖乳突筋は過緊張状態となってしまっていることが少なくありません。

凝りだけでなく息苦しさや喉の違和感といった症状を引き起こす胸鎖乳突筋の過緊張

一般的な首こりは、首の後面に症状が出ますが、中には首の横や前につらさを自覚される方がいらっしゃいます。このようなタイプの首こりの方は、凝りだけでなく、息苦しさや喉の違和感などを自覚する傾向があり、お悩み度が高い方が多いです。このような一見イレギュラーパターンと思われる首こりの方が当院にはたくさん来院されるのですが、1つ共通点があるのです。胸鎖乳突筋が過緊張状態に陥ってしまっているのです。

首の前をほぐすと後ろが楽になる?

一方、首の後ろに症状がある場合は胸鎖乳突筋が緊張していないかというとそうではありません。首の後ろ側がつらくて、つらい箇所をいくらほぐしても楽にならない時、胸鎖乳突筋をほぐすことで急激に後面の症状が軽減するということは多々あります。

首の前側にある胸鎖乳突筋をほぐすと首の後ろ側が楽になるのです。

これは不思議なことではなく解剖学的には理にかなっています。

後頭部の胸鎖乳突筋の付着部と僧帽筋の付着部は筋膜でつながっているのです。

ですから鎖骨をつまむことで、胸鎖乳突筋をほぐすことになり、結果首こりの症状緩和につながります。

この胸鎖乳突筋は、首の前や横はもちろん、一般的な後ろ側の凝り解消においてもとっても重要なポイントです。

胸鎖乳突筋以外の鎖骨との関連性が高い筋肉

首の横や前には胸鎖乳突筋以外にも、首肩凝りに関与するたくさんの筋肉があります。

たとえば、広頚筋、斜角筋、肩甲挙筋、舌骨下筋群、舌骨上筋群などがあります。

なかでも鎖骨の関連性が高い、広頚筋に着目してみましょう。

広頚筋

 

 

鎖骨と関連性の高い広頚筋

広頚筋は、首の前面の最表層で、名前通り下顎か胸にかけて薄く広がる筋肉です。

多くの方が気にされている猫背ですが、慢性的な猫背状態ですと、この広頚筋が緊張状態になります。広頚筋が緊張状態になると、凝りの症状に加えて、フェイスラインがぼやける、二重アゴにみえる、首の横シワができる、などといった見た目上の問題が生じます。

上の画像のように広頚筋は鎖骨を覆っています。つまり鎖骨をつまむと広頚筋も同時につまむことになります。

鎖骨をつまむことで、広頚筋をほぐすことができますので、首肩こりの改善のための鎖骨へのアプローチは美的な要素の改善にもつながるのです。

鎖骨への意識変わってきましたか?

肩こりに効く鎖骨つまみは一時的なもの?それとも根本的な改善につながる?

対症療法として鎖骨へのアプローチが首や肩のコリに対して効果的であることはご理解いただけたかと思います。

慢性的な首肩こりでお悩みの方は、対症療法だけではどうしようもない状態にあります。対症療法ではなく原因療法として、鎖骨へのアプローチは意味あるのか?という点について解説させてください。

姿勢が悪いのは結果でもあり原因でもある

まず、首こりや肩こりの原因は様々ですが、多くの方に共通しいるのは不良姿勢です。

良い姿勢に絶対的なものはありません。時と場合によって変わります。

首肩こりの観点からの「良い姿勢」の条件は、頭の重みをいかに首や肩の筋肉に負担をかけずに支えることができるかどうか?負担を軽ければ軽いほど良い姿勢です。

ですから、首肩こりを改善・予防における「良い姿勢」とは、「首や肩の筋肉への負担が最小となる姿勢」です。

具体的には、頭が体の重心線上にあって、筋肉をあまり使わなくてもバランスがとれている状態です。猫背がいけないのは、頭が体の重心線上になく頭を支えるために首肩に大きな負担をかけているためです。

姿勢と鎖骨の関係

そんな不良姿勢と鎖骨の関係性をみてみましょう。

上述しましたように、胸鎖乳突筋は、下を向く、顎を引く、首をかしげる、歯を食いしばるなどの動きに関与します。日常生活で何気なく行っている首や顎の動きと密接な関係があります。そのため日々の動作のなかで、胸鎖乳突筋は負担を受けやすいのです。

胸鎖乳突筋が緊張してしまうと頭を前に傾けてしまいます。横からみて頭が前方へ突き出た姿勢です。頭が前方にあると、僧帽筋をはじめとした首や肩の後面にある筋肉が、頭を支えるために頑張らなければなりません。この状態が続くことで、首や肩の筋肉に凝りが生じます。このような流れから、胸鎖乳突筋の過緊張は凝りを招く元ともいえます。

胸鎖乳突筋をほぐすことによって頭の位置が改善すれば、首や肩にかかる負担そのものが減少しますので、鎖骨つまみは原因療法としての意義もあるのです。

鎖骨を語る上でどうしても外せない肩甲骨

もう一つ、鎖骨を語る上でどうしても外せないのが、肩甲骨との関連性です。肩甲骨は背中にある左右一対の骨ですが、この肩甲骨、骨格という観点でみると、胴体部分と鎖骨のみで連結しています。

僧帽筋と鎖骨

 

 

緑色部分が肩甲骨です。肩関節付近で鎖骨と連結しています。

肩甲骨と上腕骨(腕の骨)の連結部分が肩関節ですので、鎖骨は「上肢と体幹を結びつける唯一の骨」なのです。

その鎖骨ですが、上肢を動かす「機能」として重要なはたらきを担っています。鎖骨は、胴体と肩甲骨を連結させているパーツなので、鎖骨の両端は、胴体と鎖骨の間、鎖骨と肩甲骨の間で関節になっています。

胴体と鎖骨の連結部分を胸鎖関節(胸骨と鎖骨の連結)、鎖骨と肩甲骨の連結部分を肩鎖関節といいます。

実は、胸鎖関節と肩鎖関節の二つの関節の動きの和が、肩甲骨の動きとなるのです。

上肢の動き、つまり肩や肘の動きには肩甲骨の動きが密接に関わります。

たとえば肩関節ですと、天井に向かって真上にバンザイ(180°挙上)をした時、厳密には動作方向によって若干異なりますが、総じて180°の1/3となる約60°は肩甲骨による動きであるのが正常とされています。肩甲骨がきちんと動かない状態ですと、他の関節に負担がいき、それが繰り返されることで炎症や痛みにつながってしまいます。

肩甲骨をきちんと動かせるようにするために鎖骨を意識してほしい

肩甲骨の動きを改善する手段として代表的なのは肩甲骨はがしです。

ご存知、肩甲骨はがしは、肩甲骨に付着する筋肉をほぐすのに効果的です。剥がすのではなく「ほぐす」のです。剥がれたら大変です。肩甲骨はがしで肩甲骨の動きは改善できますが、鎖骨にもアプローチすることでさらなる改善を目指すことができます。

鎖骨がきちんと動くということは、胸鎖関節と肩鎖関節が正しく機能している証拠です。つまり肩甲骨は正常に動きます。筋肉をほぐしても、実際に動く関節部分が動かなければ、肩甲骨はスムーズに動きません。肩甲骨の動きを改善するためには鎖骨の動きも改善することが大切です。

肩甲骨は体の後ろ側、鎖骨は前側にありますので、まさか肩甲骨の動きを改善するために鎖骨が重要とは思いませんよね。女性でしたらデコルテをキレイにみせるために鎖骨を意識されている方は多いかもしれませんが、日頃、ほとんどの方は「鎖骨の動き」を意識されていないと思います。

これからはぜひ、鎖骨・鎖骨の動きを意識してください。

肩関節の痛みや可動域制限がある方は肩甲骨の動きを改善することが大切です。その肩甲骨の動き改善のために、鎖骨にも着目してみましょう。肩関節に不調がなくても、肩甲骨の動きがぎこちないなと感じた場合、鎖骨を意識して対処するのがオススメです。

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


テレビ東京 なないろ日和!【肩こり対策を肩もみ以外で…鎖骨ほぐし、尻鍛え、脇鍛え】

つらい肩こりには、鎖骨、尻、脇!達人が伝授もみ方・鍛え方

テレビ東京で毎朝放送されている「なないろ日和」にて取り上げられた肩こり対策へ取材協力しました。

つらいつらい肩こりに

脇運動の達人

藤本靖(ボディワーカー)

尻運動の達人

丸山太地(肩こりラボ代表)

鎖骨ほぐしの達人

吉田一也(理学療法士、医学博士、人間総合科学大学保健医療学部准教授)

放送スケジュール

2019年4月23日(火)午前9時59分〜

テレビ東京・BSテレ東

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
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厚生労働省認定 臨床実習指導者
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【取材協力】マッサージのプロが指南!簡単にできる肩こり解消ストレッチと座り方@DIME

オフィスでできる低コストな肩こり対策5つ

デスクワーカーの多くは首や肩のこりに悩まされています。そんなデスクワーカーのみなさまがオフィスで簡単にできる対策について小学館ダイム様より取材を受けました。今回お伝えした対策は以下の5つです。

  1. 症状を解消する肩甲骨のストレッチ
  2. 姿勢改善のストレッチ
  3. 首や肩の負担を減らす座り方
  4. デスク環境の改善
  5. 昼食や間食の工夫

大半の方は肩こり対策としてかけてもよいと思う費用が1日あたり200円以内とのことですので、お金をかけずにできる対策に重点をおきました。

詳しくは@DIMEの記事をご覧ください。

記事のご案内

2019.02.14公開マッサージのプロが指南!簡単にできる肩こり解消ストレッチと座り方

みんなのライフハック@DIME

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
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日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

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NHKガッテン「“新原因”発見!衝撃の肩・首のこり改善SP」で取り上げていただきました

後頭下筋群への鍼

当院で施術を行い現在もメンテナンスでサポートをしているバレエダンサーの杉山周子さんと当院が行なった鍼とその効果についてのVTRが放送されました。

放送スケジュール

2019年2月13日(水)午後7時30分〜

再放送2019年2月16日(土)午前0時25分〜

 

 

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