姿勢は「正しい形」ではない?〜3つの感覚から考える姿勢のコントロール〜

「良い姿勢」と聞くと、背筋が伸びていて、頭から足までまっすぐに整った姿勢を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

もちろん、体を良い位置に保つことはとても大切です。

しかし、私たちの姿勢は、いつも静止画として切り取られた「良い姿勢」を固定して保っているわけではありません。

立っている時も、座っている時も、一見すると止まっているように見える状況でも、わずかに動き続けています。

周囲の環境が変われば、その環境に合わせて姿勢が変わるのが自然です。ずっと同じように良い姿勢を保とうとすると、かえって疲れを感じたり、こりにつながったりすることもあります。

つまり、私たちの体は、その時の状況や動きに合わせて姿勢を調整しながら、バランスを保っています。

その背景には、これまでご紹介してきた「体性感覚」「視覚」「前庭覚」の3つの感覚が関わっています。

では、これらの感覚は、実際にどのように姿勢を支えているのでしょうか。

今回は、これまでご紹介してきた3つの感覚をまとめながら、私たちがどのように姿勢を調整しているのかについてご紹介します。

3つの感覚は、それぞれ違う情報を伝えている

私たちが姿勢を保ったり、体を動かしたりする時には、さまざまな感覚から情報が入ってきています。

これまでご紹介してきた「体性感覚」「視覚」「前庭覚」も、その一つです。

これら3つの感覚は、すべて同じ情報を伝えているわけではありません。

視覚が伝えているのは、主に「自分の周囲がどうなっているのか」という情報です。

目から入ってくる景色や人・物などの情報によって、

・自分がどこにいるのか?

・周囲との位置関係はどうなっているのか?

といったことを知ることができます。

一方、体性感覚が伝えているのは、「自分の体が今どうなっているのか」という情報です。

・足裏が床にどのように接しているのか?

・関節がどのくらい動いているのか?

・筋肉がどのように働いているのか?

など、体の内側からさまざまな情報が送られています。

そして前庭覚は、「頭がどのように動いているのか」という情報を伝えます。

・頭がどの方向に動いているのか?

・どのように傾いているのか?

・どのくらいの速さで動いているのか?

といった情報を感じ取っています。

整理すると、

◆ 視覚 → 周囲の状況に関する情報

◆ 体性感覚 → 自分の体の状態に関する情報

◆ 前庭覚 → 頭の動きや傾きに関する情報

というように、それぞれが異なる役割を持っています。

私たちの脳は、こうした異なる情報を受け取りながら、自分の体が今どのような状態にあるのか、周囲との位置関係はどうなっているのかを把握しています。

つまり、姿勢を支えるために必要なのは、単に「体をまっすぐにすること」ではありません。

自分の体の状態、頭の動き、そして周囲の環境についての情報を受け取り、その時の状況に合わせて体を調整することが大切なのです。

3つの感覚が組み合わさることで、体を調整できる

では、これらの感覚は、実際の動きの中ではどのような働きをしているのでしょうか?

歩いている途中で、後ろから声をかけられて振り向く場面を考えてみてください。

振り向くために頭や体を動かすと、前庭覚は頭がどの方向に、どのくらいの速さで動いたのかを捉えます。

同時に、視覚は体を動かしたことで変化する景色や周囲の人を捉え、声をかけてきた人や周囲の状況を把握する手がかりになります。

そして、体性感覚からは、首や背中がどのように動いているのか、足へどのように体重が移動しているのかといった、自分の体の状態に関する情報が入ってきます。

このように、「振り向く」という一つの動作の中でも、3つの感覚から異なる情報が同時に入ってきます。

脳はそれらを組み合わせながら、自分の体がどのように動いているのか、周囲との位置関係がどう変化したのかを把握し、必要に応じて筋肉の働きや体の動きを調整しています。

私たちは、振り向くたびに「バランスを崩さないようにきれいに振り向こう」と意識しているわけではありません。

意識をしなくてもバランスを崩すことなく振り向けるのは、「視覚」「体性感覚」「前庭覚」から得られる情報をもとに、脳が無意識のうちに体を調整しているためです。

このように、姿勢や動きを支えているのは、一つの感覚だけではありません。

3つの感覚がそれぞれ異なる情報を伝え、それらを脳が組み合わせることで、私たちはその時の状況に合わせて姿勢や動きを調整しています。

姿勢は、その場の状況に合わせて調整されている

3つの感覚から得られる情報は、いつも同じではありません。

自分がいる場所や周囲の状況、体の動きが変われば、目に入るものや体に伝わってくる感覚、頭の動きも変化します。

例えば、人の少ない広い公園を歩いている時と、朝の通勤ラッシュ時間に人が多くいる駅構内を歩いている時では、同じ「歩く」という動作でも、周囲から入ってくる情報は大きく異なります。

広い公園では、周囲に人や物が少ないため、自分のペースで歩くことができます。

一方、人の多い駅構内では、前から来る人や横から動いてくる人との距離を見ながら、ぶつからないように進む方向や歩く速さを調整する必要があります。

その間も、足裏や関節などからは、自分の体がどのように動いているのかという情報が入ってきます。

また、歩く方向を変えたり、周囲を見渡す際に頭を動かしたりすることで、前庭覚からも頭の動きに関する情報が入ってきます。

つまり、同じ「歩く」という動作でも、周囲の環境が変われば、目から入ってくる情報や体の動かし方など、それに伴う感覚も変わります。

脳は、その時々で得られるこれらの情報をもとに、歩く方向や速さ、体の向きなどを調整しています。

私たちは、「目の前から来る人とぶつかりそうだから左に体を倒そう」「人を避けるために少し歩く速さを変えよう」などと一つひとつの動作を意識しているわけではありません。

周囲の状況に合わせて体を動かしているうちに、姿勢や動きも自然に変化しています。

同じように歩いていても、広い場所を歩く時と人の多い場所を歩く時。前方に何もない場所を歩く時と、障害物を避けながら歩く時。

まっすぐ進む時と、方向を変えながら進む時。

どれも「歩く」という動作には変わりありませんが、その時に入ってくる情報や、体に求められる調整はそれぞれ異なります。

だからこそ、姿勢は一つの決まった形を保つものではなく、その時々の状況に合わせて変化していくものなのです。

姿勢を見る時に大切なのは「形」だけではない

ここまで、姿勢と3つの感覚についてご紹介してきました。

姿勢を見る時、「猫背だから悪い」「反り腰だから悪い」というように、形だけに目を向けることがあります。

もちろん、姿勢の形を見ることは大切です。

しかし、その形だけを見ていると、「なぜ、この姿勢になっているのか」という部分を見落としてしまうことがあります。

例えば、長時間のデスクワークを考えてみます。

パソコンの画面を見るためには、目を画面に向け、ある程度同じ方向を見続ける必要があります。

パソコン作業では、作業効率の面からも視線をある程度一定に保つ必要があるため、画面との距離や位置によっては、頭が少し前に出る姿勢になることもあります。

その時に起こる頭や体の変化も、体性感覚や前庭覚を通して捉えられています。

脳は、こうした異なる感覚から得られる情報を組み合わせながら、「画面を見る」という目的に合わせて体の位置を調整しています。

つまり、デスクワーク中に頭が少し前に出ているからといって、それだけで「悪い姿勢」と判断できるわけではありません。

その姿勢は、画面を見るという目的や、机や椅子、画面との距離など、その時の環境に体を合わせた結果として生じている可能性があります。

一方で、同じ姿勢が長時間続けば、特定の部位に負担が集中したり、体を動かす機会が少なくなったりすることで、首や肩などに疲れやこりを感じることがあります。

また、長時間同じ環境で過ごすことで、視線や頭の動きなどは普段よりも入力が少なくなることもあります。

だからこそ、姿勢を見る時には、単に「正しい姿勢に直す」というだけではなく、

「なぜ、この姿勢になっているのか」

「どのような情報を受け取りながら、この姿勢をとっているのか」

という視点を持つことが大切です。

姿勢は、筋肉や関節だけで決まるものではありません。

視覚、体性感覚、前庭覚などから得られる情報をもとに、脳がその時の環境や目的に合わせて体を調整した結果として、姿勢が作られています。

つまり、姿勢の形は、体がその時の環境に適応した「結果」として現れているものでもあるのです。

まとめ

今回は、これまでご紹介してきた「体性感覚」「視覚」「前庭覚」をまとめながら、3つの感覚がどのように姿勢を支えているのかについてご紹介しました。

私たちは、いつも一つの「正しい姿勢」を固定して保っているわけではありません。

立つ、歩く、振り向く、手を伸ばすなど、その時の動きや周囲の環境に合わせて、姿勢は常に変化しています。

その中で、

* 視覚から周囲の情報を受け取り、

* 体性感覚から自分の体の状態を感じ取り、

* 前庭覚から頭の動きや傾きに関する情報を受け取り

脳はそれらの情報を組み合わせながら、体の状態を把握し、必要に応じて姿勢や動きを調整しています。

姿勢というと、「背筋を伸ばす」「まっすぐにする」といった形に目が向きやすいかもしれません。

しかし、私たちの姿勢は、さまざまな感覚から得られる情報をもとに、その時の環境や目的に合わせて体を調整した結果として現れています。

そのため、姿勢を考える時には、「どんな形をしているか」だけではなく、「どのようにその姿勢を作っているのか」という視点も大切です。

これまでご紹介してきた体性感覚・視覚・前庭覚について知ることで、普段何気なく行っている「立つ」「歩く」「動く」という動作も、少し違った視点から見えてくるかもしれません。


執筆者:進藤 孝大
Takahiro Shindo

湘南医療福祉専門学校 アスレティックトレーナー科卒業
東京衛生学園専門学校 東洋医療総合学科卒業

鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)
A-Yoga Movement coach

目の前にいる人の体のお悩み解決に全力を尽くす。
その想いだけで活動してまいりました。
スポーツトレーナーとして培ってきたノウハウと経験を活かして、
運動療法と鍼灸マッサージを組み合わせた治療を提案。
ご自身に合った適切なケア方法等、皆様のお悩み解決に向けて徹底サポートを行います。