良い姿勢を保つより、状況によって姿勢を変えられることが大切?

前回の記事では、姿勢はいつも同じ形を保っているものではなく、周囲の環境やその時の状況に合わせて、3つの感覚(体性感覚・視覚・前庭覚)から得られる情報をもとに調整されていることをご紹介しました。

私たちは立っている時、歩いている時、座っている時など、それぞれの場面に応じて少しずつ異なる姿勢をとっています。

では、日常生活の中で、姿勢はどのように変化しているのでしょうか?

一例として、床に落ちているゴミ(ちり紙)を拾う時と床に置いてある米袋10kgを持ち上げる時の違いを考えていきたいと思います。

この2つの動作には、どちらも「床にあるものを持ち上げる(拾う)」という共通点があります。

しかし、実際の体の使い方には違いがあります。

今回は、こうした身近な動作を例にしながら、姿勢の形だけではなく、その場面に合わせて求められる最適な姿勢の選び方について考えていきます。

「良い姿勢」は、いつでも同じ形なのか?

「姿勢を良くしましょう」と言われた時、背筋を伸ばしたり、胸を張ったり、頭をまっすぐにしたりすることを思い浮かべる方は多いと思います。

もちろん、立っている時などにまっすぐに体を起こした姿勢がとれる状態にあることは大切です。

しかし、その姿勢をどんな場面でもそのまま当てはめることが良いわけではありません。

私たちは、日常生活の中でさまざまな動作を行います。

それぞれの動作には目的があり、その目的を達成するために体は姿勢を変えています。

例えば、立っている時には体を起こしておく必要がありますが、床にある物を拾う時には、手を床まで近づけるために体を前にかがめる必要があります。

この時、立っている時と同じように背筋を伸ばした姿勢を保ち続けることだけを考えてしまうと、股関節や膝を大きく曲げるなど、別の部分でより大きな動きが必要になることもあります。

つまり、姿勢には「どんな場面でも当てはまる一つの正解」があるわけではありません。

その時に何をするのかによって、体に求められる姿勢や動き方は変わってきます。

姿勢を考える時には、「この形が正しいか」だけではなく、「今、何をするための姿勢なのか」という視点も大切です。

床に落ちているゴミを拾う時は、背中が丸まってもいい?

冒頭でもお伝えした、床に落ちているゴミを拾う場面について一緒に考えてみましょう。

例えば、部屋を歩いている時に、床にちり紙が落ちていることに気がついたとします。

ゴミを拾おうとすると、自然に体を前に倒し、股関節や膝を曲げながら手を床に近づけていきます。

この時、多くの方は、背中も少し丸まりながら体を前に倒していくのではないでしょうか。

スカートを履いている女性であれば、膝を深く曲げて腰を落としながら、手を床に近づけるかもしれません。

一方、「背中は丸めないほうがいい」と考えて、背筋を伸ばしたままゴミを拾おうとすれば、股関節を大きく曲げたり、膝を深く曲げたりすることで、手を床まで近づけることもできます。

このように、ゴミを拾う動きは一つではありません。

背中を丸めても、腰を落としても、股関節を大きく曲げてもゴミを拾うことができます。

ここで大切なのは、「背中が丸まっている」という形だけを見て、その姿勢を良い・悪いと判断しないことです。

ちり紙のように軽いものを拾うのであれば、背中を少し丸めることで手を床まで近づけることができ、動作をスムーズに行える場合もあります。

つまり、普段は「良い姿勢」とされる背筋の伸びた形から変化しているからといって、その姿勢が必ずしも悪いわけではありません。

その動作を行うために必要な形であれば、背中が丸まることも体にとって自然な選択肢の一つです。

10キロの米袋を床から持ち上げる時は、背中が丸まらない?

一方で、床に置いてある10キロの米袋を持ち上げる場合はどうでしょうか。

先ほどのゴミ拾いと同じように、体を前に倒して背中を丸めながら持ち上げてもよいのでしょうか。

ここでは、少し考え方が変わってきます。

10キロという重さの物を持ち上げる場合、ゴミを拾う時よりも大きな力が必要になります。

そのため、ただ手を床に近づければ良いわけではありません。

米袋を持ち上げる時には、まずは米袋をできるだけ体に近づけ、足元を安定させながら、全身で力を出しやすい状態を作ります。

そして、股関節などの下肢の筋力と上半身で米袋を支える力を合わせながら持ち上げていきます。

この時、腰や背中を大きく丸めたり反らしたりするよりも、背骨を適切に安定させた状態で持ち上げていく方が、重い物を扱いやすくなる場合があります。

ここで注目したいのは、先ほどの「ゴミ拾い」と「米袋を持ち上げる」という2つの動作の違いです。

どちらも「床にある物を持ち上げる」という点では同じですが、物の重さや必要な力、動作の目的が違います。

そのため、見た目の動作は似ていても、体がとる姿勢や動き方は変わります。

つまり、「背中は丸めてはいけない」「背中は丸めてもいい」という一つのルールで決めることはできません。

軽い物を拾う時と、重い物を持ち上げる時では、その場面で体に求められることが違うからです。

姿勢の良し悪しを考える時には、「形だけではなく、何をするのか、どのくらいの負荷がかかるのか、どのように動く必要があるのか」まで含めて考える必要があります。

大切なのは「正しい姿勢」ではなく「姿勢を変えられること」

ここまで、ゴミを拾う動作と10キロの米袋を持ち上げる動作を例に、同じような動作でも、物の重さや目的によって体の使い方が変わることをご紹介しました。

私たちは日常生活の中で、立つ、座る、しゃがむ、歩くなど、さまざまな動作を行います。

そのため、どんな場面でも一つの「正しい姿勢」を保つことは、実際の生活には合わないことがあります。

大切なのは、背中を伸ばした姿勢だけをきれいに保つことではありません。

必要な時には背中を丸めたり、深くしゃがんだり、体を前に倒したりと、その場面に合わせて姿勢を変えられることです。

つまり、良い姿勢とは「一つの形を保ち続けること」ではなく、その時の状況や目的に合わせて、必要な姿勢へ変化できることとも考えられます。

姿勢の「選択肢」が一つしかなければ、状況が変わった時に体の使い方を変えることが難しくなります。

反対に、さまざまな姿勢をとることができれば、その時々の動作に合わせて体の使い方を変えることができます。

姿勢を整えることと同じように、さまざまな姿勢へ変化できる体をつくることも大切なのです。

まとめ

「姿勢が悪い」と言われると「背中が丸まっている」「頭が前に出ている」「反り腰になっている」など、姿勢の形を直そうとすることが多いかもしれません。

もちろん、姿勢を整えることが役立つ場面も多くあります。

ただ、その姿勢だけを見て「良い・悪い」と判断するのではなく、「どのような場面で、その姿勢になっているのか」にも目を向けることが大切です。

例えば、床のゴミを拾う時に背中が丸まることと、長時間同じ姿勢で過ごしている中で背中が丸まっていることは、同じ「背中が丸まっている」という形でも、捉え方は変わります。

「この姿勢を直さなければ」と考える前に、「今、どんな動作をしているのか」「この姿勢は何のために必要なのか」と考えてみる。

そうすることで、これまで「悪い姿勢」と思っていた体の形も、少し違った見方ができるかもしれません。

姿勢を考える時には、形だけを見るのではなく、その時の状況や目的と合わせて考えることが大切です。

姿勢を「正しい形」として固定するのではなく、その時の状況や目的に合わせて変えられること。それが、日常生活の中で体を無理なく使っていくために大切なことです。


執筆者:進藤 孝大
Takahiro Shindo

湘南医療福祉専門学校 アスレティックトレーナー科卒業
東京衛生学園専門学校 東洋医療総合学科卒業

鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)
A-Yoga Movement coach

目の前にいる人の体のお悩み解決に全力を尽くす。
その想いだけで活動してまいりました。
スポーツトレーナーとして培ってきたノウハウと経験を活かして、
運動療法と鍼灸マッサージを組み合わせた治療を提案。
ご自身に合った適切なケア方法等、皆様のお悩み解決に向けて徹底サポートを行います。