前回の記事では、良い姿勢を一つの形として保ち続けることよりも、その時の状況や目的に合わせて姿勢を変えられることが大切だとお伝えしました。
では、姿勢を変えられる体とはどのような体なのでしょうか?
「姿勢を変える」と聞くと、体の柔軟性が高いことや、筋力があることを思い浮かべるかもしれません。
もちろん、柔軟性や筋力も体を動かすためには大切です。
しかし、それだけではありません。
私たちの体は、日頃からさまざまな姿勢や動きを経験することで、いろいろな体の使い方を身につけています。
今回は、「姿勢を変えられる体」とはどのような状態なのか、そして、そこには普段の体の使い方がどのように関係しているのかを考えていきます。
「姿勢を変えられる」とは、どういうこと?

姿勢を変えられるというのは、単純に「たくさんの姿勢をとれる」ということではありません。
大切なのは、その時の状況に合わせて、体の位置や動かし方を調整できることです。
例えば、椅子から立ち上がる時を考えてみましょう。
椅子に座っている状態から立ち上がるには、まず体を前に傾けて、足に体重を移していきます。そこから体を起こして、立った姿勢となります。
つまり、「座る」から「立つ」までの間には、いくつかの姿勢の変化があります。
さらに、同じ椅子からの立ち上がりでも、状況によって体の使い方は変わります。
例えば、椅子が低ければ、体をより深くかがめる必要があります。股関節を深く曲げるのか、腰を曲げるのか、その人自身が選ぶ動作に委ねられる所があります。
反対に、座面が高ければ、体を少しだけ前に傾けるだけでも立ち上がることが可能です。
また、手に荷物を持っている時には、荷物を落とさないようにしながら体を動かす必要があります。
荷物の位置によって、体の位置はどちらかに傾いていたり、前に倒せる範囲が限定されるかもしれません。
このように、「椅子から立つ」という一つの動作でも、いつも同じ姿勢や動き方をしているわけではありません。
椅子の高さや持っている物など、その時の状況に合わせて、体の使い方を少しずつ調整しています。
つまり、姿勢を変えられる体とは、一つの姿勢をきれいに保てる体というよりも、その時に合った体の使い方を選べる体とも捉えることができます。
「動き方の選択肢」は、どうやって身につくのか?
では、私たちはどうやって、その時の状況に合わせて体の使い方を変えられるようになるのでしょうか。
実は、こうした動き方は、最初からすべて身についているわけではありません。
私たちは、日々の生活の中で実際に体を動かし、さまざまな姿勢や動きを経験することで、少しずつ体の使い方を身につけていきます。
例えば、床に座る、しゃがむ、立ち上がる、体をひねる、片足で立つ、手を伸ばす。
こうした動きを経験することで、「こういう体の使い方もできる」という選択肢が少しずつ増えていきます。
子どもの頃を思い返してみると、遊びの中で走ったり、ジャンプしたり、転がったり、四つ這いになったりと、さまざまな動きを自然と経験しています。
その一方で、大人になると、生活の中で行う姿勢や動きがある程度同じようなものになってくることがほとんどです。
仕事では長時間座っていることが多く、移動では車や電車などを使うことも増えています。
自宅でも椅子やソファに座って過ごす時間が長くなると、日常の中でさまざまな姿勢や動きを経験する機会は、限られてくるかもしれません。
もちろん、こうした生活が悪いということではありません。
ただ、普段あまり行わない姿勢や動きについては、それだけ経験する機会も少なくなります。
だからこそ、日頃からいろいろな姿勢や動きを経験しておくことが、体の使い方の選択肢を持つことにつながります。
そして、その選択肢があるからこそ、前の章でお話ししたように、その時の状況に合わせて姿勢や体の使い方を変えやすくなります。
体を動かせても、その動かし方を使えるとは限らない?

ここで、一つ考えてみたいことがあります。
それは、「体を動かせること」と「その動きを実際の動作の中で使えること」は同じなのでしょうか?ということです。
例えば、体の柔軟性を確認すると、十分な可動域を持って動かせる。
筋力を確認しても、必要な力は出せている。
それでも、実際の動作になると、いつも同じような体の使い方になっていることがあります。
これは、「その動きができない」ということとは少し違います。
体としては動かせても、実際の動作の中で、その動かし方を選べるとは限りません。
例えば、片足で立つことはできても、階段の上り下りの際には片足立ちのように足を持ち上げることができない。
また、胸を開くことはできても、ゴルフのスイングになると、胸ではなく腰や腕の力でクラブを動かすような使い方になってしまう。
このように、体には「動かせている」と感じている動きであっても、それを実際の動作の中で使える動きとして身につけているとは限りません。
だからこそ、柔軟性や筋力を高めるだけではなく、実際の動きの中でさまざまな体の使い方を経験しておくことが大切になります。
「動かせる動き」を増やすことと同時に、「動作の中で使える動き」を増やしていく。
これも、姿勢を変えられる体を考えるうえで大切な視点です。
いろいろな動きを経験することが、なぜ大切なの?
では、いろいろな動きを経験しておくことには、どのような意味があるのでしょうか。
一番大きいのは、「体の使い方の選択肢を持っておける」ということです。
例えば、体を前後に動かすことしか経験していなければ、横方向へ体重を移す動きは使いにくいかもしれません。
体を捻らずに正面を向いて動くことが多ければ、体を捻りながら手を伸ばす動きは、少し難しく感じることもあります。
反対に、
・前後に体重を移す/左右に体重を移す
・背中を丸める/伸ばす/体をひねる
・両足で体を支える/片足で支える
・立つ/座る/移動する
といったさまざまな動きを経験していると、状況に応じて体の使い方を変えるための選択肢を持ちやすくなります。
もちろん、すべての動きを完璧にできる必要はありません。
大切なのは、「こういう動き方もできる」と体の中にいくつかの選択肢があることです。
その選択肢があるからこそ、その時の状況に合わせて、無理の少ない動き方を選びやすくなります。
これは、スポーツや特別な運動をしている人だけに必要なことではありません。
例えば、日常生活の中でも、床に落ちた物を拾う、後ろにある物を取る、段差をまたぐ、狭い場所を通るなど、さまざまな動きが必要になります。
そのたびに、私たちは無意識のうちに体の位置や動かし方を変えています。
普段からいろいろな動きを経験していることは、こうした日常の変化に対応するための土台にもなります。
大切なのは「正しい姿勢」ではなく「動きの選択肢」
ここまでの話を、前回の記事とつなげて考えてみます。
前回は、姿勢には一つの正解があるわけではなく、その時の状況や目的によって変わることをお伝えしました。
そして今回は、その姿勢を変えるためには、さまざまな動き方を経験しておくことが大切であるという話です。
つまり、「良い姿勢をつくる」ということは、いつでも同じ姿勢を保つことだけではありません。
その時の状況に合わせて、必要な体の動き方を選べることです。
そのためには、普段から一つの姿勢や動き方だけにこだわるのではなく、体をさまざまな方向へ動かしてみることが役立ちます。
これは、特別なトレーニングだけで身につけるものではありません。
床に座る、立ったまま体をひねる、片足で立つ、しゃがむなど、普段とは少し違う姿勢を経験することも、体にとっては一つの経験になります。
もちろん、痛みがある場合や、無理に行うことで症状が悪化する可能性がある場合は、動かし方を慎重に考える必要があります。
「正しい姿勢を身につける」という考え方だけではなく、「自分の体にはどのような動きの選択肢があるのか」という視点を持ってみることが大切です。
まとめ
姿勢を変えられる体とは、特別な「正しい姿勢」を身につけた体ではありません。
その時の状況や目的に合わせて、いくつかの姿勢や動き方を選べる体です。
そのためには、柔軟性や筋力だけでなく、普段からさまざまな姿勢や動きを経験しておくことも大切です。
私たちの体は、日常の中で経験してきた動きの中から、その時に必要な体の使い方を選びながら動いています。
だからこそ、姿勢を良くしようと一つの形にこだわるだけでなく、いろいろな動き方を経験しておくことも、姿勢を変えられる体につながります。
「良い姿勢を保つ」から、「状況に合わせて姿勢を変えられる」へ。
そしてそのために、いろいろな動き方を経験しておく。
この視点を持つことで、姿勢との向き合い方も少し変わってくるかもしれません。

執筆者:進藤 孝大
Takahiro Shindo
湘南医療福祉専門学校 アスレティックトレーナー科卒業
東京衛生学園専門学校 東洋医療総合学科卒業
鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)
A-Yoga Movement coach
目の前にいる人の体のお悩み解決に全力を尽くす。
その想いだけで活動してまいりました。
スポーツトレーナーとして培ってきたノウハウと経験を活かして、
運動療法と鍼灸マッサージを組み合わせた治療を提案。
ご自身に合った適切なケア方法等、皆様のお悩み解決に向けて徹底サポートを行います。


































