男女問わず肩こりに悩む方は少なくありません。そして2019年国民生活基礎調査(厚生労働省)では女性が訴える体の不調の第1位が「肩こり」だという結果が発表されるなど、特に女性に多いことでも知られています。
今回は、肩こりに悩む女性が多い理由を考えつつ、女性の肩こりについて見ていきましょう。
人類と「肩こり」「腰痛」は切っても切れない関係
肩こりとは、首や肩周辺の筋肉痛の一種です。筋肉の緊張が血管を圧迫して血行不良が起こると酸素の供給が少なくなり、その結果疲労物質が蓄積し、張りや痛みが起こります。
これが繰り返され、さらなる緊張や痛みの悪循環をもたらすと考えられています。それではなぜ筋肉は緊張するのかというと、人間の身体を覆う“抗重力筋”という重力に抗う筋肉と大きく関わりがあります。
抗重力筋は、地球の重力に対し姿勢を保つために働く筋肉であり、下腿・大腿・腹部・胸部・首の各部前後に張り巡らされています。体を動かさずに座る・立つだけでも抗重力筋のどれかが常に緊張している、「疲労しやすく収縮したままになりやすい筋肉」なのです。
そして日常生活で身体に癖がついた場合や偏った動きをしている場合、抗重力筋は癖のある姿勢を記憶し身体の歪みを招き、慢性の腰痛や肩こりを引き起こします。
そもそも、体を起こしているだけで重力に抵抗しているわけですから、筋肉に負担がかかるのも当然のことですね。「二足歩行をするようになった太古の昔から、肩こりや腰痛は必然的な人類の宿命だった」との見方もできるかもしれません。
肩こりも軽いうちならば我慢できるレベルの症状だという方もいらっしゃるでしょう。ですがそういった方でも悪化すると頭痛やめまい、吐き気、眼精疲労などの、日常生活や仕事に影響を及ぼすほどの症状を引き起こすことがあります。
なぜ、肩こりは女性に多いのか
そんな肩こりが「特に女性に肩こりが多い」という点については、いくつかの原因が考えられます。
男女の比較で考えますと、女性は筋肉量が圧倒的に少ないことがあげられます。重い人間の頭部を支えるのに、筋肉量が少なければ首や肩にかかる負荷がより大きくなりますし、女性は男性に比べて首が細く、なで肩の傾向があります。なで肩は肩にかかる腕の重みによって、肩にかかる負荷が大きくなります。さらにバストの重みも考えると、女性の首や肩にかかる負荷は男性以上であるということがわかります。
女性ホルモンと肩こりの切り離せない関係
女性の肩こりは、女性ホルモンとの関連も切り離して考えることはできません。月経前困難症に代表される、生理前後の女性ホルモンの分泌バランスの変化でさまざまな不調を感じる方は多いでしょう。なかでも冷えは、肩こりの発症とダイレクトに関わっています。冷えからくる血行不良が乳酸などの疲労物質を蓄積させ、神経を圧迫して筋肉の痛みやこわばりを引き起こすのです。
また、更年期障害や卵巣機能の低下による女性ホルモンのバランスの乱れから、肩こりだけではなく頭痛や全身の疲労感などをもたらす場合もあります。
現代の肩こり
PCやスマホを使うことで引き起こされる「テクノストレス」も肩こりに関係しています。こちらは男女問わず、現代の肩こりを考える上で外せない問題だと言えるでしょう。
例えば長時間同じ姿勢でディスプレイを見続けるPC作業は、筋肉が固まる、目の疲れから首肩の緊張が高まり血行不良を誘発するなど、肩こりを常態化させるさまざまな要因が隠されています。
他にも「ストレートネック」「スマホ首」が問題になっています。人の頸椎は正常であれば緩やかなカーブがあるものですが、長時間悪い姿勢を取り続けた結果、首がまっすぐになってしまう症状で、首や肩のこりの原因のひとつになっている場合があります。
関連ページ:首の骨と椎骨動脈解離の正しい知識。自分の体は自分で守りましょう。
肩こり解消のヒント
日々の生活の中で肩こりを引き起こさない・悪化させないためのヒントをご紹介します。
生活習慣の見直し
生活の中心がデスクワークであるならば、長時間同じ姿勢を取らないことを心がけましょう。一定時間置きに姿勢をチェックし、体を動かしましょう。リモートワーク中であればノートPCごと移動して、いろいろな姿勢で仕事をするのも気分転換になっていいかもしれません。
ところでノートPCはデスクトップPCと比べディスプレイの位置が低くなるため要注意です。視線が下を向くため首が前傾する姿勢になりやすいからというのが理由となります。スマホを見る時も同様です。首を正しい位置で、しっかり支えるための姿勢をつねに保つために、作業環境を改めて見直すことも大切でしょう。
首や肩がこる直接的な原因は周辺の血行不良であることも少なくありません。首や肩の張りを感じたら、レンジで温めたタオルなどを当てて血流をよくします。就寝前にはぬるめの湯にゆっくりつかる入浴を習慣にすると、血流改善とリラックス効果も期待できます。
また、ストレスは自律神経やホルモンの分泌バランスに影響を与え、血行不良につながります。ストレスをためない生活を心がけましょう。
そのほかに日常のちょっとした習慣の見直しが有効となる可能性があります。
・いつも重い荷物を持っている。またショルダーバッグをいつも同じ側の肩にかけている
・ネックレスやイヤリング、衣服など重いものを身に着けている ・枕の高さが適当でない |
関連ページ:肩こりを解消したいなら、まずは毎日の暮らしを見直そう
首や肩にのこりに試したいストレッチ
ストレッチは筋肉や関節の柔軟性を高めることを目的にした運動で、筋肉の緊張緩和と同時にリラクゼーション効果もあることが最近わかってきています。
ポイントは、伸ばしたい部分をしっかり意識して、無理なく行うことです。さまざまな動画やテキストも出ていますので、自分に合ったものを見つけてセルフメンテナンスしてみませんか。
日常の肩こりの軽減に効く、簡単なストレッチの例
【肩の上下運動】 背筋をまっすぐにし、頭が前に出ないようにする。腕は力を抜いて下におろし、手は軽く握る。腕の力は抜いたまま、息を吸いながら、肩先を耳に着けるようなイメージで肩を持ち上げる。息を吐きながら両肩を一気に下ろす。この動きを繰り返す。 【肩を回す運動】 親指を肩先に着け、できるだけ大きく肘を回す。前後10回ずつ行う。このとき、鎖骨や肩甲骨周辺の筋肉がしっかり伸びていることを意識する。 【背中の運動】 腕を肩の高さに上げ、手のひらを外側に向けて指を組む。息を吐きながら腕を前に押し出し、20秒止める。肩甲骨がしっかりと開いているのを意識する。 【胸のストレッチ】 腕を背中側に無理のない程度に肩の高さまで上げ、手のひらを内側に指を組む。後ろに腕が引っ張られるイメージで息を吐きながら胸部の筋肉を伸ばし、20秒止める。 |
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関連ページ:首肩の痛みに効く!!肩こり解消ストレッチ〜正しいストレッチ方法を解説
まとめ
今回は女性の肩こりに着目しました。日々の生活を工夫することで改善するケースもありますが、必ずしもそういったケースだけではありません。
尋常ではない肩こりに悩まされる場合、別の病気が隠れていることもあります。たとえば「頚椎症」という首の病気では、肩こりに加え手指のしびれを伴います。ほかに高血圧や心臓・内臓疾患、眼病などから起こる肩こりもあるため、注意が必要です。特に症状がひどい、長期間に及ぶなど異常を感じたら、早めに医師の診断を受けることをおすすめします。
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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama
日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修
鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許
病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。