投稿者「肩こりラボ」のアーカイブ

筋力は十分にあるのに肩こり・首こりにお悩みのケース|ケースレポート

概要

運動習慣があって一般の人よりも体を動かすことが多く、筋力も十分にあるにも関わらず慢性的な首や肩のこりにお悩みだった症例

N様 / 東京都在住 / 47歳 / 男性 / 会社員(デスクワーク)

症状

  • 右の首〜肩〜肩甲間部にかけてのこり
  • 頭痛

状態

7年ほど前から徐々に右の首・肩・肩甲間のあたりにかけてつらくなってきた。ひどい時は頭全体が何かに覆われているような感覚になり、頭頂部の頭痛が出る。

長時間のデスクワーク、その際の姿勢の悪さが原因ではないかと自覚している。

首肩のストレッチをしたり、お風呂などでしっかり温まると少し楽になる。鍼やマッサージの経験はあるが、あまり効果は感じなかった。病院で首肩のこりに対して筋膜リリース注射をした時は少し楽になったが、効果は一時的で、一週間ほどで再びこりを感じるようになってしまった。

趣味はマラソン。毎週ランニングを欠かさず、年に数回フルマラソンやハーフマラソンなどの大会に出場している。

見立て

姿勢は、少し肩が前に出て「巻き肩」の様な状態だが、猫背がひどいわけではない。各関節の可動域は特別低下していることもない。

筋力は全体的にしっかりあるが、相対的にみて大殿筋、腹横筋、脊柱起立筋などの筋肉があまり働いていない状態。

このことから、デスクワークなど長時間同じ姿勢をとらなければならない状況で、僧帽筋などのこりやすい筋肉を使って姿勢を支えようとしてしまっていることが、原因として大きいのではないかと考えた。

また、肩を前に巻いてしまっている筋肉である、大胸筋や広背筋などの筋肉をしっかりとほぐし、胸が開きやすいようにしていくことも重要だろう。

治療

鍼とマッサージを併用し、こりの強い部分である頭半棘筋、板状筋、僧帽筋と、不良姿勢の原因筋である大胸筋、広背筋、胸鎖乳突筋をメインに入念にほぐしていった。

週に1回ペースで治療を続けたところ、順調につらさが減っていき、9回目の治療でNRS 10→1まで楽になった。
※NRS:Numerical Rating Scale。痛みを「0:痛みなし」から「10:これ以上ない痛み」までの11段階に分け、痛みの程度を数字で表す評価方法。

また、上記の対症療法と並行して、大殿筋、腹横筋、脊柱起立筋など姿勢を支えるのに適している筋のトレーニングを行なった。トレーニングは1週や2週に一度の間隔では不十分ため、セルフケアとしてご自宅でも行なっていただいた。

体幹筋力も十分になり、姿勢を維持するために非常に効率の良い身体の使い方ができるようになった。徐々に治療間隔があいてもこりを感じない状態になっていき、1ヶ月半慢性的な肩こりを感じることなくキープできるようになったため、ゴールとなった。

ゴールまでの総治療回数は27回。期間は約1年間。

コメント

運動は定期的に行なっていて、人並み以上に筋力がある方でも、慢性的な首肩こりになることは少なくありません。

N様の場合、全体として筋力は十分にあったのですが、筋力テストで調べてみたところ、相対的にみて大殿筋、腹横筋、脊柱起立筋など体幹の筋力が不足していました。

これらの筋肉は長時間持続的に身体を支えることに適しています。そのため、不足していると僧帽筋などのこりを生じやすい筋肉が過剰に働いてしまい、こりを生じやすい状態となってしまいます。

N様は優先的に使うべき筋肉をトレーニングし、過剰に働きすぎている筋をしっかりとほぐすことによって順調に改善に向かい、ゴールに至ることができました。

また、肩こりの治療は、スポーツの競技力向上においてもつながることがあります。N様の場合、肩こり治療で体幹の筋力向上を行なったことにより、ランニング中の体幹の動きが安定し、フォーム改善にもつながりました。これらによって推進力が強化され、タイムを伸ばすことができました。

肩こりに悩まされなくなったため、今後は趣味のマラソンのパフォーマンスアップを目標にして、さらなるコンデション改善に努めてまいります。

 

 

 


執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


40年来の慢性的な肩こり・首こりが解消されたケース|ケースレポート

概要

慢性的な肩こり・首こりが、マッサージと運動療法を組み合わせた治療で改善した例。

M様 / 東京都在住 / 57歳 / 男性 / 営業職

症状

・首肩こり
・頭痛

状態

高校生くらいから、かれこれ40年ほど慢性的な首肩こりに悩まされている。マッサージを受けると楽になるが、効果が持続するのは2~3日。

一年前から特にひどくなり始め、頭痛も出るようになってしまった。頭痛が出て心配だったので、脳神経外科を受診したところ、異常はないと言われた。

整形外科に行き首のレントゲンを撮ったところ、頚椎の椎間板が少し潰れているが、他に目立った骨の異常はみられないと言われた。

運動が好きで、休日はアクティブに身体を動かしたり、長時間ウォーキングをすることが多い。
身体を動かしている時は首肩こりは気にならないことが多い。

鍼は経験がなく、恐怖心があるためできるだけやりたくない。

見立て

僧帽筋、頭板状筋、頭半棘筋、肩甲挙筋などの首・肩周りの筋肉の緊張が強く、これにより首肩こりの症状を引き起こしていると考えられた。

頭痛は医療機関での診察を経て異常がないことが確認されており、筋緊張と比例関係にあるので、緊張性頭痛の可能性が高い。

首肩こりを引き起こしている根本的な原因としては、股関節や胸椎の可動性が低いため、良い姿勢を保ちづらいことが大きい。
また、良い姿勢をとろうとしても首・肩周りを力ませるような使い方になってしまっている。
まずは不良姿勢を助長してしまう筋肉(ハムストリングス、大胸筋、広背筋、胸鎖乳突筋など)の緊張を和らげ、姿勢を支えるのに適している筋肉(脊柱起立筋、腹横筋、大殿筋など)を強化していくことで、根本的なこりの原因を改善できると考えた。

治療

初期治療

鍼治療を受けることに抵抗があるため、マッサージと体操により筋緊張を和らげることとなった。
また、初期治療では集中的につらさを減らしていきたいため、あまり通院間隔は開けすぎず、1週間に1回のペースで治療を行った。

マッサージをすることによる筋肉の緩みはよく、治療開始してから早い段階で筋緊張は緩和し、6回目の治療でNRS 2〜3まで下がった。

※NRS:Numerical Rating Scale。痛みを「0:痛みなし」から「10:これ以上ない痛み」までの11段階に分け、痛みの程度を数字で表す評価方法。

中期治療

中期治療では不良姿勢の原因となっている部分の改善のため、運動療法をメインに治療を行った。

運動療法の内容は、胸椎や股関節の可動域を改善するストレッチや、姿勢を効率よく支えるために脊柱起立筋、腹横筋、大殿筋を強化するトレーニングなど。

通院の頻度は初期治療同様、一週間に1回のペース。
初期治療と違うところはマッサージ+トレーニングの日とトレーニングのみ行う日を隔週ずつ交互に行い、マッサージの頻度は減らすが、トレーニングの頻度は減らさないように治療計画を立てた。

まずは可動域が順調に改善し、各筋の筋力も徐々についてきたことで、NRS 2〜3からNRS 0〜1 (日常生活で肩こりをほとんど感じない状態)まで自覚症状が下がった。
中期治療終了で治療回数は13回目。

後期治療

後期治療では中期治療同様にトレーニングを行いつつも、マッサージの頻度を徐々にあけていった。
約2ヶ月間マッサージをしなくても、良い状態を保てるようになったため、首こり・肩こり治療はゴール。

ゴールまでの総治療回数は19回。

コメント

M様が順調に改善し、ゴールに至ったポイントは、停滞しやすい中期治療において高い頻度で運動療法を行えたことです。

通常は中期治療で通院間隔をあけていくのですが、M様は非常に意欲的にトレーニングに取り組んでいましたので、トレーニングの頻度を落とさずに治療を進めさせていただきました。

トレーニングの間隔が空きすぎてしまうと、正しいと思っていたフォームがいつの間にか自己流になっていたり、メニューの内容がマンネリ化してしまい、なかなか思うように前に進めないこともあります。

一週間ペースでマンツーマントレーニングを行うことで、フォームの修正やメニューのアップデートを随時行うことができ、非常に効率よく根本原因を改善することができました。

 

 


執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
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東京理科大学オープンカレッジにて講義を行いました③

本講座について

2019929日(日)に「誰でもできる体幹トレーニング~ロコモ予防と対策~」と題して、第3回目となる講義を行いました。

東京理科大学オープンカレッジは、東京理科大学が、生涯現役であり続けたい方、社会人として豊かな教養を身に付けたい方、ビジネスパーソンとして見識を深めたい方をはじめとした一般の方向けの「社会人教育・リカレント教育」の場として開講しています。

 

「ロコモ」って何?

「ロコモ」とは、ロコモティブシンドロームの略で「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」という意味です。日本整形外科学会が、2007年に提唱した新しい概念です。

今、ロコモは「メタボ」「認知症」と並び、「健康寿命の短縮」「ねたきりや要介護状態」の3大要因のひとつです。そのロコモの予防と対策は「体幹の筋力強化」が鍵となります。

本講座では、普段運動習慣が全くない方でもご自宅で無理なく続けられる体幹トレーニングをご紹介しました。一緒に体を動かしながら、楽しく実践することで、トレーニングを体得できたのではないでしょうか。身近な人にも教えてあげながら、是非続けてみて下さい。

 

お知らせ

2020年秋冬に、講義第4弾「ひとりでできる肩こりの改善法」を開催予定です。

詳細が決まりましたら、お知らせします。是非ご参加下さい。

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
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東京理科大学オープンカレッジにて講義を行いました②

本講義について

201991日(日)に、「ひとりで簡単にできる腰痛の改善方法」と題して、第2回目となる講義を行いました。

東京理科大学オープンカレッジは、東京理科大学が、生涯現役であり続けたい方、社会人として豊かな教養を身に付けたい方、ビジネスパーソンとして見識を深めたい方をはじめとした一般の方向けの「社会人教育・リカレント教育」の場として開講しています。

 

国民病ともいえる「腰痛」の存在

腰痛は、カラダの悩み第1位に挙がっており、もはや国民病ともいえる存在です。

腰痛の多くは、体の柔軟性・筋力・姿勢・動作と密接に関わっています。これらは、日常生活と深い関係があります。つまり、日常生活をちょっと変えるセルフケアを実践すれば、腰痛の悩みが消えるかもしれないのです。

本講座では、慢性的な腰痛を根本から改善するためのセルフケア方法をお伝えし、受講者の皆様と一緒に行いました。セルフケア方法の効果の理由を詳しく解説し、さらに実践したことで、頭で理解し、カラダで覚えられたのではないでしょうか。

 

発信するということ

今回、第2回目となる一般の方へ向けた講義の場をいただき、東京理科大学オープンカレッジの関係者の皆様に感謝申し上げます。
このような発信の場を大切にし、今後も積極的に続けていきたいと思います。

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

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肩こりと鎖骨の関係性|鎖骨をつまむだけで肩こりが解消するって本当!?

鎖骨と肩こりの関係性を詳しく解説していきます

鎖骨をつまむと肩こりに効くって聞いたのですが、本当ですか?

はい。結論からいいますと本当です。正確には鎖骨そのものではなく鎖骨周辺をつまんだりマッサージが効果的です。

鎖骨へのアプローチで期待できる効果は2つあります。1つ目は、今のつらい症状を緩和する効果。2つ目は、姿勢を改善して首や肩の負担を減らす効果。とにかくつらいから何とかしてほしい場合の対症療法だけでなく姿勢の改善といった原因療法にも有効ですので首や肩の不調と鎖骨へのアプローチは切っても切れない関係にあります。ですから当院の肩こり治療でも鎖骨へのアプローチは基本的な施術として行っています。

鎖骨は見た目ではなく、その機能性にも注目してほしい!

きっと多くの方が、毎朝・毎晩鏡で自身の鎖骨を目にしているはずです。ですが、鎖骨の見た目を意識することはあっても、意識して動かしている方はほとんどいらっしゃらないと思います。

鎖骨ってどんな骨?

人間の骨の中で唯一水平に位置しています。ゆるいS字カーブをもつ棒状の形をした長骨です。人間が腕を自由に動かせるのは鎖骨のおかげです。四足歩行の動物には鎖骨はありません。人が体を動かす際にとても重要な骨ですが、人体の骨の中でもっとも折れやすい骨でもあります。そんな鎖骨を「肩こり」の面から掘り下げていきます。この記事を読んで、鎖骨を意識して動かしたくなってもらえたら幸いです。

なんで鎖骨をつまむと肩が楽になるの?

鎖骨ほぐしは肩こりへの対症療法としてなぜ効果的なのか?その理由を解剖学に則り解説していきます。

肩こりと鎖骨ほぐしを繋ぐカギは「僧帽筋」

僧帽筋(そうぼうきん、英語: trapezius)は、肩こりにお悩みの方でしたら、きっと一度くらいは耳にしたりテレビ番組でご覧になられたことがあると思います。

僧帽筋とは頭の後ろの頚椎の中央からはじまり、首・肩・背中を広範囲に覆っている筋肉です。

僧帽筋の場所

 

 

※オレンジ色部分が僧帽筋です

この僧帽筋の過緊張や筋膜異常が、肩こりのつらい症状を引き起こしている大きな要因です。

僧帽筋は背中にありますが「鎖骨」と繋がっています

首や肩のつらい症状は背中側です。僧帽筋も背中の上半分近くを覆っている筋肉ですが、なんと鎖骨と繋がっているのです。

僧帽筋と鎖骨

 

 

鎖骨と僧帽筋は繋がっています

鎖骨は脂肪がつくと見えにくくなる、痩せている人は鎖骨が綺麗といったイメージをきっとお持ちだと思います。ですから筋肉のイメージがない方がほとんどでしょう。

実際は上の画像のように僧帽筋とくっついているのです。

つまり鎖骨をつまむと僧帽筋に影響します。

僧帽筋への影響を考えて上手に鎖骨をつまむ・鎖骨周辺をほぐすことで、肩こりの症状に効果がでるのです。これは直接背中側からアプローチするよりも鎖骨からアプローチしたほうが効果的なケースがあり、鎖骨側だけが全てではございません。

もう少し具体的に詳しく説明します。

僧帽筋は、首・肩・背中といった広いエリアを覆う大きな筋肉です。僧帽筋はひとつではなく、解剖学的には上部、中部、下部の3つのパートにわかれていて、それぞれ異なった役割があります。鎖骨と関係が深いのは上部の僧帽筋です。

僧帽筋の場所

 

 

つらいのは上部の僧帽筋

一般的につらい肩こりは首から肩の関節に向かってのラインです。このラインがまさに僧帽筋の上部にあたります。僧帽筋の上部は、後頭部や頚椎の中央部分からはじまり、鎖骨(正確には、鎖骨の外側1/3の後縁)に至ります。

ストレッチでほぐれる理由・ほぐれない理由

僧帽筋と鎖骨の関係を語る上で、なぜ、ストレッチをすると凝りがほぐれるのか?この理由を簡単に知っておく必要があります。

筋肉は骨とくっついています。くっついている箇所を「付着部」といいます。付着部には、筋膜や腱といった組織があり、筋肉と骨を結びつけています。この付着部には刺激を感知する受容体や神経といった様々なセンサーが密に分布しています。みなさんにとってお馴染みのストレッチですがそのセンサーを上手く利用するのがストレッチの本質です。

ストレッチは可動域改善の代表的手法。ひとことでストレッチといっても様々で、反動をつけずにゆっくりと筋肉を引き伸ばす「静的ストレッチ」の場合、付着部付近に存在するゴルジ腱器官というセンサーに刺激を与え、その反射で筋肉の弛みを誘導して可動域を広げます。

おそらく多くの方がストレッチを物理的な手段・自分でできる・誰でもできる簡単な方法と思われているはずです。

本当に効果のあるストレッチ・プロが人に対して行うストレッチというのは、神経系に働きかけて筋緊張をコントロールするのです。

軽いコリでしたら物理的なほぐしで十分ですが、ひどい緊張状態にある強張った筋肉に対しては物理的なほぐしが通用しないことが多いのです。

緊張が生じている部分を物理的にほぐすだけでなく、解剖学的な筋肉の走行と付着部、そして筋肉を支配する神経の機能を意識した対処が必要なのです。

僧帽筋上部の過緊張を解く鍵が鎖骨

僧帽筋上部の過緊張を改善したい場合、ダイレクトに問題の筋繊維や筋膜へのアプローチはもちろん必要ですが、僧帽筋の付着部である鎖骨へのアプローチが効果を発揮します。僧帽筋の付着部は鎖骨だけではありません。後頭部や頚椎の際にもございます。ですので首や頭へのアプローチは普通に行われています。首や頭と同じように鎖骨が大切なのです。

鎖骨をつまむと僧帽筋は緩む・肩こり解消に効果的というのは正確には鎖骨だけではなく後頭部や頚椎の際といった僧帽筋の付着部へのアプローチが肩こり症状に効果的ということなのです。

首こりと鎖骨ほぐしの関連性

肩こりだけでなく首こりに鎖骨ほぐしの効果はあるの?という方もいらっしゃると思います。もちろん効果あります。

実は鎖骨には、僧帽筋以外にも首や肩の凝りに関係のある筋肉が付着します。

胸鎖乳突筋です。きょうさにゅうとつきんと読みます。

胸鎖乳突筋は、首の横から前に走行する筋肉です。名前の由来は、胸骨・鎖骨から側頭骨の乳様突起を結んでいることからです。いわゆるつらい首筋の痛み・凝りは、まさにこの胸鎖乳突筋のトラブルであることが多いです。

僧帽筋と鎖骨

 

 

胸と鎖骨と頭を繋ぐ胸鎖乳突筋

胸鎖乳突筋は、下を向く時、顎を引く時、首をかしげる時、歯を食いしばる時にはたらく筋肉です。猫背で丸まってパソコン作業をしている時や、下を向いてスマホ操作をしている時は、自覚はなくとも胸鎖乳突筋は過緊張状態となってしまっていることが少なくありません。

凝りだけでなく息苦しさや喉の違和感といった症状を引き起こす胸鎖乳突筋の過緊張

一般的な首こりは、首の後面に症状が出ますが、中には首の横や前につらさを自覚される方がいらっしゃいます。このようなタイプの首こりの方は、凝りだけでなく、息苦しさや喉の違和感などを自覚する傾向があり、お悩み度が高い方が多いです。このような一見イレギュラーパターンと思われる首こりの方が当院にはたくさん来院されるのですが、1つ共通点があるのです。胸鎖乳突筋が過緊張状態に陥ってしまっているのです。

首の前をほぐすと後ろが楽になる?

一方、首の後ろに症状がある場合は胸鎖乳突筋が緊張していないかというとそうではありません。首の後ろ側がつらくて、つらい箇所をいくらほぐしても楽にならない時、胸鎖乳突筋をほぐすことで急激に後面の症状が軽減するということは多々あります。

首の前側にある胸鎖乳突筋をほぐすと首の後ろ側が楽になるのです。

これは不思議なことではなく解剖学的には理にかなっています。

後頭部の胸鎖乳突筋の付着部と僧帽筋の付着部は筋膜でつながっているのです。

ですから鎖骨をつまむことで、胸鎖乳突筋をほぐすことになり、結果首こりの症状緩和につながります。

この胸鎖乳突筋は、首の前や横はもちろん、一般的な後ろ側の凝り解消においてもとっても重要なポイントです。

胸鎖乳突筋以外の鎖骨との関連性が高い筋肉

首の横や前には胸鎖乳突筋以外にも、首肩凝りに関与するたくさんの筋肉があります。

たとえば、広頚筋、斜角筋、肩甲挙筋、舌骨下筋群、舌骨上筋群などがあります。

なかでも鎖骨の関連性が高い、広頚筋に着目してみましょう。

広頚筋

 

 

鎖骨と関連性の高い広頚筋

広頚筋は、首の前面の最表層で、名前通り下顎か胸にかけて薄く広がる筋肉です。

多くの方が気にされている猫背ですが、慢性的な猫背状態ですと、この広頚筋が緊張状態になります。広頚筋が緊張状態になると、凝りの症状に加えて、フェイスラインがぼやける、二重アゴにみえる、首の横シワができる、などといった見た目上の問題が生じます。

上の画像のように広頚筋は鎖骨を覆っています。つまり鎖骨をつまむと広頚筋も同時につまむことになります。

鎖骨をつまむことで、広頚筋をほぐすことができますので、首肩こりの改善のための鎖骨へのアプローチは美的な要素の改善にもつながるのです。

鎖骨への意識変わってきましたか?

肩こりに効く鎖骨つまみは一時的なもの?それとも根本的な改善につながる?

対症療法として鎖骨へのアプローチが首や肩のコリに対して効果的であることはご理解いただけたかと思います。

慢性的な首肩こりでお悩みの方は、対症療法だけではどうしようもない状態にあります。対症療法ではなく原因療法として、鎖骨へのアプローチは意味あるのか?という点について解説させてください。

姿勢が悪いのは結果でもあり原因でもある

まず、首こりや肩こりの原因は様々ですが、多くの方に共通しいるのは不良姿勢です。

良い姿勢に絶対的なものはありません。時と場合によって変わります。

首肩こりの観点からの「良い姿勢」の条件は、頭の重みをいかに首や肩の筋肉に負担をかけずに支えることができるかどうか?負担を軽ければ軽いほど良い姿勢です。

ですから、首肩こりを改善・予防における「良い姿勢」とは、「首や肩の筋肉への負担が最小となる姿勢」です。

具体的には、頭が体の重心線上にあって、筋肉をあまり使わなくてもバランスがとれている状態です。猫背がいけないのは、頭が体の重心線上になく頭を支えるために首肩に大きな負担をかけているためです。

姿勢と鎖骨の関係

そんな不良姿勢と鎖骨の関係性をみてみましょう。

上述しましたように、胸鎖乳突筋は、下を向く、顎を引く、首をかしげる、歯を食いしばるなどの動きに関与します。日常生活で何気なく行っている首や顎の動きと密接な関係があります。そのため日々の動作のなかで、胸鎖乳突筋は負担を受けやすいのです。

胸鎖乳突筋が緊張してしまうと頭を前に傾けてしまいます。横からみて頭が前方へ突き出た姿勢です。頭が前方にあると、僧帽筋をはじめとした首や肩の後面にある筋肉が、頭を支えるために頑張らなければなりません。この状態が続くことで、首や肩の筋肉に凝りが生じます。このような流れから、胸鎖乳突筋の過緊張は凝りを招く元ともいえます。

胸鎖乳突筋をほぐすことによって頭の位置が改善すれば、首や肩にかかる負担そのものが減少しますので、鎖骨つまみは原因療法としての意義もあるのです。

鎖骨を語る上でどうしても外せない肩甲骨

もう一つ、鎖骨を語る上でどうしても外せないのが、肩甲骨との関連性です。肩甲骨は背中にある左右一対の骨ですが、この肩甲骨、骨格という観点でみると、胴体部分と鎖骨のみで連結しています。

僧帽筋と鎖骨

 

 

緑色部分が肩甲骨です。肩関節付近で鎖骨と連結しています。

肩甲骨と上腕骨(腕の骨)の連結部分が肩関節ですので、鎖骨は「上肢と体幹を結びつける唯一の骨」なのです。

その鎖骨ですが、上肢を動かす「機能」として重要なはたらきを担っています。鎖骨は、胴体と肩甲骨を連結させているパーツなので、鎖骨の両端は、胴体と鎖骨の間、鎖骨と肩甲骨の間で関節になっています。

胴体と鎖骨の連結部分を胸鎖関節(胸骨と鎖骨の連結)、鎖骨と肩甲骨の連結部分を肩鎖関節といいます。

実は、胸鎖関節と肩鎖関節の二つの関節の動きの和が、肩甲骨の動きとなるのです。

上肢の動き、つまり肩や肘の動きには肩甲骨の動きが密接に関わります。

たとえば肩関節ですと、天井に向かって真上にバンザイ(180°挙上)をした時、厳密には動作方向によって若干異なりますが、総じて180°の1/3となる約60°は肩甲骨による動きであるのが正常とされています。肩甲骨がきちんと動かない状態ですと、他の関節に負担がいき、それが繰り返されることで炎症や痛みにつながってしまいます。

肩甲骨をきちんと動かせるようにするために鎖骨を意識してほしい

肩甲骨の動きを改善する手段として代表的なのは肩甲骨はがしです。

ご存知、肩甲骨はがしは、肩甲骨に付着する筋肉をほぐすのに効果的です。剥がすのではなく「ほぐす」のです。剥がれたら大変です。肩甲骨はがしで肩甲骨の動きは改善できますが、鎖骨にもアプローチすることでさらなる改善を目指すことができます。

鎖骨がきちんと動くということは、胸鎖関節と肩鎖関節が正しく機能している証拠です。つまり肩甲骨は正常に動きます。筋肉をほぐしても、実際に動く関節部分が動かなければ、肩甲骨はスムーズに動きません。肩甲骨の動きを改善するためには鎖骨の動きも改善することが大切です。

肩甲骨は体の後ろ側、鎖骨は前側にありますので、まさか肩甲骨の動きを改善するために鎖骨が重要とは思いませんよね。女性でしたらデコルテをキレイにみせるために鎖骨を意識されている方は多いかもしれませんが、日頃、ほとんどの方は「鎖骨の動き」を意識されていないと思います。

これからはぜひ、鎖骨・鎖骨の動きを意識してください。

肩関節の痛みや可動域制限がある方は肩甲骨の動きを改善することが大切です。その肩甲骨の動き改善のために、鎖骨にも着目してみましょう。肩関節に不調がなくても、肩甲骨の動きがぎこちないなと感じた場合、鎖骨を意識して対処するのがオススメです。

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
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テレビ東京 なないろ日和!【肩こり対策を肩もみ以外で…鎖骨ほぐし、尻鍛え、脇鍛え】

つらい肩こりには、鎖骨、尻、脇!達人が伝授もみ方・鍛え方

テレビ東京で毎朝放送されている「なないろ日和」にて取り上げられた肩こり対策へ取材協力しました。

つらいつらい肩こりに

脇運動の達人

藤本靖(ボディワーカー)

尻運動の達人

丸山太地(肩こりラボ代表)

鎖骨ほぐしの達人

吉田一也(理学療法士、医学博士、人間総合科学大学保健医療学部准教授)

放送スケジュール

2019年4月23日(火)午前9時59分〜

テレビ東京・BSテレ東

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
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【取材協力】マッサージのプロが指南!簡単にできる肩こり解消ストレッチと座り方@DIME

オフィスでできる低コストな肩こり対策5つ

デスクワーカーの多くは首や肩のこりに悩まされています。そんなデスクワーカーのみなさまがオフィスで簡単にできる対策について小学館ダイム様より取材を受けました。今回お伝えした対策は以下の5つです。

  1. 症状を解消する肩甲骨のストレッチ
  2. 姿勢改善のストレッチ
  3. 首や肩の負担を減らす座り方
  4. デスク環境の改善
  5. 昼食や間食の工夫

大半の方は肩こり対策としてかけてもよいと思う費用が1日あたり200円以内とのことですので、お金をかけずにできる対策に重点をおきました。

詳しくは@DIMEの記事をご覧ください。

記事のご案内

2019.02.14公開マッサージのプロが指南!簡単にできる肩こり解消ストレッチと座り方

みんなのライフハック@DIME

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


NHKガッテン「“新原因”発見!衝撃の肩・首のこり改善SP」で取り上げていただきました

後頭下筋群への鍼

当院で施術を行い現在もメンテナンスでサポートをしているバレエダンサーの杉山周子さんと当院が行なった鍼とその効果についてのVTRが放送されました。

放送スケジュール

2019年2月13日(水)午後7時30分〜

再放送2019年2月16日(土)午前0時25分〜

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
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イトーUST-770を使った超音波療法

超音波療法は物理療法のひとつ

整形外科領域のリハビリテーション(理学療法)には、物理療法と運動療法の二つの柱があります。温めたり電気を流したりするのが物理療法、筋トレやストレッチなど実際に身体を動かすものが運動療法となります。

物理療法or運動療法ではなく、共に大切です。現在の日本の医療において、保険制度における点数の兼ね合いから物理療法の割合が減り、運動療法が主体になっているのですが、物理療法は運動療法とともに理学療法の両輪をなします。

超音波療法は、物理療法のひとつです。理学療法としての超音波療法は、超音波自体を物理的な刺激として生体に与えて、はたらきかけます。一般外傷や運動器系の急性期及び慢性期の痛み、スポーツ障害などの治療に活用されています。

超音波療法の効果とは?

超音波療法は、主に整形外科のリハビリで患部を温めるのに用いられています。これは超音波が生体組織内に吸収されると超音波の振動エネルギーが熱エネルギーに変換されるためです。特にコラーゲン含有量の高い組織(腱・靭帯・関節包・筋膜など)に加温の効果があります。

超音波には温熱効果だけではなく「音圧効果」があります。

「超音波骨折治療法」をご存知の方も多いのではないでしょうか?骨折の治癒を超音波によって早める治療法で、サッカーのデビッド・ベッカム選手や野球の松井秀喜選手が骨折治療のために受けたことでも注目され、現在では多くの医療機関で行われています。

これは超音波の温熱効果によるものではありません。その詳しい仕組みはさておき、超音波のもう一つの特徴である音圧効果について簡単に説明します。

音波はその字のとおり音の波(波動)です。波と聞けばどうしても海の波を思い浮かべがちですが、海の波と音の波は別物です。音波は縦波です。光やロープを伝わるような波は横波です。横波とは波の進行方向と垂直に揺れる波であり、縦波は進行方向と同じ向きで揺れる波です。縦波は波の進行方向に対して平行な振動が伝わります。

縦波と横波の違い
超音波は縦波です

この振動によって物理的な刺激を与える効果を音圧効果といいますが、音圧効果はそれだけではありません。例えばメガネ屋さんにあるメガネ洗浄機、使ったことある方も多いでしょう。超音波によって水中の気体を膨張→破裂させて、その衝撃でメガネの汚れを落としやすくしているのです。適度な超音波ですと水中の気泡は膨張→収縮を繰り返し、大きな出力で破裂します。これを超音波キャビテーションといいます。

超音波洗浄の仕組み

 

超音波キャビテーション

実際のところ、超音波自体による物理的な振動による刺激だけでなく、このキャビテーション効果による刺激・影響も大きいと考えられています。

私たちのカラダの組織には血液をはじめとした液体があらゆる部位に存在しています。そして液体中には微小気泡が必ず存在します。この気泡が圧縮・拡張を繰り返すと細胞膜を適度に刺激し細胞が活性化を促す、これがキャビテーション効果の考え方です。

過度なキャビテーションは気泡を破裂させます。気泡の破裂による衝撃で組織を損傷してしまう可能性もあります。超音波を医療で使用するには細かいコントロールが必須です。

この音圧効果は、温熱効果と区別して非温熱効果とも呼ばれています。

超音波がなぜ骨折の治癒を早める効果があるのか?

物理的な振動とキャビテーションが同時に起きているため、詳しい仕組みが明確になっていない部分も多いのですが、このキャビテーション効果が人体に何らかの影響を与えていると予想されており研究が進んでいます。

また超音波は音として捉えることはできませんが、人間の耳の中にあるセンサーは感知はしています。最近では、超音波を脳研究や治療に使う可能性についての研究も盛んです。

超音波はまだわからないことが多いのですが、難治性の骨折や偽関節の治癒促進、骨の手術をした後の骨折治癒期間を短縮する目的での超音波治療は健康保険が適用されます。つまり、一定の実績・効果は認められているのです。

実は海外では以前から超音波治療は一般的で身近なものでした。残念ながら日本はいわゆるガラパゴス状態でしたが、ようやく広まりつつあります。

超音波治療器 UST-770

ITO UST-770

 

UST-770伊藤超短波株式会社

肩こりラボでは、伊藤超短波社製の超音波療法機器のなかでもフラッグシップモデル(2018年12月現在) である「イトー UST-770」を導入しています。

超音波治療機器は本体とプローブで構成されています。UST-770の場合、大きなディスプレイを搭載した本体と左側1本・右側に2本のケーブルが接続されています。このケーブルの先端から超音波が出力されます。これをプローブといいます。

UST-770のプローブ

 

プローブを肌に当てて使用します Ito Co., Ltd.

超音波治療器はどれも使い方・基本的な構造自体は同じです。各メーカーから、様々な超音波治療器が発売されています。

UST-770は、国内メーカーの製品であり、一般的なモデルと比べると非常に高価な機種です。

  • なぜ廉価版ではないのか?
  • なぜ海外製のものではないのか?
  • なぜポータブルのものではないのか?

当機種を選んだのには3つの理由があります。それは【安全性】【信頼性】【応用性】です。

イトー UST-770を選んだ3つの理由

安全性

医療機器で重要なのは性能ではありません。もっとも大切なこと、それは安全性です。

超音波治療器のスペックを表す指標に、BNR(Beam Non-uniformity Ratio=ビーム不均等率)があります。BNRは超音波を照射している際の、平均強度(W/cm²)に対する最大強度の比率です。BNRの値が小さければ均等性が高く、逆に値が大きければ出力に大きなムラがあることを意味します。

つまり、超音波を、どれだけムラなく均一に出すことができるか?の指標がBNRです。

超音波治療器は、プローブの先端から超音波が発せられます。実は、この先端部分の面全体から常時均一に一定の超音波が出てはいません。設定した出力は一定でも、実際に出ている超音波は、強くなったり弱くなったりの誤差が生じます。出力される超音波にはムラがあるのです。誤差を完全に無くすことは不可能ですが、この誤差をできるだけ低く抑えることができるかが機器の安全性に繋がります。

そこでBNRでムラの程度をみることができます。たとえば、BNRが5の機器は、平均強度を1W/cm²と設定して照射した場合、最大強度が5W/cm²の部分があることになります。これは、皮膚に当たっているプローブの一部分に5倍の強度の超音波が出てしまう可能性があるということです。

BNRが5の場合の超音波のイメージ

 

超音波のムラのイメージ

超音波には温熱作用がありますから温めすぎると火傷します。施術者が1W/cm²の出力設定で施術しているつもりでも、ピンポイントで強い出力の部分があると意図せずに強い出力を与えてしまう可能性があり、火傷のリスクとなります。ですからBNRが低ければ低いほど均一に超音波が発せられている、つまり火傷しにくいのです。BNRは5以下が良好なBNR値とされています。

国内外含めて様々な超音波療法機器があります。伊藤超短波社からも、複数の超音波療法機器が出されています。たとえば当院で導入している「イトー UST-770」と、同社製のポータブル機器の「イトー US-101L」のBNRを、比較してみると、以下の違いがあります。

 BNR
UST-770(1MHz)2.9
US-101L(1MHz)3.5

このようにBNRに着目してみてみると、ポータブルと比較して、イトー UST-770は安全性が高いといえます。とはいえ、BNR3.5は決して悪い数値ではありません。一般的に良好とされているBNRは5以下で最高クラスの性能でBNRは2〜3です。そう考えれば、ポータブルの「イトー US-101L」も十分安全性が高いといえます。

機器の価格だけでみれば、ポータブルのイトー US-101Lはイトー UST-770の半分以下です。持ち運びができて、スポーツ現場等で使用することを考えれば非常にすぐれた製品といえるでしょう。

ですが、なぜ価格が2倍以上違うにも関わらずイトー UST-770を採用したのか?それは安全性だけは絶対に譲れないためです。たとえわずかだったとしても安全性が高い方を選ぶのが当院の方針です。

 

信頼性

いくら機器が安全でも実際に効果がなければ意味がありません。本当に効果のある機器なのか?安全性に次いで大切なのは機器の信頼性です。

超音波は目に見えません。その機器からきちんと超音波が発せられていなければ、効果は見込めません。機器を扱う施術者の技術はもちろん必要ですが、効果のある施術をするためにも、機器自体に信頼性があるのが前提となります。

超音波機器の品質を示す指標として、安全性であげたBNR以外にERA(Effective Radiation Area=有効照射面積) があります。ERAは超音波が出るプローブの先端部分の面積の内、有効に超音波が出ている部分がどれくらいあるのかを示すものです。ERAは、プローブ先端の面積に近ければ近いほど、品質的に優れているといえます。

超音波機器のERAの比較

 

太田厚美「何故,超音波療法は世界的に最も評価が高いか」より 国立研究開発法人科学技術振興機構

この違いが何に影響するかといいますと、超音波療法の正確性と効率性です。

正確性

超音波療法は、患部の病状、対象(部位と深度)、患者さんの感受性などを考慮して施術者が任意で細かく設定をできることが利点でもあります。これは他の温熱療法の機器との大きな違いです。

ところが、ERAが不良ですと、施術者としては病巣部位に対して施術を行っているつもりでも、そもそも、実際はきちんと超音波が照射されていなかったことになってしまいます。そうしますと、超音波療法の利点が利点ではなくなってしまいますね。

効率性

同じ部位に、同じ設定・時間で超音波療法を行う場合、ERAの良好な機種とそうでないものでは当然ですが効果に差がでます。

例えばですがERAが良好な機種で5分間で得られる効果が得られるのに対して、ERAが不良な機種で同等の効果を出すのに10分かかってしまうといったケースは容易に想像できるはずです。

超音波療法の施術を行っている最中は、施術者の手が塞がってしまうので、同時に他のことはできません。治療の時間は限られていますので、効率性はとても重要となります。先程の例でいうと、A機種であれば、Bを使った場合よりも、5分間プラスで他の施術ができます。A or B どちらの機種を使ったほうが、治療全体としての効果が期待できるか?言うまでもありませんね。

超音波治療器は、ピンポイトで施術ができるメリットがある反面、基本的には施術者が常に操作をし続けなければなりません。他の治療機器と比較して、正確性の面で利点がありますが、同時進行で複数の施術ができないため、効率面では他の方法に劣ります。正確性と効率性が相反する関係にあるからこそ、機器の精度により、効率性を補うことが大切となります。

超音波は目に見えませんので、設定した通りにきちんと出ているかは、機械の精度に頼らざるを得ません。ですので、超音波療法を行ううえで、機器の信頼性はとても重要です。そのためにBNRとERAは重要な指標となります。

 

応用性

BNRやERAの観点から、安全性と信頼性が高い機器は「イトー UST-770」以外にもありますが、応用性の点で「イトー UST-770」は優れています。設定範囲が広く、幅広い疾患に対応することができるのです。

超音波療法には大きく二つの効果が期待できます。

温熱作用

  • 疼痛緩和(血流改善、循環改善)
  • 組織の伸展性改善
  • 筋スパズムの改善(筋紡錘の感度軽減)
  • 骨格筋の収縮機能の改善(血流改善)

音圧作用

  • 炎症の治癒促進(微細振動による細胞膜の透過性や活性度を改善)
  • 浮腫軽減(微細振動のマッサージによる循環改善)

この音圧作用は、機械的作用ともいわれ、超音波療法ならではの効果です。

一般的には、急性の炎症がある時は、患部への強い刺激はNGです。原則は安静です。ですが、近年では、絶対安静はかえって治癒を遅らせてしまい、安静は必要でも適度な負荷を与えたほうがよい、と提唱されています。

急性の炎症がある時ほど、痛みがあり、どうにかして欲しいのが患者さん心理ですが、標準医学的な観点からみると、闇雲に弄くることでかえって病状を悪化させかねません。ですので、早期に痛みを引かせるために「(急性の炎症がある)患部にはあえて触らない」という判断をする場合があります。炎症がある部位に鍼をうったら余計炎症が増してしまうのは想像できますよね。

急性の炎症がある際は、無闇に触れないのが早期治癒には大切です。患部に関しては、あえて積極的に施術をせず、患部周辺のコンディション改善が教科書的な対処方法でした。ところが、超音波の音圧作用を利用すると、急性炎症の患部に対しても早期治癒のために積極的な施術ができるのです。

これまでは炎症が引くのを“待つ”、しばらく我慢するのが当たり前でしたが、治癒促進のための対処を可能にしたのが超音波療法です。

音圧作用を効果的に使うために重要なポイントがあります。それは温めてはいけないのです。具体的には、出力を低くし、照射時間も短くすることで、患部を温めずに、微細振動による軽微な刺激を患部へ与えることができます。

低出力パルスの超音波も出力できるUST-770

イトー UST-770には、LIPUS( Low Intensity Pulsed Ultrasound / ライプス )という機能があります。直訳すると、低出力パルス超音波となります。極々弱い超音波を断続的に発振することができます。発熱が弱いため患部に固定して使用することができ、筋・腱・靭帯といった軟部組織の損傷にたいして効果的な機能です。

イトー UST-770のLIPUSは、30mW/cm²、45mW/cm²、60mW/cm²の3つの出力設定ができます。これがどのくらい弱いかというと、イトー UST-770や、他の国産のもの含めて、通常の超音波治療器の設定ですと0.1W/cm²の出力が最小となります。

0.1W/cm²=100mW/cm²ですので、通常の設定で最小となるものからさらに3分の1程度弱い設定ができるのです。つまり、従来の設定ではできなかった、とても弱い超音波による施術ができるのです。

照射する深さも柔軟に変えることができるため、炎症があって敏感な箇所や、感受性が豊かな方に対しても用いることができます。

 

UST-770はプローブによって浅部から深部まで対応できる

 

皮膚に近い部分から遠く深い部分まで幅広く対応 Ito Co., Ltd.

ライプスは、難治性の骨折や偽関節の治癒促進、骨の手術をした後の骨折治癒期間を短縮する目的での利用において、健康保険が適用となっています。健康保険が適用される、つまりライプスを使った治療は国から一定の効果が認められているわけです。

肩こりラボでは、健康保険を利用した治療、ならびに骨の治療は行っておりませんが、このような標準医学的観点から認められている機器を利用して、筋線維・筋膜・腱・靭帯などの軟部組織のトラブルに対して施術を行っています。具体的には、五十肩の炎症期(急性期)、腱鞘炎、肉離れや捻挫をはじめとした各種スポーツ傷害の急性期に対する理学療法の手段として使用しています。

超音波と低出力パルスを兼ね備えた唯一の国産機器

一般的なイメージとは逆かもしれませんが「いかに強い刺激を与えられるか」よりも「いかに弱い刺激を与えるか」「いかに弱い刺激で効果を出すか」のほうがずっと難しいのです。機器においても、出力を高めることよりも、いかに弱い出力で安定して超音波を発振できるかという方が、出力の制御や微調整の面で技術的に難しいのです。

2019年1月時点で、ライプス機能のみの超音波療法器はありますが、通常のモードとライプスの両方を、1台の機器で行うことができる国産の機器はイトー UST-770のみです。

超音波療法には、温熱効果と音圧効果が期待できます。ライプス機能があることで、音圧効果を期待した施術の幅が広がり、より繊細な施術につながります。

肩こりラボでの超音波療法の位置付け

超音波療法は、温熱作用により深部を温められること、そして音圧作用により炎症部位へアプローチできるという特徴があります。これらは、鍼・マッサージ・運動療法だけでは難しい、できたとしてもとても効率的なアプローチとはいえません。

肩こりラボでの超音波療法

 

超音波療法が最適な場合にのみ使用します

当院は鍼灸院ですが、鍼・マッサージが全てではありません。鍼もマッサージもあくまで手段・方法のひとつです。鍼がベストな場合は鍼、マッサージがベストならマッサージ、常に最適かつもっとも効果的な方法をとるのが肩こりラボが行ってきた・行っている理学療法です。鍼やマッサージ・運動療法とならんでひとつの手段として超音波療法を取り入れています。

超音波療法を使用する頻度が高いのは、40肩や50肩といった肩関節痛、腱鞘炎、スポーツ傷害、肉離れ、捻挫などです。当院は首こりや肩こりの改善が専門ですが、実はこのような疾患を抱えている方が多数いらっしゃっております。

首肩こりにお悩みの方は、長時間のデスクワークをしている場合が多く、マウス作業のしすぎで腱鞘炎になってしまうこともあります。首肩こりの改善と並行して腱鞘炎に対して超音波を使った施術も行います。また、いわゆる筋膜リリースの手段として筋膜の癒着やシワ(高密度化)の改善に用いることもあります。

超音波療法を行うことが治療そのものではない

繰り返しで恐縮ですが、超音波療法は、あくまでも施術手段の一つでしかありません。

「とりあえず電気でも流しておきましょう」

整形外科でこのようなことを言われた経験がある方は多いと多いますが、当院では超音波療法はとりあえずやってみましょうといった使い方はしません。

必要に応じて、そして効果が期待できると判断した場合に使います。

一発で治る、そんな万能な方法は存在しません

特定の症状を抑える・緩和に一発で効く方法はありますが、慢性的な症状は簡単には治りませんし、再発しないようにすることが理想のゴールです。

どのようなものにも長所と短所があります。

どれだけ優秀な選手が集まってもチームとして機能するかは話が別です。仕事やプロジェクトでも同じです。

鍼・マッサージ・超音波・運動、これらがそれぞれどれだけ優れていたとしても、単体では活きません。

肩こりラボでは、各施術を、長所が活きるよう施術者が見極めて行い、また、他の施術を組み合わせることで短所を補うのが大切だと考えています。そのため、1回の施術で超音波療法のみ行うことはほぼありません。

五十肩に超音波を使用する場合

たとえば、五十肩の急性期。痛くて非常につらい時期です。炎症があって痛みがある時は、炎症による痛みに加えて、周囲の筋肉がかばって硬くなって、結果として痛みを助長させてしまいます。このような場合、肩こりラボでは、炎症がある関節部分には音圧作用を求めて超音波療法、周囲の筋緊張に対しては鍼やマッサージを行います。

超音波を用いた施術でも、筋肉を緩めることはできますが、一般的にみて鍼やマッサージと比較して効果がマイルドで局所的にしか効果がありません。広範囲を施術するにはどうしても超音波だけでは所用時間が長くかかります。

効果と効率性を考えると、防御によって生じている周囲の筋緊張の緩和には鍼・マッサージを施すこと多いのです。ですが、これも必ずではなく、鍼やマッサージが苦手な方、敏感でできない方もいらっしゃいます。このような場合には、超音波療法にて筋緊張の緩和を図ることもあります。

カスタムメイド医療の考え方で、患者さんのお身体状況や感受性、そして考え方を尊重した施術を行います。

UST-770を使用する施術

肩こり・首こり専門コース四十肩・五十肩専門コース腰痛専門コース足専門コース体幹コンディショニング

参考文献

  • 「何故,超音波療法は世界的に最も評価が高いか」
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/mpta/17/1/17_1_14/_pdf
  • 「艾の燃焼温度と生体内温度変化に関する研究」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam1981/38/3/38_3_326/_pdf/-char/ja
  • 「艾の燃焼温度と生体内温度変化に関する研究(第2報)-隔物灸について-」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam1981/39/2/39_2_241/_pdf/-char/ja

 

 


執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


【書籍出版のお知らせ】『肩こりはおしりを鍛えて治す』

当院代表 丸山太地が20181124日に初の書籍『肩こりはおしりを鍛えて治す』を出版いたしました。

 

内容説明

本書では、当院の実際の治療でも取り入れている、今つらい肩こりを治すストレッチと、肩こりに悩まない身体づくりのためのエクササイズをご紹介。身体の礎となるおしり周辺の筋肉を鍛えることで、肩こりの根本的な改善を目指します。

また、治療の実例、四十肩、五十肩の原因から治し方、さらには肩こりのQ&Aも収録。盛り沢山の内容となっています。

ご紹介しているストレッチやエクササイズは、イラストによる解説付きなので、とても分かりやすく、無理なく実践していただけます。

この一冊が、肩こりや身体の不調にお悩みの方の元に届き、お悩み改善の一助となりましたら嬉しい限りです。一度お手に取っていただけましたら幸いです。

 

書籍のご案内

題名 :『肩こりはおしりを鍛えて治す』

著者 :丸山太地

出版社:大和書房

発売日:20181124

定価 :1,400+

Amazon購入ページ

 

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
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