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【肩関節周囲炎】50肩の病期に応じた対症療法と原因療法とは?

50肩という言葉の解説と発症する原因、症状進行の大まかな流れについてのブログ記事『五十肩の原因・症状・治し方 ①五十肩とは』に続きまして、今回は具体的に50肩はどうすれば治るのか?についての解説です。

病院に行っても50肩が治らない!!一向に改善しない!!これには明確な理由があります。

現在、通院中の方はもちろん病院での受診をお考えのみなさん、いま、あなたが困っていたり悩んでいるのは、誤った情報と思い込みのせいかもしれません。

悩み・迷いをなくすには、あなた自身が、なるほど!と納得できる情報です。

何が正しくて何が間違っているのか、あなたが正しいと思った情報が正しいのです。

40肩・50肩と気軽に言ってしまいますが、実は奥が深いのです

40代-50代で「肩を動かすと痛い」「何もしていなくても肩が痛い」「肩が痛すぎて眠れない」「痛くて腕が上がらない」といった症状がすべて40肩・50肩というのが一般的な認識でしょう。

ですが実際は、そうではないケースも多いのです。

厳密には50肩(40肩)とは骨自体でなく関節包・肩関節の周囲の筋肉に原因があるものを指します

医学専門用語では「五十肩(=凍結肩=癒着性関節包炎)とは関節包の肥厚・短縮・硬化を主病態とし、肩痛・可動域制限を主訴とする疾患」となっています。

肩関節周囲炎は名前のとおり関節のトラブル!!実は年齢には関係ない

中高年に限定すれば5人に1人が何かしらの肩の痛みがあると言われています。40肩・50肩は年老いた証というのが一般的な認識かもしれませんが20代・30代でも発症します。つまり「自分はまだ30代前半だし、40肩のわけがない!」と思いこみ、ほっとけば治るという認識は危険です。

痛みを我慢すれば腕を動かすことはできるような肩痛もあれば、腕が全然動かせない肩痛もあります。肩こりも五十肩も痛いという共通点があり、肩こりによる痛みと混同されがちですが、コリによる痛みは筋肉の痛み、筋肉痛です。

50肩の根本的な問題は【肩の関節】です。もちろん筋肉も含みますが、問題の核心は関節なのです。

50肩によって周辺の筋肉に影響は出ますので、どうしても混同されがちですが「肩こり」と「50肩」は全くの別物です。

肩関節の痛みという症状に含まれているのが50肩であり、肩の関節が痛いからといって、それは50肩とは限らないのです。

肩が痛い!まさか五十肩?・・・判別する方法

 

50肩と【診断】できるのは医師のみです。

整形外科にてX線、MRI、超音波などを使った検査を行った上で、腱版断裂、腱板炎、石灰性腱炎、上腕二頭筋長頭腱炎といった明らかな疾患がない場合、【肩関節周囲炎】です、いわゆる50肩ですね、という診断がなされます。

大切なことなので繰り返しますが、明らかな疾患がない場合が「肩関節周囲炎」なのです。

「えっ?なにそれ、どういうこと?」って驚かれたかもしれません。

明らかな疾患がなければ五十肩??

そんないい加減なもの?アバウトすぎない?と思われるかもしれません。医療機関で、原因不明で確実な改善方法がないという診断が「50肩」なのです。

肩関節の様々な問題は、まだまだ研究段階にあるものが多く、医療機関で「様子をみましょう」と言わざるをえないのです。これは医療機関が悪いわけではありません。保険制度・医療制度上仕方のないことなのです。発言・診断に責任が伴う以上、仕方のないことなのです。

これより40肩・50肩を【肩関節周囲炎】という名称に統一して解説していきます。

【肩関節周囲炎】は20代・30代でも発症する

若年層の首や肩への負担はスマートフォン・パソコンなどの普及により増大しています。ストレートネック・巻き肩は10代にも広がっています。

【肩関節周囲炎】の原因は解明されていないことが多いのですが、加齢による筋肉や関節の変性と血液循環の悪化が主な原因でされています。

明確なことは申し上げられませんが、首や肩への負担が【肩関節周囲炎】と関係ないと言い切ることは誰もできないと思います。

年齢をとれば体にガタがくるのは仕方ないと誰もがお思いでしょう。

ですが、安心してください。

【肩関節周囲炎】は関節の老化が全てではありません!!

事実、20代・30代でも【肩関節周囲炎】は発症します。

ただ、40代〜は運動不足・筋肉量の低下・食事の変化といった影響により発症しやすいだけです。

若くても肩関節周囲炎は発症してしまう、つまり加齢による不可抗力的な症状ではない、ということをご理解ください。

【肩関節周囲炎】は人によって進行具合が異なります。

大切なのは今現在の肩の状態を正確に把握する必要があります。

【肩関節周囲炎】は時間と共に症状が変化する


【肩関節周囲炎】は経過と共に症状が変化するという特徴があります。

  1. 急性期

    炎症期ともいいます。疼痛が主体で可動域制限が進行する(6週~9ヶ月)

  2. 拘縮期

    可動域制限が著しく進行する(4~6ヶ月)

  3. 回復期

    疼痛・可動域制限ともに軽快する(6カ月~2年)

【肩関節周囲炎】は、一般的に3つの病期に分かれます。いつのまにか痛みが治まってきたと感じるのは回復期にあたります。

【肩関節周囲炎】への適切な対処には、最低限この3つの病期に応じた処置を行う必要があります。3つに分類にはなっていますが、実際は、急性期→拘縮期、拘縮期→回復期への移行時期も存在します。

肩こりラボでは拘縮期は前期・後期に分けて考えており、移行期ふくめて6つの期間+急性期の前段階も合わせて7つの期間に分けています。

この分け方は、当院独自の分け方です。

なぜ【肩関節周囲炎】を病院は治してくれないのか?

肩の痛みは命に関わるものでもないですし、肩こり同様、年齢のせいにされがちで軽視されています。さらに厄介なことに、放っておけばいつかは痛み自体は治まるため、とりあえずの対症療法で様子をみましょう、というのが一般的な対応です。

病院で治らないのは、保険適用できる範囲内で対応できる術がないためです。それがあれば、全国どこの整形外科でも対応でき、少なくともなぜ治らない?と悩む人は減ります。

ですが、現在医学的に原因不明とされている【肩関節周囲炎】の痛みを解明するために世界中で研究が進んでいます!

「五十肩は放っておけば治るんでしょ?」という疑問にお答えします。

病期についての説明で「回復期」という言葉にピンときた方、この回復期が五十肩は自然に治るものとされている定説のポイントです。

【肩関節周囲炎】は、肩に違和感を感じはじめ、やがて激しく痛みが出る→痛みが少し落ち着くが肩が動かなくなる→痛みがおさまり肩が動くようになるという流れを辿ります。

注意していただきたいのは、このように「痛み」にフォーカスすれば、たしかに自然とおさまります。痛みが治まる=【肩関節周囲炎】が治った、ではないのです。

この痛みをなんとか誤魔化し時間が経つのを待つ=様子を見る、というのは、今現在つらい思いをされている方が望んでいることではないはずです。

自然と痛みがおさまっても、残念ながら以前のようには肩は動かなくなります。

適切な処置をせずに【肩関節周囲炎】を放置して自然と痛みを感じなくなるケースでは、ほぼ確実に肩関節の可動域制限が生じます。痛みは引いたけれども、元のようにスムーズに動かない、肩を真上にピっと垂直にあげることができない、腕が耳につかない、といった状態です。

日常生活において、両腕を真横に広げることができれば(肩が90度まで動けば)、肘を使って様々な動作はなんとかこなせます。ですから意識されていない方もいらっしゃるはずです。

例えば、思い切り万歳!できなくても、小ぶりな万歳はできます。このように生活にはさほど困りません。ですが、腕を使う職人さんやゴルフをはじめとしたスポーツを趣味とされている方にとっては相当なダメージです。これを年齢のせいと一言で片付けてしまうことは簡単です。

【肩関節周囲炎】を放置すると可動域が制限される理由

なぜ、動かすことのできる範囲が制限されてしまうのでしょう?

人は痛みがあると無意識にかばってしまいます。【肩関節周囲炎】の場合、その痛みをかばうために長期間にわたって肩関節を動かさないようにしてしまうのです。関節を長い間動かさないでいると固まってしまいます。これを専門用語で「関節拘縮かんせつこうしゅく」といいます。関節拘縮かんせつこうしゅくは「関節包かんせつほうの癒着が生じてしまう」状態を指します。

関節包かんせつほうに問題が残るだけでなく、筋肉にも悪影響が出ます。肩を長期間動かさないことで、インナーマッスルなど動かすために重要な筋肉が衰えるのです。

いつも使っていた筋肉を使わなくなれば当然筋力は衰えと思われることでしょう。

ここに多くの方が誤解されているポイントがあります。筋肉を鍛えれば元に戻るというわけではないのです。

筋肉を正しく動かす能力自体が衰えてしまう

筋肉を長期間動かさないことで、筋力だけでなく筋肉を正しく動かす能力自体が衰えてしまいます。

筋肉=力、という筋力のイメージをお持ちの方がほとんどでしょう。

もちろん力も大切ですが「動かし方」これがとても重要です。

筋肉を正しく動かす能力は、普段は意識することがありません。

身についてしまっているからです。

一度身についていたものを失うということは、身につけ方を覚えていればよいのですが、これを自力でなんとかするのは難しいことなのです。

たとえば、長い間車椅子生活を余儀なくされ、長い間歩くことがなければ、リハビリが大変なことになるのは想像に難くないでしょう。【肩関節周囲炎】の場合も同じなのです。長い間動かさないと、動かし方を再度身に付ける・正常に戻すためには専門家の指導が絶対に必要です。

可動域が制限されてしまうのは、長期間肩関節を動かさないようにすることで、筋力が衰えるだけでなく、筋肉の使い方を忘れてしまうためです。筋力自体は元に戻すことはできても、筋肉の使い方を再習得するのは自力では困難です。

【肩関節周囲炎】を諦めないでほしい!

痛いから動かせない肩関節痛と【肩関節周囲炎】は厳密には異なる疾患です。

痛みが治まっても、以前のように動かせなくなるのが【肩関節周囲炎】。痛みさえ治まれば問題なく動かせるのは【肩関節周囲炎】ではございません。自己判断で【肩関節周囲炎】だと思いこんでいらっしゃる方の内、実際は違う肩関節痛であるケースは多いと思われます。

とにかく痛みだけ抑えるのは絶対に必要な対症療法

なにはともあれ痛みだけでもなんとかしたい、これは苦しんでいる方にとって一番の願いです。とりあえず痛みだけおさまってくれればそれでいいと思われる気持ちはよくわかりますが、痛みを抑えることが全てではありません。クスリや注射には当然のことながら副作用もあります。四十肩・五十肩が根本的に改善するというのは、腕や肩が発症以前のように動かせる状態になるということです。

その具体的な方法については以下で解説いたします。

【肩関節周囲炎】への効果的なアプローチ方法

 

肩関節周囲炎は、病期に応じた対症療法と原因療法が必要です。当院では病期を7つに分類していますが、整形外科的基本となっている急性期・拘縮期・回復期の3つの病期において何をすべきなのかをご説明します。

アメリカの理学療法ガイドラインでは4つに分けられています。

 

急性期(6週~9ヶ月)

五十肩を患っていらっしゃる方にとって、最もつらい時期がこの急性期です。動作時だけではなくじっとしていても痛みがあります。夜間痛が生じる場合も多く、痛くて眠れず鬱など精神症状へとつながっていってしまうこともあります。痛みをなんとか抑えることが望ましいのですが、実際のところ簡単には治りません。緩和はできても、ある程度の痛みは覚悟する必要があります。その痛みと向き合う時間をできるだけ短くする、つまり急性期という期間を出来るだけ短くすることが効果的なのです。

 

急性期に行うべき処置

  • 炎症の鎮静化
  • 拘縮期への早期移行
  • 痛みの緩和

実際に、急性期の五十肩に対して病院が行うのは保存療法が主です。保存療法では、手術をせず、投薬やリハビリを行います。具体的には、炎症を抑える・痛みを緩和するたことを目的とした投薬と注射になります。

どんな薬?どんな注射?・・・気になりますよね。

はい、医療機関で処方される薬と注射について解説します。

五十肩の急性期に処方される薬

非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID=Non Steroidal Anti Inflammatory Drug)の処方が医療機関での第一選択肢となります。錠剤、湿布、座薬といった患者さんに合わせたタイプで処方され、いずれも鎮痛と抗炎症作用の両方が期待できます。服用する内用薬の場合はロキソニン、湿布の場合は、モーラステープまたはロキソニンテープが多いです。これらが効かない場合、より強力なボルタレンが処方されますが座薬として処方されることが多いです。これらNSAIDの処方で痛みが治らず生活に支障をきたす場合は、もう一段階強力なトラムセットが処方されます。トラムセットは強力な鎮痛作用がありますが、トラムセットに含まれているアセトアミノフェンによる抗炎症作用は弱めです。

NSAID・トラムセットは処方される薬で市販薬ではございません。五十肩などに効くとされる市販薬については別記事で解説しました。

【検証】薬で五十肩・四十肩はよくなるの?五十肩に効くとされるクスリの効果と意味を解説

注射が鎮痛にはもっとも効果あり

目的を「痛み緩和」に限定した場合、最も効果的な手段です。整形外科、または麻酔科(ペインクリニック)にて受けることができ、ヒアルロン酸注射とステロイド注射の2種類が一般的です。

ヒアルロン酸注射

ヒアルロン酸のもつ抗炎症作用及び鎮痛作用により痛みの緩和が期待できます。さらに腱の癒着防止作用、関節拘縮抑制作用も期待できるため、整形外科では1週間に一度、連続5回ヒアルロン酸を注射するのが一般的です。ヒアルロン酸を飲食物として経口的摂取しても上記の効果はなく、あくまでも患部に直接注入する必要があります。

ステロイド注射

炎症が強く関節に腫れがある場合はヒアルロン酸による効果が得られにくく、その場合強力な抗炎症作用があるステロイド注射が有効です。ステロイド注射は、急性期の炎症鎮静化と痛みの緩和においては最も効果が期待できる方法である。ただし何度も繰り返すと軟骨を痛めるリスクがあり、多用は危険です。ですので連続してステロイド注射をする場合は最低3ヶ月以上の間隔をおく必要があり1年に計2回までとされています。

以上が、医療機関で受ける治療になります。他にPRP療法(自己多血小板血漿療法)や運動器カテーテルといった特殊な方法もあります。テレビで紹介されたり有名人が行なったことがニュースになり知名度は高いのですが、いずれも保険が適用されません。

次に、当院で行なっている方法ご紹介します。

肩ラボの急性期の五十肩へのアプローチ方法

とにかく痛みをなんとかしてほしい!これが患者さんがもっとも望んでいることです。痛みの緩和・炎症の鎮静化はもちろん大切です。

重要なのは、できる限り「拘縮期への早期移行」を促す、これがポイントです。

拘縮期への早期移行とは、肩が動かなくなる状態になっていただくということ。肩が痛くて動かしにくい状態から、肩が全然動かない状態になるということは悪化していると感じられるはずです。ですが、この動かない状態(=拘縮期)を経ないと治りません。

ここの理解が得られないと次のステージへ進めません。

医療機関にて五十肩と診断を受けた方に対して、当院のような鍼灸・マッサージ院ができるのは「寒冷療法」「超音波療法」「鍼」「マッサージ」「運動療法」の5つです。

痛みの緩和の効果に限れば、整形外科・ペインクリニックの注射には劣ります。

五十肩に対するアプローチの本質は、状態に応じた処置方法の組み合わせ方です。つらい症状を緩和する対症療法はもちろんですが、つらい期間をできるだけ短くし、五十肩を発症する前の状態に戻すためには、適切な処置を個々に合わせて組み合わせるテクニックが必要なのです。

寒冷療法

炎症が強くて痛みが激しく、熱感や腫脹(腫れ)がある場合は、まずはアイシングにより鎮痛と炎症の鎮静化を図ります。

超音波療法

超音波で炎症部位に極微細な刺激を与えることで、細胞の反応を喚起して治癒を促進させます。1秒間に100万回(1MHz)/300万回(3MHz)の高速度ミクロマッサージが可能なUST-770(伊藤超短波株式会社)を使用します。

鍼とマッサージ

鍼を打つことで、急性期の痛みが魔法のように治ることはありません。そして急性の炎症部位に鍼を行うことで却って炎症を助長させる可能性が高いため直接的な鍼は原則行いません。

では、どこに鍼を刺すのか?といいますと患部となる肩関節の“周囲”に刺します。

急性期は関節内部の炎症に加え、痛みに対する生体の防御反応により肩関節周囲の筋肉に過剰な緊張(スパズム)が生じています。

この過剰なスパズムによって関節部の痛みの助長や、腕や首などの周辺部位の不快感や鈍痛、気怠さなどの二次的な痛みが合併して発症しているケースがほとんどです。

さらに緊張だけでなく、痛みにより動かしたくても動かせない期間が続くため、不動により筋肉(筋線維と筋膜)の硬化が生じます。

炎症部に負担をかけずに筋緊張の緩和を図るためには、過度なストレッチや体操は避けなければいけません。

炎症部に負担をかけないために鍼・マッサージで行うことが望ましいのです。急性期における鍼・マッサージは、肩関節周囲の過剰な筋緊張の緩和と血流改善をすることで、二次的な痛みの緩和を図ることと関節拘縮の軽減が目的です。

マッサージと鍼は、個々の患者さんの感受性や具合に応じて使い分け、または組み合わせて行います。

運動療法

急性期において炎症の早期鎮静化は最優先課題です。原則痛みを我慢して動かすということは行いません。

ですが、インナーマッスル(腱板)の強化は必要です。

そのため、インナーマッスル強化のために運動療法は極めて低負荷で行います。

インナーマッスルの強化によって関節拘縮を予防して根治までの期間を縮まります。インナーマッスル(腱板)のなかでも特に棘上筋と棘下筋の強化が大切で、あくまでも痛みを自覚しない範囲で行うことが重要です。わずかな挙動においても痛みが強い場合は、炎症鎮静化を優先します。

繰り返しになりますが、痛みを我慢しての運動療法は行いません。

 

拘縮期(4~6ヶ月)

拘縮期に入ると、“何もしないでも痛い”状態からはやや解放され、主に運動療法が行われます。この拘縮期に運動療法と併行して鍼灸・マッサージを行うことがポイントです。

鍼灸・マッサージは急性期と拘縮期の移行時期に最も有効

急性期の終盤「一時の激痛は少しおさまってきたが、動かすと痛い!」という状況になります。それ以降、急速に関節の拘縮(固まって動かなくなること)が進行します。この急性期→拘縮期の移行時期に、きちんと適切な処置ができるかどうかが、とても大切なポイントなのです。鍼灸・マッサージは、この急性期と拘縮期の移行時期に行う処置として最も有効であると考えております。

関節拘縮を放置してしまいますと元通りにするのは非常に困難です。残念ながら、完全な可動域までの回復が難しくなります。拘縮期を経て回復期に移行した後の可動域を確保するためには、拘縮期における関節拘縮の程度をコントロールする必要があります。

拘縮期に入ってしまってからよりは、症状が変化する、急性期→拘縮期に移行するタイミングで“痛みの管理と関節拘縮の予防”ができることが望ましいわけです。そのための手段として鍼灸・マッサージは効果を発揮すると期待できるのです。

鍼・マッサージで痛みが緩和できる理由

鍼灸・マッサージは「筋肉をゆるめる」と「血流を増加させる」の2点に特化しています。

筋肉の緩和・血流の増加で、なぜ痛みが緩和されるのでしょうか?

人間は痛みを感じると条件反射によりその部位付近の筋緊張が高まります。肩関節は他の関節と異なり、筋肉によって支えられている割合が多いのです。肩をとりまく筋肉の状態により可動性は大きく左右されるのです。

また、肩の動きは“肩甲骨の動き+上腕骨(腕の骨)の動き”によって成り立っています。(これを肩甲上腕リズムまたはコッドマンリズムといいます)

五十肩にお悩みの方は、その痛みに対する防御と長期間肩動かさないことから、ほぼ全員に肩甲骨の硬化が生じます。具体的には肩甲胸郭関節の拘縮が生じているのです。

 

五十肩の拘縮期における鍼・マッサージの目的

  • 鎮痛と運動療法の補助
  • 肩甲骨の動きの回復
  • 筋肉の伸縮性を正常化

鍼とマッサージはこの3点において大変有効ですから、拘縮期から回復期へスムーズに移行できるのです。

 

回復期(6ヶ月〜2年)

回復期には、可動域が回復して根治にむかう時期です。ここまでくれば、肩を苦なく動かせるようになってきて、日に日に良くなってくるのが実感できます。

そこで関節可動域の拡大とスムーズな動きを目指し、積極的な可動域訓練と筋力トレーニングをメインに行います。

特にインナーマッスルの機能回復、前後左右の対になる筋力(force couple mechanism)の関係性を整えることに重点を置きます。

 

肩局所だけでなく、姿勢や日常の動きなど全身に対するアプローチも行います。

この時の鍼灸・マッサージは、可動域を高めるための補助と筋力トレーニングによって疲労した部分の回復が主な目的となります。

動かしにくさを補助して動きを円滑にする、そして二次的な痛みを予防できるという点で鍼灸・マッサージはとても有効なのです。

運動療法・リハビリの効果が出ない理由、それは肩甲骨にあります

肩の動きのうち、三分の一は肩甲骨の動きに頼るものです。気をつけの姿勢からバンザイのまでの角度を180度としたら、60度は肩甲骨が動くことによるものです。裏返せば、いわゆる肩関節(肩甲上腕関節)のみでは人体の構造上120度しか動かないのです。

五十肩、四十肩、肩甲上腕リズム、コッドマンリズム コッドマネクササイズ 出典:ameblo.jp

そのため肩甲骨がきちんと動かなければ、運動療法をしようにも、そもそもうまく動かすことができず、効果を期待できません。

リハビリにて肩を動かす運動を処方されても一向に変化がないか、動かしたくてもうまく動かない、あるいはある程度動くようになったが頭打ちとなったといった場合は、肩を動かす前段階として肩甲骨が動いていない可能性が高いです。

よって積極的に運動療法を行う拘縮期となる少し前から“肩甲骨の可動性”を確保するための鍼灸・マッサージは有効であり、併用して行うことで運動療法の効果を高めることにもつながり、結果的に根治までの期間を早めることにつながると考えられます。

五十肩、四十肩、凍結肩、按摩、マッサージ 出典:www.yogawiz.com

肩甲骨の可動性と共に重要なのが腕の骨(上腕骨)と肩甲骨を連結するいわゆる肩関節(肩甲上腕関節)を円滑に動かすために必要なことはインナーマッスルの活性化です。

インナーマッスルの「強化」ではなく「活性化」とした理由

多くの場合、筋力を高めるためにはトレーニング=筋肉に負荷をかけて縮ませることが第一選択肢となります。

しかし五十肩のように関節をあまり動かさない状態が続くと、関節だけではなく筋肉も硬くなり本来の「伸縮性」が失われてしまいます。ギュッと縮まってしまっている筋肉を、さらに負荷をかけて縮ませても効果は半減です。

筋力トレーニングの原則として、まず筋肉が適切に伸長する必要があります。伸長された筋肉が縮まる際に負荷をかけることで効果の出る適切な筋力トレーニングが可能となります。

このため、筋肉を「強化」する前段階として「活性化」が必要になります。

このような「活性化」つまり硬くなって伸縮という正しい機能を失ってしまっている筋肉を回復させるために鍼灸・マッサージは有効といえます。

筋肉の正常な伸縮性を取り戻してからトレーニングすることにより、インナーマッスルトレーニングの効果を促進することが可能と考えられます。

リハビリ・運動療法がうまくいかない問題の本質

病院・クリニックのリハビリなどでアイロン体操(=コッドマンエクササイズ=ぶん回し体操)や棒体操などのストレッチなどを行うように指導され、一生懸命行っても一向に変化が出ないことが大半かもしれません。これまで述べてきた通り五十肩においてもっと大切なことは病期と痛みの原因の把握です。運動療法の効果がない、一向に良くならない場合は、そもそも「五十肩の病期とその処置」「痛みの原因とその処置」が合致していない可能性大です。

アイロン体操↓

棒体操↓

五十肩は放っておいてもいつかは痛みがおさまることが多いため、軽視されてきました。

昔ながらの方法も「五十肩・四十肩といえば〇〇」といったような古くから伝わる伝統的な方法が、マニュアル的に行われているにすぎず、肩こり同様最終的に「年齢のせい」ということでうやむやになってしまっている・・・これが現実です。

五十肩で当院に駆け込んでいらっしゃる方に、これまでの経過を伺うと「リハビリに通ってもいつもの流れ作業の繰り替えしで、一向に改善しない」とおっしゃる方がほとんどです。

当記事で紹介した当院で行なっているような方法を実践している医療機関は・・・極めて少ないでしょう。

さきほど一般的に3つの病期があると説明しましたが、実際はその3つの期間の把握すらもされないのが普通なのです。普通の保険診療では医師の対応は数分で終わりです。これは手抜きではなく、そもそも時間がかけられないのです。時間がかけられない以上、整形外科医にとってまずは五十肩か否かが大切で、五十肩でないとわかればいろいろしてくれますが、五十肩となると詳しく検査はされません。

当院は、鍼とマッサージがメインですが、鍼自体を認めていない整形外科医・理学療法士は少なくありません。

鍼というとツボ・経路といった神秘的なもの、悪く言えば「うさんくさい」イメージです。実際のところ、そういう鍼が大半です。ですが、きちんと現代医学的根拠に基づいて行う鍼は様々な医療現場で活躍できると確信しています。実際、多くの大学病院でも鍼は取り入れられています。

 

鍼灸外来のある大学病院

  • 東京大学付属病院 麻酔科・痛みセンター
  • 東北大学病院 鍼灸外来
  • 千葉大学医学部付属病院 神経内科
  • 大阪大学生体機能補完医学講座 補完医療外来
  • 筑波技術大学 東西医学統合医療センター
  • 三重大学医学部附属病院 麻酔科(統合医療・鍼灸外来)
  • 岐阜大学医学部付属病院 東洋医学外来
  • 京都府立医科大学付属病院 麻酔科
  • 慶應大学医学部 漢方医学センター
  • 日本医科大学付属病院 東洋医学科
  • 自治医科大学附属病院 麻酔科
  • 東京慈恵会医科大学付属病院 ペインクリニック
  • 東京女子医大 東洋医学研究所クリニック
  • 東海大学医学部付属病院 東洋医学科
  • 東邦大学医療センター大橋病院 漢方外来
  • 埼玉医科大学病院 東洋医学科
  • 北里大学 東洋医学総合研究所 漢方鍼灸治療センター
  • 大阪医科大学麻酔科教室
  • 近畿大学付属病院 東洋医学研究所附属診療所(漢方診療科)
  • 明治国際医療大学附属病院
  • 福岡大学病院 東洋医学診療部

四十肩・五十肩は難易度が高い上に時間がかかります

一言で「五十肩」といっても、本当の意味での五十肩は凍結肩(frozen shoulder)・癒着性関節包炎(adhesive capsulitis)、実際の五十肩の症状は、ほぼ肩関節痛+肩痛(筋肉痛)のセットです。

複雑な構造をしているが故に、症状そのものが複雑で、これらによって引き起こされる肩周辺の様々な痛み・症状まで全部含まれるため肩関節周囲炎が五十肩の保険病名になっています。

五十肩には自信を持ってよくなりますとお伝えはできるのですが、行う施術は決して簡単ではございませんし、時間・回数はどうしても必要になります。

数回ですっかり良くなってしまうケースもあれば、なかなかうまくいかないことも正直ございます。

五十肩を治してしまうか、放置するか、この選択次第で人生は変わります

五十肩は放置しても発症して1年から2年で自然と痛くなくなります。きちんと適切な処置を行えば、当院の理学療法データによれば、だいたい半年から1年でゴールします。つまり適切な処置を行えば放置した場合にくらべて約半分に期間を短く圧縮できます。

一時的な緩和方法だけして放置すれば、痛みは治まっても可動域は狭くなりますが、適切な処置を行えば発症以前と同等の可動域を取り戻せます。

腕や肩が以前のように動かせなくなるのは想像以上に不便なことです。仮に85歳まで生きると仮定して、約半分の人生に影響があるとしたら、しっかりと治してしまったほうが生活が豊かになる・・・とまではさすがに言い切れませんが、少なくとも日々の悩みは減ります。

まずは医療機関で肩関節周囲炎(五十肩)という診断をもらいましょう。

本当の意味での【肩関節周囲炎】、つまり凍結肩(frozen shoulder)・癒着性関節包炎(adhesive capsulitis)かどうかは、MRI検査が必要です。そこできちんと医師の診断をうけることは本当に大切です。ただ、最新の研究では癒着性関節包炎に癒着ではないということがわかってきたので名称が変わる可能性大です。

稀なケースとはいえ、骨や内臓の病気、または感染症等の可能性があるため必ずMRI検査を受診なさってください。

【肩関節周囲炎】の問題を解決するプログラムは医師による診断があってはじめてスタートします。

ここまでは鍼灸・マッサージをはじめとした徒手療法や運動療法などの保存療法について述べてまいりました。

稀にどうしても十分な改善効果が得られないケースがあります。

その場合、全身麻酔下による授動術(徒手的な関節包破断;マニピュレーション)・全身麻酔下による関節鏡下関節包解離術などが医療機関における選択肢となります。

とはいえ、これらは入院が必要であったり保険がきかず費用が高額であったりと“最後の手段”とされているというのが現実です。このような中、最近では手術が必要とされる症例に対してサイレント・マニピュレーション(神経ブロック下授動術)が行われています。

当院では、肩の痛みをすぐにでもなんとかしたい方向けにサイレントマニピュレーションではなく「運動器カテーテル」を推奨しています。ただしケースバイケースです。サイレント・マニピュレーションと運動器カテーテルについては次の記事で紹介します。

【最新医療】五十肩の治療法の1つ「サイレント・マニピュレーション」 ~五十肩の痛みに耐えられない方に知っておいてもらいたいこと

肩が痛い!腕が上げられない!!もしかして五十肩!?肩関節痛でお困りの方が知っておくべき知識

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


病院での四十肩・五十肩の治療法「サイレント・マニピュレーション」「運動器カテーテル治療」 ~五十肩の痛みに耐えられない方に知っておいてもらいたいこと

四十肩・五十肩といった呼び方がございますが、この記事では医療機関で肩関節周囲炎と診断される症状を「五十肩」という表記で統一しています。ご自身の年齢と症状から自己判断で五十肩と思い込むのは危険です。特に中高年に多いのが肩の「腱板断裂」。まず、整形外科できちんと検査を受けましょう。

 

この記事は、整形外科で【肩関節周囲炎】と診断されて治療方法についてお悩みの方、そしてこれから病院を受診される予定で【肩関節周囲炎】と診断された場合を想定されている方のための情報です。

五十肩治療法のひとつ「サイレント・マニピュレーション」とは?

サイレント・マニピュレーションは、城東整形外科(秋田県秋田市)診療部長の皆川洋至先生が考案された治療法です。以前から行われていた全身麻酔による手技を改良したものとのことです。

具体的にどのような治療法かといいますと、エコーを見ながら、肩関節支配の第5、第6頚神経根周囲に麻酔薬を注入(神経ブロック)した上で、上肢を動かし、硬くなった関節包を徒手的に破断させ、拘縮を解除する方法です。

・・・難しいですね。

要点は「全身麻酔による従来の方法よりも簡便でかつ安全に行える治療方法」だということです。

その具体的な施術内容は、痛くて動かせない肩へ局所麻酔を行い、動かせるようにし、徒手的に悪さをしている関節包を破壊する、という技です。

麻酔を行っているので痛みは無く、かつ日帰り手術で行えることから患者さんにかかる負担が大幅に軽減されるそうです。

以下のようなデータがあり、難治例には良い結果が出ています。

施術1週間後に、夜間痛、安静時痛、運動時痛がいずれも減少することを確認しています

肩関節の挙上角度、外旋角度も授動術直後から改善し、1週間後、1カ月後も維持されたようです。

この結果だけ見れば素晴らしい技術です。

凍結肩で苦しんでいる患者さんにとって、希望の光が見える治療方法です。

もし筆者自身が凍結肩(五十肩)になったとして、関節包を破断する治療を受けるかと問われれば・・・私は受けません。

というのは、内視鏡手術においてもですが、関節包を破断してしまうというマイナス点は無視できないためです。

「あなたは五十肩の痛みを経験したことが無いからそんなことが言えるんだ!」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

クスリはみな副作用があります。良い効果もあれば悪い効果もあります。手術も同様です。

日々、五十肩治療に携わっている筆者の「ひとつの考え方」として、以下を読み進めていただければ幸いです。

関節包を破断するということはどういうことなのか?

関節包とはどういうものなのでしょう。

関節包の詳しい説明は、関節包の構造と不動の変化 理学療法の評価と治療 より以下に引用させていただきます。

関節包とは

骨と骨の継ぎ目を関節と呼ぶがこの関節を補強しているものの一つに関節包がある。 関節可動域の制限は骨格筋の影響の他にこの関節包の影響も大きい。

では関節包とは一体どういったものなのだろうか。

関節包は内層と外層に分類され内層は疎性結合組織で滑膜という滑液を分泌する部分がある。滑液は摩擦の軽減と軟骨の影響を与えている。 また外層は密性結合組織で線維膜になる。自由神経終末のほかに、機械受容器であるルフィ二小体、パチニ小体、ゴルジ腱器官が存在する。これら内外層の主成分になるのはコラーゲンとなる。 関節が不動であると関節包はGAG、ヒアルロン酸、水分量の低下を生じる。それにより関節包は滑膜の癒着や線維化が生じ、可動域制限の原因となりうる。 関節包は関節にとっての機能を発揮する重要な部分である。不動による機能低下を生じないことと、不動を生じさせた場合は早期に可動性を改善するようアプローチをする必要性がある。

関節包の構造と不動の変化 理学療法の評価と治療

要点をまとめると、

1)関節包は、本来構造上不安定ではずれやすい肩関節が容易に脱臼しないように、関節を安定させるための重要な組織である

2)関節包には肩の角度やおかれている状況をキャッチして自動的に修正するためのセンサーがたくさん存在する

ということです。

つまり、脱臼しないであらゆる角度に自由自在に動く、痛みのない正常な肩関節において関節包は必要不可欠なものです。

関節包が無い、あるいは機能していない状況となれば肩関節は脱臼してしまう可能性が高まります。

また、センサーが機能していなければ動きのエラーを修正できず、その結果関節が正しく滑らかな動きができなくなり、周辺の組織へ刺激が生じ、それが長期化することにより骨の変形やインピンジメント症候群、広義の五十肩として二次的な痛みを抱えることとなりかねません。

極論、破断した関節包を縫合する手術は可能ですが、センサーを一度破壊してしまうとIPS細胞が実用化されないかぎり二度と復活させることはできません。

一説によると「一般的に40歳前であれば関節包が破れると肩脱臼が生じやすくなるが、40歳を超えると筋肉が硬くなり、筋肉の固さに守られるようになるので、関節包を破断しても肩脱臼は生じにくくなる」とのことですが、筋肉(腱板=インナーマッスル)が硬くなることによっても正常な関節運動は不可能となってしまいます。

また、正常な関節動作にはセンサーが誤作動をキャッチして修正する機能が不可欠です。これが機能していなければ、たとえ五十肩の症状がなくなったとしても間違った動作を修正できていない状態です。知らず知らずのうちにダメージが蓄積されていきます。やがて再発を引き起こすトリガーになる可能性があります。

以上のことから、関節包を破断することには中~長期的なリスクも伴う というということを覚悟する必要があります。(関節包の機能については下記文献1を参考とさせていただきました)

そして、以下のような指摘もあります。

獨協医大整形外科教授の玉井和哉氏はサイレント・マニピュレーションについて、「早く治すことができ、かつ安全な治療法であれば、素晴らしいと思う」と前置きした上で、「ただし、現時点ではエビデンスは不足しており、評価できない」と語る。

また、炎症が強い時期に関節包を破断することの安全性は不明という。玉井氏によると、授動術はあくまで、疼痛が弱まり拘縮が進行した慢性期の治療との認識だ。

“五十肩”治療に新風 凍結肩を20分程度の外来治療で治す 神経ブロック下授動術で患者のQOLを改善 日経メディカル

一般的に五十肩(=凍結肩=癒着性関節包炎)は放置していても、とりあえずは治るとされています。これは単純に痛みが引く=治る、という誤った認識が一般的になっているためです。治療する側・薬をつくる側もそれにあわせてしまっています。

それでは「今の痛み・動きにくさを何とかしてほしい」という患者さんのニーズには応えることはできません。特に「“今ある痛み”を何とかしたい!」というのが患者さんの一番の願いでしょう。

痛みは患者さんの生活を左右します。慢性的な痛みにより、うつなど精神症状へつながることもしばしばあります。

サイレント・マニピュレーションはどうにもならない痛みに苦しむ患者さんを少しでも救いたい、一刻も早く痛みから解放したい、という信念から生まれた技術だと思います。

考え方は様々ではありますが、当院の考えとしては

  • 五十肩に対しての治療は「今ある痛みをどうにかする」ということももちろん大切でだが、関節包を破壊する治療にはそれなりのリスクも存在するということを受ける側が納得するよう説明する必要がある。
  • 「どうにもならない痛み」となる前にケアをきちんと行っていれば、100%ではないが予防・悪化防止にはなる。常日頃から首・肩・肩甲骨のコンデションを整えておくことが大切である。
  • マニュアル的な治療を続けて改善しなくても、病期に合わせた適切な治療を行うことにより病状が急速に良い方向へ転じることがしばしばある。関節包を破壊する治療は本当に最終手段である。

このように考えております。

五十肩の痛みが消えた!!「運動器カテーテル治療」

難治性の肘、肩、膝などの関節痛に対して有効とされる画期的な方法で「運動器カテーテル治療」があります。OKUNOクリニックの奥野先生が考案した「血管」に着目した新しい方法です。近い将来、痛みの治療のスタンダードになると期待しています。

痛みと血管の関係については、当院でも注目しており治療にも取り入れています。

詳しくは別記事にしてますので是非そちらも読んでいただけたら幸いです。

モヤモヤ血管(新生血管)について

五十肩の治療は、痛みをとることと正常に肩関節が動くようにすることの2つが必要です。当院でも、運動器カテーテル治療を受けた方の治療を行うことがありますが、治療がスピードアップし想定よりも早く完治までたどり着けました。

五十肩の痛みに対して万能ではない

ただ、すべての方に対して有効だったわけではございません。運動器カテーテル治療の効果が全くなかったので来院されたというケースもございました。当たり前のことですがモヤモヤ血管の存在が全てではありません。

冒頭でも申し上げましたとおり、そもそも本当に五十肩なのか?という問題があります。五十肩だと思い込み痛みを取る治療を受けても五十肩は当然治りません。

当院では、モヤモヤ血管が主な原因と予想され、早期解決を望まれる方に対してのみ運動器カテーテル治療を提案させていただいております。ただ、五十肩治療は運動療法が基本です。痛くて何もできない、それを解決するひとつの手段が運動器カテーテル治療であり、痛みをとった後が五十肩治療の本番です。

五十肩の治療にはどうしても時間・回数が必要です。五十肩のつらい症状をまずなんとかするという治療のファーストステップがクリアできれば運動療法は捗ります。当院では、より効率のよい運動療法としてパワープレートを使った治療を取り入れています。

五十肩の治療として考えた時、鍼灸・マッサージは何に有効なのか?

当ブログの趣旨としまして、鍼灸・マッサージを啓蒙、広告することを目的としておりません。

肩こり・首こり含め、五十肩は整形外科に行っても良くならないから鍼灸・マッサージを行うという方は多いです。だからといって全て鍼灸・マッサージが適応となり、効果が期待できるというわけではありません。

こと、五十肩に対する鍼灸・マッサージは、急性期の終盤以降の「何もしなくても痛い・痛くて夜起きてしまうという状態はやわらいできたが、まだ痛くて動かすことができない」「リハビリをしても一向に良くならない」「骨に異常がないのに肩が痛い」という状態の方に対して有効な手段であるといえます。

東洋医学は西洋医学で不可能なことを可能にするというのは大きな間違い

鍼灸・マッサージというと東洋医学と認識されると思います。

一般的には「東洋医学は西洋医学で不可能とされたことを解決できる」と解釈されることが多いですが、これは大きな間違いです。

西洋医学的な検査値として出ないもの・出にくいもの(筋肉・神経など)に対してアプローチが可能ということを拡大解釈しているにすぎません。

100%完璧な治療は存在しません。患者さんはメリット、デメリットふまえて十分に考慮して治療を選択する必要があるのではないでしょうか。偏りのない情報を得て自ら判断する必要がありそうです。

二週間以上続く原因がよくわからない肩の痛みにお悩みの場合には、広義の五十肩か狭義の五十肩か、はたまた別なのか、しっかりと鑑別できる専門家へ相談するのがベストです。

 

肩こりラボでの四十肩・五十肩の治療につきまして

 

 

参考文献

[文献1] 肩 関節 の安 定 化 機構 https://www.jstage.jst.go.jp/article/katakansetsu1977/15/1/15_13/_pdf

[文献2]五十肩の管理:系統的レビューと意思決定分析モデルhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedhealth/PMH0047042/

参考URL

日経BP

http://www.nikkeibp.co.jp/article/news/20130813/361396/?rt=nocnt

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


肩が痛い!腕が上げられない!!もしかして五十肩!?肩関節痛でお困りの方が知っておくべき知識

肩が痛くて辛い、思うように動かすことができない、肩が痛くて眠れない・・・五十肩、四十肩で悩まれている方は非常に多いです。辛さに波があるため、病院へ行かずに放置してしまっているのも仕方ないことです。

そして「つらい五十肩の痛みに・・・」というキャッチコピーのついたクスリや湿布などが手軽に手に入りますから、その場しのぎしやすいのも事実。

病院に行こうかなと周りの人に相談しても「五十肩なんて病院行っても治らないよ」と言われる確率は高いでしょう。

病院にいっても“とりあえず痛み止めと湿布”、“とりあえず電気を流す”といった「とりあえずの処置」しかされなかった・・・肩こりラボに来院される方とのカウンセリングでよく出てくる話です。

さらに五十肩というネーミングのせいで、年齢には勝てない・・・と諦めてしまう気持ちがどうしてもあるでしょう。

ですが、あなたの肩の痛みは本当に五十肩なのでしょうか?自己判断は禁物です!病院でそう言われた方も一度きちんと五十肩に関する正しい情報を知っていただきたいのです。

率直な疑問「五十肩(四十肩)って治るの?」

はっきりと申し上げますが、五十肩・四十肩はあきらめてしまうのは勿体無いです。

当院は、肩こり・首こりの専門院ですが「五十肩」の方が首肩こりよりも簡単です。

簡単といっても肩関節痛の根本的な改善はどうしても時間がかかりますし難しい処置なのですが、慢性的な首肩こりと比較した場合です。

その理由は、肩こりや首こりは、フィジカル面の問題だけでなく精神的ストレスといったメンタル面による影響を大きく受けますが五十肩・四十肩といった肩関節痛は、首肩こりと違ってフィジカル面の問題のみです。

原因と状態に対する対処方法が明確なのです。

それなら、なぜ病院にいっても治らない?

当然疑問に思われるはずです。

あなたのその疑問を解決するために、まず五十肩ってつまり何なの?というところから解説していきます。

五十肩と肩こりは全く別物

五十肩といえば肩の痛み。肩が凝って痛みを感じることがあるため、肩こりと五十肩(四十肩)を混同してしまいがちですが、完全に別物です。根本的に異なります。

肩こりは首〜肩の筋肉の問題によって起こる症状で、五十肩は筋肉ではなく「肩関節の問題」によって起こります。

筋肉と関節の違いなのです。

肩の関節の痛み全般を肩関節痛といいますが、五十肩とは肩関節痛の1つでしかない

肩こりが原因で肩周辺に痛みがある場合、特に40代・50代でしたら、四十肩・五十肩と勘違いしてしまうことは仕方のないことです。

40代・50代の人で肩の関節周辺が痛い=40肩50肩とは限りません。

肩の関節の痛み、いわゆる肩関節痛という症状にはいろいろあり、40肩50肩というのは、その中のひとつでしかないのです。

ですから「自分は四十肩かも」という自己判断で、四十肩五十肩に関する情報を調べて市販薬を服用したり、五十肩に効くとされるセルフケア・運動を行ってしまうのは危険なのです。医療機関で診てもらわずにいきなり整体などのお店に通うと余計に症状が悪化することがあります。

大げさに不安を煽りたいわけではありません。生活に支障をきたす後遺症が残ってしまうということが現実にあります。

五十肩に関する情報がバラバラで何が本当かわからない!

五十肩について、誤った情報が蔓延しています。そして非常に残念なことですが、治療する側も勘違いしていケースが少なくありません。なんでもすぐ調べられる時代だからこそ、リスクも大きいわけで、五十肩を正しく理解していただく必要性を心の底から感じています。

五十肩はきちんと適切な処置をすれば必ずよくなるのですが、この適切な処置の選び方が難しいのです。

様々な五十肩をみてきましたが、他で間違った処置をされてしまったことでより困難になってしまうケースが本当に多いのです。

ですから一人でも多くの方に、まず正確な五十肩情報を知っていただきたいのです。

五十肩とは、そもそもどういう症状?

五十肩という言葉は、歴史をさかのぼると江戸時代から広く使われていたようです。当時の俗語や諺などを収集した「俚諺集覧」という書物には「五十腕」「五十肩」の記載が残されており、50歳くらいになると腕や肩が痛むがやがて痛みが治まる、これは長く生きていることの証となる病と捉えられていたようです。長く生きていると現在でも五十肩と言えば誰でも分かりますが、昔は診断技術がないため、50歳くらいになって肩が痛くなり、そのうち自然に良くなれば全て五十肩と呼んでいました。これを広義の五十肩といいます。

ちなみに四十肩とは単に40歳くらいで五十肩様の症状が出た場合にそう呼ぶだけで中身は同じです。四十肩と五十肩で違いはありません。60代であれば六十肩、30代であれば三十肩です。つまり、五十肩という名称そのものが曖昧であり、その名前と症状が一致していないという意味のない言葉ともいえます。

五十肩、江戸時代、肩痛施術の様子
引用:http://samurai-kid.at.webry.info/theme/4f782261ee.html

昔から人々を悩ませてきている五十肩ですが、医療の進歩により、現在では肩の痛みの解明が進みました。従来原因不明だった肩の痛み。肩が痛いという症状は同じでも、実際には肩の痛みを引き起こす疾患には多くの種類があるのです。

例えば、烏口突起炎、腱板炎、腱板断裂、肩峰下滑液包炎、石灰性腱炎、上腕二頭筋長頭腱腱鞘炎・・・と数多く存在します。なお、これらの診断を下すことができるのは医師のみです。整体師、鍼灸師、マッサージ師、柔道整復師、トレーナーは診断することはできません。

整形外科で原因不明の場合のみが本当の意味での五十肩

厳密には、整形外科的にきちんと解明されている数多くの肩の疾患を除外した上で明らかな原因がない一次性の肩痛と可動域制限を「五十肩」と診断します。これが本当の意味での五十肩です。

本当の意味での五十肩とはどういうことかといいますと、世間一般的に言われる五十肩とは、厳密には五十肩ではない疾患も含まれているのです。医師が診断する「五十肩」が正確な五十肩(狭義)であり、誰もがしっている五十肩という名称は肩に関する様々な症状をまとめて呼ばれている(広義)のです。

事実、中高年に生じる肩の痛みを、江戸時代と同様の広い意味で五十肩と理解している方がほとんどです。これは仕方のないことで、医療従事者であっても、五十肩という言葉を狭義の意味で使っている人の方が少ないのです。

医学的に正しい五十肩というのは「狭義の五十肩」、世間一般で言われる五十肩は「広義の五十肩」であり、広義の五十肩には狭義の五十肩も含まれているということです。

狭義の五十肩とは、広義の五十肩に含まれる筋肉や骨、靭帯由来の他の疾患が除外されたうえで、関節包の肥厚、短縮、線維化、血管新生、軟骨分化、滑膜炎など、肩関節構成体である関節包そのものに問題が生じていることを意味します。

病院で「五十肩ですね」という診断をされるということは「原因がよくわかりませんので様子みるしかないですね」を意味します。

原因不明の肩の痛みをとりあえず五十肩と診断されてしまうことも多いわけですから、本当の意味での五十肩でなくても痛み止め・ブロック注射で痛みがおさまり、五十肩がなおったと勘違いされるケースもあります。ネット上の○○したら五十肩がなおった、という口コミなどは実は五十肩だったのかどうかもあやふやなのです。これは口コミをした人が悪いのではなく、実際に五十肩でないのに五十肩だと決めつけてしまっている医療機関側の問題なのです。

痛くなければ動かせるのであれば、それは五十肩ではない

肩が痛い・痛くて動かせない=五十肩、とお思いの方は多いため「五十肩をなおす=痛み止め」と勘違いされている人がほとんどです。痛くて動かせない→痛みがなくなれば動く、これは厳密には五十肩ではありません。ふつうの肩痛です。

非常にややこしい話なのですが、病院で「五十肩」と診断されても、それは広義の意味での五十肩なのか、狭義の意味での五十肩なのか、が伝えられない上に、病院側もそこの区別も曖昧にしているケースが多いのです。わかりやすい例でいいますと、レントゲンは骨しか写りません。骨の問題を除外しただけでは広義の五十肩です。肩関節の問題なのか、肩関節周囲の筋肉の問題なのか、そうなってくるとMRI検査が必要です。MRIの検査ができる整形外科は限られてきますがレントゲンだけでは本当に五十肩かどうかわかりません。レントゲンの検査だけで五十肩という診断は「原因不明なので、とりあえず五十肩」を意味している、ということを覚えておいて下さい。

英語で五十肩のことをなんていう?

国際的に普及しているのはfrozen shoulderです。和訳は「凍結肩」となります。またadhesive capsulitis of the shoulderとも言います。こちらの和訳は「癒着性肩関節包炎」です。五十肩はそもそもなぜ発症するのか?という問題は国際的にもはっきりと分かっておらず研究者によって呼び方が違うのです。これら2つは同じものと認識していただいて構いません。一方、日本で保険病名として認められているのは「肩関節周囲炎」であり、五十肩も凍結肩も保険病名としては認められていません。病院で「肩関節周囲炎ですね。」と診断され、それって何ですか?ときくと「いわゆる五十肩です。」と言われるはずです。これが多くの誤解を招いている理由かもしれません。五十肩=肩関節周囲炎、と認識される方がいて当然です。

五十肩、肩関節周囲炎、腱板炎・腱板断裂・石灰性腱炎・上腕二頭筋長頭腱炎・変形性関節症
引用:http://w-diet.com/50kata10.html

難しい言葉の羅列で恐縮ですが、大事なことなので繰り返し申し上げますが、広義の五十肩とは、関節包の障害(狭義の五十肩)を含み、医学的には五十肩・四十肩ではない烏口突起炎、腱板炎・腱板断裂・石灰性腱炎・上腕二頭筋長頭腱炎・頚椎症・変形性関節症など多くの疾患が含まれています。

要するに今まで多くの方が用いてきた“広義の五十肩”とは肩関節をとりまく様々な痛みの総称であり、意味としてはこちらを肩関節周囲炎というのが正しいかもしれません。

用語がまぎらわしいので再度まとめます

狭義の五十肩

肩関節の関節包の問題。五十肩とは正しくはこの病態を意味する。

凍結肩

狭義の五十肩のこと。(英語:frozen shoulder)

癒着性関節包炎

凍結肩と同じく狭義の五十肩のこと。(英語:adhesive capsulitis)

最新の研究では、癒着ではなかったことがわかってきました。

広義の五十肩

肩関節をとりまく様々な痛みの総称。烏口突起炎、腱板炎・腱板断裂・石灰性腱炎・上腕二頭筋長頭腱炎・頚椎症・変形性関節症など多くの疾患が含まれています。多くの方が云ういわゆる五十肩。肩関節ではなく筋肉の痛みの場合でも、五十肩と認識されてしまうことも。

肩関節周囲炎

広義の五十肩のこと。保険病名ではこの名称が正式名称。実際は凍結肩本来の病態と合致していないという矛盾がある。

治療は医師による診断が確定して、初めて開始されます。

実際は、何をしても効果が出ず、一向に痛みが引かないけれども、一定期間すると自然と痛みが緩和されていくのが五十肩(凍結肩・癒着性関節包炎)の特徴です。

しかし、だからといって軽率に(広義の)五十肩と判断して、電気を流しておきましょう・動かさず様子をみましょう・薬のんで様子をみましょう、といった適切とはいえない「とりあえず」な方法では治るものも決して治りません。ですが、それが健康保険内でできることなのです。

肩の痛みが生じている原因が何なのか、原因をしっかりと見極めた上でそれにあわせた適切な処置を行う必要があります。

このような背景があるため、医療従事者はもちろんのこと、医療を受ける側も用語・意味をお互い共通認識としてもつ必要があります。

以下文章では、五十肩=狭義の五十肩=凍結肩=癒着性関節包炎とさせていただきます。

 

五十肩、四十肩になる原因についてご説明します。

五十肩発症のメカニズムはまだ解明されていない

狭義の五十肩になる原因は様々な説があり、いまだに原因不明とされています。歳を重ねると足腰が弱くなる、これは生物学的に時間の経過とともに体に起こる変化、いわゆる老化であり避けられないことです。狭義の五十肩は関節包の変性ですから、関節の老化によって引き起こされるケースは間違いないなくあります。ですが、20代で発症してしまう人もいます。老化以外にも確実に原因はあります。

発症のメカニズムは不明でも、発症以前の状態に戻すことはできまる

本当の意味でも五十肩の発症のメカニズムは不明でも、肩関節周辺の痛み、一般的な意味でも五十肩が発症しやすい条件・原因はわかっています。

肩関節周辺の痛みは背景に筋肉バランスの乱れや不合理な動作により、一定部位に負荷がかかることが蓄積され生じることが多いです。筋肉の量が少ないのに関節を酷使してしまっている、また、もともと運動をやっていたのにやめてから筋肉が落ちて発症といったことは少なくありません。

インピンジメント症候群や肩関節の不安定性(instability)は、しばしばそのきっかけとなります。インピンジメント症候群とは、骨と骨が衝突しあってその間に様々な組織が挟まって痛みを引き起こす状態です。

五十肩、肩関節周囲炎、衝突、インピンジメント症候群
出典:http://www4.ocn.ne.jp/~miyanoue/shoul_pain.html

このように肩関節をとりまく筋肉の状態、負担のかかる不合理な使い方、インピンジメント症候群、肩関節の不安定性(instability)の状態が長期に持続することで、関節包のコンディションが低下し変性へと向かう可能性は高まります。

首・肩・背中は筋肉の連結が密になっているため、慢性的な肩こり・首こりの方は肩甲骨や肩関節をとりまく筋肉も硬くなる傾向にあります。(”傾向”としたのは、肩こり・首こりは筋肉の硬くなくても生じる場合があるからです)

首や肩だけでなく肩関節周囲の血流も悪くなり、関節包など肩を構成する組織へ十分な栄養がいかずに加齢という要因だけでなく、変性するのが促されてしまうということが推測できます。

このように五十肩によって、肩周辺にも影響が出るようなケースだけでなく、肩関節周辺の痛みから始まって五十肩になってしまうことも考えられ、それが発症する年齢を早めてしまうと思われます。

慢性的な肩こり・首こりは五十肩の発症を誘発する可能性があります。首肩こり+五十肩を二つ抱えますと相当つらいので、首肩こりでお悩みの方はできるだけ早く治療をはじめてほしいと思います。なお首こり・肩こりの治療は早い段階ではじめるにこしたことはありません。

次は五十肩を細かく分析して、みなさんが知りたい具体的な五十肩へのアプローチ方法を説明いたします。

 

 


執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


低気圧による体調不良の仕組みを知って気象病・天気痛・気圧痛を解消!!病院いくなら何科?という疑問にもお答えします!

爆弾低気圧・猛烈な台風・集中豪雨・大寒波・大雪・・・ここ数年、異常気象が当たり前のようになり発生しています。

天気が悪いと、なんか体調が悪い、気分が悪い、これって病気?そんな思いをきっとされたことがあるはずです。

雨の日頭痛」「天気痛」「気象病」「気圧痛」といった名称が一般的になりつつあります。

天気が悪いと体調がわるくなる女性を「低気圧女子」なんて呼ぶことも・・・

私たち人間は地球上で生きている生物ですから、天気という地球の環境に影響されるのは当然のことです。地球の環境が破壊されていると問題になってだいぶ経ちますが、天気も環境のひとつ。体調不良を天気のせいにしたところで何も解決しません。

ですので、低気圧や天気と体調について、首肩こりの専門院としての視点プラス患者さんの声を基に、医学的根拠を踏まえ「なぜ体調が悪くなるのか?」そして「天気が悪いときにできる対処方法」をマジメに考察してみました。

記事の後半で詳しく紹介します耳たぶマッサージは、首や後頭部がつらいといった体調不良の改善対策として、効果的かつ誰でも簡単に今すぐできるセルフケア方法です。

耳たぶマッサージはたったの20秒

この耳たぶマッサージは是非ともお試しください。

低気圧が原因に因る頭痛や目眩で、いざ病院に行ってみよう、と思っても何科に行けば分からない方は多いと思います。その点についても耳たぶマッサージの紹介の後に解説しました。参考になさってください。

台風・大雨といった天候により、肩こり・首こり・腰痛・偏頭痛などが悪化する「天気痛」や「気象病」は気のせいではない。

雨や雷、台風といった天気の悪い日に限って、頭が痛くなる、頭が重く感じる、肩が凝るといった体調不良または気分が悪くなる方は多いです。これらの症状は「天気痛」や「気象病」といった名前で呼ばれています。

冬の寒い日は、どんな人でも肩が痛い!!という経験があると思います。寒さによって血管が収縮するので肩にかぎった話ではないのですが、慢性的な肩こりを抱えていらっしゃる方は、より辛く感じることでしょう。そして、雨、雪の天気が加わりますと、より一層辛さが増すと思います。

天気が悪いと古傷が痛むという方もいらっしゃいますね。ですから、自らの体調で天候の変化がわかる、という方は少なくないはずです。

慢性的な肩こり・首こりを抱えていらっしゃる方は、同時に偏頭痛や目眩などの症状を抱えていらっしゃることが多いです。そして、天気(天候)により具合が変化するというお話をしばしば伺います。

数字でみる天候と体調不良の関係

天気が悪い時期といえば梅雨。夏前の梅雨の時期に体調をくずし、長引いてしまう方は少なくないようです。事実、(株)花王、(株)パナソニックが協賛している「血めぐり研究会」の調査によりますと、女性の約6割が梅雨の時期に体調の不調を感じ、約3割が梅雨の約2か月の間、常に体調が悪いと感じているとのこと。

tsuyudata20122月実施/20代~60代の女性930名を対象

出典:http://www.chimeguri.com/special/special_vol9.html

katakori LABSにいらっしゃる患者さんで低気圧や台風といった気象条件によって体調が左右される方はとても多いです。「天気予報よりも私の勘のほうが当たる」「体調で天気が悪くなる前ぶれがわかる」問診の際の会話でよく耳にします。

天気はそこまで悪くなくても、以下のような台風接近中の天気図のような状態でも不調を感じる方は多いのです。

天気痛3出典:http://blogs.yahoo.co.jp/kikitata3/31458699.html

通常の雨だけではなく、特に台風が接近すると強い症状を訴える患者さんが多いことに加え、標高が高い所に行くと喘息(ぜんそく)起こる飛行機に乗ると頭痛がするということを訴える方が決して少なくないということは、気圧が何かしら関与しているということが推測できます。(一般的には低気圧が関与しているという認識のようです)

必ずしも医学的に証明されたわけではありませんが、天気(天候)と体調との相関関係は統計的に明らかになっているデータはあります。

一例として、医学生を対象とした偏頭痛に対するアンケート調査では、偏頭痛の原因として考えられる項目を気象条件と回答する方が多かったことからも、その関連性が示唆されています。[文献3]

偏頭痛の誘発因子出典:http://www.annbalsofian.org/article.asp?issn=0972-2327;year=2013;volume=16;issue=2;spage=221;epage=225;aulast=Menon

これは、あくまでも経験論の域を出ることはなく、誰もが間違いなく天気(天候)と体調の関連性があることを認識していますが、その根拠は?と問われると苦しくなる処です。

通常の医学が人体内部の変化を分析・解明するのに対し、生気象学は外部環境(天気や気象条件等)が生体に及ぼす影響を研究する生気象学という分野も存在します。

体調不良を引き起こす原因の解明のキーワードは「気圧の変化」と「自律神経」

気圧の変化は、従来、天気予報で知る数値の情報でしかなかったのですが、現代人の生活との関わりは深くなりつつあります。例えばiPhone 6・6 Plusには、気圧をリアルタイムで計測するセンサーが内蔵されており、この機能を利用したアプリやウィジットを使われている方もいらっしゃることでしょう。普段の生活で気温を気にするのは普通ですが、気圧をチェックするのも容易になってきました。

iPhone6で気圧をリアルタイムチェック1気圧(1013.25hPa)と比べて低気圧ですね。

実際に気圧の変化が体調と関係があるのでしょうか?

天気痛研究・診療の第一人者で愛知医科大学の学際的痛みセンター客員教授である佐藤純先生が行った名古屋大学の環境医学研究所附属近未来環境シミュレーションセンターでの研究[文献1]によると、気圧の変化が自律神経に影響を及ぼし、交感神経の働きを活発にし、諸々の体調不良を招くということが示唆されています。

特殊な部屋で被験者に待機してもらい、気圧を下げていくと交感神経が活発に働きだし、同時に痛み等の諸症状が生じるという実験結果がでました。

天気痛出典:http://www.sasappa.co.jp/online/abstract/jsasem/1/050/html/1110500408.html

「低気圧」ではなく「気圧の変化」に注目しましょう。

「低気圧」そのものではなく気圧の変化という点に着目しなければいけません。

世間では、低気圧になると血行が悪くなったりやリンパの流れが悪くなるから、体調が悪くなる、という説明をする人が多く、もはや一般論と化しています。果たして、それは正しいのでしょうか?

一般的な低気圧が血流を悪くする説は、気圧[=空気による圧力]が身体へ与える物理的な負荷による影響で血管が圧迫や拡張して血流等が変調をきたし諸症状を誘発されるとしているのですが、当文献では異なった観点からのメカニズムが示されています。

例えば偏頭痛だと、従来ですと低気圧になると血管に対する外部からの圧力が減少し結果的に血管が拡張し、過剰な血流増加が起こり、頭痛症状に至ると考察されておりました。

しかし、愛知医科大学の佐藤純先生による研究では、人体には気圧の変化をキャッチするセンサーが備わっており、気圧が下がると自律神経のバランスが乱れ、体調を変化させるということがわかりました。

具体的に説明しますと、気圧が低下すると内耳(耳の最深部です)に存在するセンサーがそれをキャッチし、交感神経の興奮が高まり、血流や感覚閾値(感受性)を変化させ、痛みやコリ感などの諸症状を誘発する原因となる ということです。

交感神経が優位となると、痛覚閾値が下がる(痛みを感じやすくなる)ため、普段はなんともなくても、腰や膝など以前傷めたりした自身の弱点がシクシク疼くように感じてしまうわけです。

簡略化すると 気圧の変化 → 内耳のセンサー(三半規管の根元にある)がキャッチ → 交感神経の活動が活発化 → 痛覚閾値低下(痛みを感じやすい体へ)と末端の血流不全 → 様々な不定愁訴 → 交感神経が活発化・・・ といった負のサイクルが台風や前線がきっかけでできあがってしまい、局所症状から全身症状・精神症状へと拡散していき抜け出せなくなってしまう方も多いです

そのため、天気(天候)が変化しやすい時期、季節の変わり目や台風が生じている時、など目まぐるしく気圧が変化する時ほど具合が悪い方が続出してしまうのです。特に梅雨の時期は、雨の日と晴れの日が頻繁に入れ替わります。つまり、気圧の変化が激しい上に、太陽が顔を見せない日が多いので体調、自律神経の乱れやすくなるといえます。

また、本研究の着目すべき点は「気圧の変化をキャッチするセンサー」が内耳に存在することを示唆したことです。

内耳は、聴覚はもちろんのこと、平衡感覚や姿勢を維持するうえで重要な器官です。それ故、低気圧がやってきて体調不良となる時には、内耳のコンディションも低下して、痛みやコリ感などと同時にめまいや耳鳴りが頻発してしまうのが納得できます。

乗り物酔いしてしまう方が服用する「酔い止め」が、天気痛の諸症状に効果があるのは、この内耳のセンサーに働くためなのです。

タワーマンションに住んで大丈夫?

タワーマンションに憧れを持つ人は多いのですが、高層階症候群という言葉もあるように、実際に体調不良を訴える人は少なくない模様です。

頻繁に昇り降りしなければならない生活でしたら、間違いなく身体に大きな負担をかけることになるでしょう。大きな建物は空調設備で気圧のコントロールも行っていますので、昇り降りしなくても気圧の変化というのは共用部と部屋の移動だけでもあるかもしれません。

東日本大震災以降、徐々に免震構造のマンションも出てきましたが、免震構造自体は地震には強くても、台風などには弱く大きく揺れてしまいます。この「揺れ」も身体に影響があるといえるでしょう。東日本大震災時、長期にわたる余震もあり、いつも揺れている感じがして体調がおかしくなった方は多いはずです。揺れをキャッチするのは耳の中の三半規管です。気圧の変化をキャッチするセンサーも三半規管の一部です。

この「揺れ」については、免震構造のタワーマンションと制振や耐震構造のタワーマンションで話が変わってきます。共通してタワーマンションに住む上で意識しないといけないことは、気圧の変化に身体は反応してしまうという点です。これを意識するだけでも違うと思います。

男性よりも女性の方が気圧の変化の影響を受けやすい?

気圧の変化が自律神経の乱れを引き起こすのは、男性も女性も同じなのですが、女性は男性と違ってホルモンの分泌の問題があります。男性は思春期以降はホルモンの分泌はほぼ一定なのですが、女性は月経があるため常に変化しています。ホルモンの分泌をコントロールしているのは脳の下垂体(かすいたい)というところなのですが、ここは、自律神経をコントロールしている視床下部(ししょうかぶ)の支配下にあります。

視床下部と下垂体の位置

つまり自律神経とホルモンのバランスは密接な関係にあります。ホルモンのバランスが崩れたら自律神経にも影響が出るでしょうし、その逆もあります。そこに気圧の変化という要素が加わることを考えますと、男性よりも女性の方が気圧の影響を受けやすいといえると思います。

天気痛のような天気(天候)による体調不良への対策や解消方法はあるのでしょうか

気象病・天気痛に効果的とされる方法は、入浴(半身浴)や運動、呼吸法からはじまり漢方まで様々な解消方法が提唱されています。 実際それらが本当に効果があるのか?軽度の悩みの方には効果があるのかもしれません。実際に肩こりラボにお越しの方々の声をききますと、効果が感じられない、焼け石に水、といった声がほとんどです。いま、このページをご覧の方は、おそらく何をやっても効果がなくてお困りの方だと思います。

冒頭でも述べましたが、慢性的に肩こり・首こりをお持ちの方は天気によってその症状がひどくなったり軽くなったりします。

そして、天気(天候)により体調不良を訴える方は、ほぼ全員首肩の症状も抱えております。症状として自覚していなくても首の筋緊張と血流不良の所見はほぼ確実に見受けられます。

以前の記事でも書きましたが、肩こり・首こりは自律神経の失調が大きな原因のひとつです。

そして、肩こり・首こりが慢性化すると高確率で自律神経失調症の状態に陥ります。これは特に首こりに顕著です。肩こり解消は、体調を改善する上で大変大きなことなのです。

詳しくは以下記事をご参照ください↓↓

肩こりと首こりの決定的な違い(解剖学・生理学の視点から徹底解説)

体操・ストレッチ・温熱療法など血行改善により肩こり・首こりが解消されない理由 (医学的根拠に基づき神経生理学の観点から解説)

つまり、どちらが先か断定できませんが、肩こり・首こりと自律神経失調症は相互に依存しあって負の連鎖を生むことになります。

筆者の経験からの個人的見解ではありますが、首肩の状態と不定愁訴は関連性があると考えています。

台風が来るなど天気が崩れる前や、女性限定ですが生理(月経)が来る前にいつも偏頭痛に悩まされていた方が、肩こり・首こりに悩まされなくなったら、気づいたら頭痛の症状が減っていたとの声をしばしば頂きます。

女性の患者さんの例ですが、半年ほど2週間に1回程度の頻度で首肩の施術を続けたところ、毎月、月経前には必ず頭痛薬を飲まずにはいられなかったのに、いつのまにか飲まなくなっていたという状態まで持っていくことができました。

これを踏まえ、11名の首肩と同時に自律神経失調症をかかえている方へ同様のルーティーンで首肩の施術を行ったところ8名から良好な反応が得られました。首肩の症状を抑え、つらくない状態を一定期間維持することで、肩こり・首こりに悩まなくなった後、結果的に天気(天候)や月経の影響をあまり受けなくなり、薬を飲まなくなった、もしくは飲む回数が減少したとのことです。

これはプラシーボ効果の検討、ランダム化や盲検化もしていないので医学的根拠としての意味は持ちませんが、あくまで首肩の状態と不定愁訴は関連がある可能性は高いと考えている筆者の考えの根拠の一つとして記させていただきました。

6天気痛出典:http://cochiro.com/acupuncture/

天候による体調不良を解消する、予防するために効果的なセルフケア方法

天候による体調不良とは体が気圧の変化による影響を受けやすいために起こります。「自律神経を安定させる方法」は色々ございますが、普段から行うべきことと、不安定になったものを安定させる方法の2つに分けて解説します。

気圧の変化に負けないように、自律神経のバランスを保つために、普段から心がけるべきこと。

「気圧の変化」を内耳に存在するセンサーがキャッチし、そこから自律神経のバランスが乱れて数々の不調が現れることを上記にてご説明させていただきました。

台風や低気圧の接近など、天気(天候)によって体調不良となる理由の本質は、自律神経の乱れにあります。そのため、日頃から自律神経に負担をかけないこと、バランスを整えることは、その対策として有効的です。

体質的な部分はもちろんありますが、特に自律神経にとってもマイナス要素は「不規則な生活」と「ストレス」です。

誰もが知っている規則正しい生活の大切さ。

理想は規則正しい生活。生物には生まれながらにして持っている体内時計があります。しかし、それが出来ないのが現代社会。不規則な生活は、身体への負担が大きく、体の調子が不安定になります。睡眠不足による肌荒れ、徹夜すれば胃腸の調子が悪くなる、など誰もが規則正しい生活が大切なのは分かっています。不安定な体の調子を安定させるために働くのが自律神経です。自律神経を働かせすぎると、自律神経のバランス自体が崩れてしまいます。

生活リズムを変えるのは難しい!!でも、そのリズムを一定にすることなら、可能ではないでしょうか?

規則正しい生活というのは生活のリズムが安定しているということ。睡眠のリズム、食事のリズムはじめ、日常生活のリズムを規則正しくすることは理想的で、良いことなのは当然です。今までの生活を変える、環境を変える、なんてことはそうそうできることではありません。

しかし、朝方寝て昼起きて夜活動するといった生活スタイルの方は、それを日々続けることは可能でしょう。体内時計とはズレた生活ではありますが、それを毎日続けるということは規則正しく行うということですね。これがポイントです。

睡眠に関しては「長時間寝れば良い」「〇時間寝れば良い」というのではなく、できるだけ就寝時間と起床時間を一定にすることが自律神経にとって負担が少なくなります。極端なムラを無くすことです。久しぶりの休みだから、寝れるだけ寝よう、は気持ちはよくわかりますが、これが良くないのです。休みの日でも、決まった時間に起きる、食ことをする、でも休日だから昼寝をするなどして、バランスを取ることが大切です。

食事においても、一日三食きっちり食べることが重要なのではなく、なるべく同時刻にムラなく食べることが自律神経には良い影響を与えます。毎日2食しか食べない人はそれを続けましょう。ただし、食べる時間はいつも同じにしてください。栄養素や食材にこだわることも大切ですが、こだわるなら楽しんで拘りましょう。そして義務的に食べるのではなく、食ことを楽しむということがとても大切です。

ストレスを無くすことは不可能ですから、溜め込まずに発散しましょう。

生きている以上、ストレスを無くすことは不可能です。ですから、なるべくそれをため込まないようにすること、吐き出す、発散が大切なのはいうまでもありません。独自のストレス解消方法をお持ちの方はそれを実行していただくことが良いのですが、慢性的な不調を抱えていらっしゃる方は、その方法を持ち合わせていらっしゃらない場合が多いです。

最適な方法は人それぞれです。ひとつの手段として、適度な運動は効果的です。ここでのポイントは少しでも良いので「汗」をかくことです。汗をかくことによりストレス解消や自律神経を安定させる効果が期待でます。

どんな運動・メニューを行えば良いか?というよりは、この場合は無理なく続けられる事なら何でも良いです。数回で終わるのではなく、あくまで習慣として細く長く続けられる、楽しく続けられることが一番肝心です。

例えば、好きな音楽を聴きながら20~30分早歩きするのも効果的です。

また、入浴等で汗をかくよりも、運動によって体を能動的に動かすことによる発汗のほうが効果的です。筋肉の収縮と弛緩が交互に起こるため、全身の循環も促されます。

適度な疲労を促すことにより、自律神経失調症の特徴である「寝つきが悪い」「眠りが浅い」などの睡眠に対する症状へも良い影響が期待できます。その他数々の対処方法があるとは思いますが、それらのほとんどは不調となってしまった後の対処法となります。

以上が「自律神経に負担の少ない」「できるだけ乱れにくい」生活を目指す上での日頃から行ったほうがよいと思われるセルフケア方法の解説です。

今すぐできる、どこでもできる「耳たぶマッサージ」で自律神経をバランスアップ

恐らく読者様は今まで様々な方法を試してきて、ことごとく効果を感じられなかったことでしょう。これまでの記事をお読みいただいて「規則正しい生活をしろって言われてもそれができないから困ってるの!!結局我慢するしかないんでしょ!!」と思われた方も多いと思います。

そこで、誰もが、いつでもどこでも今すぐできる簡単なセルフケア方法「耳たぶマッサージ」をご紹介します。これが不安定なものを安定させる方法です。

この耳たぶマッサージ、気圧の変化による首や後頭部がつらい、締め付けるような頭痛(緊張性頭痛)といった気圧痛でお悩み方にぴったりの解消方法です。そして「咬筋ほぐし」にもなります。咬筋ほぐしは小顔やフェイスラインの引き締めに効果あるとされてますので女性には嬉しい方法ですよね。耳鳴り、目眩、偏頭痛には効果は期待できませんのでご了承ください。

耳たぶマッサージは2ステップ

耳たぶを外側に引っ張ります。少し痛いと感じるくらいがベストです。 2〜3秒引っ張ったら離します。これを3〜5回繰り返します。
両耳行いましょう。片耳ずつでも構いません。

次に、耳たぶを回します。前回し3回、後ろ回し3回繰り返します。
たったこれだけでOKです。1分もかかりません。いつでもどこでも出来ます!!

耳たぶをマッサージ行う理由とマッサージ効果の解説

①なぜ耳たぶなのでしょうか?

気圧変化によって諸々の体調不良が生じるのは、交感神経が優位になり体が意図せず緊張状態となっていることが大きな原因です。そこで副交感神経優位にして緊張を解くことが大切です。

今現在、耳たぶに触れてみてください。温かいですか?それとも冷たいですか? 気温が低い環境にいるわけではないのに、耳たぶが冷たくなっているのは、末端まで血流がいってないということです。これは、交感神経が優位になっているといえます。

耳たぶのマッサージは、今回の場合は副交感神経を優位にする目的で行います。さらに「心地よい刺激」を与えることで、その「心地よさ」から副交感神経が優位になることも期待できます。
例えば背中の刺激は一時的には交感神経を優位にしますが、心地よい刺激を持続的に行うことで副交感神経を優位にします。

自律神経が乱れている状況とは、交感神経か副交感神経のどちらか一方に偏りすぎてしまっていることを意味しますので、どちらかを優位にするのではなく、本質的には外から刺激を与えてその均衡を取り戻すことが目的となります。

耳たぶに限らず耳への刺激は、実際のところ、交感神経を優位にする、副交感神経を優位にする、という2つの効果があるということで、意見が分かれているところでもあります。部位によって異なるようです。

②耳の後ろにある筋肉への刺激

マッサージの良さである「心地よい刺激」により副交感神経が優位になることが期待できること以外に筋肉を刺激する点が今回のマッサージの重要ポイントです。

耳の後ろには、胸鎖乳突筋、板状筋といった筋肉があるのですが、耳たぶを引っ張っる、耳たぶ回しをすることで、この筋肉を筋膜を介したストレッチになるのです。(筋膜とは筋肉を包む薄い膜で神経が密に分布している重要な組織です)

耳たぶマッサージその3

この耳たぶマッサージによる効果というのは、胸鎖乳突筋、板状筋の筋膜に刺激を与えることで、これらの筋肉が緩むことにより、首こりや肩こりの症状がスッキリするという効果です。(あくまでこれは応急処置であるため、あえて「スッキリ」という表現にしてあります)

体調悪くなりそうな予感がした時に「酔い止め」クスリの服用すると効果的とはいえ、そのような準備がない場合こそ、この耳たぶマッサージをお試しください。「酔い止め」が効果的とされているのは、内耳センサーに働くから、と思われます。そう、耳が大切なんですね。

なお、耳つぼダイエットは、食欲を抑えるツボによる効果を謳っていますが、医学的根拠は極めて曖昧なのでご注意くださいね。(治療院・お店選びの参考にもなると思います。)

残念ながらセルフケアには限界がございます。

正直に申し上げて、特に現代人の生活習慣においてセルフケアで全てを解決することに限界があるのもまた事実です。しかし根本を理解し、それに対する手立てを行うことは少なからず意味があると思います。

まずはセルフケアで対応し、それでダメなら病院へご相談ください。

肩や首、腰の「痛み」を緩和する効率的なセルフケア方法に関しましては、別途記事をご用意しましたので、こちらの記事を御覧ください。

首肩の痛みに効く!!肩こり解消ストレッチ〜正しいストレッチ方法を解説

セルフケアでも改善しない場合は、病院で診察を受けてください!!

体調がすぐれなければ病院へというのはどなたでも分かってはいることですが、具体的に何科の病院にいけばいいの?という疑問があると思います。低気圧などによる体調不良の場合は、とくにそうでしょう。次の表を参考にしてみてください。

 

耳鳴り・めまい 耳鼻咽喉科
頭痛・めまい 神経内科

別に頭痛や耳鳴りはないけど、目眩がするという方は、次の表を参考にしてください。

目が回る目眩 耳鼻咽喉科
ふわふわ浮いている目眩 神経内科
フラフラする目眩 神経内科

上記の様に、目眩の症状として、回転性(目が回る)と浮動性(ふわふわ、フラフラ)の2種類に分かれます。病院へいく際の目安にしてみてください。

 

神経内科について

 神経内科は脳や脊髄、神経、筋肉の病気をみる内科です。体を動かしたり、感じたりする事や、考えたり覚えたりすることが上手にできなくなったときにこのような病気を疑います。症状としてはしびれやめまい、うまく力がはいらない、歩きにくい、ふらつく、つっぱる、ひきつけ、むせ、しゃべりにくい、ものが二重にみえる、頭痛、かってに手足や体が動いてしまう、ものわすれ、意識障害などたくさんあります。まず、全身をみれる神経内科でどこの病気であるかを見極めることが大切です。その上で骨や関節の病気がしびれや麻痺の原因なら整形外科に、手術などが必要なときは脳神経外科に、精神的なものは精神科にご紹介します。また、感じることの中には見たり聞いたりする能力も含まれますが、眼科や耳鼻科の病気の場合もあります。どの診療科に受診するのが一番ふさわしいかは、おかかりになる病院に前もって問い合わせるとよろしいでしょう。

神経内科と他の科はどのように違うでしょうか?

よく神経内科はわかりにくいといわれます。科の名称が紛らわしいためと思いますが、特に間違えられやすいのが精神科、精神神経科、神経科、心療内科などです。これらの科は精神科の仲間で、おもに気分の変化(うつ病や躁病)、精神的な問題を扱う科です。また、心療内科は精神的な問題がもとで体に異常をきたしたような病気を扱う科で、もともと内科のトレーニングを受けた先生が多いですが、一部精神科の先生方も心療内科として診療を行っています。

神経内科はこれらの科と異なり、精神的な問題からではなく、脳や脊髄、神経、筋肉に病気があり、体が不自由になる病気を扱います。まず、神経内科でどのような病気か診断し、手術が必要な病気の場合は脳神経外科にご紹介します。脳神経外科は外科ですので、基本的に手術などが必要な病気を扱います。脳腫瘍や脳動脈瘤などが脳神経外科でみる代表的な疾患です。

精神科の病気のほとんどが実際に病気の患者さまの脳を拝見しても異常を見つけられないのに対し、神経内科で扱う病気は脳をみるとなにかしら病気の証拠をみつけることができます。但し、中には精神科と神経内科どちらでも見る病気もあり、痴呆やてんかんなどはその代表的なものです。最近は痴呆も原因がわかりつつあり、脳の変化もよくわかってきています。

このようにいろいろな科が関係することもありますが、まずは全身をみれる神経内科にかかっていただき、必要であれば他の科に紹介していただくのが望ましいと思います。

また、大学によっては神経内科とよばず脳神経内科などほかの名称の場合もあります。

神経内科とは?|神経内科の主な病気 一般社団法人 日本神経学会

ただし、歩くこともできないといった立位保持不可・歩行不可な場合や、嘔吐を伴う場合は横になって安静を保ち、改善しなければ迷わず救急外来を受診してください。

症状自体は軽い場合ですが、もし横になってしばらく安静にしても治まらない、寝ている状態でも目眩が緩和されない場合には神経内科へ行くのが良いでしょう。

めまい・頭痛・耳鳴りがひどい場合は重篤な病気が隠れている場合があるので、まずは必ず医療機関を受診してください。鍼灸・マッサージはあくまで、それで異常がなかった場合に適応となりますので、その点を踏まえた上でご検討ください。

鍼灸・マッサージは病院で治せないものが治せるといった魔法のようなものではございません。

 

鍼灸・マッサージで可能なこと

  • 筋肉を弛める
  • 血流を改善させる
  • 自律神経のバランスを整える

以上の3点です。

私たち鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師が行うのはあくまで「肩こりという症状」に対してであり、この3点の改善で対処できる問題が生じている場合には、きっとお力になれるものと存じております。

では、どの鍼灸師でも結果は同じかと思われるかもしれませんが、不調の原因を見極めることが難しいのです。そしてたいてい不調の原因は1つではなく複数ございます。

自律神経を乱れにくくすることは容易ではありません!!

今このテキストをご覧のあなたは、天気による体調不良で悩まされ、様々な対処方法を試してきたことでしょう。でも、どれも期待通りの効果は得られなかったのではないでしょうか?偏頭痛や肩こりと同じように、どうせ治らないとどこか諦めてしまっているかもしれません。ひとつだけ確かなのは、肩こりは治る、という事実です。頭痛の原因が肩こりであれば、頭痛からも解放されます。

自律神経失調症からの不定愁訴に対する特効薬は現段階ではありません。

不調の根源には自律神経のみではなく脳・筋肉・血流・精神・・・など諸々の要素が複雑に絡み合い、体全体として負の連鎖が生じてしまっていることが大きく関与しています。

その負の連鎖を断ち切ることで、ある程度症状はコントロールできるものと考えております。

なかでも鍼灸・マッサージは自律神経や中枢神経にはたらきかける作用が科学的に証明されています。[文献2]

適切な部位に、適切な方法で、適切な処置を行うことで神経に影響を及ぼすことが可能です。

解剖学・生理学的に首と自律神経には密接な関係性があるのは紛れもない事実

当記事では、あくまで筆者の経験による見解が多く、いま現在、医学的根拠として有効なものではございません。医学的根拠として有効ではなくとも、解剖学・生理学的に首と自律神経には密接な関係性があることはまぎれもない事実です。頚部周辺の状態を良くすることは自律神経系の状態を良くすることにつながり、結果的に諸症状の改善につながることは、いまこのテキストをお読みの方でしたらきっと容易に予想できると思います。

肩こりラボでは、さらに症例と客観性のあるデータを蓄積して医学的根拠としての有効化と、より再現性のある理学療法を日々追求しています。

【参考文献】

[文献1] http://www.sasappa.co.jp/online/abstract/jsasem/1/050/html/1110500408.html

[文献2] http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0165183899000909

[文献3]http://www.annalsofian.org/article.asp?issn=0972-2327;year=2013;volume=16;issue=2;spage=221;epage=225;aulast=Menon

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


パフォーマンスアップを望むアスリート(ダンサー含む)に有効な鍼とマッサージ。客観的視点から再検討してみました。

 

鍼で秘孔をついてパワーアップ

アスリートの方から「鍼で秘孔(ツボ)をついてパフォーマンスアップできませんか?」というご質問をしばしば頂きます。

一般の方の感覚からすれば、冗談のように思えますが、ケガが治らないトレーニングを行っても一向に変化無しといった状況のアスリートにとっては藁をもつかむ心情なのです。

どうも鍼(ハリ)はツボを刺激すると思われていますし「北斗の拳」といった国民的人気コミックの影響で秘孔という言葉だけは広く知られ、中国四千年の歴史というイメージ(中国が建国されたのは1949年です。)・・・といったイメージがあるようで“不可能が可能になる“1発で劇的な変化が起こる”といった期待を抱く方が多いようです。

しかし鍼(ハリ)はあくまで機械的刺激を用いた物理療法のひとつです。(物理療法とは、電気・温熱・寒冷・触圧など物理的な方法で行う療法。)

人体に鍼を刺して起こる反応は限られています。これは以前の記事で解説いたしました。

→ 医学的根拠に基づく鍼灸・マッサージとは(通い続けても改善しない重症肩コリ・首こり患者さんにお読み頂きたい東洋医学と西洋医学の違い)

 

鍼はパワーアップではなくダウンさせるためのもの

鍼を打つことで筋力アップといった素晴らしい効果があるのか、ないのか?ずばり事実を申し上げます。

基本的に鍼(ハリ)は筋肉弛緩させ、血流を増加させると同時に張力(発揮する力)を低下させます。

[文献1] 肘関節屈曲伸展運動に伴う筋疲労に及す円皮鍼の効果 異なる施鍼部位でのパイロットスタディ 

そのため、鍼(ハリ)はアスリートにとっては体調を整えるコンディショニング・ケアという点では有効ですが、鍼を刺すことにより筋肉な弛緩するため筋収縮力は低下し、競技直前の鍼施術はパフォーマンスを低下させるであろうことが理論上通説とされています。

しかし、こちらの研究では競技前に鍼(ハリ)を行う事の有効性が示唆されています。↓↓↓

[文献2]トライアスロン競技後の筋肉痛に及ぼす円皮鍼の効果-プラセボを用いた比較試験- 

こちらを要約すると、腰の一定部に長さ0.6㎜の極短い置き鍼(円皮鍼)を行って運動を行った所、疲労感と運動後の筋肉痛(遅発性筋痛=DOMS=Delayed Onset Muscle Soreness)が軽減されたとのことです。

ここに置き鍼を行い運動を行ったところ効果があったとの報告です↓↓

円皮鍼

円皮鍼2

上記[文献2]より引用させていただきました

 

円皮鍼とはこのようなものです↓↓

円皮鍼5

http://www.jizo-s.jp/treatment.htmlから引用させていただきました

円皮鍼4

http://shibasaki.hmpg.org/index.php?FrontPageから引用させていただきました

 

遅発性筋痛=DOMS=Delayed Onset Muscle Soreness とは↓↓

遅発性筋痛 delayed onset muscle soreness

  • 運動後数時間から24時間程度経過して、筋肉を圧迫したり動かしたりした時に知覚され、運動1-3日後をピークとなり、7-10日以内には消失する痛み
  • DOMSが筋や結合組織の微細構造の損傷を引き起こす伸張性(エクセントリック)筋活動を含む運動にともなって起こることから、筋線維あるいは結合組織の損傷、およびその後の炎症反応が原因だとする(損傷・炎症説)が広く支持されている
  • DOMSと乳酸は無関係であるといっても過言でない
  • 筋のスパスムと筋の虚血の相互作用がDOMSを引き起こすという筋スパズム説も否定されている
  • 遅発性筋痛は、伸張性(エクセントリック)筋活動を含む運動で発現し、短縮性(コンセントリック)あるいは等尺性(アイソメトリック)筋活動のみでは、ほとんど発現しない
  • DOMSが発現するのは、運動に不慣れな場合や、運動時間が普段より長かったり、運動強度が激しかったりした場合
  • 筋の損傷・炎症は、筋力、関節可動域、筋周径囲、CPK、ミオグロビン、超音波、MRI画像変化から間接的に把握される
  • DOMSの程度は筋損傷の程度を反映しておらず、筋肉痛が激しいことは必ずしも筋損傷の程度が激しいことを意味していないと結論づけられる
  • 加齢に伴ってDOMSの発現時期が遅延するという事実は必ずしも明確でない
  • 上腕屈筋群のエクセントリック運動を20歳代と50-60歳代の被験者に負荷して筋痛の出現時期を比較した結果、どちらの被験者群においても、一日後に筋痛が出現し、2日目にさらにひどくなり、3日目以降に回復していくという結果で差は求められなかった
  • 3-5才児筋痛なし 小学生になるとDOMSが生じる
  • DOMSの発現を完全に抑制する効果を有する手段はみつかっていない
  • NSAIDのDOMSに対する効果は認められていないか、認められたとする報告でもその効果はわずかである

遅発性筋痛の意味

  • 一般に痛みは危険信号だと考えられ、異常を知らせ、痛みがある部位を安静に保つことを促していることが多い。しかし、DOMSにおいては、痛みが生じるのは運動後であり、仮に運動が危険であることを知らせるには手遅れである。また、痛みがある筋を安静に保たせるための信号であるとすると、DOMSのある筋を無理して動かした後、痛みが軽減し、回復過程に対しても悪影響がないことと矛盾する。さらに、筋痛が発現する時期は、組織学的な損傷・炎症の時間経過と一致せずまた、痛みの程度と損傷の程度は無関係である。これらのことは、DOMSの生理学的意義に対して疑問を投げかけるものである。なぜ運動後DOMSが出現するのであろうかDOMSにはどのような意味、意義があるのであろうか。これらの疑問に対する答えは、現在のところ得られていない。

出典:遅発性筋痛の病態生理学 理学療法 2001;18(5):476-484(野坂和則)

 

競技前に行う鍼(ハリ)によるパフォーマンスアップについて

先行研究と合わせて、競技前の鍼(ハリ)とパフォーマンス向上について考察をします。

①鍼をどこに刺すか

鍼を筋肉へ刺さると、その筋肉は弛緩します。 鍼を刺すと筋肉を弛緩させ収縮力を低下させるため、特殊なケースを除き、競技前にむやみに鍼を刺すと“発揮される力の低下”=“パフォーマンス低下”を招く可能性があります。 しばしば選手からの「筋肉の緊張がとれて可動域は広がるが、力が入りにくくなる」という訴えを耳にします。(過剰に力んでしまい可動域制限と意図する動きができない方には有効的ですが・・・)

また、その反応は神経支配比が密(神経がたくさん集中している)な体の末端部分で顕著に出る傾向があるため、足や腕など競技中に筋肉の収縮・弛緩が激しく繰り返される部分に施術を行うと返ってマイナスに作用してしまう可能性があります。

アスリートにとって、競技中に違和感として実感されるのはマイナスとなりかねないので”置き鍼をしているのかしていないのかわからない”状態とするのが好ましいです。

よって、末端部分ではなく体幹部分へ施術を行うことが推奨されます。 体幹の背骨の近隣に刺激を行うと、体性-自律神経反射により遠隔部の血流を改善させることが可能となります。

例えば腰へ施術を行うと足が、首へ施術を行うと手の血流が増加します。このため、足に鍼を行わなくても、腰へ施術を行うことで、重だるさが生じる可能性を限りなくゼロに近づけて足の状態を上向きにすることが可能です。

②鍼を刺す深さは

皮膚は表皮(約0.2㎜)、真皮(約2㎜)、皮下組織(主に脂肪で個人差有り)で構成され、その深部に筋膜で包まれた筋肉が存在します。鍼が筋膜を通過する際に鈍痛や重だるさを覚える場合が多いため、それらを生じさせないためには“筋膜を貫かない”ことが大切です。

そのため0~数㎜以下の深さで鍼を挿入することが推奨されます。その点、円皮鍼は長くても1.5㎜なので有効な手段といえます。

また、真皮層には痛みや違和感を感じる神経が密に分布するため、違和感を予防するという意味では実験で使用した0.6㎜のものか最も短い0.3㎜のものが有効的なのではないでしょうか。

ちなみに、0㎜~としたのは刺さず皮膚表面へ刺激を与えるだけでも反射を喚起することができるからです。

(しかし刺さないとなると鍼である必要がないのでは・・・という意見が出るはずです。私自身も刺さないならば鍼である必要はないと考えているので、極弱い刺激が適している場合にはマッサージにて対処を行っております。)

筋膜リリースとは?

③鍼のデメリットは

ウェイトリフティングや陸上の短距離・跳躍・投的など、瞬発的に高いパワーを発揮する競技には不向きかもしれません。

バイオメカニクス上、身体動作における発揮される力の源は体幹です。筋肉までは到底到達することがない極浅い円皮鍼という刺激であっても、刺した部分の筋肉が弛緩することは考えられます。(経験上は弛緩します。)

上記のような限界ギリギリの所で勝負をする競技においては、わずかでも筋収縮力が低下することは、パフォーマンス低下を招きまねきかねません。よって筋肉の収縮力次第でパフォーマンスが大きく左右する瞬発系の競技においては、競技前の鍼(ハリ)は避けた方が良いのではないでしょうか。

 

競技前の鍼(ハリ)が適しているスポーツとは?

多くのスポーツは筋肉の収縮力が第一の理由でパフォーマンスは決定しません。長・中距離や多くの球技等は筋力だけでなく、有酸素系代謝能力や多くの要因が絡み合いパフォーマンスが決定します。

すなわち、多くの競技は筋力とパフォーマンスは正の相関関係にありません。よって、体幹部分に多少の筋力低下が生じたとしても(円皮鍼を刺して筋力低下を実感できるのは国際レベルの極少数のトップアスリートぐらいですが・・・)、末端部の循環を良好な状態に保ち、疲労しにくい状態をつくることは結果として動作を円滑に、持続的に遂行することにつながるはずです。

そして、何よりも怪我や痛みを抱えずに、継続的・漸増的にトレーニングを積むことがアスリートのパフォーマンスアップには不可欠です。このようなことから、瞬発系競技以外のスポーツにおいて、競技前に鍼(ハリ)を行うことは、パフォーマンスアップの補助となるのではないでしょうか。

個人的には、長距離ランナーはじめ有酸素系のアスリートは、疲労のコントロールと障害予防という点で日常的に円皮鍼を使用し練習を行うと良いのではないかと考えております。

また、バスケットボール、サッカー、野球、バレーボール、ダンスなど部分部分では瞬発力の求められる競技も、トータルでとらえると持久力・協調性・スキルが高い次元で両立されることが求められるため、有効的なのではないでしょうか。

海外の選手と瞬発力含め身体能力勝負をしても、日本人に勝ち目はありません。身体能力勝負をすると越えられない壁はつきものですが、今後日本人が世界で活躍するためには、持久力・協調性・スキルで勝負をする必要があるのではないでしょうか。

鍼(ハリ)は筋力アップという点ではマイナスですが、持久力・協調性・スキルという点ではプラスに作用する可能性が高いです。

このようなことから、バスケットボールやサッカーなどといった一見瞬発力の求められる競技においても、競技前の円皮鍼による治療は有効的なのではないかと考えております。

スポーツと鍼(ハリ)についてのまとめ

鍼(ハリ)(東洋医学・ツボ)は魔法ではないため、漫画のイメージのように不可能を可能とすることはできません。

「長年悩んだ〇〇の痛みが劇的に・・・」「あきらめていた〇〇が1発で・・・」などの奇跡体験が美談として語られますが、ごく稀に奇跡のような事象はたしかに起こります。

しかしそもそも“その治療”が本当に効果あったのか、はたまた“その治療”に関係なく生じた現象なのか(単に平均への回帰だったのか)、その美談が公平な視点から検証された形跡はありません

残念ながら、アスリートのパフォーマンスアップに近道はありません。しかし“寄り道”をしないことは可能です

アスリートが進化し続けるためには、第一に漸増的・持続的にトレーニングを行うことができるかどうかが求められます。寄り道とは、スポーツ障害や不適切なトレーニング計画・メニューによって無駄な時間を過ごしてしまい、トレーニングを漸増的・持続的に実行不可能となってしまうことです。

アスリートが鍼(ハリ)によってパフォーマンスアップ可能かどうか。

結論、鍼(ハリ)によって劇的にパフォーマンスアップを図ることは不可能ですが、パフォーマンスアップを阻害する“寄り道”の可能性を大いに低下させることは可能です。その手段として、今までは競技後のコンディショニング一辺倒だった施術が、競技前にも有効的な手段があるということが示唆されたのではないでしょうか。

円皮鍼を用いた施術は、低リスク・低費用で簡易的な施術になりますので、どこの治療院でも気軽に実施可能です。 そのためプロアスリートに限らず多くのアマチュアアスリートの方々にも実施していただくことが可能です。プロ・アマ問わず、日本のスポーツ発展にわずかでもプラスとなるのではないかと考えております。

最後まで、お読みいただきまして、ありがとうございます。

今回の記事はお役に立ちましたでしょうか?パフォーマンスアップについてお悩みの方、なんとかしたいとお思いの方、是非、一度ご相談ください。

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


ひどい肩こりや首こりが整骨院・整体に通い続けても一向に改善しない方は「東洋医学と西洋医学の違い」を知りましょう

「リンパが詰まっているのが原因です。」

「痛みの原因は、老廃物がたまっているからです。

「骨が歪んでいますね。これを直せば楽になります。」

「背骨が歪んでいますので直します。」

このように自信満々に言われ、言われるがまま施術を受けられる方が多いと思います。実際に良くなられている方はよいのですが、そうでない方、疑問をお持ちの方が今このページをご覧になられていると思います。

この記事が、悩みや今抱えていらっしゃる疑問を解決するヒントになれば幸いです。

当記事での東洋医学とは鍼・灸・マッサージを指すこととさせていただきます。漢方は含みません。

医学的根拠は皆無なのに東洋医学的には正しいという謎

 

冒頭に上げた例は、街中に溢れている整体、カイロ、足つぼマッサージなどのお店や整骨院等でよく使われる言葉です。本当によく使われています。

結論から申し上げますが、医学的根拠は皆無です。

東洋医学的に・・・という説明をするところもあることでしょう。(西洋)医学的に説明できないことだけど、東洋医学的には正しい、効果がある、こんな風に言われたら、よく分からないけど信じてみるのは無理もありません。

ひどい肩こりで痛くてつらいと、痛みをすぐにでもなんとかしてほしいわけですから、説明とかはいいから!!となってしまうのが普通です。

分からないから不安になる。その不安を「知識」で解消しましょう。

もし、ご自身またはご家族が大きな手術をする、となった時、それが緊急事態ならやむを得ませんが、時間に余裕がある場合「とりあえずお願いします」となりますか?

きっと説明をよく聞くと思います。それが大切な人の場合でしたら自分の場合よりも理解しようとするはずです。ひとりだと不安だから誰かを同伴してお話をきく場合もあるでしょう。

肩こり・首こり・腰痛の場合は、どうしても大きな怪我・大病と比べれば緊急性が低い上に我慢もできてしまいます。ですから、正しい情報を一生懸命求めるよりも、どうしても受け身になりがちです。テレビでみた、雑誌で目にした、友達がいってた、といった情報、その情報の中でも「楽そう」「簡単そう」な情報に流されてしまいます。

すごく効くよって聞いて東洋医学系の施術を受けてみたものの一向に良くならない、それどころか悪化した・・・何ヶ月も予約でいっぱい、全国から訪れる評判のところにいったけど全然よくならない・・・このような方はかなりいらっしゃるはずです。

「わからない」「先が見えない」これは不安です。とてつもないストレスです。

不安やストレスを少しでも減らためには、正しい知識を身につけることです。仕組みや意味がわかるだけでストレスや悩みはぐっと減るはずです。

今、あなたは、このページ自体信用できるの?と思われたかもしれません。

少しだけお時間ください。読んでご判断ください。

鍼(はり)・お灸(きゅう)・マッサージといった東洋医学として世間一般で認識されている方法が、どのような考えをもとに行われているのか?それが西洋医学的な根拠に基づいた方法とどう違うのか?という点にフォーカスしていきます。

西洋医学と東洋医学のちがい

東洋医学という言葉を耳にして連想されるのはどのようなイメージでしょうか?

 

東洋医学というと、まず連想されるのが、中国4000年(最近では5000年に延長されています)の歴史、ツボ、気(気功)、ハリ、漢方・・・だと思います。漢方はさておき、肩こりに代表される体の不調を治す東洋医学のイメージは鍼や灸でツボ(経穴)を刺激し、気や経絡を整え、血流を改善することで自然治癒力を高め、体質改善を行うといった内容を想像されるのではないでしょうか。

上記に挙げた東洋医学らしい文言の中で、医学的根拠(EBM)に基づいているのは「血流を改善する」という部分のみです。

● 西洋医学では不可能とされた病でも東洋医学なら可能。

● 不治の病、難病を治した。

などといった宣伝文句をしばしば目の当たりにします。世の中には科学的に説明できないこともまだまだ多いですし、不思議なことだらけですから、東洋医学に不思議な力があると信じてしまう人もいれば、胡散臭く思う人もいることでしょう。

しかし、ここで注意しなければならないことがあります。

東洋医学の世界では

  • 症例数に関わらず、1人でも改善すれば効果有り
    • 有効率の検討がなされておらず施術者の主観をよりどころとされている
  • 良いことしかアピールされない
    • 施術者から発信される情報にバイアス(偏り)がかかっている、施術者自身が信者となっている
  • 効果の判定が定量化されていない
    • 客観化数値化されていない、する努力をしない、あえてしない
  • 東洋医学的療法(鍼・灸・マッサージ等)を行ったから効果があったのか、たまたまだったのかの比較検討がなされていない
    • 二重設盲検法(Double Blind Test)、ランダム化比較試験(RCT::Randomized Controlled Tria)、がなされていない
  • 東洋医学の文献の大部分が筆者に都合の良い結論付けとなっている場合が多い
    • プール解析メタ分析(メタアナリシス)がなされていない

二重盲検法

二重盲検法(にじゅうもうけんほう、英: Double blind test)とは、特に医学の試験・研究で、実施している薬や治療法などの性質を、医師(観察者)からも患者からも不明にして行う方法である。プラセボ効果や観察者バイアスの影響を防ぐ意味がある。この考え方は一般的な科学的方法としても重要であり、人間を対象とする心理学、社会科学や法医学などにも応用されている。

行為の性質を対象である人間(患者)から見て不明にして行う試験・研究の方法を、単盲検法という。これにより真の薬効をプラセボ効果(偽薬であってもそれを薬として期待することで効果が現れる)と区別することを期待する。しかしこの方法では観察者(医師)には区別がつくので、観察者が無意識であっても薬効を実際より高くまたは低く評価する可能性(観察者バイアス)や、患者に薬効があるかどうかのヒントを無意識的に与えてしまう可能性が排除できない。そこでこれをも防ぐために、観察者からもその性質を不明にする方法が二重盲検法である。

ランダム化比較試験

ランダム化比較試験(ランダムかひかくしけん、RCT:Randomized Controlled Trial)とは、評価のバイアス(偏り)を避け、客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験の方法である。従って根拠に基づく医療において、このランダム化比較試験を複数集め解析したメタアナリシスに次ぐ、根拠の質の高い研究手法である。主に医療分野で用いられる。略称はRCTである。

メタアナリシス

メタアナリシス(meta-analysis)とは、複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析すること、またはそのための手法や統計解析のことである。メタ分析、メタ解析とも言う。ランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシスは、根拠に基づく医療において、最も質の高い根拠とされる。

出典:Wikipedia

このように非常に曖昧な要素が根幹を成してしまっています。

ここで、読者の方にご確認しておいてほしいことがございます。これを書いている著者自身ははり師・灸師・あんま指圧マッサージ師の資格をもっております。これら3つの資格は国家資格であり、資格取得のためには東洋医学を最低3年間勉強し国家試験を受けて合格しなければなりません。

私自身、鍼灸師として仕事をはじめた最初の数年間は、東洋医学的な考え・方法を実践しました。西洋医学的な解釈からすれば無茶苦茶な理論でも結果は出るのかもしれないという期待はありました。しかし結局、自信をもってプラセボ以上といえる効果はあげるには至りませんでした。これは私自身の経験不足・知識不足のせいかもしれません。

確かなことは、特別な感性・才能をもったセラピストでなければ、東洋医学で効果をあげることは困難=再現性が低いのは間違いないと思います。

そして、私は過敏性腸症候群を患っていたことから、ゴッドハンドと呼ばれる有名な東洋医学的施術者のところへ通いました。今このブログをご覧のあなたと同じく、治療方法が解明されていない・病院で治らないなら、可能性があるとされる方法を信じたい、すがりたい気持ちは・・・きっと同じだったと思います。ですが、私自身は残念ながら東洋医学の神秘にふれることはできませんでした。

東洋医学をモットーとする施術者に「何を根拠に行っているのか?」とお尋ねすると「自分の感覚では・・・」「私は〇〇と考える」「何千年も前から伝えられている経験医学だ」などと答えます。よりどころとするのは経験であり、何千年も前に書かれた書物とのことです。

東洋医学関連の文献は数多く出典されてはいますが、その試験方法、解析方法に穴があり、症例報告の域を出ることがなく、信頼度の高いものが少ないという状況なのです。

鍼灸マッサージの裏事情(2) 医業類似行為による事故をふまえて、まぎらわしい業界事情・用語・資格についての解説

この記事は鍼灸師・マッサージ師による記事ですが、鍼灸・マッサージを擁護・推奨することを目的としたものではございません。この点に関して公平な目線で詳しく説明している記事が執筆時点でみつからなかったため、当記事では細かい部分まで明記することを意識しました。

そのため少し長くなってしまいましたが、つらい症状にお困りで、様々な整骨院・鍼灸院・整体院を巡っていらっしゃる方は是非最後までお付き合いください。

今後の判断材料の一つとしていただければ幸いです。

肩こり・首こりを解消するために、あなたはどこに足を運んでいますか?

鍼灸(はりきゅう)

マッサージ

按摩

指圧

リフレ(リフレクソロジー)

足つぼ

アロマ(アロマテラピー)

整体

整骨院

接骨院

カイロ(カイロプラクティック)

骨格矯正

骨盤矯正

理学療法

リハビリテーション

機能訓練

トレーニングジム

パーソナルジム

ストレッチ店

ヨガ教室

このように街を見渡せば、いたるところで目にすることができます。コンビニよりもたくさんあります。これらはどれも、痛みや煩わしい症状を抱えていらっしゃる方がそれを解消しようとして足を運ぶ所です。

上記の項目中、法律により規定されているもの、つまり厚生労働が正式に認可しているものはどれ?とお尋ねして解答できる方は少ないのではないでしょうか。

このように、巷には一般の方からみてはその差がよくわからない用語が氾濫しております。今回はこれらをひいき目無しで解説、検討したいと思います。

 

医療行為と医療類似行為の二つに分けることができます。一番肝心な所です。

①医療行為(医業)

医療行為とは、人の傷病の治療・診断又は予防のために、医学に基づいて行われる行為のことをいいます。

日本では、医療行為について医師法第17条「医師でなければ、医業をなしてはならない。」と規定されており、医師(医師免許を持つ者)以外が行うことを禁止しています。医療行為は医師の業務独占です(業務独占については下記をご覧ください。)

看護師・理学療法士・作業療法士・聴覚言語療法士・薬剤師・放射線技士などはそれぞれ法律により、医師の処方の元、医療行為の一部分を行うことができることを規定されています。

②医業類似行為(医療類似行為)

医師が行う医療行為以外は全て医業類似行為となります

冒頭の用語は全てこちらに該当します。しかし全てが同じではなく区別されます。

国家資格である鍼灸師、按摩マッサージ指圧師、柔道整復師は医療行為ではなくあくまで医業類似行為です。

鍼灸師、按摩マッサージ指圧師は“按摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律”第1条により、医師以外で他者に鍼・灸・マッサージ施術を行うことを許可されています。これは医師法の特例であり、医師の行う医療行為の内、鍼・灸・マッサージに限定して許可をされています。

しかし注意が必要なのは許可しているのはあくまで「鍼を刺す」「お灸を行う」「マッサージを行う」という施術行為のみ

なので、診断や投薬の指示を行うことはもちろん違法行為ですし、その他医療行為を行うことは医師法に違反することとなります。

経験を積んだ鍼灸師・あんま指圧マッサージ師は何を勘違いするのか、医師の真似ことをするようになる場合が非常に多いのでこれは大きな問題点だと思います。鍼灸師・あんま指圧マッサージ師は独立開業権があり、東洋医学という医師が立ち入ってこないグレーゾーンにいつでも逃げ込むことができるため、医学的におかしいことやつじつまが合わないことでも自らに都合の良い理論を唱えるようになります。

そして客観性や再現性といったが医療として肝心な部分が欠如しており、施術者当人の経験や勘に頼る施術がほとんどとなります。(99%と言っても過言ではありません。)

そのため「他者に鍼を刺す」という通常ありえない行為を法律上許可されているにもかかわらず、いつまでたっても医業類似行為の域を出ることができないのではないでしょうか。

毎年数千人もの新しい鍼灸師が生まれてきています。この問題を鍼灸師・あんま指圧マッサージ師それぞれが心真摯に受け止め考えなければ、我々に明るい未来は無いのではと私は考えております。

 

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(http://caresapo.com/acupuncture_column_2.htmlさんからお借りしました)

一方、柔道整復師は柔道整復師法第15条により医師以外で急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲および捻挫(いわゆる肉ばなれを含む)に限り施術を行うことが許されています肩こり・首こり・腰痛など慢性の疼痛疾患はその対象になりません。このうち骨折および脱臼については、緊急の場合を除きあらかじめ医師の同意を得ることとなります。

柔道整復師は、その業務範囲内で自ら負傷の状態を把握し、自らが施術できる疾病又は負傷であるか否か等を判断して施術を行うことを許可されています。この点で看護師や理学療法士など、業務の開始に医師の指示が必要とされる職種と異なるといえます。

ですが、例え知識があってもレントゲンやMRIなどの画像を撮ることや、それを元に診断することはできません。エコーを用いることは違法ではありませんが、それで診断をしてはいけないのです。

柔道整復師は急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲および捻挫(いわゆる肉ばなれを含む)に限り健康保険を用いて施術を行うことが許されています。

しかし実際には、本来業務範囲外である肩こり・首こり・腰痛など慢性疾患を骨折、脱臼、打撲として虚偽の申請にて健康保険適用としている場合が圧倒的多数です。(厳密には違法ではあるものの、数があまりにも多いため取り締まることができない現状というのが正しいです。)

しかしこの点に関して患者さんは一切知らされることはありません。施術者側はこれらを明瞭にする必要がありますし、肩こり・首こり・腰痛など慢性の疼痛疾患を抱える患者さんはこの事実を知った上で自ら判断し、整骨院・接骨院にて施術を受けたほうが良いのではないでしょうか。

ここまでをまとめると・・・

医療行為(医業)を行うことができるのは医師に限定されています。また、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律第12条に「何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない。ただし、柔道整復を業とする場合については、柔道整復師法(昭和四十五年法律第十九号)の定めるところによる。」とあり、法律上、鍼師・灸師・灸按摩マッサージ指圧師・柔道整復師のみが医業類似行為を行うことを許可されています。これは医師法の特例です。

ところで、鍼灸按摩マッサージ指圧師の行う施術を「治療」と呼べるか否かは考えが分かれる所です。法令として規定されてはおらず、この点に関して厚生労働省も明確に言及しておりません。

これはあくまでも私の考察ですが、鍼灸按摩マッサージ指圧師が施術所開設するにあたり名称を保健所に申請する際に「〇〇治療院」ということが認可されるため(実際には推奨される)、また、柔道整復師の場合は「治療院」ではない用語を用いるように推奨されるため、厚生労働省の判断として鍼灸按摩マッサージ指圧師の施術を「治療」と呼ぶと判断しているのではないでしょうか。

医療類似行為に関する資格についてご説明いたします。資格には2種類ございます。

これも大きく二つに分けることができます。簡単に言うと厚生労働省(国)によって認可されているか否かです。

①国家資格

厚生労働省によって認可された資格です。国家資格の場合は業務独占である場合が多いです。

業務独占とは「資格を取得していないとその行為をすることができない」ということです。例えば、他者に鍼を刺すことを法律上許可されているのは医師と鍼師のみということです。

業務独占の類義語で名称独占がありますが、これは「資格を取得していないとその資格名や行為名を名乗ってはいけない」ということです。

例えば病院でリハビリを行う理学療法士・作業療法士という国家資格があります。これらは名称独占です。ということは理学療法士・作業療法士の国家資格を保持していない方がリハビリの業務を行っても違法ではありません。しかし無資格者が「理学療法士」「作業療法士」と名乗るとそれは違法となります。

また「リハビリテーション」「機能訓練」などといった用語を用いるのも違法と判断されるようです。(前者は間違いなく違法ですが、後者はグレーな部分でもあり司法の判断によりけりとなります。)

あくまでも一例ですが、整形外科クリニックのリハビリテーション室には理学療法士が数名いてあとはトレーナーが大まかな業務を行う、という形態をとっています。(全ての整形外科クリニックのリハビリテーション室がそうではありません)

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(Wikipediaから引用させていただきました)

②民間資格

各民間団体や企業が独自に認定している資格です。法律で規定されている資格ではないため、医療という立場では効力を発揮しません

例えばリラクセーションの店舗を経営する企業が一定の講習を受講した人に認定する「整体師」「セラピスト」などといったものがあります。また、海外では国家資各や公的ライセンスであったとしても厚生労働省が認可していなければ、日本では無資格者と同じ扱いとなります。

例を挙げれば、アメリカの大学で一定のカリキュラムと試験にパスしなければ取得できないカイロプラクティック(D.C.=Doctor of Chiropractic)やトレーナー(ATC / NSCA-CSCS 等)の資格も日本では厚生労働省が認めていないため、どんなに優秀な施術者であったとしても日本では無資格者と同じ扱いとなってしまいます。

冒頭の項目で国家資格なのは・・・

柔整整骨接骨 → 柔道整復師による業務独占

鍼灸 → 鍼灸師による業務独占

按摩マッサージ指圧 → 按摩マッサージ指圧師による業務独占

[注]これらの施術は国家資格保持者でなければ行うことができません。無資格者が行うのは違法です。しかし、これらが看板に記載してあっても有資格者だとは言い切れません。なぜならば鍼灸師、按摩マッサージ指圧師・柔道整復師は名称独占ではないからです。

巷で良くあるパターン → 無資格者による施術所であっても上記の用語が看板に書いてあることがあります。ここまでは違法ではありません。もし役所などから指摘された場合は行っている施術は有資格者の行う「マッサージ」ではなくリラクセーションの手技であると回答するという逃げ道があります。つまり、一般人からはさも「治療」を行っているように見せているが、中身は非国家資格保持者による施術である場合があるのです。

理学療法リハビリ機能訓練 → 理学療法士による名称独占

[注]これらの施術は無資格者が行っても違法ではありませんが、無資格者が理学療法士と名乗るのは違法です。

医業類似行為に該当する各資格のまとめ

①国家資格のもの

柔整」「整骨」「接骨」 → 国家資格である柔道整復師によって行われます。”打撲””捻挫”など急性のケガをした時に行く所です。”骨折””脱臼”は応急処置でない限り、整形外科を受診することを厚生労働省は推奨しています。巷には整骨院や接骨院といった看板がありますが、中身は同じです。

鍼灸」 → 鍼師・灸師という別々の国家資格が存在し、それぞれ試験を受ける必要があります。鍼師は医師以外で唯一患者さんに鍼を刺すことを許可されています。

マッサージ」「按摩」「指圧」 → 正式には按摩マッサージ指圧師という国家資格に合格した者が行うことができます。マッサージ・按摩・指圧はそれぞれ別途に定義があり区別されます。

理学療法」「リハビリテーション」「機能訓練」 → 国家資格である理学療法士が得意とする分野です。とても専門的知識が必要な業務ですが法律的には名称独占のみなので、用語を使わなければ誰が行っても違法ではありません。 (効果があるかどうかは別問題です。)

②民間資格・無資格のもの

整体」「骨格(骨盤)矯正」「ボディケア」「リフレ(リフレクソロジー)」「足つぼ」「アロマ(アロマテラピー)

→ 按摩マッサージ指圧師の国家資格を持っていない方が施術を行う際に使う名称です。これらは医療行為ではなく、あくまでもリラクセーションの範疇です。 「〇〇療法」「〇〇矯正」「〇〇整体」はよく耳にすることができますが、これらはすべてリラクセーションです

柔道整復師や理学療法士、その他アメリカの公式ライセンスを保持していても日本でマッサージの施術を行うことを許されているのは按摩マッサージ指圧師の国家資格を取得した者のみです。

(厳密には、柔道整復師は骨折・脱臼・打撲の後療法として患部周囲に限りケガが治るまでの間マッサージの様な手技を行うことが可能です。理学療法士・看護師は医師の処方の下、マッサージを行うことが可能です。)

根拠となる厚生労働省のホームページです→ http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/hourei/061115-1.html

カイロ(カイロプラクティック)→ アメリカの4年生大学にて取得できる資格でD.C.=Doctor of Chiropracticと呼ばれます。(Doctorとつきますが医師ではありません) アメリカでは公式ライセンスですが日本では国家資格ではありません。 アメリカで正式な手順を踏んでおらず、簡単な研修を終えただけの自称カイロプラクターが激増し、施術による事故が多発している現状があります。そのようなことから、厚生労働省からはカイロプラクティックによる首の骨を鳴らす事の危険性、誇大広告の注意が示唆されており、(特に首の施術においては)国内では医業類似行為として推奨されているのもではない、という現状があります。 D.C.の先生方からは反論があがりそうですが、厚生労働省のホームページに明記されている通り、あくまで日本国内ではこのような解釈となっております。

根拠となる厚生労働省のホームページです→ http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/hourei/061115-1a.html

「トレーニング」→ 上記各項目とは別ジャンルですがトレーナーが整体やカイロを合わせて行っている場合があるので、記載させていただきます。トレーナーにおいて日本にて正式な資格や規定はありません。裏返せば誰でも自称トレーナーで成り立ってしまうとも言えます。そのため本当に優秀な方とそうでない方がとてもはっきりとしているので見極めが大切です。そういった意味で以下のトレーナーライセンスはとても有用な指標となります。

国内で最も有名なのは日本体育協会認定アスレチックトレーナー(AT)ですが、こちらもあくまで民間資格となります。指定の大学や専門学校を卒業することで受験資格が得られます。

アメリカの大学・大学院にてのみ取得可能な、全米アスレティックトレーナーズ協会(The National Athletic Trainers’ Association: NATA公認アスレティックトレーナー(Certified Athletic Trainer; ATC)は、1990年アメリカ医学会(American Medical Association; AMA)によって認定された、理学療法士や看護士などと同じ準医療従事者です。公認アスレティックトレーナー(ATC)は、スポーツ選手の急性および慢性の外傷・障害に対する処置やその他の健康管理分野において、高度な教育を受けており、かつ十分な経験を有しています。しかし、準医療従事者の扱いとなるのはあくまでもアメリカでの話です。あくまで国内では正式な資格免許ではなく、どんなに優秀で優れた技術をもってしてもこちらのカテゴリーとなってしまいます。

その他、National Strength and Conditioning Association (NSCA)認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト(Certified Strength & Conditioning Specialist:CSCS)といった資格も学士を取得していないと受験できないということから知名度はありますが、あくまでも民間資格です。

混沌とするマッサージ業界・・・施設の乱立と意図的な誤情報蔓延によるトラブル、事故多発

なぜこのような文章を書いたかというと、業界の現状があまりにも混乱しているからです。決して鍼灸按摩マッサージ指圧師を擁護推奨するためではありません。

業界を見渡してみると無資格者(国家資格非取得者)はさも正式な治療のように見せかけようとする一方、有資格者(国家資格取得者)は国からライセンスを頂いているにも関わらず無資格者とたいして変わらない知識・技術しか持ち合わせていない、という現状があります。このような状態が「医療類似行為による事故」を招き、結果的に一番迷惑をこうむるのは本当につらくてお困りの患者さんです。

20130805-00000074-san-000-9-view

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130805-00000074-san-sociから引用させていただきました

誤解していただきたくないのですがリラクセーションは必要であるということです。処置方法のひとつとして自律神経やメンタルのケアとしてリラックスは非常に重要な要素ですし、リラクセーションというカテゴリー特化し、追及し、プロ意識を持ちユーザーのメリットをとことん追求している方々はたくさんいらっしゃいます。

また、国家資格を取得していなくとも有資格者よりも高い技術を持ち合わせている方々も大勢います。同時に、治療ができない、ということにジレンマを覚えている方々が多数います。独学で人体のメカニズムを学び、知識を活かしてリラクセーションを行っている方はとても多いです。

むしろ、国家資格を持っているというだけで技術・知識の向上させることをしない、つまり資格取得で終わってしまっている鍼灸師・柔整師が多く、無資格とはいえリラクセーションを真剣に行っている方で有資格者以上の技術・知識を有している方のほうがひょっとしたら多いかもしれません。

慢性疼痛疾患・不定愁訴の治療は、世間一般でいうリラクセーションとは違うかもしれませんが、リラクセーションなしでは本当の治療はできません。心身ともにリラックスすること、これは治療を行う上でとても重要です。

リラクセーションと治療を目的に応じて使い分けることが必要

反面、医業類似行為の国家資格取得者は、大部分が「資格を取れば食いっぱぐれがない」「職にはこまらない」「独立開業権がある」「国家試験の合格率が高い」という安易な動機から資格取得を志した者が多く、国からライセンスを頂いているという自覚が圧倒的に欠如してしまっています。そのため事実上、国家資格がただの紙切れ化してしまっています。

国家資格取得ということを主張され施術を受けたら、むしろリラクセーションでの施術の方が効いたなどという話はしばしば耳にします。有資格者としては悲しい話ですが、これが現実です。

無資格者と有資格者の差が極めてわかりづらく、この状況を招いてしまっている原因は無資格者が有資格者に見せかけようとする経営的な要素というのは実は些細なことでしかなく、有資格者の知識・技術のレベルの低さが最大の問題と考えています。国家資格取得者は改めて厳しい現状を自覚する必要があります。

患者さんは、業界の現状とそれぞれの業務内容を認識した上で、リラクセーションなのか、健康維持なのか、治療なのか、その目的に応じて使い分けをして頂ければ幸いです。

治療をご希望の場合にチェックすべき3つのポイント

「治療」をご希望の場合は、受ける施術者をご自身で見極める必要があります。治療・治療かのように称しているものを提供する側に問題がある以上、受ける側の自己判断が極めて大切なのです。

  1. 見立て

    現状とその後の予測説明がなされているか

  2. 言動

    施術のメリット・デメリットが明確にされ、患者さんがわかる用語で完璧に理解できる説明がなされているか

  3. 技術

    言わずともポイントをしっかりと触れることができるか

すくなくともこれら3点をチェックしていただきたいと思います。

[参考]

厚生労働省

http://www.mhlw.go.jp/

Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%AD%E5%8B%99%E7%8B%AC%E5%8D%A0%E8%B3%87%E6%A0%BC http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%BB%E6%A5%AD http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%BB%E6%A5%AD%E9%A1%9E%E4%BC%BC%E8%A1%8C%E7%82%BA

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


継続してもパフォーマンス(競技力)が向上しない/故障が減らない/腰痛が治らない・・・共通する理由を知っておきましょう

体幹という言葉は、誰しもが一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。 雑誌やインターネット上には、お決まりのエクササイズがいくらでも掲載されています。しかしそれを行っている方の中で、体幹とはいったい何なのか?体幹トレーニングとは何なのか?目的は何なのか?その効果は?といったことを正確に認識している方は極々少数だと思います。

体幹トレーニングの“体幹”の本当の意味

 

体幹という言葉は、誰しもが一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。 雑誌やインターネット上には、お決まりのエクササイズがいくらでも掲載されています。しかしそれを行っている方の中で、体幹とはいったい何なのか?体幹トレーニングとは何なのか?目的は何なのか?その効果は?といったことを正確に認識している方は極々少数だと思います。

なんとなく、体幹を鍛えると良いらしいから、みんなやっているから、雑誌に書いてあるから、決められたメニューだから・・・といった方が多いのではないでしょうか。では体幹トレーニングとはいったい何のために行うのでしょうか。

体幹トレーニングを日々行っている方は、少なくとも何かしらの目的意識をもっていると思います。しかしそれを行い十分な効果の実感と目的を達成した方はいないのではないでしょうか。

世には体幹トレーニングの方法論は溢れています。しかし、突き詰めた本質的部分は解説されてはいません。その本質的部分がしっかりと理解されていないからこそ、結果の出ないことを行い続けてしまっているのです。トレーニングは、正しく行えば必ず目的への距離は縮まります。その距離が変化しないということはどこかにエラーが生じている証拠です。

そこで今回は、多くの方々がなんとなく行っている体幹トレーニングの技術やメニューといった表面的な部分ではなく、不透明な本質的な部分を解説します。

行い続けても先に進まずお悩みの方へ、少しでも参考になれれば幸いです。

そもそも体幹とは何を意味するのかご説明いたします。

 

体幹という言葉は、実は部位を示す正確な解剖学用語ではありません。解剖学書を隅々までくまなく探しても詳細な記述はありませんでした。体幹とは人体の特定の部位をさす名称ではなく、あくまで「おおまかなエリア」を指す用語でしかありません。ですから、どの骨・どの筋肉と詳細に断定することができないのです。具体的にどこを示すかは諸説あり、定まっておりません。

また、以下で解説しておりますが、体幹トレーニングを考える上で骨や筋肉など個々の部分に着目するのは二の次です。そのため、解剖学的な解説はここでは割愛させていただきます。

当記事では、体幹=腕・大腿・頭以外の胴体部分とさせていただきます。

 

身体運動と体幹部分の関連性とは

 

故障せず高いパフォーマンスを発揮するためには単に筋力やパワー(この二つは違うもの)ではなく身体活動のベースとなる可動性(mobility)と安定性(stability)が必要です。

  • 身体活動のエネルギーは、胴体がしなることで生まれます。(誤解のないように補足します。体をしならせるためには筋力が必要です。しかし筋力だけでなく伸長反射などの反射機構も同時に行われる必要があります。)
  • 生まれたエネルギーは主要な関節を可動させ、末端方向へ伝わっていきます。
  • 最後に手や足を介して外部へ伝えられパフォーマンスとして発現します。
  • そして忘れてならないのは発生したエネルギーを制御する動きの制動能力です。
走り方の解説図

(https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/limedio/dlam/B23/B2366992/1.pdf内から引用させていただきました)

 

これらをふまえてアスリートが高いパフォーマンスを発揮するためには

  1. 上記一連の流れがスムーズであること
  2. 初動の大きなエネルギーを生むために背骨と大きな関節が十分にしなること(可動性=mobility)
  3. 末端に伝わったエネルギーが外部へ伝達される際に胴体や大きな関節がしっかりと固定されぶれないこと(安定性=stability)
  4. 末端に伝わったエネルギーは手や足を胴体から引き離そうとするためそれを制御し次の動きへ繋げるための制動能力(能力としたのは単純に筋力だけではないから。これが欠如すると故障へつながる。)

が求められます。つまり、体幹トレーニングの本来の目的とは「動くこと」と「静止すること」といった相反する作用を両立させることなのです。

 

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(http://www.re-studio.jpさんのHPからお借りしました)

体幹トレーニングの本質

 

多くの方が「体幹トレーニング」と認識しているフロントブリッヂやサイドブリッヂ、バランスボールを用いたメニューの目的は主に腹部の筋肉の強化です。腹部の筋肉強化は、体幹に求められる機能のほんの一部でしかありません。

そもそも、体幹の強化するために腹部の筋肉を強化すべきなのかどうか?人によって強化すべきポイントは様々です。たとえばフロントブリッヂなどのお決まりのポーズを30秒→1分→2分と長時間できるようになっても体幹が強化された・問題が解決した方はいないのではないでしょうか?そして、パフォーマンスが飛躍的に向上したということもないのではないでしょう。

自覚的に安定感が増したなどといった効果の実感はあったとしても、記録や結果として効果が反映されることは極めて少ないのです。

体幹トレーニングを行う本当の目的

技量不足のトレーナーが多く、そんなトレーナーがメディアに多く登場するによって、やたらに体幹という用語が使われるようになりました。体幹という言葉を耳にしたことがない方はいないでしょう。

体幹の本来の肝心な意味(本質)が置き去りにされてしまっているのが現状です。そればかりか、体幹=腹部、体幹トレーニング=腹部筋力強化、体幹トレーニング=一定のポーズを長時間維持すること、といった誤った認識をしている方が非常に多いです。

体幹トレーニングとは、上記①~④中の不具合を見つけ修正することです。 最も重要なので繰り返します。

トレーニングと聞くと筋力強化をイメージしがちですが、それはあくまでもほんの一部分です。肝心なのは体幹本来の機能のエラーを見つけ修正することです。

体幹トレーニングの間違った認識と内容の誤り、これがいくら行っても一向にパフォーマンスアップしない、腰痛が治らない、故障を繰り返す理由です。

事実、トレーニングを全てセルフで行うのは限界があります。ルーティンワークとしてお決まりのメニューを行い続けることによって返ってマイナスに作用する可能性があります。

トレーニングに何らかの効果を求めている方は、『体幹トレーニング』においては是非専門化に相談し、あなた様のエラーを見つけてもらうことを是非おすすめします。(もちろん私でなくてもかまいません。しっかりと本質を理解した専門家に診てもらうことが大切です。) 日々のトレーニングはご自身で行うにしても、定点ごとに現在の体の状態を把握し、それにあわせたトレーニング計画を修正していく必要性を強くお伝えしたいです。

[参考文献]

1、http://jn.physiology.org/content/95/6/3426.full

2、http://jap.physiology.org/content/97/6/2266.full

3、https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/limedio/dlam/B23/B2366992/1.pdf(デッドリンク)

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。


体操・ストレッチ・温熱療法など血行改善により肩こり・首こりが解消されない理由 (医学的根拠に基づき神経生理学の観点から解説)

首や肩がこる原因は血行が悪いから?

多くの方々が「血行が悪いから肩こり・首こりが起こる」という解釈をしておりますが、以前から私はそれに疑問を抱いていました。

確かに血行不良を起こしているとその部分は痛みや違和感を覚えます。慢性的な肩こり・首こりを自覚している方は、肩甲骨から上部の広範囲にわたって不快感や痛みを感じています。

その部分を温熱療法により血行を良くする処置を行うと、気持ち良く、一時的には症状が軽減されます。

大事なことですので、もう一度言います。あくまで“一時的”なのです。

なぜ、血行を良くしても効果ないのか?

温熱療法といっても、ずっと温め続けるわけにはいきません。皮膚温度が戻るやいなや、症状はすぐに元通りとなってしまいます。

慢性的な症状に対して温熱療法が一時的にしか効かない理由、それは、温熱刺激により痛みを感じる境界線(疼痛閾値:とうつういきち,Pain Thresholdを引き上げているにすぎないからです。

肩こり・首こりは筋肉の硬さと相関関係があるわけではない

以下に3つの根拠を挙げます。

筋肉がやわらかくても猛烈な症状を自覚している方がいる。反対にとても硬くなっていても、症状を全く自覚していらっしゃらない方もいる。

筋肉を徹底的に弛緩させる施術を行い、物理的な“硬さ”が減少している状態でも、発作的に症状が出現してしまう方がいる。

慢性的な症状を自覚している場合、その筋肉に対して様々な刺激を加えても、反応性が鈍く、緊張、弛緩共に変化が起こらない(起こりにくい)方が多いという事実。

身近で分かりやすい例でいいますと、猫背などで姿勢が見るからに悪い方でも、全く肩こり知らずの方はいます。逆に、とても姿勢がよく、体のバランスがよいのに、肩こりで悩まれているという方もいます。力学的に良好な姿勢を維持しても症状を自覚する場合もあれば、逆に力学的によろしくない姿勢でも症状が出ない場合もあるということは、ご理解いただけると思います。

私のたてた仮説

肩こり・首こりの“ジンジンするような痛み、不快感”という症状そのものは、血行不良により蓄積する疲労物が感覚神経を刺激して生じる。

しかし、その根本的な原因は『血行を調整する機能』『筋肉の動きを調整する機能』の異常にあるのではないか?

この仮説を、もう少し具体的に説明いたします。

『自律神経系の異常』と『運動神経系の異常』の2つが「肩こり」の原因である説を検証した結果

まず、血液の流れは、生命を維持する上での根幹のひとつです。血液の流れのことを血流または血行といいます。

そして、自律神経。自律神経という言葉は広く認知されています。自律神経は、常に働いている神経です。起きている時も寝ている時もです。自ら律する神経という名前の通り、人が意識しなくても自ら機能しています。

神経というとイメージは掴めるけど具体的にはよくわからないという方が多いと思います。ごくごく簡単に説明いたしますと、脳や脊髄にある神経(中枢神経)とそれ以外の体の各所にある神経(末梢神経)に便宜的に分けられています。抹消神経も、体性神経と自律神経の2つに分けられます。運動神経というのは体性神経のひとつです。ここで注意していただきたいのが、運動神経という言葉です。スポーツ万能の人を運動神経が良い、と表現しますが、それではありません。筋肉の動きを調整する神経のことを解剖・生理学的には運動神経と呼びます。

血行と自律神経は、密接な関係にあります。血行が悪くなれば、自律神経が乱れます。自律神経が乱れると血行が悪くなります。

ですので

『血行を調整する機能』の異常 ⇔ 自律神経系の異常

が自然な考えだと思います。

さらに、

『筋肉の緊張(硬さ)を調整する機能』の異常 ⇔ 運動神経系の異常

も存在するのではないか?と考えました。 こちらにつきましては当ブログの別記事「鍼灸・マッサージ裏事情(1) 硬ければ重症か?コリのメカニズムを神経生理学の観点より解説」をご覧ください。)

この2つを合わせてまとめますと、

慢性的で治らない肩こり・首こりの根本原因は「姿勢が悪い」「筋肉が硬い」「体のゆがみ」「血行が悪い」「冷えている」といった表面的な問題だけではなく、体を調整する“機能の異常”である。

という考え(仮説)に辿り着いたわけです。

この考えが確実かどうか検証するために様々な研究論文を読み漁りました。

そして、この仮設を裏付ける研究論文を発見しました。

首ポキ解消法の真相|首を鳴らす施術やポキポキ鳴らす行為の危険性。脳卒中や死亡リスクとの関連性。

このブログ記事は専門用語が多く、一般の方には読みにくいと思い、

Q&Aの会話形式で分かりやすく解説した記事「首ポキは肩こり解消になるの?ネットやテレビで喧伝される説への疑問にお答えします。」別途ご用意しました。

まず、最初にリンク先の記事をお読みいただければ、幸いです。

肩こり解消のために、ついつい首をポキポキ鳴らしていませんか?

 

デスクワークなどで、前傾姿勢を長時間続けますと、首や肩が疲れてしまいます。ですから首を回したり、伸びをしたりする人がほとんどではないでしょうか。その際に首の関節をボキボキ鳴らす人も少なくないでしょう。関節を鳴らすことが気持ちいいと感じる方もいらっしゃいます。

このような動作は、たしかに一瞬楽になったと感じるかもしれません。しかし、コリを解消する効果は残念ながらありません。凝った→ほぐす、の繰り返しでしかないのですが、これは実は悪循環です。

首をボキボキならすことを「首ポキ」と呼ばせていただきます。

 

2019年5月3日にCNNでこちらのニュース『「首ポキ」で脳卒中、左半身まひで入院 米男性』が報じられ、”首ポキが、実は危険な行為である”、ということがSNSを中心に話題になりましたが、情報が錯綜しています。

首をよく鳴らす人は脳卒中になりやすいという話を耳にした方も少なくないと思います。肩こり・首こりの専門院を開設している者として、詳しく解説したいと思います。

肩こりは、女性の体の悩み第1位、男性では第2位です。

 

厚生労働省発表の「平成22年 国民生活基礎調査の概況」によりますと、国民の13%、約1200万人の方が肩こり・首こりを訴えています。以下の表の有訴者というのは自覚症状をもっている人を意味します。

出典:厚生労働省国民生活基礎調査

肩こりは男性よりも女性に顕著で、肩こりで悩んでいる人は、なんと腰痛よりも多いのです。

「首ポキ」は患者さんから受ける質問、第1位です。

 

当院は肩こり・首こりを専門としておりますが、中でも患者さんから受ける質問で特に多いのが「首ポキ」です。

慢性的な肩こりや首こりにお悩みの方は少なくとも一回は首をポキっと鳴らしたことがあるのではないでしょうか?または、鳴らす目的はなくとも、首を曲げていたらポキっと鳴ってしまった経験がおありだと思います。

また、街中に溢れている整体やカイロプラクティックなどで施術を受けると、決まって「骨のゆがみ」を指摘され関節をポキポキと関節を鳴らされます。

 

首ポキ

出典:wikiHow

インターネット上で検索してみると、どれも大元の情報ソースが同じであろうと考えられる引用文章ばかりで「首を鳴らすと死ぬ」「1トンの圧力がかかる」などといった情報が流れており医学的な立場からの解説が乏しいです。

そこで今回は「首ポキ」について医学的な見解と解説をします。

首ポキに纏わるウワサを医学的に検証

① 関節ってなぜ鳴るのでしょうか?

関節の隙間内の空気が、風船が割れるような感じで鳴る、というイメージをお持ちの方が大半だと思います。

ポキポキという音の正体は、関節内に生じるキャビテーションです。キャビテーションとは耳慣れない言葉だと思いますので説明いたします。キャビテーションとは、液体の流れの中で圧力差により短時間に泡の発生と消滅が起きる物理現象です。余談ですがこの現象は19世紀末に、高速の舶用プロペラが、予想された性能を発揮しなかったことから発見されました。

関節が鳴る仕組みについては、昔から仮説・推測で説明されてきたのですが、2015年になって初めて実証されました。なんと、MRI撮影により、ポキッと鳴った瞬間の関節内部で起きていることが映像で記録できたのです!!Real-Time Visualization of Joint Cavitation PLOS ONE

人体の関節は骨と骨が関節包という袋のような物に覆われています。そして骨と骨の間には関節腔という僅かな隙間があるのですが、そこには滑液という一種の潤滑油で満たされています。大雑把にいいますと、関節は液体なのです。

普段動かさない範囲に関節を急に曲げたり伸ばしたりすると、関節腔の容積が一気に増すことになります。その時関節内で何が起きるかと言いますと空洞ができます。この空洞の正体は、滑液に溶けている窒素や二酸化炭素といった気体です。関節内の圧力が急に下がったために(陰圧)、滑液に溶けきれなくなった気体が気化するのです。といっても気化する量はごくわずかです。ですから、下がった圧力を戻す働きが作用し、反対側から滑液が一気に流入して空洞は消滅します。これらが消滅するときの衝撃により音が発生し、関節内で共鳴することであの「ポキッ」という音が鳴るのです。

 

関節 クラッキング
出典:http://www.wikihow.com/Crack-Your-Neck

つまり「ポキッ」と鳴る音は、骨や軟骨そのものが摩擦を起こすことで鳴っているのではないのです。なので「ポキッ」と鳴った後は通常数十分ほど時間が経たないと鳴りません。

肩や膝を動かすと常時パキパキ・ゴリゴリ・ジャリジャリと音がするのは関節の適合性や安定性が悪いがため発生する音なので別物です。 以下はキャビテーションにより発生する「ポキッ」を題材に話を進めます。

② 「1トンの衝撃」・・・鵜呑みは禁物です!!

様々な所で、首の骨を鳴らすと「1トンの衝撃」がかかると言われています。しかしこれには一考が必要です。

まず、「トン」は重量の単位であり衝撃力を表す単位ではありません。衝撃とは物理的には急激な速度変化の度合いのことをさします。

速度変化の大きさ(加速度)の単位は[m/s^2]が基本ですが、衝撃の場合は重力加速度との比をとって[G]が使われます。衝撃力はこの加速度に物体の質量を乗じたもので単位は[N]が基本ですが、重力加速度で割って[kgf]やこれを1000分の1にした[重量トン]が使われることが多いのです。

つまり、衝撃力を表す時に、直接その重量が負荷としてかかるわけではないのに慣用的に「〇〇キロの衝撃」や「〇〇トンの衝撃」と表現されることが多いのです。衝撃力には時間の概念が必須なため、力が作用する時間次第でがらりとイメージが変わってしまいます。

これらをふまえると、まず重量としての1トン(1000kg)が首にのしかかるというのは間違いです。仮に1トンという数値が本当だとして、衝撃力に換算にしても1000分の1秒で瞬間的に1kgがかかったら1トンの衝撃となるので、1トン(1000kg)の重さがのしかかるというイメージは間違っています。

そのため首ポキッにより1トンの衝撃がかかり即死亡したり、即重度の障害を生むことは考え辛いですが、上記の計算では少なくとも1キロの負荷はかかっていることになるので、例え1キロだとしても組織の微細な損傷は少なからず生じるものと考えられます。

そもそも、この「1トンの衝撃力」という根拠を調べてみても出所がわからず、クラッキング時の衝撃力を正確に計測したデータや実験についての文献が見つからないため、「歪みが原因の理論」と同様、マーケティングの一貫で患者さん方に恐怖を植え付けるためにどこかのセラピストが言い出したことなのかもしれません。

とはいえ、ものすごい破壊力のある衝撃が加わるわけではないものの、「ポキッ」は空気の破裂という現象により生じると考えられているため、その程度はわからずとも少なからずの衝撃があることには変わりはありません。関節内は非常にデリケートな部分であるが故に関節包という袋で守られていることもあり、小さな衝撃による組織損傷も十分に考えられるため軽視はできません。

③ 首ポキで死んでしまう可能性について

[1] インターネット上では「首をポキッと鳴らすと首に1トンもの衝撃が加わり、頚動脈破裂したり脊髄損傷が起こり死亡したり半身麻痺となる」などと書き込まれています。

果たしてその真相は・・・

まず、「1トンもの衝撃・・・」というのは≪2≫で解説しました。軽視はしてはいけませんが、みなさんがご想像する“1000kgの重量がのしかかる”という意味ではなく、即刻首の骨が折れるような負荷ではないことはお伝えさせていただきました。

[2] 続いて「頚動脈が破裂したり脊髄損傷が起こり・・・」という点です。

外から大きな力が加わり、首を傷めることによって生命に影響を及ぼすのは、

延髄(えんずい)損傷  …  脊髄と脳の移行部に存在し、呼吸や脈拍など生命維持に不可欠な機能を支配する中枢神経です。中枢神経と末梢神経を合わせて神経系といい体の機能や動きを調整します。中枢神経とは神経系の親玉のことです。例えば絞首刑では首を縄で絞めて呼吸できないようにするのではなく、落下時の衝撃で上部の頚椎を脱臼骨折させ延髄を破壊することを行います。延髄が破壊されたら人間は生きることはできません。

 

延髄
http://www2.edu.ipa.go.jp/gz2/a-cg/a-800/a-830/IPA-acg430.htmから引用させていただきました。
 

頚髄(けいずい)損傷  …  頚椎、つまり首の骨の中に納まる中枢神経のことをいいます。より頭に近い上部の頚髄(第1~4頚髄)と、下部(第5~7頚髄)を損傷するのでは生命維持という点で大きな差があります。上部の頚髄は横隔膜を支配するため、損傷すると自分で呼吸ができなくなり人口呼吸器無しでは生きることはできません。下部の頚髄ではその程度により、動きだけでなく様々な内臓諸器官の機能不全がおこりますが、基本的には首から下が麻痺します(損傷頚髄以下の神経伝達が途絶えて運動が不可となります)。

 

頚髄

http://infoseek_rip.g.ribbon.to/bunseiri.hp.infoseek.co.jp/sekizui.htmから引用させていただきました

 

この二点が考えられます。

しかしこれらは交通事故や極限状態のスポーツによる日常生活では計りしれない衝撃が加わった際に、頚椎(首の骨)の脱臼骨折が起こり、その中に納まる延髄や頚髄が損傷します。「首ポキ」と交通事故などの衝撃をくらべると・・・答えは明らかです。お年寄りや、重症の骨粗鬆症を患っていない限り、自らの力でそこまで首の骨に負荷を与え、内部の中枢神経に負荷を与えることは不可能です。

ただし、カイロプラクティックや整体などでしばしば行われる首をお急激に動かす手技には危険が潜みます。

そのような手技を受ける際に患者は仰向けで脱力し筋肉や靭帯が緩む肢位、つまりとても無防備な状態で動かされることとなります。この状態で無理な力が加えられることにより、頚椎の脱臼骨折が起こる可能性は十分に考えられます。“首ポキ施術”による事故はこのような可能性があるので、他人によって力を加えられて行うのは避けるべきです。そのような危険をおかしてまで“首ポキ施術”を行っても、お悩みの症状は解決しませんし、「首ポキ」をしなくても治すことは可能だからです。

[3]  「頚動脈が破裂する・・・」においても解剖学上明らかに矛盾があります。

首に手を当てて拍動を触知できる、みなさんがご想像するいわゆる頚動脈は、首の骨・関節とは離れた部分にあます。また、動脈は生命活動に重要な血液を循環させているため非常に頑丈な構造となっています。“いわゆる頚動脈”の太さはタピオカの吸えるストローくらいですが、触った感じは例えるならば庭の水まきをするホースをご想像ください。あの硬さ・弾力が主要な動脈です。私は実際に人体解剖にて触知しましたが、引きちぎろうとしてもびくともしませんでした。それほど動脈とは強固な構造なのです。

なので「首ポキ」の衝撃の程度も前述しておりますが、即刻頚動脈が敗れる心配はありません。また、百歩譲って「首ポキ」が動脈を損傷可能な衝撃を持ち合わせていたとしても“いわゆる頚動脈”は首の骨の関節内にあるわけではないので、その衝撃をまともに受けるわけではありません。

しかし!!!!軽視はできません。

首の主要な動脈は2つあります。一つは“いわゆる頚動脈”と言われる総頚動脈です。総頚動脈はノド仏のあたりで外頚動脈内頚動脈に分かれます。その名の通り、外頚動脈は主に頭部の表面部分を栄養し、内頚動脈は頭の深部、つまり脳を栄養します。この総頚動脈からの流れは上記で説明しましたように、首の骨とは離れた部分にあるため首ポキ衝撃による影響は考え辛いです。しかしあまり知られていない首のもう一つの主要な動脈が椎骨動脈が論点となります。

 

椎骨動脈
出典:http://www.painneck.com/blog/neck-cracking-and-neck-popping/
 

椎骨動脈とは総頚動脈(内頚動脈)とは別ルートで脳を栄養する重要な血管です。解剖学的には、左右一対の椎骨動脈は首の骨の中(横突孔)を貫いて上行し、脳に入るとやがて一つに合わさり脳底動脈となり、脳の深部を栄養します。脳底動脈は脳の内部で内頚動脈と合流し脳の中で血管のループ(大脳動脈輪=ウィリスの動脈輪)を形成します。つまり、脳は重要な臓器であるため総頚動脈(内頚動脈)1つではなくサブルートをもって栄養されているのです。

 

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そこで着目するのが、椎骨動脈の走行です。

先ほども述べましたが、椎骨動脈は第1~第6頚椎を貫いて脳に至ります。つまり頚椎に直にくっついて存在します。1で解説しましたように「首ポキ」は頚椎の関節での物理現象により起こるため、その衝撃は椎骨動脈に影響を及ぼすことは十分に考えられます。

これまでをふまえて「首ポキ」の血管系への影響を考察と共に以下にまとめてみます。

A)  “いわゆる頚動脈”つまり総頚動脈(内頚動脈)への影響は解剖学的にみて考え辛く、可能性があるとすれば椎骨動脈である。

B)  ≪2≫で解説しましたように「首ポキ」による衝撃一撃で血管が破れることは考え辛いが、頻回行うことで椎骨動脈には少なからず影響を与える可能性はある。

C)  首が鳴るためには日常的な可動域を超えて動かすことになるため、首の骨の間(横突孔)というとても狭い通路を通るため、椎骨動脈には過剰は進展や摩擦などの刺激が加わる可能性がある。

D)  衝撃・進展・摩擦=物理的刺激は組織を傷つける可能性があり、血管の内部が傷つくとそこが変性し動脈硬化が促進される。また血栓が形成されやすくなる。

E)  椎骨動脈にできた血栓が何らかの影響で流れた場合、脳に侵入し、塞栓となり脳梗塞となる可能性がある。

補足)上記は動脈のみに着目して解説してきましたが、首の骨の内部を通る椎骨静脈系というのも存在します。こちらは静脈なので心臓へ帰るほうのルートです。静脈は動脈より壁が脆弱なため物理的刺激には圧倒的に弱いです。余談ですが、鍼灸の針では静脈は刺すことができますが、動脈は弾かれて刺すことはできません。この椎骨静脈系は首の骨にまとわりつくように存在するため、B)C)等の負荷の影響は動脈よりも受けやすいです。静脈系で血栓が生じそれが流れると、塞栓症として肺梗塞心筋梗塞のリスクが考えられます。

首ポキについてのまとめ

キャビテーションによる「首ポキ」は関節の構造が造りだす物理現象であり、関節の形状にも個人差があるため、鳴りやすい方・鳴りにくい方がいるのは確実です。そのため、鳴ること自体は異常ではありませんが長期に渡って常習的に鳴らしたり、無理な力で鳴らすことによる弊害はあります。

上記のように分析してみると、自ら動かした時に鳴ってしまうのは直近で生命につながる問題となるのは考え辛いです。しかしそれが長期間にわたり常習的に行われると血管に影響が出て循環器領域で生命を脅かす疾患につながる可能性は十分に考えられます。こういった点では鳴らす癖がある方は早めに治した方が良いでしょう。

一方、施術の一貫として行われる「首ポキ」においては、それを行うにあたってのメリットとデメリットを考慮すると、上記で説明した中枢神経を損傷するというリスクを抱えてまで行うメリット、つまり施術による効果が考えられません。首ポキ施術をすることによって一生首にまつわる不快な症状が消えるならばまだしも、そうではないからです。したがって、施術の一貫としての安易な「首ポキ」を受けるのは絶対に避けるべきです。

ところで、

なぜ、ついつい常習的に首を鳴らしてしまうのでしょうか?

首を鳴らさなくていてもたっていられなくなってしまうのでしょうか?

それは「硬ければ重症か?コリのメカニズムを神経生理学の観点より解説」で解説しましたが、重症・慢性化し神経症状としての肩コリ・首こりとなってしまっているからです。このように

常に気になってムズムズしてしまう

首を捻じったり 動かさないと いてもたってもいられない

無意識のうちにいじっていたり 鳴らしてしまう

発作的に急激につらくなる

睡眠が充実していなく、朝一が一番つらい

首こりつらい

出典:http://www.huffingtonpost.com/2012/10/03/neck-cracking-dangerous-spinal-manipulation_n_1929690.html

 

というのに心当たりがあれば、それは肩こり・首こりの負のスパイラルにはまってしまっているサインです。この状態では放置していても絶対に治ることはありませんし、簡単な施術による“ほぐし”程度ではすぐに元通りとなります。

つらくて我慢できない時にとんぷくとして簡易的な施術を受けるが楽になるのはその時のみで結局つらい状態から解放されることはなく、徐々に悪化していきます。この状態を変えるには「根本的な原因の解決」が必要です。

肩こり・首こりは直近で生活や生命に支障がでるわけではありません。しかし放置や適切な処置を行わないことに確実に進行・悪化していきます。1日でもはやく対処しましょう。

実際に首をボキっとしての危険性は、カイロプラクティックや整体などで首ボキ施術を受けても10万人に一人くらいしか起こらない、と言われています。

しかし「45才未満で脳卒中を起こした人は一週間以内にカイロプラクティックで首ボキをやっていた人がやっていなかった人と比べて5倍多かった」というデータがアメリカ心臓病学会の2001年に出された報告にて示唆されています。

こちらの記事を参照しました→http://stroke.ahajournals.org/content/32/5/1054.full

首ボキ施術のリスクについては、イギリスのブルネル大学(Brunel University)のリハビリテーション研究室の報告によっても椎骨動脈解離や脳血管障害をはじめ重篤な神経疾患への可能性が示唆されているようです。

こちらの記事を参照しました→http://www.brunel.ac.uk/news-and-events/news/news-items/ne_190062

このように首ボキ施術にはリスクが伴うことから、日本では厚生労働省からは禁止するよう促されております。参照:厚労省ホームページ

おそらく・・・ 自ら首をポキッと鳴らしてしまう方は首や肩がどうしてもわずらわしくて、気になってしまい、仕方がなく鳴らしてしまっていることでしょう。

また、首ポキ施術を受けた方、受けている方は肩こり・首こりを治したくて整体やカイロプラクティックにかかられたことでしょう。それで、肩こり・首こりが治った方はおそらくいないと思います。

百歩譲って、首をボキッとして根治するようならば、行う価値はあるかもしれませんが、現実問題それはありえません。(肩こり・首こりの原因は”骨のゆがみ”ではないからです。詳しくはこちらの記事で解説しています)

どのような施術を受けるかは患者さんの自由ではあるのですが、少なくとも首ポキ施術を受けるにあたって、リスクと効果を比べてお勧めはできません。

自ら首ポキを行ってしまう癖がある方も、それを繰り返すことは何もプラスにはなりませんので、是非意識していただきたいと思います。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。分かりにくいテキストだったと思います。当記事をより分かりやすく解説した記事を別途ご用意いたしました。

あべこべ体操の効果を検証
  • 肩こり・首こりの原因とは・・・
  • マッサージなどの施術を受け続けてもいっこうに解消されないのはなぜか・・・?
  • 確実に解消するために必要な事は・・・?

をこちらにまとめました→「確実に肩こりを解消するために必要なこと

あわせてこちらもご覧になっていただけましたら幸いです。

鍼灸・マッサージの裏事情(1) 硬ければ重症か?コリのメカニズムを神経生理学の観点より解説

鍼灸・マッサージの裏事情(3) 血行改善により肩こり・首こりが解消されない理由 (医学的根拠に基づき神経生理学の観点から解説)

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
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「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。